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Marginal Prince Short Story
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■ロレートシナリオ
「申し訳ありません」
私は殿下とサン・ジェルマン様の前で膝を着いた。
「殿下のご友人を大変な目に…」
「そんな。ラルヴィスさんのせいじゃ」
殿下のお言葉をご友人の冷静な声が遮る。
「レイナ卿には何の非もないよ。貴方はジョシュアを守ることが任務なのだから。
僕を見殺しにしても、皇太子の安全を確保するのが、正しい選択だった。
間違っていたのはジョシュア、君の方だよ? ロレートの皇太子にもなった人が、
国民でもない僕の為に、犠牲になろうとする方が間違ってる。
解ってる? ジョシュア。僕は怒ってるの、君に」
「でも、俺は」
「言い訳は聞きたくない」
殿下の左手がご友人の背に回る。
「ごめん」
右手で宵闇の髪を包み込む。
殿下の腕の中で「君は、解ってない」と呟かれていた。
マフィアは煙草を取り出す。オレンジの小さな炎がぽうっと灯った。
「あーあ。やってらんねー」
小屋の外から人の声や足音が聞こえてきた。
知っている声もする。私の部下達だ。エメリーが送ってくれた援軍だろう。
彼等には無駄足を踏ませてしまったが、これで一件落着だ。
マフィアは紫煙を吐き出しながら、私に言う。
「さあてズラかるか。こいつらの身柄は俺達が貰ってくぜ。拘束テクについて語り合いたいんでな」
殿下がマフィアの前に行く。深く頭を下げた。
「ありがとうございます、助けて下さって。何て、お礼を言って良いか…」
「お利口だな、ジョシュア・グラント。いや、今はプリンス・ジョシュアなんだっけか」
「あの、良かったら、これから邸に来てくれませんか? カーディスに貴方のことを」
「そいつはできねえ相談だ。俺達はお宅らと違って、
表舞台でライト浴びるのは苦手なんだよ。すげーシャイなもんでな。
今日俺達の顔を見たことを忘れてくれることが、何よりの礼になる」
「…そう、ですか。解りました。本当に、ありがとうございます」
「素直で聞き分けが良い王子様だ。ラルちゃんが羨ましいぜ」
誘拐犯が呻き声を上げ、目を覚ました。
傍に付いているマフィアの部下が縄を引く。
「ほれ、歩きな」
「ジョシュア様…ジョシュア様、お怪我はありませんか?」
「はあ? 何言ってんだ、こいつ」
私は誘拐犯の前に行く。
「貴様、自分が何をしたのか解っているのか?
邸に二通も手紙を投げ込み、殿下とご友人にこんな真似をして」
「手紙を投げ込んだ?」
「とぼけるつもりか」
誘拐犯は肩を揺らす。
「投げ込んではいませんよ。私は文面を考えただけですから」
私を蔑む笑みがふっと消える。彼は殿下のほうを見つめると、慈愛に満ちた微笑を浮かべた。
「ジョシュア様、これまでのご無礼をどうかお許し下さい。
全ては貴方と、貴方のお父上の無念を晴らす為なのです。
私達は貴方がロレートにいらっしゃるのを待ち望んでおりました。
ご子息にこそ王位継承の資格があるのです。やっと、罪人に償わせることができる。
もうすぐです。もうすぐ、国王にして差し上げます――」
誘拐犯は殿下のお顔を仰いで言った。
「エドワード殿下」

***

ロレート王室。
エメリーは携帯電話を内側の胸ポケットに仕舞う。
チョコレイト色の髪は同僚のホワイトよりは短く、レイナよりは長い。
遊ばせた毛先同様、軽い独り言を呟く。
「そんじゃま、陛下に怒られに行ってきますかねー」
殿下へ二通の投げ込み文書があったことを、これから陛下に報告に行くのだ。
今、陛下は執務室に居る。さっきまで自分もそこに居て、書類のお片付けを手伝っていた。
その時、部下に呼ばれ、二通目の投げ込みを知らされた。
すぐに上官のレイナに伝え、そちらへ部下達を援軍に送った。
以上について、陛下に事後報告しなくてはならない。
嫌な役だ。二通目の二行目を、あの人に見せるなんて。
<闇の王子に父親と同じ制裁あれ>
無表情な仮面を張り付けて、自分の中だけで自分を責めるだろう。
もし、これで王子を失ったら、あの人の心は壊れてしまうかもしれない。
エメリーは執務室の前で重い溜め息を吐いてから、ドアを開けた。
「失礼します。陛下、お話が…」
さっきと同じように陛下は書類の前に座っていた。
その前に立っている男は震える手で陛下に銃口を向けていた。
ライトグレーのツナギ姿。
投げ込み文書を発見した庭師、ケビン・ロロだ。
エメリーは奥歯を噛み締めて、庭師に向かっていく。
「ケビン…てめえっ」
庭師は目に涙を浮かべながら、銃をカタカタ鳴らしている。
「待て、エメリー」王が落ち着いた声で止める。
「お前はすぐこの部屋を出て、ジョシュアの元に行け」
「んなことできるかよ!」
「ケビンがやっと、その気になってくれたんだ。決意するまで随分長かったな?」
エメリーと庭師が王を見る。
「いつか、俺に銃口が向けられる日が来るのだろうと思っていた。
それもいいだろうとな。俺にはこのような最期が相応しいのだろう」
「なっ…何言ってんですか、陛下!」
叫ぶエメリーに、王は薄く笑った。
「俺の役目はもう終わっている。戴冠式の時期が少し早まるだけだ。それで良ければ、ケビン、引き金を引け」
エメリーが拳を握り締める。
「陛下! あんたなあ!」
「どうした、ケビン」
「止めろ、ケビン!」

パン、と乾いた音が轟いた。

***


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