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■ロレートシナリオ
「申し訳ありません、殿下」
私は頭を下げた。
「お言葉、身に余る光栄です。ですが、この身はカーディス様のもの。
あの御方のお側に居ることをどうかお許し頂きたく存じます」
私の手から、殿下の手が離れていく。
「…解りました。すみません、俺、貴方を困らせるようなことを言って」
「いいえ。ご期待に添えず、申し訳ございません。
殿下ならば、私などが居なくとも、ご立派に皇太子、国王をお務めになるでしょう。
けれど、あのろくでもない御人は、口煩い人間が補佐、監視しなくてはなりませんから」
私は一歩下がって、再び頭を下げた。
「おやすみなさいませ、殿下」
「はい。おやすみなさい」
ドアを閉める。私は在るべき場所に向かった。
「レイナです。失礼致します」
ドアが開くのを待たずにこちらから開けた。
陛下の寝室。エメリーが陛下に白ワインを注いでいるところだった。
私は二人の側に歩いていく。陛下は一口飲まれてから仰った。
「どうした、ラルヴィス。お前を呼んだ覚えはないが?」
「私には陛下にお話したいことがございます。エメリー、外してくれ」
「畏まりました、レイナ閣下」
グラスに残っていたワインを飲み干し、席を立つ。
「では、陛下。交代の時間みたいなんで、私はこれで」
陛下が呼び止める。
「エメリー。俺は、下がれとは言っていないぞ」
「スミマセン。私の上官の仰せなんで。美味しいワイン、ごちそうさまでした」
どうぞごゆっくり、と言って退出した。
寝室は陛下と私だけになる。
「従順な部下を持っているな、ラルヴィス」
「お褒め頂き、恐れ入ります」
灰皿には数本の吸い殻。寝室は陛下の煙草の香りがした。
「何の用だ」
「お休み前に申し訳ありません。主を決めろ、との仰せについて、
決定致しましたので、ご報告に上がりました」
陛下の後方に立つ。
「私が居なければ何もできないくせに。私を捨てないで下さい」
「失礼な」
私は膝を着き、頭を下げる。
「いつか玉座を降りようと関係ありません。私の主はカーディス様、貴方お一人です」
「利口ではないな」
「ええ。仕方ありません。私は陛下の右腕ですから」
「口の悪い臣下を持ったものだ」
***
ロレート王室の庭。空は青く澄み渡っている。
王は月桂樹の幹に背を預け、座っていた。側近の目を盗み、執務室から脱走してきたのだ。
目を閉じると、より青い香りを感じられる。うとうとする。気持ちが良い。
「まーた、レイナとかくれんぼしてんですか?」
王が目を開けると、エメリーが身を屈めていた。
「ああ。定期的に光合成が必要なのでな」
「では私も。お隣、失礼しまーす」
臣下は同じ幹に腰を下ろして、思い切り両腕を伸ばす。
「うーん。確かに定期的に光合成が必要かも」
「だろう?」
「そういや、陛下と二人きりって久し振りですね。
ちょーっと前までは、私を夜な夜な寝室に連れ込んでたくせに。
レイナ閣下を専任に戻してからは、それっきりポイでしょ?」
「拗ねていたのか?」
「いーえ。私はラテじゃありませんから」
「エメリー、腕は、もう良いのか?」
「ええ、もうすっかり。私の回復力、トカゲ並なんで」
「そうか。俺のせいで、怪我を負わせてすまなかった」
「あのねえ。謝れるんなら、なんであんなこと…」
「ん?」
「あの時、陛下が仰ったザレゴトですよ。俺、言ってませんから、誰にも。
『俺にはこんな最期が相応しい』だとか『俺の役目は終わっている』だとか。
さすがの陛下も、暗殺者を前に気が動転していたってことで、
今回はトクベツに聞かなかったことにしてあげますから、もう二度と口にしないで下さいね。
あんたが全ての奴をバカにすんのも、いい加減にしねえと、あいつは俺が奪いますよ」
「お前に奪えるのか?」
「あ。カチーンと来ましたよ、コレ」
臣下は立ち上がる。
「私、失礼致します。陛下がこちらにいらっしゃると、レイナ閣下にチクってきますので」
礼をして、立ち去ろうとする。
「エメリー」
「はい?」
「二度と口にしない」
「そーして下さい」
***
私はエメリーから知らされた通り、陛下のお姿を庭で見つけた。
月桂樹を椅子にして、お休みになっていた。
陛下、とお呼びすると、薄目で私の姿を確認し、また閉じた。
「少し休んで行け、ラルヴィス。お前も本当は眠いだろう?」
「お気遣いなく。陛下がお溜めになった書類が滞っておりますので」
「少しくらい休憩しても良いだろう。今日はジョシュアも居ないしな」
「殿下がいらっしゃらない日だからと言って、抜け出されては困ります」
「ああ、そうか」
「やっとご理解頂けましたか?」
「ジョシュアが邸に住んでからは、こう自由に休むことも叶わんな」
「殿下のご卒業が待ち遠しいですね。さあ、執務室に戻りましょう、陛下」
「ラル」
陛下は座ったまま、私の右手首を掴んだ。
「何です?」
「話がある」陛下は真面目な顔をして仰った。
「10分で済むから、そこに座れ。ああ、膝を折ってな」
私は言われた通り、膝を折って座る。すると陛下は、よし、と笑って御身を倒した。
陛下の頭が私の膝に乗る。そのまま、陛下は目を閉じた。
「あの、陛下?」
「なんだ」
「お話は?」
陛下は口髭を歪め、ニヤリと笑う。
「ない」
午後の木漏れ陽が王の髪を照らしている。私は自分の手首を覗く。
「10分だけですよ」
fin
「申し訳ありません、殿下」
私は頭を下げた。
「お言葉、身に余る光栄です。ですが、この身はカーディス様のもの。
あの御方のお側に居ることをどうかお許し頂きたく存じます」
私の手から、殿下の手が離れていく。
「…解りました。すみません、俺、貴方を困らせるようなことを言って」
「いいえ。ご期待に添えず、申し訳ございません。
殿下ならば、私などが居なくとも、ご立派に皇太子、国王をお務めになるでしょう。
けれど、あのろくでもない御人は、口煩い人間が補佐、監視しなくてはなりませんから」
私は一歩下がって、再び頭を下げた。
「おやすみなさいませ、殿下」
「はい。おやすみなさい」
ドアを閉める。私は在るべき場所に向かった。
「レイナです。失礼致します」
ドアが開くのを待たずにこちらから開けた。
陛下の寝室。エメリーが陛下に白ワインを注いでいるところだった。
私は二人の側に歩いていく。陛下は一口飲まれてから仰った。
「どうした、ラルヴィス。お前を呼んだ覚えはないが?」
「私には陛下にお話したいことがございます。エメリー、外してくれ」
「畏まりました、レイナ閣下」
グラスに残っていたワインを飲み干し、席を立つ。
「では、陛下。交代の時間みたいなんで、私はこれで」
陛下が呼び止める。
「エメリー。俺は、下がれとは言っていないぞ」
「スミマセン。私の上官の仰せなんで。美味しいワイン、ごちそうさまでした」
どうぞごゆっくり、と言って退出した。
寝室は陛下と私だけになる。
「従順な部下を持っているな、ラルヴィス」
「お褒め頂き、恐れ入ります」
灰皿には数本の吸い殻。寝室は陛下の煙草の香りがした。
「何の用だ」
「お休み前に申し訳ありません。主を決めろ、との仰せについて、
決定致しましたので、ご報告に上がりました」
陛下の後方に立つ。
「私が居なければ何もできないくせに。私を捨てないで下さい」
「失礼な」
私は膝を着き、頭を下げる。
「いつか玉座を降りようと関係ありません。私の主はカーディス様、貴方お一人です」
「利口ではないな」
「ええ。仕方ありません。私は陛下の右腕ですから」
「口の悪い臣下を持ったものだ」
***
ロレート王室の庭。空は青く澄み渡っている。
王は月桂樹の幹に背を預け、座っていた。側近の目を盗み、執務室から脱走してきたのだ。
目を閉じると、より青い香りを感じられる。うとうとする。気持ちが良い。
「まーた、レイナとかくれんぼしてんですか?」
王が目を開けると、エメリーが身を屈めていた。
「ああ。定期的に光合成が必要なのでな」
「では私も。お隣、失礼しまーす」
臣下は同じ幹に腰を下ろして、思い切り両腕を伸ばす。
「うーん。確かに定期的に光合成が必要かも」
「だろう?」
「そういや、陛下と二人きりって久し振りですね。
ちょーっと前までは、私を夜な夜な寝室に連れ込んでたくせに。
レイナ閣下を専任に戻してからは、それっきりポイでしょ?」
「拗ねていたのか?」
「いーえ。私はラテじゃありませんから」
「エメリー、腕は、もう良いのか?」
「ええ、もうすっかり。私の回復力、トカゲ並なんで」
「そうか。俺のせいで、怪我を負わせてすまなかった」
「あのねえ。謝れるんなら、なんであんなこと…」
「ん?」
「あの時、陛下が仰ったザレゴトですよ。俺、言ってませんから、誰にも。
『俺にはこんな最期が相応しい』だとか『俺の役目は終わっている』だとか。
さすがの陛下も、暗殺者を前に気が動転していたってことで、
今回はトクベツに聞かなかったことにしてあげますから、もう二度と口にしないで下さいね。
あんたが全ての奴をバカにすんのも、いい加減にしねえと、あいつは俺が奪いますよ」
「お前に奪えるのか?」
「あ。カチーンと来ましたよ、コレ」
臣下は立ち上がる。
「私、失礼致します。陛下がこちらにいらっしゃると、レイナ閣下にチクってきますので」
礼をして、立ち去ろうとする。
「エメリー」
「はい?」
「二度と口にしない」
「そーして下さい」
***
私はエメリーから知らされた通り、陛下のお姿を庭で見つけた。
月桂樹を椅子にして、お休みになっていた。
陛下、とお呼びすると、薄目で私の姿を確認し、また閉じた。
「少し休んで行け、ラルヴィス。お前も本当は眠いだろう?」
「お気遣いなく。陛下がお溜めになった書類が滞っておりますので」
「少しくらい休憩しても良いだろう。今日はジョシュアも居ないしな」
「殿下がいらっしゃらない日だからと言って、抜け出されては困ります」
「ああ、そうか」
「やっとご理解頂けましたか?」
「ジョシュアが邸に住んでからは、こう自由に休むことも叶わんな」
「殿下のご卒業が待ち遠しいですね。さあ、執務室に戻りましょう、陛下」
「ラル」
陛下は座ったまま、私の右手首を掴んだ。
「何です?」
「話がある」陛下は真面目な顔をして仰った。
「10分で済むから、そこに座れ。ああ、膝を折ってな」
私は言われた通り、膝を折って座る。すると陛下は、よし、と笑って御身を倒した。
陛下の頭が私の膝に乗る。そのまま、陛下は目を閉じた。
「あの、陛下?」
「なんだ」
「お話は?」
陛下は口髭を歪め、ニヤリと笑う。
「ない」
午後の木漏れ陽が王の髪を照らしている。私は自分の手首を覗く。
「10分だけですよ」
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