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Marginal Prince Short Story
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■ロレートシナリオ
聖アルフォンソ学院 正門前に公用車を停める。約ひと月振りに殿下をお迎えに上がった。
やがて、月桂樹の下をお一人で歩いて来られる姿が見えた。
その頬は、葉の影と陽の光を受けていた。
殿下をお乗せし、私は運転席に着く。出発致します、と声を掛けてアクセルを踏んだ。
空港に向かって走り出すと進行方向に海が見えてくる。
真っ青な水面が全身に太陽を浴びている。輝かしい。眩し過ぎる。
「ラルヴィスさん」
バックミラーの中で、深紅の瞳が私を見つめていた。
「今夜、俺の部屋に来て頂けませんか? お話ししたいことがあります」

今回、殿下はご公務で馬術のジュニア大会をご観戦された。
殿下は以前、取材で乗馬姿をメディアに披露した。それを見た大会関係者から招待状が届いたのだ。
大会に出場した小さな選手達は、乗馬をまだ習いたての子達が大半のようで、ミスも多かったのだが、
保護者や観客から声援と拍手が上がる、あたたかい雰囲気の大会だった。
大会終了後、殿下は大会会長とのご歓談に招かれた。
ロバート・マクラウド氏。御年72歳。立派な白いお髭がサンタクロースを連想させる優しいお顔だ。
氏は、かつてプロの騎手だったが、落馬事故で足を痛め、馬に乗れなくなってしまった。
現役の引退後は、このようなジュニア大会の支援、乗馬教室の開設など、若い才能の育成に力を注いでおられるそうだ。
マクラウド氏は、クリスティーナ様がご幼少の頃に会ったことがあると言う。
彼女が出場されたジュニア大会を覚えておいでで、当時のこと殿下に教えて下さった。
殿下も初めて聞くお話だったようだ。
後に乗馬の名手となるクリスティーナ様も、小さい頃からお上手だったわけではなかった。
思うように走れず、大会終了後に泣いていた少女を見て、彼はこう伝えた。
お嬢さん、馬も人間と同じなんですよ、と。
マクラウド氏は照れ笑いした。
「いやはや。あの時は余計なお節介を焼いてしまったかなと思ったもんですがね。
まさか、その言葉をテレビ画面から…息子さんの口から聞くとは思いませんでしたよ」

当時、少女は赤い瞳に涙を溜めて尋ねた。
「馬と人が同じ? どういうこと?」
「馬にも、ちゃんと『気持ち』があるんです。いつも元気いっぱいなわけじゃありません。
時には走りたくない気分だったり、調子が良くない時もあるんですよ?
それに、馬は人間が考えていることを敏感に感じ取ります。
お嬢さんが泣いているので、ほら、この子も耳を震わせて、不安になっています」
マクラウド氏は「大丈夫だよ」と声を掛けながら、馬の頬をそっと撫でた。
すると、落ち着かない様子だった馬は、大人しくなって、少女は赤い目をぱちくりさせたと言う。
「お嬢さんは、自分の背中にお友達を乗せて、お馬さんごっこをしたことがありますか?」
「え? ありません」
「では、今度やってごらんなさい。ただ乗せるだけでも大変なのに、
馬は人を乗せたまま、何十分も走ってくれるんですよ。
馬には『乗る』のではなく、『乗せて貰う』という気持ちを大切にして下さい。
そうすれば、だんだん馬の言いたいことが解るようになって、仲良しの友達になれますよ」

「俺…そう教わりました。母から、同じことを」
お話を聞いた殿下は赤い瞳を瞬かせていた。
「母と俺の乗馬の先生は、マクラウドさんだったんですね。
大切なことを教えて下さって、ありがとうございます」
「いやいや、お恥ずかしい」
サンタクロースのようなお髭をいじる。
「俺、小さい頃から時々、自分は広い世界でひとりぼっちだって思っていました」
殿下はコーヒーカップを両手で包む。
「でもそれは、俺が本当のことを知らないだけだって、やっと解ってきたんです。
俺の知らないところでも、色んな人との繋がりがありました。
俺を守ってくれる人、助けてくれる人がたくさん居ました。
俺は貴方にも支えられていたんですね。ありがとうございます」
サンタクロースのようなご老人は微笑んで、顔をしわくちゃにしていた。
お二人は、また会いましょう、と握手をしてご歓談を終えた。

夜、邸に戻り、殿下は陛下と夕食を召し上がった。
殿下は今日あったことを陛下にお話しになった。
陛下は「良かったな」と仰って、殿下も「はい」と嬉しそうだった。
出逢った当時は、赤の他人も同然の関係だったのに。
いつのまにか、間にご友人が居なくとも、自然に話ができるようになられた。
叔父と甥の和やかな食卓。その光景は、まるで本当の父と子のように見えた。
一日が終わり、私は殿下のお部屋に向かっていた。
廊下の窓から月が見えた。私の後を付いて来る。
半月より丸く、満月には足りない。
どちらとも呼べない、半端な月。

殿下の寝室の前まで来る。月に背を向けて、ドアをノックする。
「レイナです」
どうぞ、と言うお声を聞いてから中に入った。
殿下はグランドピアノの前に座っていらっしゃった。
「ラルヴィスさん、ピアノ、用意してくれたんですね。ありがとうございます」
「お気に召されたのなら幸いです」
寝室にピアノが欲しいと仰っていたので、新しくご用意した物だ。
その許可を頂く為に、陛下にもご相談した。
私は陛下に「陛下の寝室にあるピアノをお譲りになってはいかがです?」と申し上げたのだが。
あの御方は頑な姿勢を崩さなかった。
「これは、俺が持っていなくてはならない」そう仰って、兄君の遺品を手放さなかった。
殿下はピアノの椅子から立ち上がる。
「カーディスと俺では比べものにならないのは解っているんです。
でも、貴方が、カーディスと俺と、どちらの側近になるか決める前に、
俺の気持ちを伝えたくて、お呼びしました」
その双肩に、これからのロレートを担う御方が、私の前で、ぴたりと止まる。
「俺には貴方が必要です。俺は、貴方が欲しい」
臣下にも優しく、執務も誠実に行って下さる。
聖アルフォンソ学院の生徒代表に選ばれ、
カーディス様に次期ロレート国王に指名された皇太子殿下。この御方は、私を必要として下さる。
殿下は私の手を取り、きゅっと握った。
「…俺じゃ、ダメですか?」


→申し訳ありません(陛下ED)

→私でお役に立てるなら(殿下ED)
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