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■テオ三歳
■背景:かいぞくごっこ
12月初め、ギリシャ。
お城のようなこの建物が、海運王メネシスの自宅だった。
広い玄関ロビーでは三人のメイドがクリスマスツリーのデコレーションをしていた。
ゲストの多いメネシス家では、この時期になると毎年巨大ツリーでゲストをお出迎えするからである。
「うわあ、おっきいー!」
歓声を上げたのは、小さな男の子。
誰にもよく撫でられる柔らかな金髪。くりくりの瞳が見上げている。
「それ、おなまえ、なあにー?」
この家のお坊っちゃんテオ・メネシス。
数十年後はメネシスの当主となるご子息だが、今はまだ三歳。だんだんお喋りを覚えてきたところだ。
「これはクリスマスツリーですよ、テオ様」
「くりしゅまー?」
「ええ。もうすぐクリスマスなのでツリーの飾り付けをしていました。綺麗でしょう?」
「きれー! あれ? あ、おふねだっ!」
ツリーの傍には、クラシックな帆船の模型が飾られていた。それに派手な電飾やモールが巻き付けられている。
テオは父親が所有する船やヨットに乗ったことがあり、おもちゃの船はお気に入りだった。
「このおふね、おしゃれしてるー」
「そうですよ。クリスマスにはお舟も綺麗に飾るんです」
かつて国民の多くが船乗りだった海運国ギリシャ。
約100年程前から、クリスマスには船を飾るという特有の慣習がある。
ツリーは第二次大戦後に外国から取り入れた文化だ。
「テオ様、見てて下さいね?」
メイドは手にしたスイッチを入れる。ツリーと船が同時に光り出す。三歳児は目をキラキラさせて魅入った。
「あっ! ピカピカしたっ!」
うちゅくちー、と感嘆しながら巨大ツリーを眺めていた。
テオは自分の部屋に戻った。
「ぜのー!」
困り顔を見せたのは眼鏡の男。
「テオ様…これから探しに行くところでしたよ。どちらに行っていたんですか?」
世話係のゼノ・エリティス。二十代に入ったばかりの男だ。
長い金髪を高いところでひとつに結わえている。
シエスタ前のホットミルクを用意している間に、テオが部屋から消えていたのだ。
すぐに戻りますから待っていて下さいね、と言ってあったのだが。
小さな主人は、ぽちゃぽちゃのほっぺを少し膨らませる。
「だって、ぜの、おそいからー。ておが、おむかえにいったの。あ、それでね!」
さっき見た光景を興奮気味に語った。
「ぜの、くりしゅま、みたっ!?」
「はい?」
「あのね、くりしゅまと、おふねがね、ピカピカで、うちゅくちーの!」
「ああ、クリスマスツリーと船の模型のことですね。私はまだ見てませんが」
今年は、という意味であり、毎年見ている物だ。
このメネシスに仕えて長い世話係にとっては最早珍しくもない。
ぬるめに作ったホットミルクを差し出しながら、
「テオ様は、今日ご覧になったのですか?」
「うんっ。ピカピカすごくてね、くりしゅま、ておより、おっきいのー」
こーんな、と両手を伸ばそうとした。
その小さな手がホットミルクのカップにぶつかる。
「あっ」
カップが倒れ、ミルクがテーブルに零れる。
世話係は持っていたハンカチで素早く押さえ、さっと拭き取った。心配そうな視線が向けられる。
「ぜの、ごめんね」
「大丈夫ですよ」
笑顔を見せると、子供も安心した様子だった。
「確かクリスマスの絵本があった筈ですね。シエスタの前にお読みしましょうか?」
「うんっ」
三歳児は首を左右に揺らしながら、作詞作曲のクリスマスソングを歌い出す。
「くーりーしゅーま、くーりーしゅーま。ピーカピーカ、おーふねっ」
世話係は微笑んで、本棚に向かった。
fin
■背景:かいぞくごっこ
12月初め、ギリシャ。
お城のようなこの建物が、海運王メネシスの自宅だった。
広い玄関ロビーでは三人のメイドがクリスマスツリーのデコレーションをしていた。
ゲストの多いメネシス家では、この時期になると毎年巨大ツリーでゲストをお出迎えするからである。
「うわあ、おっきいー!」
歓声を上げたのは、小さな男の子。
誰にもよく撫でられる柔らかな金髪。くりくりの瞳が見上げている。
「それ、おなまえ、なあにー?」
この家のお坊っちゃんテオ・メネシス。
数十年後はメネシスの当主となるご子息だが、今はまだ三歳。だんだんお喋りを覚えてきたところだ。
「これはクリスマスツリーですよ、テオ様」
「くりしゅまー?」
「ええ。もうすぐクリスマスなのでツリーの飾り付けをしていました。綺麗でしょう?」
「きれー! あれ? あ、おふねだっ!」
ツリーの傍には、クラシックな帆船の模型が飾られていた。それに派手な電飾やモールが巻き付けられている。
テオは父親が所有する船やヨットに乗ったことがあり、おもちゃの船はお気に入りだった。
「このおふね、おしゃれしてるー」
「そうですよ。クリスマスにはお舟も綺麗に飾るんです」
かつて国民の多くが船乗りだった海運国ギリシャ。
約100年程前から、クリスマスには船を飾るという特有の慣習がある。
ツリーは第二次大戦後に外国から取り入れた文化だ。
「テオ様、見てて下さいね?」
メイドは手にしたスイッチを入れる。ツリーと船が同時に光り出す。三歳児は目をキラキラさせて魅入った。
「あっ! ピカピカしたっ!」
うちゅくちー、と感嘆しながら巨大ツリーを眺めていた。
テオは自分の部屋に戻った。
「ぜのー!」
困り顔を見せたのは眼鏡の男。
「テオ様…これから探しに行くところでしたよ。どちらに行っていたんですか?」
世話係のゼノ・エリティス。二十代に入ったばかりの男だ。
長い金髪を高いところでひとつに結わえている。
シエスタ前のホットミルクを用意している間に、テオが部屋から消えていたのだ。
すぐに戻りますから待っていて下さいね、と言ってあったのだが。
小さな主人は、ぽちゃぽちゃのほっぺを少し膨らませる。
「だって、ぜの、おそいからー。ておが、おむかえにいったの。あ、それでね!」
さっき見た光景を興奮気味に語った。
「ぜの、くりしゅま、みたっ!?」
「はい?」
「あのね、くりしゅまと、おふねがね、ピカピカで、うちゅくちーの!」
「ああ、クリスマスツリーと船の模型のことですね。私はまだ見てませんが」
今年は、という意味であり、毎年見ている物だ。
このメネシスに仕えて長い世話係にとっては最早珍しくもない。
ぬるめに作ったホットミルクを差し出しながら、
「テオ様は、今日ご覧になったのですか?」
「うんっ。ピカピカすごくてね、くりしゅま、ておより、おっきいのー」
こーんな、と両手を伸ばそうとした。
その小さな手がホットミルクのカップにぶつかる。
「あっ」
カップが倒れ、ミルクがテーブルに零れる。
世話係は持っていたハンカチで素早く押さえ、さっと拭き取った。心配そうな視線が向けられる。
「ぜの、ごめんね」
「大丈夫ですよ」
笑顔を見せると、子供も安心した様子だった。
「確かクリスマスの絵本があった筈ですね。シエスタの前にお読みしましょうか?」
「うんっ」
三歳児は首を左右に揺らしながら、作詞作曲のクリスマスソングを歌い出す。
「くーりーしゅーま、くーりーしゅーま。ピーカピーカ、おーふねっ」
世話係は微笑んで、本棚に向かった。
fin
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