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■ジョシュア×アンリ
■切なめ。不安定な王子と矛盾する毒使い
---------------------------------------
アンリが自室に戻ると、ドアの前で猫が1匹座っていた。
前に、ユウタが可愛がっていた仔猫だ。
あれから時折、寮の前を通るようになった。
一週間姿を見せないかと思えば、突然誰かの布団に包まっていることもある。
しかも相手は定まっていない。誰のベッドにでも潜り込んでくるのだ。
「浮気性の猫だな」とレッドが笑っていた。
「なあに? 僕に用?」
アンリの足に擦り寄る。
温かい毛に、足首を撫でられる。
「止めて」
冷たく嗜めるが、仔猫は止める所か、
しっぽを、アンリの足に絡ませるように触れてくる。
いい加減、くすぐったいので、
アンリは手で振り払おうとすると、今度は手に近寄って来た。
猫は離れる気が無いらしい。
「今夜は僕と寝るつもり?」
「みゃあ」
絶妙のタイミングで鳴いてくる。
「君、誰でも良いの? この前はジョシュアに付いて行ったくせに」
静かに微笑む。人前では見せない優しい笑みだ。
「軽い奴は嫌いだよ?」
アンリは立ち上がった。その腕に子猫を仕舞って。
アンリは自分の部屋に着くと、猫を床に降ろす。
猫はベッドに飛び乗って、アンリを振り向く。
「来い、って? 気が早くない?」
アンリは制服から寝間着に着替える。
猫はアンリを見ていた。
「そんなに見つめるものではないよ?」
着替え終わって、ベッドに入ると、
猫の方からアンリに寄って来た。
「人懐っこい猫だね。お前は、人が怖くないの?」
猫の頭を撫でてやる。
「余り人を信用するものではないよ。特に僕は」
猫は気持ち良さそうに目を瞑っている。
「僕はね、悪魔の子だから。信じない方が良い。
僕を完全に信用している馬鹿な人も居るけれどね」
アンリの手が止まる。
「きっと僕は、平気で君を裏切るよ。
自分の利益の為になら、君を傷付けて尚、君を嘲笑うかもしれない。
その日の為に、僕は君と言葉を交わしているのかもしれない」
猫はアンリを見上げる。
アンリは猫に手を伸ばす。
「だから、僕を信じないで」
猫を胸に抱いて、目を閉じる。
猫の鼓動を感じる。
温かい。
「…僕はね、両親にこうして貰ったことが無いんだ。
母は僕を生んですぐに死んでしまったし、
父さんは僕のことが嫌いだったから」
アンリは猫の小さな背に腕を回す。
「僕より、お前の方がずっと温かいね」
細く柔らかい毛並みが指の間を流れていく。
手の力が抜けていく。
「…僕も、温かかったら、良かったな」
指に生暖かいものが触れた。
小さな舌にペロペロと舐められている。
「…僕に優しくしないで」
ドアがノックされた。
聞き慣れた声が聞こえる。
「アンリ、入って良いかな?」
「開いてるよ」
ジョシュアはドアを開けて、アンリの姿を探す。
ソファにも机にも居ない。
「こっちだよ」
布団の中から顔を出しているアンリに、
ジョシュアは柔らかく笑う。
「もう眠るところだった?」
「そう。無粋だよ、ジョシュア。
僕はこの子と眠るところだったのに」
「えっ?」
ジョシュアがベッドを見る。
アンリの隣が膨らんでいる。
「誰か、居るの?」
ベッドの中を見せる。
アンリに擦り寄っているのは猫だった。
「なんだ、君か…驚かせないでくれ、アンリ」
ジョシュアはベッドに腰掛ける。
猫はベッドから出て、ジョシュアの胸に飛び込む。
ジョシュアは猫の喉を撫でる。
「アンリの傍に居なくて良いのかい? 俺が奪ってしまうよ?」
猫はベッドから出て、床に飛び降りた。
ドアの前まで行って「みゃあ」と鳴く。
ジョシュアが猫の前に座る。
「おやすみ」
猫が部屋を出て行く。
ジョシュアは静かにドアを閉める。
「アンリが、猫とこんなに仲良くなっているなんて、知らなかったよ」
「仲良く?」
「一緒に寝ようとしてたんだろう?」
「だから何?」
「…すまない」
「何を謝ったの?」
「ごめん。最近、独占欲が強過ぎるみたいだ。
さっきも君のベッドに誰か入ってるのかと思った時、
どうしていいのか解らなくなった…
頭痛がして、息が苦しくて」
「それで、猫を追い出した?」
「…そうかもしれない。あの子には悪いことをしてしまったな」
「どうかしているね?」
「うん。…ごめん」
彼はどうしようもなく不安定だ。
よくこれで生徒代表が務まっていると思う。
今でこそ、人前では非の打ち所のない優等生だが。
出会った当時は、今以上に控えめで大人しくて、目立たない存在だった。
そして今でも。
こんな風に臆病な目を見せる。
最初はこの目が嫌いだった。
人の機嫌を伺い、
相手を気遣い、傷付けまいとする、
最も恐れているのは、相手に嫌われること。
僕がどうでもいいと思っていることばかり、
この目が求めて続けていた。
そう知った時、彼とも上手くやっていけないと思った。
時が経つにつれて、彼の言動が変わっていくのが見れ取れた。
何より、目が違う。
徐々に自信や誇りを得て、終いには生徒代表のそれになった。
それからというもの、
臆病な目は、僕の前でしか見せなくなった。
弱い彼を知っている者は皆卒業してしまったし、
今では誰もが、彼を生徒代表として認めている。
弱い彼を知っているのは僕だけだ。
彼から信頼を受けているらしい僕なら、彼を壊すことなど造作も無いだろう。
信じていた者に裏切られ、失意に沈む彼を見てみたいとも思う。
その奇妙な欲求は、先祖の血故か、それともあの人の。
だけど、今はまだ壊さない。
人から信頼されるのも悪くない気分だし。
――彼の信頼を失うのが怖いから?
まさか。
こんな人間など、いつでも壊せるからだよ。
「ジョシュア?」
「何?」
「猫から奪っておいて、放っておくつもり?」
ねえ。ジョシュア。
僕はね、君のことを、一度も友だと思ったことが無いんだよ?
だって、君は、この学院を出たら、もう敵になる人だ。
きっと永遠に、会えなくなる。
だから、君の隣に居心地の良さを感じている筈が無い。
君と、永遠に友で居られるわけが無い。
絶対に手に入らないものに、好意など抱いても意味が無い。
ジョシュア。
僕は、君のことを、一度だって好きだと思ったことは無いんだ。
本当の僕を知った時、君はどう思うのかな。
それでも君は、僕のことを、嫌いにならないで居てくれる?
「アンリ」
「ん…」
「アンリ」
「なに…」
「愛してる」
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■切なめ。不安定な王子と矛盾する毒使い
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アンリが自室に戻ると、ドアの前で猫が1匹座っていた。
前に、ユウタが可愛がっていた仔猫だ。
あれから時折、寮の前を通るようになった。
一週間姿を見せないかと思えば、突然誰かの布団に包まっていることもある。
しかも相手は定まっていない。誰のベッドにでも潜り込んでくるのだ。
「浮気性の猫だな」とレッドが笑っていた。
「なあに? 僕に用?」
アンリの足に擦り寄る。
温かい毛に、足首を撫でられる。
「止めて」
冷たく嗜めるが、仔猫は止める所か、
しっぽを、アンリの足に絡ませるように触れてくる。
いい加減、くすぐったいので、
アンリは手で振り払おうとすると、今度は手に近寄って来た。
猫は離れる気が無いらしい。
「今夜は僕と寝るつもり?」
「みゃあ」
絶妙のタイミングで鳴いてくる。
「君、誰でも良いの? この前はジョシュアに付いて行ったくせに」
静かに微笑む。人前では見せない優しい笑みだ。
「軽い奴は嫌いだよ?」
アンリは立ち上がった。その腕に子猫を仕舞って。
アンリは自分の部屋に着くと、猫を床に降ろす。
猫はベッドに飛び乗って、アンリを振り向く。
「来い、って? 気が早くない?」
アンリは制服から寝間着に着替える。
猫はアンリを見ていた。
「そんなに見つめるものではないよ?」
着替え終わって、ベッドに入ると、
猫の方からアンリに寄って来た。
「人懐っこい猫だね。お前は、人が怖くないの?」
猫の頭を撫でてやる。
「余り人を信用するものではないよ。特に僕は」
猫は気持ち良さそうに目を瞑っている。
「僕はね、悪魔の子だから。信じない方が良い。
僕を完全に信用している馬鹿な人も居るけれどね」
アンリの手が止まる。
「きっと僕は、平気で君を裏切るよ。
自分の利益の為になら、君を傷付けて尚、君を嘲笑うかもしれない。
その日の為に、僕は君と言葉を交わしているのかもしれない」
猫はアンリを見上げる。
アンリは猫に手を伸ばす。
「だから、僕を信じないで」
猫を胸に抱いて、目を閉じる。
猫の鼓動を感じる。
温かい。
「…僕はね、両親にこうして貰ったことが無いんだ。
母は僕を生んですぐに死んでしまったし、
父さんは僕のことが嫌いだったから」
アンリは猫の小さな背に腕を回す。
「僕より、お前の方がずっと温かいね」
細く柔らかい毛並みが指の間を流れていく。
手の力が抜けていく。
「…僕も、温かかったら、良かったな」
指に生暖かいものが触れた。
小さな舌にペロペロと舐められている。
「…僕に優しくしないで」
ドアがノックされた。
聞き慣れた声が聞こえる。
「アンリ、入って良いかな?」
「開いてるよ」
ジョシュアはドアを開けて、アンリの姿を探す。
ソファにも机にも居ない。
「こっちだよ」
布団の中から顔を出しているアンリに、
ジョシュアは柔らかく笑う。
「もう眠るところだった?」
「そう。無粋だよ、ジョシュア。
僕はこの子と眠るところだったのに」
「えっ?」
ジョシュアがベッドを見る。
アンリの隣が膨らんでいる。
「誰か、居るの?」
ベッドの中を見せる。
アンリに擦り寄っているのは猫だった。
「なんだ、君か…驚かせないでくれ、アンリ」
ジョシュアはベッドに腰掛ける。
猫はベッドから出て、ジョシュアの胸に飛び込む。
ジョシュアは猫の喉を撫でる。
「アンリの傍に居なくて良いのかい? 俺が奪ってしまうよ?」
猫はベッドから出て、床に飛び降りた。
ドアの前まで行って「みゃあ」と鳴く。
ジョシュアが猫の前に座る。
「おやすみ」
猫が部屋を出て行く。
ジョシュアは静かにドアを閉める。
「アンリが、猫とこんなに仲良くなっているなんて、知らなかったよ」
「仲良く?」
「一緒に寝ようとしてたんだろう?」
「だから何?」
「…すまない」
「何を謝ったの?」
「ごめん。最近、独占欲が強過ぎるみたいだ。
さっきも君のベッドに誰か入ってるのかと思った時、
どうしていいのか解らなくなった…
頭痛がして、息が苦しくて」
「それで、猫を追い出した?」
「…そうかもしれない。あの子には悪いことをしてしまったな」
「どうかしているね?」
「うん。…ごめん」
彼はどうしようもなく不安定だ。
よくこれで生徒代表が務まっていると思う。
今でこそ、人前では非の打ち所のない優等生だが。
出会った当時は、今以上に控えめで大人しくて、目立たない存在だった。
そして今でも。
こんな風に臆病な目を見せる。
最初はこの目が嫌いだった。
人の機嫌を伺い、
相手を気遣い、傷付けまいとする、
最も恐れているのは、相手に嫌われること。
僕がどうでもいいと思っていることばかり、
この目が求めて続けていた。
そう知った時、彼とも上手くやっていけないと思った。
時が経つにつれて、彼の言動が変わっていくのが見れ取れた。
何より、目が違う。
徐々に自信や誇りを得て、終いには生徒代表のそれになった。
それからというもの、
臆病な目は、僕の前でしか見せなくなった。
弱い彼を知っている者は皆卒業してしまったし、
今では誰もが、彼を生徒代表として認めている。
弱い彼を知っているのは僕だけだ。
彼から信頼を受けているらしい僕なら、彼を壊すことなど造作も無いだろう。
信じていた者に裏切られ、失意に沈む彼を見てみたいとも思う。
その奇妙な欲求は、先祖の血故か、それともあの人の。
だけど、今はまだ壊さない。
人から信頼されるのも悪くない気分だし。
――彼の信頼を失うのが怖いから?
まさか。
こんな人間など、いつでも壊せるからだよ。
「ジョシュア?」
「何?」
「猫から奪っておいて、放っておくつもり?」
ねえ。ジョシュア。
僕はね、君のことを、一度も友だと思ったことが無いんだよ?
だって、君は、この学院を出たら、もう敵になる人だ。
きっと永遠に、会えなくなる。
だから、君の隣に居心地の良さを感じている筈が無い。
君と、永遠に友で居られるわけが無い。
絶対に手に入らないものに、好意など抱いても意味が無い。
ジョシュア。
僕は、君のことを、一度だって好きだと思ったことは無いんだ。
本当の僕を知った時、君はどう思うのかな。
それでも君は、僕のことを、嫌いにならないで居てくれる?
「アンリ」
「ん…」
「アンリ」
「なに…」
「愛してる」
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