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Marginal Prince Short Story
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■アイヴィー×ソクーロフ
■追加シナリオクリア推奨
会場は、聖アルフォンソ島南西部、海岸側の崖っぷちにあるコテージ。
メンバーは、保健教師兼カウンセラーと、家主の警備責任者兼ドライバーだ。

二人とも、それほど空腹を感じていなかったので、
金髪の警備責任者は「じゃ、なんか軽いツマミみたいなの作んね」とリビングの奥に向かった。
身軽にキッチンに立つようになった男を見送り、カウンセラーは煙草を取り出した。

ロングソファには、自分の物とは違う紫煙が染み着いている。
この家から見える景色は、森ではなく、黒い海だ。ここから微かに聞こえる波音は、心地好い。

「できたよ~ん」という間の抜けた声を聞くまで、
カウンセラーは無心で煙草を吸っていた。

テーブルに乗った、質素なメインディッシュは、
馴染みのバーにあるメニュー『オイルサーディンの缶焼き』だ。
これウマイ、と正直な感想を言ったら、店のボーイが、アイヴィーでも作れるよ、と作り方を教えてくれた。

イワシの缶詰の蓋を開け、塩、ブラックペッパー、レモンなどでテキトーに味付けた後、
缶ごとオーブンに突っ込むだけ。大雑把なレシピながら、手早く作れてウマイ。
今日はソクーロフが来ているので、オマケにチーズも乗せた。

あとは、家にあったトルティーヤチップスやナッツが無造作にテーブルに置かれている。
アイヴィーは自分で用意したメニューを眺めて首を傾げた。

「ボウネンカイってー、こんなかんじでイイのかなー? 一緒にメシ食って、来年もヨロシクね、っていう会なんだよね?」

「ああ。『年の最後に仲間内で飲食し、一年の労苦を忘れることを目的とした会』だそうだ」

アイヴィーは、デッドプリンスが自宅に遊びに来た時に忘年会というものを知った。
彼等は「ウーティス寮でも今年は忘年会をするんだ」と、はりきっていた。
仕事帰り、その話を思い出したアイヴィーは、手近のソクーロフに話を持ち掛けたのだ。

ソクーロフもウーティス寮生達から忘年会の話を聞いていたので、
大人達は生徒達に倣い、異文化を体験してみることになった。
アイヴィーはソクーロフの隣に座る。安いメニューをつまみながら二人は話した。

「ま、ぐだぐだ話したり食べたりすればイイんなら、いつもとあんま変わんないけどね」

「忘年会では、一年を振り返ったりするとハルヤは言っていたが?」

日舞の家元だった祖父の家では、毎年、年末になると弟子達を一同に集め、
ささやかな宴が行われていたそうだ。当時、まだ幼かったハルヤは、
兄と一緒に瓶のオレンジジュースを飲んだと懐かしそうに話していた。

「一年を振り返っといて、スパッと忘れるってこと?」

「日本には何かと忘れ去りたい出来事が多いんだろう。いや、日本に限ったことではないか」

ソクーロフはゆっくりと紫煙を吹かせながら、
相手の反応を注視したが、何も喋らず、トルティーヤチップスに手を伸ばした。

「ソクちゃんは? どんな年でした?」

「興味深い年だった」

「でしょうねー」

「お前は今年、どんな一年だったんだ?」

アイヴィーは三角のチップスに、
サルサソースをちょんちょんと付けて口に運んでいる。

「色々あったよねー。なんたって『当たり年』だったから」

パリパリと香ばしい音が鳴る。

「ジョシュア・グラントが、生徒代表になったことが大きかったな。まあ、当然、選ばれるだろうとは思ったが」

「ソクちゃんは予言してたもんねー、何年も前から」

「そう言えば、ロレートの様子は?」

「ん。目立った異常なし、今んとこは」

「そうか」

「つーか、ジョシュアのお友達も『当たり』だらけだったよね」

「シチリアのマフィアには、易々と侵入されたしな?」

「また、そのネタでいぢめる…」

「ここでは罪を犯さないマフィアだったから良かったようなものの、
この島の警備レベルも、大したことはないな。精進することだな、司令官」

「あ、あれはしょーがなかったんだってば! 生徒がマフィアを密輸入したようなもんじゃん!
つーか、俺達は生徒をお守りしたいだけなのにさ、なんで生徒に、敵に回られるわけ? 俺達の敵はダレなの?」

「あの子は、あれを自分のゲストとして招待するのが嫌だったんだろう? 彼等の作戦勝ちだな。
警備組織をまんまと騙す、マフィアといい、あの子の頭脳といい、実に優秀な犯罪グループだ」

「…ソクちゃんは、ダレの味方なわけ?」

「おイタをする子は一度ゆっくりお説教をしたいものだ」

「それは止めてあげて。そこまで悪いことしてないから」

「あとは…」

「ソクちゃんソクちゃん。俺のダメ出し会になってる」

「面白いじゃないか」

「あんただけだよ。ね。もう振り返んのは、そのくらいにしない?」

「次は?」

カウンセラーの手から煙草を抜き取り、灰皿に置く。

「忘れさせてよ」

警報音が鳴り響く。アイヴィーの手首に視線が集まる。
腕時計型端末は、侵入者情報を伝えてくれた。

「もー。こんな年末まで来てんじゃねー」

「今年の客人は仕事熱心だな」

「熱心過ぎるって。年末年始くらい、おうちでゆっくりしよーぜ」

変わった着信メロディが鳴る。

「お前、なんだ、その曲は?」

「いや、わかんね。シルヴァンに勝手に変えられるんだよ」

携帯のサブディスプレイを見る。

「うわー、クロちゃんから電話だ。ちょっと出るね」

ソクーロフも知っている人物だ。副司令官のラインハルト・クロイツ。ドイツ出身の有能な軍人だ。
司令官が携帯を耳に当てる。

「どーしたー? アラートなら確認してるよ? 行ってきなさいって言うんでしょ?」

「いえ。そちらは手配済みですので、司令は本部に向かって下さい。
それから、お近くにドクターは、いらっしゃいますか?」

「な、なんで解んの? ちょ、まさか、うちに盗聴器とか…」

電話を持ったまま、キョロキョロする。耳許から吐息が聞こえた。

「貴方のご自宅を盗聴して、私にどんな得があるんです?
ドクターにご連絡を取ろうとしたのですが、保健室とメルキュール館にはご不在でしたので、
もしかしたら、貴方とご一緒ではないかと思っただけです。
ドクターのお力が必要になりそうなので、貴方からご同行をお願いして頂けますか」

「あー、そゆこと。了解。じゃ、あとで」

電話をポケットに仕舞う。

「ソクちゃんも一緒に来て欲しいってさ」

自白・洗脳のプロフェッショナルは立ち上がって、

「人気者はツライな」

アイヴィーが、ひひ、と歯を見せる。

「イイ男の宿命だから、しょーがないよ。じゃ、俺、車出してくるわ」

車のキーを握って、ガレージに続く螺旋階段に向かう。

「あっ、ソクーロフ! 言い忘れてた」

ひょいと笑顔を覗かせ、

「来年もヨロシクね?」

タンタン、と螺旋階段を駆け下りていく。
ソクーロフは部屋の電気を消して、ゆっくりとガレージに向かった。

fin
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