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Marginal Prince Short Story
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■ウーティス寮の愉快な仲間達
凧揚げを終えたウーティス寮生達は、揃ってサロンに戻ってきた。

「ニッポンの正月遊びも、やり尽くしたってかんじだなー」

どかっとロングソファにレッドが凭れた。向かいのハルヤは疲れた笑顔を見せる。

「凧揚げ、羽根付き、花札、独楽にお手玉、福笑いまでやってみたもんね」

「姉貴がダンボール送ってきた時はどうしようかと思ったけど、全部できちゃったね」

年末、ユウタの姉から『日本のお正月遊びセット』が送られてきた。
カードには『良かったら、皆さんで遊んで下さいね』とあったので、
ウーティス寮生達は、年明け後、早速喜び勇んで遊んだのだ。
最初にやった羽根付きは、テレビ電話を通して、生中継で試合を姉に見せた。

「どれも面白かったですー! ニッポン最高です!」

レッドの隣で、一人ハイテンションでいるのはシルヴァンだ。
相変わらず、日本が大好きな友人を見て、ジョシュアは苦笑する。

「シルヴァンが本当に楽しそうで良かったよ」

レッドは、面白くないと言わんばかりに膨れている。

「でもさー。さすがに次はなんか違うことしよーぜ?」

暖炉の傍に凭れていたアンリが、こんなことを言い出した。

「じゃあ、次はフランスの遊び、する?」

「するするっ! フランスの正月ってどんなことすんだ!?」

アンリが、入って、と呼び掛ける。すると、サロンのドアが開いた。
その人物を見て、最初に声を上げたのは、ハルヤだった。

「あれ、カミーユ?」

「はい。改めまして、あけましておめでとうございます、皆様」

誰もが認める、世界一コック服が似合う男。
割れた顎に四角い顔が特徴的な、ウーティス寮専属シェフ、カミーユ・ルブラン。

「お待たせ致しました、アンリ様。こちらがお言い付けのものです」

ローテーブルに、1ホールのケーキを置く。
螺旋状の美しい模様が描かれた、黄金色のパイのようだ。
パイの傍らには、金色の紙でできた王冠が添えられている。
専属シェフはコック帽を取って料理名を紹介した。

「フランスの伝統菓子『ガレッド・デ・ロワ』でございます」

「メルシー。新年早々、仕事を増やして悪かったね」

「とんでもございません。珍しくも、アンリ様から、
しかも『ガレッド・デ・ロワ』のご用命、カミーユは嬉しゅうございました。
入学時のアンリ様なら、きっとこれをご所望にはならなかったでしょう」

他意のないシェフの笑顔を見て、アンリは視線を外した。

「ああ、差し出がましいことを申し上げ、失礼致しました。
また何かご入り用の際は、何なりとお申し付け下さい。心を込めて最上の料理をお作り致します」

「うん。後は自分達でやるから」

「畏まりました。では皆様、どうぞ楽しいエピファニーをお過ごし下さいませ」

正統派フランス料理を得意とする真面目な男は、一礼して退室した。
ユウタは首を傾げる。

「アンリ、エピファニーって?」

「フランス語で、公現祭のことだよ」

「こうげんさい?」

「日本人の君は初めて聞く言葉だろうね。1月6日は公現祭というお祭りがある。
これはキリスト教の行事で、まあ、クリスマスの続きのようなものだね。
1月6日は、ベツレヘムで生まれたばかりのイエスの元に、東方の三博士が辿り着いた日。
それにより、人の子だったイエスが神性を現した。この世に神が現れたことを祝うお祭りなんだよ。
フランスでは、1月6日か、1月最初の日曜日、つまり今日、
ガレッド・デ・ロワを食べる習慣がある。ちょっとしたゲームをしながらね」

「ゲーム?」

「ガレッド・デ・ロワの中には、ひとつだけ、フェーヴと言う陶器の小さな人形が入っている。
自分の分にフェーヴが入っていた人はこの紙でできた王冠を被って、
一日、王様、女王様になれる。そして、幸福な一年を過ごせると言われてる」

「じゃあ、アンリは、フランスでよくこれを食べてたんだね?」

ハルヤの問い掛けにアンリは冷笑で返した。

「君が想像しているような、楽しい思い出ではないけれどね」

シルヴァンが手を合わせた。フランス語の菓子名を英訳してみせる。

「あ! だから、ガレッド・デ・ロワ。『王様のお菓子』というわけですね?」

「直訳ではね。だけど、このケーキのロワは、王様ではなく、
東方の三博士を示しているという説もあるらしいよ」

「ねえねえ、一日王様って、一日偉そうにしてて良いってこと?」

「なーに、生ぬるいこと言ってんだよ、ユウタ。誰にでも好きに命令できるってことだろ!」

「わお。『王様ゲーム』みたいですね! 日本に、そういうゲームありましたよね、ハルヤ」

「あるけどさ。ほんとヘンなことばっかり知ってるね、シルヴァンは」

「俺が王様になったら何するかなー。まずアンリには一日俺の下僕になって貰うだろー?」

「イイですねー。僕はアンリと錬金術について語り合いたいです!」

「それから、ハルヤは踊らせる!」

「僕もハルヤには踊って欲しいです! できれば僕だけの為に!」

「あっ、ズリィぞ、シルヴァン!」

「ズルくないですよ、王様なんですから」

白熱する二人の傍で渦中のハルヤが肩を下げる。

「二人とも、まだ王様に決まったわけじゃないじゃん」

「ハルヤは王様になったら何したいんだよ?」

「うーん。そんな、急に言われても、思いつかないよ」

「ここは欲張りに行こうぜ! なんか、あんだろ、なんか!」

「えー? んーっと、あ、じゃあ、俺だけ今日の晩ご飯、一品多い、とか?」

「普段と変わんなくねー? おめーは、いっつもおかわりしまくってんじゃん。なあ、ユウタは何したい?」

「俺は、あの、レッドに、ジェイミーの名場面やって欲しいな」

レッドは一呼吸置いて、腕を広げた。

「太陽の光! 風! 海! この腕に触れたものは全て、イーグルアイのジェイミーが頂きだ!」

「わー、ジェイミーだー! ありがとー!」

アンリがレッドの脇腹を肘で突く。

「ちょっと。まだ王様も決まってないのに、命令を聞いてどうするの?」

「とか言ってー、お前も、俺様の名台詞が聞けて、結構嬉しかったんじゃねーのー?」

「僕を彼と一緒にしないで」

「で、アンリは? 何がしたいんだ?」

「僕と、朝までオカルトトーク! ですよね!?」

「ない」

「そんなー」

「僕はアルフレッドと面白い話がしたい」

「えっ? 俺と?」

「うん。面白い、ビジネスの話」

「なんだ、ソッチ系かよ。俺はてっきり」

「てっきり、何」

「いやー、何でもねえわ」

「ジョシュア。さっきから全然喋ってませんけど、ジョシュアは何がお望みですか?」

「俺は特にないから、俺以外の人にフェーヴが入っていればいいな」

「ダメですよ。これはそういうゲームなんですから、ジョシュアも当たりを引いたら、ちゃんと命令してくれなくっちゃ」

「そうか、すまない」

レッドはハルヤに囁く。

「よく考えたら、ジョシュアが当たり引きそうじゃね?」

「うん。なんか、俺もそんな気がしてきた」

「とにかく、切り分けてみましょうよ。あたたかいパイが冷めないうちに頂きましょう」

アンリが止めに入る。

「その前に、ユウタ」

「え、何?」

「君は、一人で、テーブルの下に入っていてくれる?」

「な、なんで?」

「おい、アンリ! 正月からユウタだけノケモンかよ!」

レッドが興奮すると、ジョシュアがすかさず止めた。
こういう時のスピードは誰より早い。

「落ち着いて、レッド。アンリ、何か理由があるんだね?」

アンリは頷いた。

「ガレッド・デ・ロワのルールなの。一切れごとに『これは誰の分?』って聞いて、
一番小さな子に決めさせるんだよ。そのほうがゲームも盛り上がるし、
万一、フェーヴがナイフに当たる、という最悪の事態が起こったり、
フェーヴがどこに入っているか、切り口から見えてしまった場合でも、公平に配れるからね」

「なんだ。それなら、そう言えよ」

「言う前に君が、やいやい言ってきたんでしょ?」

シルヴァンが手を挙げる。

「じゃあ、僕がサーブしてもイイですか? ユウタ、テーブルの下に入って下さい」

「うん。解った」

ユウタは四つん這いになり、もぞもぞと入っていく。ハルヤが身を屈める。

「これ、ローテーブルだけど、下になんか入れる?」

「だいじょぶ。身体を小さくすれば、なんとか。俺、目も瞑っとくね」

「ユウタ、僕とアンリによる世紀のオカルトトークがかかっているので、よろしくお願いしますねっ!」

「シルヴァンにだけは当てないでね、ユウタ」

「ユウタ! 俺に当てろよ、俺に!」

自分勝手なプレッシャーが浴びせられる。
テーブルの下からは、小さな呟きが漏れた。

「……俺は、俺に当てたいよ」

「じゃあ、切り始めますよー」

シルヴァンがパイにナイフを入れていく。
サクサクと香ばしいパイの音とともにアーモンドクリームの甘い香りがする。
あっ、と小さく声を上げたジョシュアは、アンリの肩に手を置いて、そっと囁いた。

「解ったよ、アンリ」

「何が?」

「小さい子だけ目隠しさせるのは、その子の分に、フェーブを入れる為なんだね?」

サンタクロースと似たようなものなんだ、とジョシュアは理解した。
子供が眠っている間にプレゼントを贈るのと同じ。
大人から子供へのプレゼントは、双方にとって楽しいものだ。
子供の笑顔は、大人にとって、何にも替え難いプレゼントとなるのだから。

「君って、年が明けても嫌な奴だね、ほんと」

アンリは自分の肩に乗せられた手を払った。
囁き声ではなく、ユウタにも聞こえるように言った。

「そんなに、自分が当たりを引くのが、嫌?」

「えっ? そういう、わけじゃ…」

「確かに、幼児に当たりが行くように仕向ける、アンフェアで偽善的な家庭もあるだろうけど、
高等部にもなった僕達に、下手な小細工が必要かな?
言っておくけれど、『この位置でフェーブを入れろ』だとか、小細工は一切してないよ?
誰が2009年の幸運を手にするか。これは極めてフェアかつ純粋な、ギャンブルなの」

レッドがジョシュアの肩に腕を回す。

「そう、そう。年明け一発目の運試しさ。2009年の幸運は全て、俺様が頂きだ、ってな」

シルヴァンがナイフを置く。

「六個に切り分けましたー!」

フェーヴにナイフが当たることもなく、六等分に切り分けることができた。
どの切り口からもフェーヴは見えない。
ユウタ以外の五人は顔を見合わせ、全員にとってフェアな状況であることを確認した。

「くぅー! おっしゃー! こいつは面白くなって来たぜー!」

「じゃあ、ひとつめ行きますよー!」

シルヴァンが皿に一切れ乗せて、掲げる。

「ユウタ、これは誰の分ですか!?」

「んー。じゃあ、最初はジョシュアの!」

レッドが笑いながらテーブルの下を覗く。

「イイのか~? ホントにジョシュアでイイのか~?」

「え? え? 変えたほうがイイの?」


fin
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