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Marginal Prince Short Story
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■アイヴィー5年前
囚われ人3 続編
警備組織司令官の俺と副司令官のラインハルト・クロイツが正門前に立つ。
門番の二人は、俺の顔、というよりクロイツの顔を見て敬礼した。ビビリ気味に。
副司令官は部下達に「ご苦労様です」と声を掛けていた。
そんな気はしてたけど、クロイツは他の奴等から恐れられてるかんじだ。
規則に厳しいところあるし、色々ガミガミ言われたりするんだろう。

「司令? 行きますよ?」

「あ、ああ」

正門を抜け、校舎まで続く月桂樹の道を歩いていく。今日もいい天気で、木洩れ陽があったかい。
今日は学院の生徒代表室で警備ミーティングだ。
俺はクロイツの数歩後ろを付いていく。クロイツはノートPCを入れたシルバーのバッグを抱えている。

「本来であれば、警備に関するミーティングは、学院から一名、警備から一名で行われます」

クロイツは空を見ることもなく、真正面を向きながら話してる。

「現状、貴方はまだ就任されたばかりなので、暫くは私も補佐役として出席致しますが、
いずれは司令お一人で参加して頂くことになりますので、そのおつもりで」

「ハーイ」

おっ、変な色のちょうちょ。あ、ガかな?

「今回から、あのドクターもミーティングに参加されますので、ご注意下さい」

「注意?」

「あ、いえ」

「まあ、言いたいことはなんとなく解るよ。まだ、気を許すな、ってことでしょ?」

「ええ」

「やっぱ、なんかアヤシイもんなー、あのセンセ」

「司令もそう感じましたか」

「まあね。でも、前科とか、経歴に詐称、なんてのは、なかったんだろ?」

「ええ。彼の過去は洗いざらい調査致しましたが、経歴書通りの裏が取れました」

「そ。じゃあ、なんで……」

「何です?」

「あ、ううん。何でもない」

なんで、あのセンセのこと考えると、こんなにザワザワするんだろ。

学生課の前を通って、一番奥の部屋に着く。
ここが生徒代表室。今日のミーティングルームだ。クロイツが扉に手を伸ばす。

「それでは、司令。気を引き締めてミーティングに臨んで下さい」

俺達二人が顔を見せると、生徒代表が、もさっと会釈した。
トレードマークは、紺色のカーディガン。なんで、制服のブレザー着ないんだろ。
猫背気味だし、眼鏡のデザインが古いし。ピチピチの18歳には見えないけど。
こいつが俺の上司、聖アルフォンソ学院の生徒代表ヤン・ハシェクだ。

ヤンの後方から白衣の男が近付いてくる。今日も笑顔が妖しげなドクターだ。
俺の身体が、少し緊張するのが解った。生徒代表はのんびりと、自分の手首を覗く。

「えっと、まだちょっと早いですけど、揃ったんで、ミーティング、始めましょうか」

四角いテーブルに四人が向かう。最初に座ったのはヤン。その隣をドクターが取る。
俺はヤンの向かいに座る。俺の隣にクロイツ。学院組と警備組が向かい合う形で座った。

今日は、新メンバー、ソクーロフ先生の挨拶から始まった。
この前正式に、ドクターが警備組織に力を貸してくれることになったので、
警備ミーティングへの参加も決まった。ドクターの強い要望で、だ。
これで俺はドクターとは本格的に、同僚という深いカンケイになっちまったというわけだ。

ミーティングは基本的に、学院側、警備側による情報交換の場だ。
学院側の近況、近々の行事予定が、警備側に報告され、
警備側も近況、つまり、どの生徒を狙う輩を捕まえただとか、生徒の祖国についての調査報告を行う。
ミーティングで何かを決める場合は多数決などではなく、生徒代表一人の意思によって決定する。
言わば、この小さな島は絶対王政。その王様が生徒代表だ。

ミーティング中、警備組織からの報告はクロイツに任せ、俺はドクターを見てた。
ドクターはノートPCではなく、何かファイルを持ってきている。
筆記用具は、白衣の胸ポケットから出した赤いボールペンだけ。
しょっちゅうメモを取ってたけど、そのタイミングから見て、
話の内容について書いているわけじゃないみたいだった。
もしかして、ラクガキでもしてんのか?  誰かの似顔絵とか。

今日のミーティングが型通り終わり、そろそろお開きかなと思った時、
ドクターはファイルから何かプリントを取り出し、俺とクロイツの前にそれを置いた。

「最後に、この生徒のことなんだがね」

カルテの一部をコピーした物らしい。
なんか、所々、黒く塗り潰されてるのが、めっちゃ気になるんですけど。
端には顔写真。シャープな顔立ちで、すっげ目付きが悪い生徒。俺は知らない顔だ。
生徒の資料は読み始めたばかりで、顔を見て名前が当てられる段階じゃなかった。名前欄には長い文字。

「えと、ジブ……」

クロイツが少し抑えた声で教えてくれる。

「ジブリール・アブル・アルファマード様。高等部二年、アルファルド寮の生徒です」

「ふうん」

ドクターはわざとらしく「おや?」と首を傾げた。

「司令官は、ジブリールをご存知ではないようだね?」

「ああ、まだ会ったこともないし」

てゆうか、面識なんてあるわけない。
俺は島に着いてから、ほぼ毎日、司令室に閉じ込められてお勉強の日々だった。

「司令官には、早急に、全生徒の顔と氏名、バックグラウンドまで記憶して貰いたい。
守るべき対象が誰なのか判別できなければ、話にならないからね」

「……ハイ」

センセに怒られた。クロイツが俺を庇うように割って入る。

「申し訳ありません、ドクター。司令は警備業務の引き継ぎに追われておりましたので」

「生徒のデータを把握することも、重要な引き継ぎ事項だと思うがね」

尤もな理由で、うちの副司令官を黙らせたドクターは、生徒について説明を始めた。

「ジブリールは、祖国では第三王子の地位にある生徒だ」

話には聞いてたけど、ホントに王子様とか居るんだ。
俺がちょっと驚いていると、もっと驚くことをドクターは口にした。
生徒の祖国として、某中東大国の名前を出したのだ。
世界でも上位の産油国であり、治安が良いとは決して言えない、何かとキナ臭いお国だ。

「それで、ジブリール様が、何か?」

「ヤン、君から説明したほうが良いだろう。昨日、私に相談してくれた通り、
彼等にも教えてあげなさい。ゆっくりでいいからね?」

語り手を譲られた生徒は「はい、先生」と返事して、こう言った。

「ジブリール、最近ちょっと、様子がヘンなんです。だから、僕、心配で……」

話が途切れた。クロイツが続きを促す。

「ヤン様? その『ヘン』というのは、何が、どのように、でしょうか?
恐れ入りますが、もう少し具体的にお願い致します」

「あ、具体的に、ですか? えっと、いろいろ、なんです」

生徒代表は、持ち前のぼそぼそとした声で話し始めた。

「ジブリールって週に五回、決まった時間にジムに行ってるんですけど、
最近、行ってない日があったり、時間がズレたりしてるみたいで、
あと、聖堂に来て、ぼうっとしてたり、とか。
そういうの、今まではなかったことだから、どうしたのかなって思って。
でも、本人に聞いても、『お前には関係ない』としか言ってくれないし」

ドクターは赤いボールペンをクルリと回す。

「それがどうした、と言う顔をしているね、警備チームは」

言い当てられた。さすが、カウンセラー様。
いや、待て。今の話聞いた後なら、誰でもそういう顔するだろ。

「確かに、ヤンの話を聞いた限りでは、皆『それが?』と思うかもしれないが」

ウソ。また心の中を読まれた。俺、そんなに、思ったこと顔に出てんの?

「人には多かれ少なかれ、日常のリズムというものがある。
それが崩れるのは、何らかの非日常が起こった時だ。ヤンが見つけた、不自然なリズムを、
ただの偶然として、ないがしろにすることは早計ではないかな? それに」

ドクターが生徒代表の頭に手を置く。

「この子は、素晴らしい洞察力と記憶力を持っている。こと、数値に関しては、
ヤンに敵う者はなかなか居ないと思うよ。学院の間だけではなく、世界を見回してもね」

「ヤン様は、数学の学力検査で、世界トップクラスの成績を修めておいでです」

「マジかよ。お前、スゴイんだな、ヤン」

「えっ? あの、皆、止めて下さい。僕は、数字を見るのが、
好きなだけで……友達にはいつも怒られてばっかりだし……」

なんか、すげー照れてる。

「解りました。ヤン様は我々に、ジブリール様の周辺に注意せよ、と仰りたいのですね?」

クロイツが話を元に戻した。ヤンは、うんうん、と頷く。

「はい。僕の思い過ごしかもしれませんけど、お願いしてもいいですか?
ジブリールに何かあったら、嫌だから」

ぼそっと言われた「嫌だから」という理由を聞いて、俺は俄然やる気が出てきた。

「任せろよ、ヤン。そういうのが俺達の仕事なんだからさ? な、クロイツ?」

「ええ。警備強化に努めましょう。ジブリール様の周囲、及び、祖国の状況を調査し、
結果は解り次第お伝えします。これでいかがでしょうか、ヤン様?」

「はい。ありがとうございます、お願いします」

この島の王様が、臣下である俺達に頭を下げた。
軍人特有の奇妙なまでに折り目正しい礼などではなく、ヤンらしい、もさっとした礼。
それで充分、18歳が18歳なりに、自分の仲間を守ろうとしてるのが伝わった。

「司令、本部に戻ったら、早速ミーティングを」

「だな」

保健室のセンセが、生徒に優しく声を掛ける。

「良かったね、ヤン。彼等ならきっと、ジブリールを守ってくれるよ」

「はい」

何だよ、あのセンセ。たまにはイイこと言えんじゃん。


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