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Marginal Prince Short Story
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■アイヴィー5年前
囚われ人4 続編
起きて、お仕事して、寝て。また起きて、仕事。
島での新生活が始まってから、慌ただしく毎日が過ぎていく。
余計なことを考えずに済むのなら、忙しいほうがまだマシ。

「司令? まだいらしたんですか」

俺が職場で残ってると、クロイツの声がした。

「もう貴方の勤務時間は終了しているでしょう?」

「え? ああ。もうそんな時間か」

椅子から身体を起こす。掛け時計は、もうかなり深夜だと告げていた。

「生徒資料を熱心に読み込んで下さるのは有難いのですが。
そのせいで体調を崩され、業務に支障が出ては、結果的に組織には損害です」

「ハイ……」

「司令は明日、非番でしょう。今日はさっさとお帰りになれば、よろしいじゃないですか」

さっさと、って。クロイツ、俺が居るとジャマなのかな。

「あー、じゃあ、コレさ、うちに持って帰って読んでもイイかな?」

「一般資料であれば構いませんが、貴方が今手にしているのは極秘資料ですので、
司令と言えども、持ち出しは一切禁止です。以前も、そう申し上げた筈ですが」

「……だよ、ね」

追い出されるように職場を出た。夜勤の皆はちょっと笑いながら「お疲れ様です」と言ってくれた。
警備組織は24時間365日動いてる。これからの時間は、夜勤組が監視を続けてくれるのだ。

暗い紺青の海辺。夜中でも波は絶えず揺れている。
俺の職場、警備組織本部は、海に佇む『追憶の塔』の中にある。
建物から駐車場まで行くのに、海岸沿いを少し歩かなきゃならない。夜の海は静かだ。

明日はお休み。仕事のない日って、逆に何していいか解んなかったりする。
休みって言っても、引っ越し道具と一緒に友達連れてきたわけでもないから、
一緒に遊びに行ってくれる奴なんか、当然居ない。
仕事仲間とは、まだプライベートで遊ぶ仲でもないし、第一、皆は明日仕事だ。

「生徒資料があれば、暇潰しになったのにな」

お休み当日。身体は勝手に起きる。少しくらい遅く起きてくれても良かったのに。
身体は、この島での新しい習慣をちゃんと覚えたらしい。
なんとなくラジオ付けてみたりする。なんでか、この島は音楽番組がやたら豊富だ。
唯一の趣味が音楽作りな俺には、ありがたいことだ。
そう言えば、島に来てから一曲も作ってない。引っ越し荷物にも大事に梱包してきた音楽機材。

「今日は、お前さんに付き合って貰おっかな」

お休みの予定が決まったところで、空腹を覚えた。まずは腹ごしらえ。
普段はトーストだとか、シリアルを、かっ込むだけだから、
お休みの日くらい、街のカフェでも行ってブランチってのもたまにはイイかもしれない。
そういや、昼間の街って、あんまり見たことないし。

車を気持ち良く飛ばして、フィンシャルという中心街まで来た。
明るくて健康的な街だ。学院のおかげでそこそこ潤ってるこの島には、スラム街もないらしい。
島民の奥様方は楽しく立ち話なんかしちゃったりして。
なんか、会う人会う人、知り合いみたいに挨拶してて、ド田舎臭が漂ってる。

だから、かな? 島民の皆さんにチラ見されんのは。
「あら、イイ男ね」なーんて、振り向いてくれてんなら嬉しいんだけど。
ヨソモノの顔が珍しいだけなんだろうな、やっぱ。

街灯の下に、なんか、人だかりが出来てる。
誰かを囲んでお喋りしてるみたいだ。

「昨夜の『スタンド・バイ・ミー』は最高だったよ」

「次はどこで歌うんだい?」

なんて話し声が聞こえた。誰か人気者の歌手でも来てんのか?
輪の中心を覗こうとしたら、その人と目が合った。
浅黒くて大柄のお姉さんだった。俺の二倍くらい年上の。

「なんだい、お兄さん? おや、若くてイイ男じゃないか」

「えと、どうも」

ダレなんだろ、このおばちゃん。

「自己紹介しとこうか。この島の歌姫シニョーラ・マルタってのはあたしのことさ。覚えておきな?」

つぶらな黒い瞳。その時は、すごく人懐っこい目に見えた。

「夜は大抵、どこかのバーで歌ってるから、お兄さんも一度、聞き惚れにおいで?」

男勝りに笑いながら去っていく。確かに声量はありそうだけど。
このヒト、自分のこと『姫』って言った?


メシ食って家に戻ってきた。うちのポストを覗いたら、一枚のハガキが入ってた。この住所を知る人間はかなり限られてる。
だから、どうせおシゴト関係のつまんないお手紙だろうと思って手に取った。
表面には俺んちの住所と名前が、随分テキトーに書いてある。

『聖アルフォンソ島 崖っぷちのコテージ アイヴィー様』

それでよくここまで届いたな、コレ。
裏面は真っ白な無地。その上に、いかにもお年寄り独特の文字でこう書いてあった。


 家の住み心地はどうだ。
 ひとつ、言い忘れていたが、家に設置してあるセキュリティは、
 好きにカスタマイズしてくれて構わない。自由に使ってくれ。  ピコ


ピコから手紙が来た。
けど、わざわざハガキに書いて送ってくる意味があるとは思えないメッセージだ。
言われなくても、この家は自由に使ってたし。
「好きに使え」的なニュアンスは家を貰う時にも聞いてた気がする。
なんで、今になって、こんなお手紙、俺に寄越したんだろ?
差出人のとこには、ピコの住所が書かれていなかった。

「にしても、きったない字」

ポストカード入れに差し込んだ。キッチンに向かい、お湯を沸かす。
その間に、茶色い粉が入ってる、大きなボトルの黒い蓋を回す。
インスタントコーヒーを飲みながら、音楽作りとシャレ込む為に。

ザラザラと粉をマグカップに入れながら、俺は口笛を吹いていた。さっきのアレの影響らしい。
独り暮らしの利点は家で熱唱したって誰にも迷惑を掛けないことだ。
ご近所さんも居ない、崖っぷちのコテージなら、尚更。

「ダーリン、ダーリン、スターンド、バイ、ミー」


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