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■アイヴィー5年前
■囚われ人5 続編
俺が警備の仕事を大体把握して、島の地理をそこそこ覚えると、
タクシードライバーとしての仕事も始まることになった。
今日が記念すべき、初めてのタクシーのお兄さん。
海を眺めながら、待ち合わせの正門前へ向かっている途中だ。
送迎用タクシーとして使うことにしたのは、黒塗りの車。30年代のベントレーを改造した物だ。
いかにもイギリスのヴィンテージなツラと、オーナメントの翼が気に入って、コレにした。
警備の手が空いている時、俺達は生徒や学院関係者の送迎を務める。
ピコも俺の送迎をしてくれた。ピコは無愛想でコワそうなかんじが生徒にウケなかったらしく、
警備や学院の人間の送迎に回されていたそうだ。
俺は早く生徒全員の顔を覚えられるように、と副司令官に言われて、当面、生徒担当になった。
ただ、ドライバー全員が、警備組織の人間であることは、生徒代表以外の生徒には伏せられてる。
俺という存在は、警備スタッフではなく、生徒の目には、あくまでタクシーのお兄さんとして映る。
表の顔はタクシードライバー、裏の顔は警備責任者ってことだ。
誰が警備の人間かなんてことは、知られていない方が、こっちも何かと動き易い。
どんな仕事をしているか、表立っては言えず、誰に称賛されるでもなく、
いつ殺されるか解らないのが、警備というお仕事だ。
学院の正門前で車を止める。待ち合わせ場所に相手はまだ来ていない。
車内の時計を見たら、まだ20分も早かった。
車から降りて、ちょっと休憩。車に凭れて、空の色を見る。
今日も聖アルフォンソ島は、イイお天気です。あー、タバコ吸いたい。
今日、俺の初めてのお客さんになるのは、まだ13歳のお坊ちゃん。
そいつの生徒資料は、ちゃんと見てきた。
今年入学したばっかの中等部一年生で、ジョシュア・グラントってヤツ。
なんか、どっかで見た顔だなと思ったら、あのプリンス・エドワードの息子だった。
『世紀の恋』と騒がれた二人が両親だって書いてあるから、資料を二度見しちった。
ジブリールといい、ジョシュアといい、このガッコはガチで王子様がゴロゴロしてやがる。
そういや、今まで、子供相手に仕事したことは殆どない。
俺がこれから相手していくのは、13歳から18歳までの子供。
生徒とタクシーのお兄さんは、どんなかんじで付き合えばいんだろ?
生徒が正門前に来た時は、何て挨拶すればいいのかとか、考えてなかった。
一応、マージナルプリンスの運転手だから「お迎えに上がりました、ジョシュア様。
わたくしが本日運転手を務めますアイヴィーでございます」とか言ったほうがいいんだろうか?
いーや、ムリムリムリ。そんな執事キャラ、他をあたってくれ。
でも、他の皆はどうしてんだろ? お手本になりそうな副司令官の顔が浮かぶ。
あいつなら言いそうだ。てゆうか、絶対言ってる。
生徒代表のことも「ヤン様」って当たり前のように様付けで呼んでたし。
けど、このガッコの存在意義から言って、例えマジで王子様だからって特別扱いする必要はないんだと思う。
外の世界から切り離された場所で、ガキがガキらしく自由に暮らす為のガッコ。
生徒は学年に関係なく、ファーストネームで呼び合うって習慣もある。
だからやっぱり、子供も大人も、王子様も運転手さんも、きっと関係ない。
みんなタダの人間。俺も無理にキャラ作ったりしないで、フツーにしてりゃイイんだと思う。
てゆうか、王子様への接し方とか、実際よく解んないし。やりたくないし。
新しい土地に来ても、俺は、俺でしかない。
「あ、あの……」
ちっこい声がした。背の低いガキが俺を見上げてた。
「あっ。お前さんが、タクシーを呼んでくれたジョシュア、だよな?」
「は、はい。そうです」
声ちっさ。人見知りするタイプの奴なのかも。
タクシーのお兄さんはちょっと腰を屈めてみる。すると、瞳の色がよく見えた。
赤い。
今まで見たことない瞳の色を、生で見て、少しぎょっとしてしまった。
「あ。えっとー、俺が、お前さんを迎えに来た、ドライバーのアイヴィー。今日はよろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
うわ、めちゃ礼儀正しいな、こいつ、ガキのくせに。
細くて小さい肢体に、学校の制服を真面目に身に付けてる。
ガキに燕尾服って、着せられてる感があって、正直あんま似合ってない。
なんか、もうちょいラフな服にしてやればイイのにな、ガッコも。つーか、なんで燕尾服よ。
ジョシュアが「あっ」と小さな声を上げた。
学院のほうから誰か来た。紺色のカーディガンを着た猫背。生徒代表のヤンだ。
ヤンは空を見上げながら、いや、飛んでる蝶を追い駆けているらしい。
このままじゃ、道路に飛び出しちまう。おい、と俺が口を開こうとした時、背の高い生徒が走ってきた。
生徒資料では見た顔だ。けど。あー、名前出てこねえっ。
「バカ! 止まれ、ヤン!」
奴は背後からヤンを抱き留めた。
ガタイが良く、短い金髪の生徒。その腕の中にヤンはすっぽりと収まった。
やっと停止したヤンを見て、金髪が手を離す。ヤンが振り向いた。
「エド? どうし」
金髪がヤンの両肩を掴む。
「急に走り出してんじゃねえよ! こんな時だけ足早いな、お前は!」
「あ、ごめん。珍しいちょうちょ飛んでたから、羽の点々、幾つあるのかなと思っ」
「何でもかんでも数えようとすんな! この数学バカが!
それで車に轢かれたら、いち、にい、ドーンだぞ!
つーか、俺と話してる時に、虫に気ぃ取られてんじゃねえよ、バーカ!」
「ご、ごめん」
子供のケンカ的な場面に遭遇して、俺とジョシュアがポカンとしていると、
そいつらが、やっとコッチの存在に気付いた。ヤンは俺を見て、そっと会釈した。
「あ、ジョシュアじゃねえか、よっ」
金髪の生徒に叫ばれ、ちっこいのが、ちっこい声で挨拶を返す。
「こんにちは、エドガー」
あ、そうそう。あいつの名前はエドガー・ラッセルだ。ウーティス寮の高等部三年。
じゃあ、エドガーとヤンは同い年になる。今の見てると、仲も良さそうだ。
友達と話してる生徒代表の姿は、今初めて見た気がする。
そういや本人も「友達には怒られてばっかり」って言ってたけど。なんつーか、尻に敷かれてる?
エドガーはジョシュアに向かって、兄貴風を吹かせていた。
「ジョシュア、これから出かけんだ? 俺達もなんだよ。あ、そうだ、外出届書いたか?」
「はい。書きました。この前、エドガーに教えて貰った通りに」
「よーしよし。真面目だなー、お前は」
先輩は後輩の頭を撫でた。18歳と13歳が並ぶと、背丈も顔付きも大分違うもんだ。
エドガーは制服のリボンタイを付けず、首許は大きく開けている。
ブレザーのボタンも開け放し、中のベストを着ていないのが丸解りだ。
これ以上ない程正しく制服を着ている一年生と比べると、
だらだらに着崩している最高学年達のほうが、制服を着こなしているように見えた。
エドガーがジョシュアを構ってる間に、ヤンが俺の隣に来ていた。
友人達に視線を向けたまま、俺の腰んとこをちょっと掴んで、呟いた。
「あの件、どうかな?」
ジブリールのことだろう。俺も前を向いたまま答える。
「ワリィ。まだ調査中」
「ん。ありがと」
ワイシャツから手が離れる。
エドガーとジョシュアは、俺達の短い会話に気付いた様子なく、話を続けてる。
「でー、ジョシュアは、どこ行くんだ?」
「えっと、ちょっと街のほうを見てみたくて……」
消えていく語尾をヤンがさり気なく補う。
「お散歩?」
「ええ。あの、夕食までには、ちゃんと戻りますから」
ジョシュアは、自信なさそうに、俯きながら、必死に返事してた。
さっきからずっと肩に力が入ってるみたいだし、先輩と話すのイヤなんだろうか?
なんだか、一刻も早くこの場から離れたいってかんじだ。
エドガーは突然、指を鳴らして、ヤンを振り向いた。
「なあ、この車に俺達も乗せて貰わねえ? イイだろ、ジョシュア?」
俺は赤い瞳を覗く。一瞬だったが、ジョシュアは困っていた。どうやら先輩の意見を歓迎していないようだ。
それにヤンも気付いたのか、友人にこう言った。
「だめだよ、エド。それじゃあ、僕達を迎えに来てくれる運転手さんはどうするの?」
「ああ、そっか」
ヤンはジョシュアに向き直る。
「帰ってくる時間は少しくらい遅くなっても大丈夫だよ、ジョシュア。
ただ、外泊する時だけは学院に教えてね? アイヴィーに――その運転手さんに言えば、学院に電話してくれるから」
ね、と振られて、俺は「ああ」と答えた。金髪の生徒が俺を見る。
「あんた、アイヴィーって言うんだ? てかヤン、よく知ってたな?」
「あ、うん。僕は彼の車に乗せて貰ったことあるから」
「ふうん。俺は初めて見る顔だな。新しく入ったドライバーじゃねえの?」
「ああ。新人ドライバーのアイヴィー。よろしくな」
「俺はエドガー・ラッセル。ジョシュアと同じ寮の高三、よろしく」
大人と同じくらいの大きな手を差し出された。
握手を求められてるのか、と気付いて、一瞬遅れて生徒の手を握った。
「へえ。良い手してんじゃん。今度はあんたの車を呼ぶよ、アイヴィー。じゃあ、うちの新入りをよろしく頼むぜ」
エドガーがジョシュアの背中を叩く。
後輩は驚いたみたいで、肩がビクってなってた。ヤンはジョシュアに向かって、
「ここは小さい島だけど、良いところはいっぱいあるから、いろいろ見ておいで」
二人の先輩に見送られて、奴等の大事な後輩を車に乗せた。
俺はシートベルトを締めながら、ルームミラーを見上げる。
「街のほうに行けば良いんだよな? んと、どこら辺?」
「あ、ごめんなさい。詳しくは、よく、解らないんですけど……」
申し訳なさそうに語尾が消えていく。
「オッケ。お任せコースね」
サイドブレーキを下ろし、アクセルを踏み出した。
この島は少し車を走らせると、海が見えてくる。学院周辺の道路は車の通りも少なく、走るには快適だ。
目に入った時計は、まだ待ち合わせの10分前だった。
ルームミラーを覗く。鏡の中の少年は、窓の外を眺めてた。
真っ白な、幼い横顔。
先輩達と離れてほっとしているようにも、一人で淋しそうにも見えた。
→
■囚われ人5 続編
俺が警備の仕事を大体把握して、島の地理をそこそこ覚えると、
タクシードライバーとしての仕事も始まることになった。
今日が記念すべき、初めてのタクシーのお兄さん。
海を眺めながら、待ち合わせの正門前へ向かっている途中だ。
送迎用タクシーとして使うことにしたのは、黒塗りの車。30年代のベントレーを改造した物だ。
いかにもイギリスのヴィンテージなツラと、オーナメントの翼が気に入って、コレにした。
警備の手が空いている時、俺達は生徒や学院関係者の送迎を務める。
ピコも俺の送迎をしてくれた。ピコは無愛想でコワそうなかんじが生徒にウケなかったらしく、
警備や学院の人間の送迎に回されていたそうだ。
俺は早く生徒全員の顔を覚えられるように、と副司令官に言われて、当面、生徒担当になった。
ただ、ドライバー全員が、警備組織の人間であることは、生徒代表以外の生徒には伏せられてる。
俺という存在は、警備スタッフではなく、生徒の目には、あくまでタクシーのお兄さんとして映る。
表の顔はタクシードライバー、裏の顔は警備責任者ってことだ。
誰が警備の人間かなんてことは、知られていない方が、こっちも何かと動き易い。
どんな仕事をしているか、表立っては言えず、誰に称賛されるでもなく、
いつ殺されるか解らないのが、警備というお仕事だ。
学院の正門前で車を止める。待ち合わせ場所に相手はまだ来ていない。
車内の時計を見たら、まだ20分も早かった。
車から降りて、ちょっと休憩。車に凭れて、空の色を見る。
今日も聖アルフォンソ島は、イイお天気です。あー、タバコ吸いたい。
今日、俺の初めてのお客さんになるのは、まだ13歳のお坊ちゃん。
そいつの生徒資料は、ちゃんと見てきた。
今年入学したばっかの中等部一年生で、ジョシュア・グラントってヤツ。
なんか、どっかで見た顔だなと思ったら、あのプリンス・エドワードの息子だった。
『世紀の恋』と騒がれた二人が両親だって書いてあるから、資料を二度見しちった。
ジブリールといい、ジョシュアといい、このガッコはガチで王子様がゴロゴロしてやがる。
そういや、今まで、子供相手に仕事したことは殆どない。
俺がこれから相手していくのは、13歳から18歳までの子供。
生徒とタクシーのお兄さんは、どんなかんじで付き合えばいんだろ?
生徒が正門前に来た時は、何て挨拶すればいいのかとか、考えてなかった。
一応、マージナルプリンスの運転手だから「お迎えに上がりました、ジョシュア様。
わたくしが本日運転手を務めますアイヴィーでございます」とか言ったほうがいいんだろうか?
いーや、ムリムリムリ。そんな執事キャラ、他をあたってくれ。
でも、他の皆はどうしてんだろ? お手本になりそうな副司令官の顔が浮かぶ。
あいつなら言いそうだ。てゆうか、絶対言ってる。
生徒代表のことも「ヤン様」って当たり前のように様付けで呼んでたし。
けど、このガッコの存在意義から言って、例えマジで王子様だからって特別扱いする必要はないんだと思う。
外の世界から切り離された場所で、ガキがガキらしく自由に暮らす為のガッコ。
生徒は学年に関係なく、ファーストネームで呼び合うって習慣もある。
だからやっぱり、子供も大人も、王子様も運転手さんも、きっと関係ない。
みんなタダの人間。俺も無理にキャラ作ったりしないで、フツーにしてりゃイイんだと思う。
てゆうか、王子様への接し方とか、実際よく解んないし。やりたくないし。
新しい土地に来ても、俺は、俺でしかない。
「あ、あの……」
ちっこい声がした。背の低いガキが俺を見上げてた。
「あっ。お前さんが、タクシーを呼んでくれたジョシュア、だよな?」
「は、はい。そうです」
声ちっさ。人見知りするタイプの奴なのかも。
タクシーのお兄さんはちょっと腰を屈めてみる。すると、瞳の色がよく見えた。
赤い。
今まで見たことない瞳の色を、生で見て、少しぎょっとしてしまった。
「あ。えっとー、俺が、お前さんを迎えに来た、ドライバーのアイヴィー。今日はよろしくな」
「はい。よろしくお願いします」
うわ、めちゃ礼儀正しいな、こいつ、ガキのくせに。
細くて小さい肢体に、学校の制服を真面目に身に付けてる。
ガキに燕尾服って、着せられてる感があって、正直あんま似合ってない。
なんか、もうちょいラフな服にしてやればイイのにな、ガッコも。つーか、なんで燕尾服よ。
ジョシュアが「あっ」と小さな声を上げた。
学院のほうから誰か来た。紺色のカーディガンを着た猫背。生徒代表のヤンだ。
ヤンは空を見上げながら、いや、飛んでる蝶を追い駆けているらしい。
このままじゃ、道路に飛び出しちまう。おい、と俺が口を開こうとした時、背の高い生徒が走ってきた。
生徒資料では見た顔だ。けど。あー、名前出てこねえっ。
「バカ! 止まれ、ヤン!」
奴は背後からヤンを抱き留めた。
ガタイが良く、短い金髪の生徒。その腕の中にヤンはすっぽりと収まった。
やっと停止したヤンを見て、金髪が手を離す。ヤンが振り向いた。
「エド? どうし」
金髪がヤンの両肩を掴む。
「急に走り出してんじゃねえよ! こんな時だけ足早いな、お前は!」
「あ、ごめん。珍しいちょうちょ飛んでたから、羽の点々、幾つあるのかなと思っ」
「何でもかんでも数えようとすんな! この数学バカが!
それで車に轢かれたら、いち、にい、ドーンだぞ!
つーか、俺と話してる時に、虫に気ぃ取られてんじゃねえよ、バーカ!」
「ご、ごめん」
子供のケンカ的な場面に遭遇して、俺とジョシュアがポカンとしていると、
そいつらが、やっとコッチの存在に気付いた。ヤンは俺を見て、そっと会釈した。
「あ、ジョシュアじゃねえか、よっ」
金髪の生徒に叫ばれ、ちっこいのが、ちっこい声で挨拶を返す。
「こんにちは、エドガー」
あ、そうそう。あいつの名前はエドガー・ラッセルだ。ウーティス寮の高等部三年。
じゃあ、エドガーとヤンは同い年になる。今の見てると、仲も良さそうだ。
友達と話してる生徒代表の姿は、今初めて見た気がする。
そういや本人も「友達には怒られてばっかり」って言ってたけど。なんつーか、尻に敷かれてる?
エドガーはジョシュアに向かって、兄貴風を吹かせていた。
「ジョシュア、これから出かけんだ? 俺達もなんだよ。あ、そうだ、外出届書いたか?」
「はい。書きました。この前、エドガーに教えて貰った通りに」
「よーしよし。真面目だなー、お前は」
先輩は後輩の頭を撫でた。18歳と13歳が並ぶと、背丈も顔付きも大分違うもんだ。
エドガーは制服のリボンタイを付けず、首許は大きく開けている。
ブレザーのボタンも開け放し、中のベストを着ていないのが丸解りだ。
これ以上ない程正しく制服を着ている一年生と比べると、
だらだらに着崩している最高学年達のほうが、制服を着こなしているように見えた。
エドガーがジョシュアを構ってる間に、ヤンが俺の隣に来ていた。
友人達に視線を向けたまま、俺の腰んとこをちょっと掴んで、呟いた。
「あの件、どうかな?」
ジブリールのことだろう。俺も前を向いたまま答える。
「ワリィ。まだ調査中」
「ん。ありがと」
ワイシャツから手が離れる。
エドガーとジョシュアは、俺達の短い会話に気付いた様子なく、話を続けてる。
「でー、ジョシュアは、どこ行くんだ?」
「えっと、ちょっと街のほうを見てみたくて……」
消えていく語尾をヤンがさり気なく補う。
「お散歩?」
「ええ。あの、夕食までには、ちゃんと戻りますから」
ジョシュアは、自信なさそうに、俯きながら、必死に返事してた。
さっきからずっと肩に力が入ってるみたいだし、先輩と話すのイヤなんだろうか?
なんだか、一刻も早くこの場から離れたいってかんじだ。
エドガーは突然、指を鳴らして、ヤンを振り向いた。
「なあ、この車に俺達も乗せて貰わねえ? イイだろ、ジョシュア?」
俺は赤い瞳を覗く。一瞬だったが、ジョシュアは困っていた。どうやら先輩の意見を歓迎していないようだ。
それにヤンも気付いたのか、友人にこう言った。
「だめだよ、エド。それじゃあ、僕達を迎えに来てくれる運転手さんはどうするの?」
「ああ、そっか」
ヤンはジョシュアに向き直る。
「帰ってくる時間は少しくらい遅くなっても大丈夫だよ、ジョシュア。
ただ、外泊する時だけは学院に教えてね? アイヴィーに――その運転手さんに言えば、学院に電話してくれるから」
ね、と振られて、俺は「ああ」と答えた。金髪の生徒が俺を見る。
「あんた、アイヴィーって言うんだ? てかヤン、よく知ってたな?」
「あ、うん。僕は彼の車に乗せて貰ったことあるから」
「ふうん。俺は初めて見る顔だな。新しく入ったドライバーじゃねえの?」
「ああ。新人ドライバーのアイヴィー。よろしくな」
「俺はエドガー・ラッセル。ジョシュアと同じ寮の高三、よろしく」
大人と同じくらいの大きな手を差し出された。
握手を求められてるのか、と気付いて、一瞬遅れて生徒の手を握った。
「へえ。良い手してんじゃん。今度はあんたの車を呼ぶよ、アイヴィー。じゃあ、うちの新入りをよろしく頼むぜ」
エドガーがジョシュアの背中を叩く。
後輩は驚いたみたいで、肩がビクってなってた。ヤンはジョシュアに向かって、
「ここは小さい島だけど、良いところはいっぱいあるから、いろいろ見ておいで」
二人の先輩に見送られて、奴等の大事な後輩を車に乗せた。
俺はシートベルトを締めながら、ルームミラーを見上げる。
「街のほうに行けば良いんだよな? んと、どこら辺?」
「あ、ごめんなさい。詳しくは、よく、解らないんですけど……」
申し訳なさそうに語尾が消えていく。
「オッケ。お任せコースね」
サイドブレーキを下ろし、アクセルを踏み出した。
この島は少し車を走らせると、海が見えてくる。学院周辺の道路は車の通りも少なく、走るには快適だ。
目に入った時計は、まだ待ち合わせの10分前だった。
ルームミラーを覗く。鏡の中の少年は、窓の外を眺めてた。
真っ白な、幼い横顔。
先輩達と離れてほっとしているようにも、一人で淋しそうにも見えた。
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