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Marginal Prince Short Story
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■アイヴィー5年前
囚われ人7 続編
警備の人間は、必ずしも良いモンに味方するとは限らない。
守るものは、『依頼者が誰か』による。
警備ってのは結局、誰と契約を結んだか、どこに所属してるのか、で変わってくる。

例えば、国と国がケンカしてる時。
どっちの軍服を着ているかによって、俺の任務は変わる。
俺は味方国を守る為に、敵国を攻撃しなきゃならない。

例え、味方国のせいで、敵国が甚大な被害を被っていても。
例え、味方国が敵国に対して、どんなに極悪非道な振る舞いをしていても。

そこに正義や悪なんて観点は存在しない。
どんな矛盾を感じても、ただ、依頼者の味方をするだけだ。
俺達は、正義の名の下に動いてるわけじゃない。
俺は、正義のヒーローなんかじゃない。

こんな、軍に入ったばっかの新人みたいな感情が、未だにふっと湧く時がある。
それは大抵、昔の夢を見たせい。
『地獄』の日を境に、何度も何度も見る、真っ赤な夢。
昨日見ちった。この島に来てからは初めて。マイクの話を聞いたせいかもしれない。

あれから、ジェフの店には行っていない。あいつはまだ知らされていないから。
マイクがこの島に、ジェフに、会いに来ることはないことを。
偶然とは言え、事実を知った俺は、それをジェフに教えてやるべきなんだろうか。

組織に残っていた記録によると、マイクが殉職したのは、やっぱり、侵入者との戦闘中だった。
場所は北東部の海岸。でも、マイクの犠牲によって、島の内部への侵入を阻止できたって書いてあった。
当時の司令官は、俺の前任者、ジークフリート・フォン・ゲーテ。
彼は、クロイツに一度だけ、こう零したことがあるそうだ。
「マイクを死なせたことが悔やみ切れない」と。

かなりの強敵が相手だったらしく、マイク本人は、ジェフには二度と会えないかもしれないのを解った上で、
「また会いに来る」と言い残した気がしてならない。
それでも、ジェフには言わなきゃいけないんだろうか。
マイクの遺志を、俺なんかが覆して良いんだろうか。

「司令、司令。何度呼べば聞こえるのですか?」

俺は監視室でぼうっとしていたようだ。副司令官の冷たい眼差しに当てられる。

「え、何? クロイツ」

「司令。今朝から気になっていたのですが、今日は顔色が優れませんね」

「ああ、平気ヘーキ」

「そうですか? では生徒代表室へ向かいましょう。ミーティングの時間です」


生徒代表室に入るのは、もう初めてじゃないけど、相変わらずの異空間だ。
壁一面に歴代の生徒代表だとかいう肖像画が並んでる。
この異様な部屋について「最初はビックリしたけど、慣れたら壁の模様みたいなものですから」
なんて言った、当代の生徒代表が、まだ来ない。

「ヤン様、お見えになりませんね。会議開始時刻は過ぎているのに、何かあったのでしょうか?」

「友達に捕まってお喋りでもしているんだろう。気にすることはないよ、クロイツ」

「意外と、楽天的なことを仰るんですね、ドクター。もっと慎重な方かとお見受けしましたが」

「君達、警備の目から見ると、他の人間は危機意識を欠いているように見えるのかもしれないね。
そうだ、クロイツ。時間があればそのうちに、保健室へ来てくれないかな?」

「保健室へ? 何故でしょうか?」

「君はこのところ、以前より疲れが溜まっているように見える。だから一度、カウンセリングの機会を」

「生憎ですが、予定が詰まっておりますので」

「無理にとは言わないよ。ただ、身体を壊してからでは遅いからね。
心身の不調を感じたら、遠慮なく、私のところに来なさい?」

「ご親切に、ありがとうございます、ドクター」

この二人、ピリピリしてんなー、相変わらず。
つーか、苛々してんのはクロイツだけで、ドクターのほうは楽しそうでコワイ。
なんでクロイツに、つっかかってくるんだろ。


「遅くなってごめんなさい」

生徒代表は老紳士を連れてやってきた。あまーい香りと一緒に。

「手伝ってくれて、ありがとう、バトラー」

「いえ。では私はこれで失礼致します」

老紳士は優雅に礼をして退室した。
テーブルに乗せられたのは、人数分のマグカップ。

「ヤン様? それは…」

「あれ? ラインハルトさんも知りませんか? これは『天使も惑う悪魔の誘惑』です」

「なんだそれ?」

「アイヴィーさんはやっぱり初めて見るよね。ホットチョコレートのこと、
この島では『天使も惑う悪魔の誘惑』って呼ぶんです」

どんなセンスしてんだ、それ考えた奴。悪魔ドリンクなのか、これは。

「今日はこれ飲みながら会議しようかなーと思って」

「どうしてですか、ヤン様?」

「僕、好きなんです、これ」

場が静まる。

「あっ、ダメでしたか? 会議中に飲み物飲んじゃ……あの、ダメなら、片付けます、ごめんなさい」

「いいえ、ヤン様。そのような決まりは無い、筈です。生徒代表がお望みなら、私共は構いません」

「そうだね。良いよ、ヤン。たまにはホットチョコレートを飲みながら会議をしてみよう。
固定観念に囚われない自由な発想だ。全く、君の頭脳には驚かされてばかりだよ」

なんで、そんなにウケてんの、あのドクター。今の爆笑ポイント?

「ヤン様は、これをご用意していたから、遅くなったのですね。何かあったのかと心配してしまいました」

「あ、いえ。遅くなっちゃったのは、さっき、テオに捕まっちゃって。
宿題で解んないとこあるから教えてって言われて、今はダメだから夜にねって約束してきたんです」

クロイツはドクターを見る。予想が当たったドクターは一人でちょっと笑ってた。

「じゃ、皆さんも飲んで下さいね、甘くて美味しいですから」

ヤンは猫背をもっと丸めて飲み始めた。
生徒代表に勧められた大人達もホットチョコレートに口付ける。
甘っ。ちょ、コレ、あまっ。
あったかいせいで、とんでもなく甘くなっちゃってる。こんなん久し振りに飲んだ。

てゆうか、チョコの香りに包まれた会議って、気が抜けるんですけど。ドコ行った、緊張感。
悪魔ドリンクを飲んだクロイツはちょっとむせてた。甘いの、苦手なのかもしれない。
ドクターはどうかなと思って、盗み見ると、割と美味しそうに飲んでた。

「じゃ、会議、始めたいと思いまーす」

少し間延びした生徒代表の声で、ミーティングが始まった。
なんだか、ガッコのホームルームが始まるみたいだ。
でも、ホットチョコレートのおかげか、クロイツとドクターの険悪な雰囲気はいつのまにかなくなっていた。
生徒代表は今日のレジュメを読み上げた。

「今日は文化祭について、ですね」

俺にとっちゃ、初めてのお祭りが近付いてきた。
引き継ぎの時にも言われたが、このお祭りが警備にとっちゃ一番の『稼ぎ時』だそうだ。
もちろん、たくさん捕まえたら、ボーナスが出たりすることはないんだけど。

聖アルフォンソ祭は、学院が主催するお祭りだが、
島民だけでなく、卒業生や、島の外からのゲストも集まる一大イベント。
お祭り騒ぎに乗じて、王子達を狙う外敵も、たっぷりやって来ちゃうってわけだ。
前の司令官も言ってた。「この日だけは気を抜くな」って。

「僕達生徒のほうでは、毎日、文化祭の準備をしています。
仮装行列の衣装を考えたり、劇をする子達も楽しそうに練習してて。
みんな、今年もお祭りを楽しみにしてるんで、色々よろしくお願いします。
あと、えっと、当日のイベントや、会場とかは、
この前メールでお知らせした通りで、変更はないです」

「畏まりました。ヤン様、警備側から最初に一点、お知らせがございます」

「何ですか?」

「ジブリール様の件について、詳細な報告が届きました。
結論から申し上げますと、ヤン様のご心配が的中する内容です」

クロイツは咳払いして、調査報告書を読み上げた。

「近頃、ジブリール様の兄上と父上、つまり第一王子と国王が頻繁に接触していることが解りました」

「ジブリールのお兄さんとお父さん、仲良しなんですか?」

生徒代表の言葉に、クロイツは首を横に振る。

「いえ。第一王子と王の変貌振りを、関係者は不思議がっています。
王家のご子息は三人。誰に王位を継がせるか、まだ正式に決定していないのです。
その為、ご兄弟の内外で、様々な思惑が錯綜し、王家の仲は元々険悪でした。
加えて、父上は文化祭の日に島へやってくるようです」

「となると、ヤンのお手柄だね」

メモを取り終わったドクターが言う。

「ジブリールの様子が可笑しかった、とヤンが気付いた頃。
父上達からジブリールに連絡があったかもしれないね、文化祭の日に会いに行くと」


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