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Marginal Prince Short Story
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■アイヴィー5年前
囚われ人8 続編
追憶の塔の1階は、その昔、天然の水牢として機能していた。
潮の満ち引きを利用して、生きたまま、囚人を海水に浸けたという。
冷たい海水は、体温を奪いながら、呼吸困難に陥れる。罪を吐かせる為、もしくは。

もちろん、今は使われていない。グロテスクで非効率的な手段だからだろう。
2階には室内射撃場がある。隊員の特殊訓練用であり、ここで実弾を人に当てることはないが、
かつてはここも処刑場だった、とか、ジョークとは言い切れない噂もある。

警備の人間には各自のレベルに見合った特殊訓練が義務付けられている。
司令官も定期的に品質のチェックを受ける。
合格ラインに満たなければ降格。最悪の場合、この島から放り出される。
俺は今日、訓練日でもないのに室内射撃場に来ていた。自主練という名目で。

照準を合わせ、引き金を引く。乾いた音。
その時、俺の頭の中には何もない。身体が勝手に動いてくれる。
目は自動的にターゲットを狙い、人差し指は機械のように曲がる。破裂音と共に人型の的に穴が空く。

「全弾、心臓に命中ですか。流石ですね、司令」

「クロイツか……こんなこと、褒められてもな」

一度身に付いたテクニックは、例えブランクがあっても、そう簡単に消えてくれない。
この腕は、何より、人の命を奪うことに長けている。

「有用な特技ですよ、この組織に居る限りは」

クロイツは、俺の手から銃をそっと取る。

「辺境の王子達を守れます」

背を向けたまま、静かに言った。

「司令のスケジュールが変わりましたので、お知らせに参りました」

「何?」

「すぐに学院へ向かう準備をして下さい。ドライバーの予約が入りました」


今日、俺を呼んでくれたお客さんは、この前の坊ちゃん。
ジョシュア・グラント、中等部一年、ウーティス寮。おし、もう覚えた。
どうやら、俺を指名してくれたらしい。何がお気に召されたのか解んないけど。

待ち合わせの正門前に行くと、もう待ってた。この前も早かったな、そう言えば。
ジョシュアに呼ばれる時は、今度から早めに来よっと。
俯いて待ってたジョシュアは、俺の車を見ると、ほっとしたような顔になった。

「よっ、ジョシュア。今日は俺を指名で呼んでくれたんだって?」

「はい。あ、もしかして、ご迷惑でしたか?」

「まーさか。ご指名頂き、ありがとさん」

頭をぽんっと撫でてやる。

「さ、乗りな?」

ジョシュアは、俺が触ったトコを自分で触れながら、「はい」と答えた。


今日の行き先は『新市街のほう』だった。
ハンドルを握りながら、テキトーに話を振ってみた。

「もうすぐ文化祭なんだってな?」

「あ、はい。そうですね」

「仮装行列とかもあるんだろ? お前さんは何の仮装するの?」

「いえ、僕は参加しないので……」

「え? あ、全員参加じゃないんだ?」

「はい。自由参加です」

「じゃあ、仮装行列の間は何してんの?」

「休講日なので、部屋で本を読んでいると思います」

「そ、そっか」

なんか俺、聞いちゃいけないこと聞いたかな?
みんながお祭り騒ぎしてる間も一人なのか、こいつは。
でも、一匹狼ってかんじじゃねえんだけどなあ。

新市街の真ん中ら辺でジョシュアを落とした。
二時間後に同じ場所で待ち合わせて、学院に連れて帰る約束をした。
あと二時間、どうやって過ごそうか。本部に戻って雑事をしてもいんだけど、
街のパトロールと称して、のんびりすることにした。
サボれる時はちゃんとサボる。コレ、俺のモットー。

「応答願います」

車内の無線機が喋り出した。クロイツの声だ。

「今、新市街ですね? ジョシュア様の送迎は終了していますよね?」

「あ、あー、うん……」

学院所属のタクシーは全てGPS搭載車両。
どの車がどこでサボってるのかバレバレなんだった。

「でもさ、二時間後にまた迎えに来てくれってジョシュアに言われてっから」

「二時間もあれば十分です」

「チンタラしてないで、早く戻って来いってことね、ゴメンゴメン」

「いいえ。次は旧市街に向かって下さい。今、学院まで送って欲しいと連絡がありました」


旧市街は、どちらかと言えば夜の街だ。
こんな放課後の時間じゃ、飲食店にはまだ明かりが点いていない。
人通りの少ない広場で、ジブリールは待っていた。
近くに公衆電話がある。あそこから学院に電話したのかもしれない。

これがウワサのジブリール・アブル・アルファマード。実際に会うのは初めてだ。
高等部二年、アルファルド寮。産油国の第三王子。
車から降りた俺は、すぐに砂漠の王子様に見付かった。
一瞬、ガンを飛ばされてるのかと思ったくらい、目付きが悪い。変声期がとうに終わっている声で言った。

「学院のドライバーか? 名前は?」

「アイヴィー。お前さんがジブリールだな?」

「ああ。学院まで頼む」

送迎の予約時には、ドライバーに生徒の名前が知らされるように、生徒にも、ドライバーの名前が知らされる。
「アイヴィーという者がお迎えに参ります」と教えておくのだ。
間違いなく学院専属のドライバーであるか確認する為だ。
双方の名前の確認は、通常、ドライバーが行うものだが、ジブリールは自分から俺の名前を確認してきた。
俺は運転しながら、後部座席に話し掛けてみた。

「もうすぐ文化祭なんだよな、ガッコ。お前さんは参加すんの? 仮装行列」

「……ああ」

「へー。じゃあ、親御さんとかも見に来んのー?」

「よく喋るドライバーだな」

「あ、そう? 俺、まだ入ったばっかだから、その辺よく解んないんだよねー」

「では静かにしていてくれ、学院に着くまでだ」

それ、一言も喋れねーじゃん。
けど、今のかんじでは、親御さんからの連絡は来てるっぽいな。


一日のお勤めが終わり、家に帰ると、またハガキが届いていた。ピコからだ。
今度は土産屋の端っこで売ってそうな、風景写真のポストカードだった。
裏面は、海に面した土地に白い石が立ち並んでる写真。
右上にはカルタゴと書いてある。ググってみたらカルタゴ遺跡のことらしいと解った。


 北アフリカはチュニジア共和国に来ている。
 警備なんてやってると、ゆっくり旅もできないだろう?
 これから暫く、世界を放浪することにした。
 チュニジア、ガルマタにて  ピコ


宛先の下に書かれた数行のメッセージは、嫌味なまでの、旅の土産話だった。
差出人のところには『チュニジア、ガルマタにて』ってかんじで、旅先の国の名と、街の名が書いてあるだけ。
やっぱりピコの住所がないので、返事が書きたくても、こっちからは一言も送れやしない。

そうして、俺の元にピコからポストカードが届くようになった。
全くの不定期に、ただ一方的に送り付けられるハガキ。
それでも、ピコがどこかで元気にしてると知れて、悪い気はしなかった。


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