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Marginal Prince Short Story
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■レッド×ユウタ
■ほのぼの。
--------------------
「ユウタ! 起きろよ、ユウタ!」

朝も明けないうちから、レッドに叩き起こされた。
布団の中に居るユウタは、薄く目を開ける。
制服姿のレッドが、ぼんやり見える。

「…まだ、ねむいよお…れっど…」

「時間が無いんだよ、遅れちまう!」

「いま…なんじなの…」

「4時!」

「…おやすみ」

「って寝るなあー!」

ユウタの寝顔を見ながら、レッドは腕を組む。
確かに4時は起きるには早い。
けど、今起きて貰わないと間に合わない。

レッドは右手をユウタの枕元に置く。
彼のすぐ傍まで顔を近付ける。
少し息を吸って、持てる限りの低音を使う。

「…ユウタ?」

「んん…」

「起きないなら、ほっぺにキスするぜ?」

「き…」

ユウタの目がパチッと開く。
レッドの笑顔が目の前にあった。

「なあーんだ。起きちまったか。もう少し寝てても良かったのに」

「お、お、起きろって言ったのレッドでしょ!?」

「何、慌ててんだよ。俺の映画のセリフ、忘れちまったのか?」

「え?」

そんなセリフあったっけ? とユウタは思う。
レッドは天才子役と謳われた、アルフレッド・ヴィスコンティだ。
ユウタはずっとファンで、彼の作品は全部見ている。
その筈なのに、レッドが今言ったセリフが何の作品か解らない。

「さあっ、行くぞ、ユウタ!」

手首を掴まれて、無理矢理ベッドから起こされる。

「な、何なに!? 俺、パジャマだよっ?」

「イイから、付いて来いっ!」

「ドコ行くの?」

「行けば解るっ!」

腕を引かれるまま、転がるように外に出る。
寮の前には、レッドのバイクが止まっていた。
カラーは赤。
愛車はよく手入れされているらしく、きらりと輝いている。

「あ。レッドの『カラス号』だ」

「俺のバイクに、ヘンな名前を付けるなっ!」

風が吹いた。
もう春に近いが、この時間ではまだ寒い。
ユウタは自分の腕を抱いていた。

レッドはパジャマ姿で連れて来たことを後悔した。
これからバイクに乗るのに、こんな薄着では寒いに決まっている。
しかし、着替えさせる時間は無い。

レッドは自分のブレザーをパジャマに掛ける。
背中が温かくなったユウタは、ワイシャツ姿の彼を見上げる。

「レッドは寒くないの?」

「寒くねーよ」

「…ありがと」

ブレザーに腕を通す。
明らかにサイズが合ってない。
丈が腰より長い。
腕は手が出ない。

ぶかぶかな様子を見てレッドが腹を抱えて笑う。

「お前、小さいんだなっ、かーわいい♪」

「…う、うるさいなっ! 俺はこれから大きくなんのっ!」

「へえー? そりゃあ楽しみだっ」

レッドがヘルメットを、ユウタに投げる。
とりあえず受け止める。
寝起きで頭が回っていないユウタは、
(ヘルメットって、結構重いんだなあ)と思った。
レッドは既にメットを付け、エンジンを吹かしている。

「ユウタ! ぼけっとしてないで、乗れっ!」

「う、うん」

もたもたとメットを被る。
重みで頭がぐらっと後ろに動く。
後部座席に跨る。
手は、どうしたら良いんだろう。
恐る恐るレッドの腰に回してみると、
ぐい、と引っ張られた。

「しっかり捕まらねーと、振り落とされるぜ?」

「え」

「もっと、俺の背中に抱き着けって。その方が俺もあったかいし」

「こ、こう?」

「そう。んじゃ、行くぜ!」


ユウタはメット越しに景色を見ていた。

物凄いスピードで景色が流れていく。

車に乗っている時とは全然違う。

風の中に自分が居る。

ユウタが着ているブレザーが裾がバタバタと、はためいている。

それに負けないくらい自分の心臓もバタバタ鳴ってる。


…レッドに聞こえてないかな?




「着いたぜ! ギリ、間に合ったな」

バイクを降りて、ヘルメットを取る。
目の前には、絶景が広がっていた。

「レッドが見せたかったのって…」

「キレイだろっ!」

レッドの笑顔が輝く。

「ココがアルフォンソ島で、朝陽が1番キレイに見える場所なんだっ!」

「うん。スゴイ…」

「だろだろっ!」

「こんなの見たことないよ、俺…」

「泣くよなあ、やっぱ」

「えっ…」

ユウタの目には涙が溜まっていた。
不思議だな。
悲しいのとも嬉しいのとも違う。
驚いた時も涙が出るんだ。

泣いてるのに、嫌じゃない。
なんだか気持ちがすっきりして、
涙と一緒に色んな物が流れていくみたいだった。

レッドは朝陽を見つめたまま、懐かしそうに話し出す。

「俺も初めて見た時は、泣いちまった」

「レッドも…?」

「ああ。なんかよくわかんねーけど、すげー泣けてきて。
涙が乾くまで、ココに居たから寮に戻んの遅くなってさ。
急に俺が居なくなったって、一騒ぎ起きてたよ」

「その時、みんなには言わなかったの? 『朝陽を見て泣いてました』って」

「誰が言うかっ!?」

「だって、今、俺に言ってんじゃん」

「今、初めて言ってんだよ!」

「え…」

「あん時のことは誰にも話してない。話したのはユウタだけだ」

「なんで、俺に…」

「きっとユウタも泣くと思った。だから、お前を連れて来たかったんだ」

「なっ、なんだよ、それ…俺のこと、泣かせたいみたいじゃん」

「そ。泣かせたかった♪」

「イミわかんない…」

「しっかし、ユウタも結構泣くんだな? どうする? 今、寮に戻れるか?」

「…もう少しココに居る」

「あーあ。また寮で一騒ぎ起きるぜ?
しかも今度は二人も居ないんだから、誘拐騒ぎになってるかも」

「レッドのせいでしょ…。あ…」

「どうした? ユウタ」

「スケッチブックと絵の具、持って来れば良かったなって思って」

「ユウタ、描きたいのか? 朝陽を」

「うん。俺、どっちかって言うと描くより見るのが好きで、
あんまり自分で描きたいって思ったことないんだけど、
今見た朝陽は、描いてみたいと思ったよ。でも…俺じゃムリかな」

「俺、見たい!」

「えっ」

「できたら俺に一番に見せろ!」

「…うん。じゃあ、描いてみよっかな」

「楽しみだぜ! じゃ、またココに連れてきてやるっ!」

「ほんと?」

「ああ。但し、条件がある!」

「条件?」

「描いて良いのは朝陽だけだ。場所が特定できるような風景は無しな」

「…なんで?」

「この場所は誰にも知られたくない。ココは、俺とお前の場所だ」

「…レッド…それも何かのセリフ?」

「いいや?」

レッドがヘルメットを、ユウタに投げる。

「さてっ。寮に帰るぞ」

「う、うん」

ユウタは先より素早く身に付ける。
後部座席に跨り、腕を回す。

大きな背に呟く。

「ね。レッド……」

アクセル音に掻き消される。
レッドは、エンジンを止める。

「悪ぃ、聞こえなかった。なんだって?」

ユウタは、背中に頬を乗せる。
幸せそうに笑う。

「…ううん。何も言ってないよ?」

「そーかあ?」

「うん。早く帰ろ? みんな俺達探してるかもしんないし」

レッドが2秒黙る。
彼にしては反応が遅い。
何か考えてるらしい。
多分…良くないことを。

「…レッド?」

「なあ、ユウタ」

「ん?」

「寮に戻んの止めるか」

「…え」

「ユウタ、ドコ行きたい?」

「寮で誘拐騒ぎになってたらどーすんの?」

「騒ぎたい奴は、騒いでれば良いんじゃねえ?」

「あははっ! さっきと言ってること違くない?」

「過去は海に捨てて来たんだよっ!」

「ねえ。それ何のセリフ? やっぱ俺、さっきのセリフも知らな…」

「ユウタ、喋るの止めないと舌噛むぜっ?」

エンジンが唸る。
バイクが息を吹き返す。

「ちょ、え、マジでっ!?」

「愛の逃避行の始まりだぜっ!」


fin
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