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Marginal Prince Short Story
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■アイヴィー現在
囚われ人13 続編
今日は生徒代表室でミーティング。
ドアをノックしようとしたら、中から話し声が聞こえた。
ノックを止めて、そーっとドアを開ける。
生徒代表の背中が見えた。今年度の代表ジョシュアは、お電話中のようだ。

「ああ、そうだね。もうミーティングの時間だ。もっと君の声が聞きたかったけど」

生徒代表室で私用の電話は禁止という決まりにはなってるんだけど、
どうやら理事会のオジサンとかと電話してるわけじゃないらしい。
俺は後ろ手にドアを閉めて、音を立てずにジョシュアへ近付いていく。

「うん。それじゃあ、またね」

「お前さんでも規則破りくらいはするんだな、ジョシュア?」

ジョシュアが受話器を置いた後、そう声を掛けたら、めちゃくちゃ驚かれた。

「アイヴィー!? あの、すみません、俺……」

「あー、怒るつもりで言ったんじゃないから。俺はガッコのセンセじゃねーし」

ジョシュアの肩に肘を置く。

「てゆうかさ、今、女のコと話してたろ?」

「どうして解るんですか?」

「バーカ。男は女のコと話す時、声が優しくなんだよ。やっぱ、ユウタのお姉ちゃん?」

「え、ええ」

「良かったー。違うコって言われた時のほうが怒ったわ、俺。
イイコ見つけたもんだよなー。彼女、俺もちょっと狙ってたのにー」

「ええっ?」

ジョシュアが俺から離れる。肩に置いていた肘がカクッと下がる。

「ダ、ダメです! 彼女は俺のっ」

「俺の?」

「彼女は俺の、フィアンセです」

「ははっ。わーってるよ」

そうだと知ったのはニュースサイトで見たのが最初だった。
『世紀のカップル、再び』とかいう見出しで、
『エドワード王子の子息、婚約者を連れ、帰還。ロレートの次期国王へ』てなかんじで。
俺、聞いてませんけど、みたいな。

「いやー、ジョシュアが隠れて女の子と電話するようになったのかー。そりゃ俺も30超えるわな」

俺がこの島に来て6年、毎日毎日お仕事してる間に、
13歳だった坊ちゃんは、すっかりオトコ前になっていた。
しかも、男子校に居ながら、国に連れて帰るお姫様までゲットしてるなんて。
島に来てから、彼女の一人もできなかったお兄さんには正直フクザツな心境だ。

「お前さんもいつの間にか大きくなったもんだよなー。俺の車に初めて乗った時はこーんなちっこかったのに」

そう言った後、自分で吹き出す。

「ワーリィ。親戚のオジサンみたいなこと言っちゃった」

「いえ。嬉しいです。貴方にそう言って貰えること」

「そーかー?」

ジョシュアは窓辺に向かう。

「本当は、俺、この学院に来た時は、世界で一人ぼっちになったように感じることがあったんです」

ガラスの外には月桂樹の森が広がっている。

「俺はやっぱり、誰にも必要とされていない。居るだけで邪魔になってしまう。
グラント家出身の俺には、ここにも居場所がなかったって」

振り返った生徒代表は、笑顔を見せた。

「だけど、俺は間違ってました。俺には学院で出来た友人や大切な人が居て、
グラントやロレートの皆さんにも支えて頂いて。
生徒代表になってからは、この学院がたくさんの人達の手によって存在、維持していることを知りました。
俺は貴方にもずっと支えられてきた」

「俺?」

「貴方の車に初めて乗った時のこと、覚えています。俺が中等部一年の時でしたよね?」

「あ、ああ」

「一年生の時、俺は」

ジョシュアの言葉が止まる。急に緊張した面持ちになった。
少しの沈黙の後、結んだ唇が開かれる。

「俺は、ある先輩がとても怖かったんです」

まるで重い罪を告白するかのように、話し始めた。

「彼はグラントに恨みを持っていて、俺の存在が許せなかったんだと思います。
彼が卒業するまでの一年間は、彼の姿を目にするのも怖くて、
学院の外に行けば、彼に会わなくて済むと思って。それが初めて車を呼ぼうと思った理由なんです。
行く場所はどこでも良かった。彼の目のないところに、行きたかっただけなんです」

伏せられた緋色の瞳が開く。

「あの時、俺は『街のほうに行きたい』と曖昧なことを言ったのに、
貴方は『お任せコースね』と言って、楽しいドライブに連れて行ってくれました。
俺がどこの誰であろうと関係なく、貴方は普通に接してくれた。
また何かあったら、貴方の車に乗せて貰おうと思いました。
もう少し、この学院でやっていこうと思えたんです」

「ちょ、何だよ。今になって、そんなこと」

「俺だけじゃありません。俺達生徒は皆、貴方にお世話になっています。
警備責任者、タクシードライバーという以上に、
俺達生徒にとって、貴方は頼りになるお兄さんです。
生徒を代表して、お礼の言葉を言わせて下さい。
本当に、いつもありがとうございます、アイヴィー」

この島の総帥が、俺に深々と頭を下げた。

「や、止めろよ。そんな改まって」

そう言うのが精一杯だった。

「すみません、なんだか色々話してしまって。でも、本当のことですから」

「あ、ああ」

俺はかゆくもない首許を掻いていた。
ジョシュアは古時計を見上げる。

「そう言えば、遅いですね、博士」

窓から外を眺める。ノックの音がした。
白衣のセンセが、にこやかに入ってくる。

「失礼するよ。遅刻してすまなかったね」

「ソクちゃん、もしかして、ずっと立ち聞きしてた?」

「えっ? 博士、そうなんですか?」

「まさか。保健室に遊びに来た生徒が居て、遅くなってしまっただけだよ」

この笑顔は、聞いてたな。


「ね。ホントはさ、廊下で聞いてたでしょ? ジョシュアの話」

「ああ」

ミーティングが終わった後。
二人で廊下を歩いている時に、聞いてみたら、あっさり認めた。

「何故、解った?」

「俺は、ソクちゃんのことなら大体解んの。もう五年も一緒に居んだから。
ヒトのことが解るのは自分だけだと思うなよ、カウンセラー」

「生意気な」

「あーあ。この島に来て六年目かあ。過ぎてみると、あっという間だったなあ」

「そうだな。この長閑で危険な島は、適度に退屈で適度に刺激的だ」

「あー、それ言えてるー」

後頭部に手を置きながら、ドクターの隣を歩く。
意識しなくても、ソクーロフとの歩幅は同じくらいに揃ってた。

「ねえ、ソクちゃん。俺、昔は、あんたのこと、あんまスキじゃなかったよ?」

「今は?」

「だあーいキライッ! 決まってんでしょ」

「奇遇だな。私もだ」

「ハイ出たー。ソクちゃんのドS攻撃ー」

「誰が」

「あんた以外に居るかよ。あー、ハラ減った。ナチョス食いたいな。ねえ」

「ジェフなら店には居ないだろう。今頃は冬休みの筈だからな」

「ああ。もう、そんな時期か」

ジェフは毎年、この時期になると店を休んで、島の外へ行く。
マイクの母国を訪ね、命日に花を手向ける為だ。自分は今年も元気でやっているとマイクに伝える。
そうしなさい、と勧めたのは、このカウンセラーだ。自分の気が済むまで続けてごらん、と指示をした。
このカウンセリング手法のおかげか、俺達が店に出向けば、笑顔で迎えてくれる。
マイクに似た俺の顔を見ても平気になり、俺を俺として見てくれるようになった。

「あー、じゃあ、ソクちゃんが好きなチューカの店、行こ?」

「一緒に行きたいのか? 私のことはキライなんだろう?」

「だから、キライだって言ってんでしょ。早く、チューカ行こっ」


fin
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