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■エドガー カミーユ ジョシュア
「じゃー、次はキッチンに行くかっ」
ジョシュアが入学して、二日目の放課後。
新入生は最上級生に連れられて、寮を案内して貰っていた。
エドガー・ラッセル。このウーティス寮で最も長く暮らしている、高等部三年生。
「俺はウーティス歴六年目だから」と自信満々で案内役を務めている。
ここ聖アルフォンソ学院には原則13歳から18歳までの男子が在籍している。
高等部以降に編入してくる生徒のほうが多いんだ、と昨日、ジョシュアは生徒代表のヤンに聞いた。
ジョシュアやエドガーのように中等部の一年から入る例は少ないのだそうだ。
エドガーも入学当時は目立つ存在だった、とヤンは言っていた。
エドガーは背が高い。短く切った金髪に、引き締まった肉体。見るからに、スポーツが得意そうな人だ。
中等部一年のジョシュアが、先輩のブルーアイを見る為には、見上げる姿勢を取る必要があった。
「この学院には寮が三つあるってヤンに聞いたろ? で、それぞれに専属のシェフが居る。
こういうトコも変わってるよな。で、俺達の寮の担当はカミーユ・ルブラン。
元は、高級レストランで正統派フランス料理を作ってた。結構有名なシェフだったらしいぜ?」
聖アルフォンソ学院の教授陣は、高名な大学教授も在籍していると聞いたが、シェフも一流の人材を集めているらしい。
自分は、なんだかすごい所に来てしまったんだな、とジョシュアは思った。エドガーの足が止まる。
「ほい、ここがキッチン。いい匂いがするな、シェフにも挨拶してくか」
中に入って行くので、ジョシュアも続いた。
「カミーユー、ちょっと良いかー?」
「はい」
味見の手を止めたのは、真っ白なコック服に身を包んだ男。顔は四角に近く、割れ顎。
こういう顔のハリウッドスターを見たことがある、とジョシュアは思う。だが、名前までは知らなかった。
エドガーは、ジョシュアの頭に大きな手を乗せる。
「改めて紹介するよ、カミーユ。こいつ、昨日入った新入生。ジョシュア、挨拶」
与えられたタイミングで、一年生が頭を下げる。
「初めまして、ジョシュア・グラントです。よろしくお願いします」
シェフは、にこっと微笑んだ。
「これはこれは。ご丁寧にありがとうございます」
コック帽を取り、胸の前に置く。
「私は、ウーティス寮の厨房をお預かりしております、カミーユ・ルブランと申します。
どうぞお見知り置きを、ジョシュア様」
自分よりずっと年上の人に下手に出られ、少し居心地の悪さを感じる。
「昨日、今日のお食事は、お口に合いましたでしょうか?」
「あ、はい。とても美味しかったです」
「ありがとうございます。お褒め頂き、至上の喜びです」
ぎゅっとコック帽を握り締めた。
「ジョシュア様、ひとつだけ質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。何ですか?」
「お嫌いな食べ物や、苦手な味付けはございますか? 食物アレルギーはないと伺っておりますが」
「好き嫌いですか? ない、と思います」
「ホントかー? 遠慮しないで言っていいんだぜ?
まあ、ニンジンが嫌いって宣言しても、ケーキで出されて、
実はニンジンケーキでした、って後で知らされたりするんだけどな?」
「懐かしいですね。エドガー様がご入学された頃でしたでしょうか」
「だな。んで、だんだんニンジンの形が大きい料理になってって、
今じゃ、ニンジンのスティックも食べられるようになったんだからな。
入学前はハンバークの付け合わせで出てきても、ニンジンのソテーだけは絶対残してたのに。自分でも信じられないぜ」
「エドガー様はニンジンに苦手意識を持っておいででしたが、そのソテーの味付けがお口に合わなかっただけでした。
嫌いだと思っている食べ物でも、調理法が違えば、お召し上がりになれることもございます。
エドガー様も、この六年の間に見事ニンジンを克服されました。流石はエドガー様です」
「あんたの腕が良いからだろ? 何度、カミーユ・マジックにダマされて、知らずに食わされたことか」
シェフは笑って「申し訳ありません」
謝られたエドガーも笑った。
二人の様子を見て、ジョシュアは、エドガーも本当はシェフに感謝しているんだな、と理解した。
「で、ジョシュア。お前はニンジン、ヘーキなのか? あとピーマン食えない奴も居るし。
黙ってても、毎回皿に残したら、すぐバレちまうんだしさ。甘いのが嫌だとか、辛いのがダメとか、何でも良いんだぜ?」
「あっ、あんまり辛いのは……」
「畏まりました。ジョシュア様は特別お嫌いなものはないのですね。素晴らしいことです」
「マジで好き嫌いないのかよ? お前、スゲーな。尊敬するわ」
二人に褒められて、ジョシュアは俯いてしまう。
「ジョシュア様、お答え頂き、ありがとうございました。質問は以上です。
改めまして、ご入学おめでとうございます。
そして、ウーティス寮へのお越しを心より嬉しく思います。
今後、お食事についてご希望がございましたら、何なりとお申し付け下さい。
お好きな物からお嫌いな物まで、最高の料理をお作り致します」
「はい」
この人は、料理に対してすごく真面目な人なんだ、ということがジョシュアにも感じられた。
「よっし。じゃーな、カミーユ」
エドガーとジョシュアはキッチンを後にした。
廊下を歩きながら、エドガーは背の低い後輩を見やる。
「いいヤツだろ、カミーユって」
「はい。そう思います」
「腕は超一流、生徒には親切、なんだけどなあ」
「えっ?」
「あー、何でもない、何でもない。次の部屋行くぞー」
新入生は首を傾げつつ、先輩の背中を追いかけた。
fin
「じゃー、次はキッチンに行くかっ」
ジョシュアが入学して、二日目の放課後。
新入生は最上級生に連れられて、寮を案内して貰っていた。
エドガー・ラッセル。このウーティス寮で最も長く暮らしている、高等部三年生。
「俺はウーティス歴六年目だから」と自信満々で案内役を務めている。
ここ聖アルフォンソ学院には原則13歳から18歳までの男子が在籍している。
高等部以降に編入してくる生徒のほうが多いんだ、と昨日、ジョシュアは生徒代表のヤンに聞いた。
ジョシュアやエドガーのように中等部の一年から入る例は少ないのだそうだ。
エドガーも入学当時は目立つ存在だった、とヤンは言っていた。
エドガーは背が高い。短く切った金髪に、引き締まった肉体。見るからに、スポーツが得意そうな人だ。
中等部一年のジョシュアが、先輩のブルーアイを見る為には、見上げる姿勢を取る必要があった。
「この学院には寮が三つあるってヤンに聞いたろ? で、それぞれに専属のシェフが居る。
こういうトコも変わってるよな。で、俺達の寮の担当はカミーユ・ルブラン。
元は、高級レストランで正統派フランス料理を作ってた。結構有名なシェフだったらしいぜ?」
聖アルフォンソ学院の教授陣は、高名な大学教授も在籍していると聞いたが、シェフも一流の人材を集めているらしい。
自分は、なんだかすごい所に来てしまったんだな、とジョシュアは思った。エドガーの足が止まる。
「ほい、ここがキッチン。いい匂いがするな、シェフにも挨拶してくか」
中に入って行くので、ジョシュアも続いた。
「カミーユー、ちょっと良いかー?」
「はい」
味見の手を止めたのは、真っ白なコック服に身を包んだ男。顔は四角に近く、割れ顎。
こういう顔のハリウッドスターを見たことがある、とジョシュアは思う。だが、名前までは知らなかった。
エドガーは、ジョシュアの頭に大きな手を乗せる。
「改めて紹介するよ、カミーユ。こいつ、昨日入った新入生。ジョシュア、挨拶」
与えられたタイミングで、一年生が頭を下げる。
「初めまして、ジョシュア・グラントです。よろしくお願いします」
シェフは、にこっと微笑んだ。
「これはこれは。ご丁寧にありがとうございます」
コック帽を取り、胸の前に置く。
「私は、ウーティス寮の厨房をお預かりしております、カミーユ・ルブランと申します。
どうぞお見知り置きを、ジョシュア様」
自分よりずっと年上の人に下手に出られ、少し居心地の悪さを感じる。
「昨日、今日のお食事は、お口に合いましたでしょうか?」
「あ、はい。とても美味しかったです」
「ありがとうございます。お褒め頂き、至上の喜びです」
ぎゅっとコック帽を握り締めた。
「ジョシュア様、ひとつだけ質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい。何ですか?」
「お嫌いな食べ物や、苦手な味付けはございますか? 食物アレルギーはないと伺っておりますが」
「好き嫌いですか? ない、と思います」
「ホントかー? 遠慮しないで言っていいんだぜ?
まあ、ニンジンが嫌いって宣言しても、ケーキで出されて、
実はニンジンケーキでした、って後で知らされたりするんだけどな?」
「懐かしいですね。エドガー様がご入学された頃でしたでしょうか」
「だな。んで、だんだんニンジンの形が大きい料理になってって、
今じゃ、ニンジンのスティックも食べられるようになったんだからな。
入学前はハンバークの付け合わせで出てきても、ニンジンのソテーだけは絶対残してたのに。自分でも信じられないぜ」
「エドガー様はニンジンに苦手意識を持っておいででしたが、そのソテーの味付けがお口に合わなかっただけでした。
嫌いだと思っている食べ物でも、調理法が違えば、お召し上がりになれることもございます。
エドガー様も、この六年の間に見事ニンジンを克服されました。流石はエドガー様です」
「あんたの腕が良いからだろ? 何度、カミーユ・マジックにダマされて、知らずに食わされたことか」
シェフは笑って「申し訳ありません」
謝られたエドガーも笑った。
二人の様子を見て、ジョシュアは、エドガーも本当はシェフに感謝しているんだな、と理解した。
「で、ジョシュア。お前はニンジン、ヘーキなのか? あとピーマン食えない奴も居るし。
黙ってても、毎回皿に残したら、すぐバレちまうんだしさ。甘いのが嫌だとか、辛いのがダメとか、何でも良いんだぜ?」
「あっ、あんまり辛いのは……」
「畏まりました。ジョシュア様は特別お嫌いなものはないのですね。素晴らしいことです」
「マジで好き嫌いないのかよ? お前、スゲーな。尊敬するわ」
二人に褒められて、ジョシュアは俯いてしまう。
「ジョシュア様、お答え頂き、ありがとうございました。質問は以上です。
改めまして、ご入学おめでとうございます。
そして、ウーティス寮へのお越しを心より嬉しく思います。
今後、お食事についてご希望がございましたら、何なりとお申し付け下さい。
お好きな物からお嫌いな物まで、最高の料理をお作り致します」
「はい」
この人は、料理に対してすごく真面目な人なんだ、ということがジョシュアにも感じられた。
「よっし。じゃーな、カミーユ」
エドガーとジョシュアはキッチンを後にした。
廊下を歩きながら、エドガーは背の低い後輩を見やる。
「いいヤツだろ、カミーユって」
「はい。そう思います」
「腕は超一流、生徒には親切、なんだけどなあ」
「えっ?」
「あー、何でもない、何でもない。次の部屋行くぞー」
新入生は首を傾げつつ、先輩の背中を追いかけた。
fin
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