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■シルヴァン ジョシュア
講義終了後。ジョシュアはと新入生と一緒に教室を出た。
肩を並べて、廊下を歩いていく。ジョシュアは教科書を手にしていたが、隣は手ぶらだ。
ジョシュアは、新入生を見上げながら、
「授業中、眠たそうだったね。ごめん。動物行動学は興味がなかった?」
「いえ。僕のほうこそ、せっかく誘って頂いたのにすみません」
笑顔で謝ったのがシルヴァン・クラーク。
先週入学し、ジョシュアと同じウーティスに入寮した生徒だ。
今日は、シルヴァンが特別講義を決め兼ねているようだったので、
自分が受けている特別講義の見学を勧めたのである。
結果、睡眠時間を提供しただけに終わったが雰囲気は掴んで貰えた、と思いたい。
本来、新入生の世話を焼くのは、寮の最高学年の役目なのだが、
今年の最上級生は慣習に囚われない自由な性格のせいか、
直々に「同じ学年だし、ジョシュア、頼むな!」と肩を叩かれてしまった。
生徒代表もそれを見越していたのだろう。シルヴァンの入学初日にこう言われた。
「悪いが、ジョシュアも新入りの面倒をみてやってくれ」と。
最上級生二人に頼まれて、断れる人間ではなかったし、新入生への興味も人並みにはあった。
彼は、17歳の高等部一年生なのである。
自分よりひとつ年上の同級生。きっと何か事情があるのだろう。
新入生が口許を手で隠す。欠伸を噛み殺した後、目を擦った。
ジョシュアは心配になる。彼が眠そうなのは授業が始まった時からではない。朝食の時からだ。
入学以降、瞼を重そうにしているのが、ジョシュアは気になっていた。
できるだけ自然な質問に聞こえるように言葉を選んだ。
「昨日は、寝るのが遅かったのかい?」
シルヴァンは入学してからまだ一週間。
もしかしたら、夜に眠れないような悩み事があるのではないか、とジョシュアは密かに心配していた。
自分も新入生の時には、新しく特殊な環境に途惑い、なかなか寝つけない夜があったからだ。
しかし、返ってきたのは、屈託のない笑顔で。
「実は僕、昨夜は旧市街で遊んでいてあまり寝てないんです。寮に帰ってきたのは、3時頃でしたかね?」
「3時? 夜中の?」
ティータイムの3時の筈がないのに、思わずそう聞き返してしまった。
「ええ。あ、皆さんにはナイショにして下さいね?」
笑顔のまま唇の前で人差し指を立てる。
「うっかり、外出届書くの忘れちゃったんで」
深夜の外出は原則認められていない上に、届け出も提出していないとは。
さすがは、入学初日から夜遊び・外泊した人だなと感心してしまった。
『初日から生徒代表を激怒させた新入生』として、彼は学院内で一躍、時の人となったのだ。
「ところで、普段、ジョシュアはアンリとはどんな話をしてるんですか?」
脈絡無く、全く別の質問を振られた。
ああ、話題を変えられたのだ、とジョシュアは理解した。
昨夜どこで何をしていたのか話したくないのだろう。
「アンリとかい? 別に、普通だけど」
「伯爵の話とか! 錬金術の話はしてないんですか!?」
「えっ? いや、全然」
「えー!? ジョシュアもですか!? 困りましたねえ。
僕、アンリと朝まで語り明かしたいくらいなんですけど、なかなか口を利いて貰えないんですよねー」
「シルヴァンはサン・ジェルマン伯爵のこと知ってるんだ?」
「知ってるなんてもんじゃないですよ! 大ファンなんです! だって、彼は稀代の錬金術師で」
シルヴァンが熱く繰り広げるオカルト講座を、ジョシュアは相槌も打てず、黙って聞いていた。
が、耳にしたことがない専門用語らしい単語が多く、話の大半を理解できないまま、森の前まで来た。
ウーティス寮の前に森があるので、校舎から寮に帰ってくると、月桂樹の青い香りが濃くなる。
心が落ち着く、いい匂いだ。シルヴァンの足が止まった。
「どうしたの?」
「僕、まだ寝足りないので森でシエスタしてきます。ジョシュアは先に戻って下さい」
「え? でも、講義はまだ」
ひとコマあるよ、と言おうとしたのだが、シルヴァンは既に駈け出していて。
「今日は特別講義を見学させてくれて、ありがとうございましたー!」
おやすみなさーい、と手を振りながら森へ入って行く。
背にかかる長い髪を見ながら、ジョシュアはその場に立ち尽くしてしまった。
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講義終了後。ジョシュアはと新入生と一緒に教室を出た。
肩を並べて、廊下を歩いていく。ジョシュアは教科書を手にしていたが、隣は手ぶらだ。
ジョシュアは、新入生を見上げながら、
「授業中、眠たそうだったね。ごめん。動物行動学は興味がなかった?」
「いえ。僕のほうこそ、せっかく誘って頂いたのにすみません」
笑顔で謝ったのがシルヴァン・クラーク。
先週入学し、ジョシュアと同じウーティスに入寮した生徒だ。
今日は、シルヴァンが特別講義を決め兼ねているようだったので、
自分が受けている特別講義の見学を勧めたのである。
結果、睡眠時間を提供しただけに終わったが雰囲気は掴んで貰えた、と思いたい。
本来、新入生の世話を焼くのは、寮の最高学年の役目なのだが、
今年の最上級生は慣習に囚われない自由な性格のせいか、
直々に「同じ学年だし、ジョシュア、頼むな!」と肩を叩かれてしまった。
生徒代表もそれを見越していたのだろう。シルヴァンの入学初日にこう言われた。
「悪いが、ジョシュアも新入りの面倒をみてやってくれ」と。
最上級生二人に頼まれて、断れる人間ではなかったし、新入生への興味も人並みにはあった。
彼は、17歳の高等部一年生なのである。
自分よりひとつ年上の同級生。きっと何か事情があるのだろう。
新入生が口許を手で隠す。欠伸を噛み殺した後、目を擦った。
ジョシュアは心配になる。彼が眠そうなのは授業が始まった時からではない。朝食の時からだ。
入学以降、瞼を重そうにしているのが、ジョシュアは気になっていた。
できるだけ自然な質問に聞こえるように言葉を選んだ。
「昨日は、寝るのが遅かったのかい?」
シルヴァンは入学してからまだ一週間。
もしかしたら、夜に眠れないような悩み事があるのではないか、とジョシュアは密かに心配していた。
自分も新入生の時には、新しく特殊な環境に途惑い、なかなか寝つけない夜があったからだ。
しかし、返ってきたのは、屈託のない笑顔で。
「実は僕、昨夜は旧市街で遊んでいてあまり寝てないんです。寮に帰ってきたのは、3時頃でしたかね?」
「3時? 夜中の?」
ティータイムの3時の筈がないのに、思わずそう聞き返してしまった。
「ええ。あ、皆さんにはナイショにして下さいね?」
笑顔のまま唇の前で人差し指を立てる。
「うっかり、外出届書くの忘れちゃったんで」
深夜の外出は原則認められていない上に、届け出も提出していないとは。
さすがは、入学初日から夜遊び・外泊した人だなと感心してしまった。
『初日から生徒代表を激怒させた新入生』として、彼は学院内で一躍、時の人となったのだ。
「ところで、普段、ジョシュアはアンリとはどんな話をしてるんですか?」
脈絡無く、全く別の質問を振られた。
ああ、話題を変えられたのだ、とジョシュアは理解した。
昨夜どこで何をしていたのか話したくないのだろう。
「アンリとかい? 別に、普通だけど」
「伯爵の話とか! 錬金術の話はしてないんですか!?」
「えっ? いや、全然」
「えー!? ジョシュアもですか!? 困りましたねえ。
僕、アンリと朝まで語り明かしたいくらいなんですけど、なかなか口を利いて貰えないんですよねー」
「シルヴァンはサン・ジェルマン伯爵のこと知ってるんだ?」
「知ってるなんてもんじゃないですよ! 大ファンなんです! だって、彼は稀代の錬金術師で」
シルヴァンが熱く繰り広げるオカルト講座を、ジョシュアは相槌も打てず、黙って聞いていた。
が、耳にしたことがない専門用語らしい単語が多く、話の大半を理解できないまま、森の前まで来た。
ウーティス寮の前に森があるので、校舎から寮に帰ってくると、月桂樹の青い香りが濃くなる。
心が落ち着く、いい匂いだ。シルヴァンの足が止まった。
「どうしたの?」
「僕、まだ寝足りないので森でシエスタしてきます。ジョシュアは先に戻って下さい」
「え? でも、講義はまだ」
ひとコマあるよ、と言おうとしたのだが、シルヴァンは既に駈け出していて。
「今日は特別講義を見学させてくれて、ありがとうございましたー!」
おやすみなさーい、と手を振りながら森へ入って行く。
背にかかる長い髪を見ながら、ジョシュアはその場に立ち尽くしてしまった。
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