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■シルヴァン ジョシュア
■新入生は自由人 続編
「本日の前菜は『キングサーモンのラタトゥイユ ~アルフォンソの香り~』でございます」
ウーティス寮ダイニングルーム。
専属シェフは、今日も機嫌良く生徒達の前で今日のメニューを説明していた。
ジョシュアはシェフの目を見ながら、話を聞いている。
「鮭と夏野菜のトマト煮でございます。ハーブには島特産のローリエを使い、香り付け致しました。
南フランスはニースの伝統料理ですので、アンリ様は召し上がったことがおありかと」
話を振られた少年はかろうじて小さく頷いたが、「うん」とも声は出さなかった。
中等部三年のアンリ=ユーグ=ド=サン・ジェルマン。
フランス出身でフランス料理を得意するシェフと同郷である為、何かと話し掛けられ易い。
しかし、無口な少年は、迷惑だと言わんばかりに、
毎回、最低限のリアクション(機嫌が悪い時は無視)しかしないのだが、
料理一筋のあまり、鈍いところのあるシェフは、無言の拒否反応に気付かないようである。
ジョシュアには今のところ、見守るしか術がない。
「ラタトゥイユには白のワインがよく合いますので、ご希望の方にはお注ぎ致します」
最初に勢い良く挙げたのは、最高学年のアルベルトだった。
白ワインを注がれると、いつものように「オブリガード!」と母国語で礼を言っていた。
出身はブラジル。大富豪の末っ子故か大らかな性格で、年中笑っているイメージのある人だ。
逆に、いつもイライラしているのが隣に座っている痩せた男。彼はふらりと手を挙げた。
「僕も貰おうかな、今夜は」
「畏まりました、ステファン様」
シェフが彼の元へ向かう。淡い琥珀色の液体が、細いワイングラスに注がれていく。
アルベルトが悪気なくからかった。
「おっ! お前が飲むなんて珍しいなー、ステフ。作曲が上手く行ってないんだろー?」
「いつもながら、気が遣えない人だね、君は」
ステファン・ベルワルド。最高学年。
生粋のスウェーデン人で、シルバーグレイの髪と目を持つ。
ストレートの髪は肩よりやや長い。
肌は白く、その細腕は、血管が青白く透けて見えるほどだ。
気に入らないことがあると、横髪をいじる癖があった。
作曲家の子息で、ステファン自身も作曲、また合唱の英才教育を受けてきた。
音域は広く、地声も人よりやや高めである。
一度、創作期間に入ると、寮内の音楽サロンに鍵まで掛けて閉じ籠るので、
寮生でも暫く顔を見れない日が続く。作曲が終わると、やつれた顔で出てくるのだ。
その暁には発表会を行い、普段の彼とは似ても似つかない癒しの曲を披露する。
ジョシュアはステファンと話す機会はあまりないが、
彼の演奏は繊細で本当に素晴らしく、発表会の日は楽しみにしていた。
アルベルトは笑顔で隣を向く。
「なあ、今はどんな曲作ってんだ? 俺、前の奴、結構好きだったぜ!」
「それより、また新入りが居ないんじゃない?」
空いている席がひとつだけあった。ステファンは横髪をいじりながら、全員に尋ねる。
「新入りがどこに行ってるか、知っている者は、挙手」
皆は顔を見合わせるだけで、誰も発言しなかった。ジョシュアはおそるおそる手を挙げる。
「あの」
皆が一斉にジョシュアを見る。たくさんの視線を居心地悪く思いながら話した。
シルヴァンと一緒に特別講義を受けたこと、その後はシエスタをすると言って森に入るのを見たことだ。
「えっと、そこまでしか知らないんです」
アルベルトは少し笑った。
「オッケ。なら、良いだろう。俺達はディナーにしようぜ。腹減ったー」
ステファンが溜め息を吐く。
「待ってよ。放っといていいの?」
「いいに決まってんだろ。ガキじゃねえんだから放っといても勝手に戻ってくるさ」
「アル!」
ジョシュアが席を立つ。
「俺、森に行って、起こしてきましょうか?」
アルベルトは笑いながら首を横に振った。
「座れよ、ジョシュア。森に行ったってムダさ。
大方、ちょっと眠った後、夜の街に遊びにでも行ったんだろう」
ジョシュアが席に座るのと同時に、ステファンがヒステリックな声を上げる。
「また!? 信じられない! どこまで自由なの、あの新入り!」
「好奇心が旺盛なのは良いじゃないか。別に、何の心配も要らないだろ?
例え、迷子でワンワン泣いてたって、制服さえ着てりゃ、
入ったばっかの新入りでも、うちの生徒だって解るんだし」
「サンバな頭だね、いつもいつも!」
ステファンの声が怒りと共に高くなってくる。
「あの新入りだって、これからここで集団生活をするのだから、
ルールや秩序というものを、きっちり教えてやるのが、上級生の務めじゃないの?」
「何、クラウスみたいなこと言ってんだ? 俺達が新入りに首輪付けてどうするよ。
聖アルフォンソ島は楽園。若鳥は本能に従って好きに羽ばたけばいいのさ」
「クラウスに同情するよ。こんないい加減なのがウーティスの最上級生で申し訳ない」
「ははは。さあ、食おうぜ。せっかくの豪華ディナーが冷めちまう」
最上級生がそう言うので、皆も食べ始めた。皆が食べ始めたので、ジョシュアもフォークを持つ。
ガタンと席を立つ音がする。
アルベルトはワイングラスから唇を離し、のんびり尋ねた。
「どこ行くんだー? ステフ」
両手でテーブルを叩く。
「森に決まっているでしょう? まだ寝てたらどうするの?
新入りに風邪なんか引かせたら、上級生の責任でしょう!」
カツカツと遠ざかって行く靴音を聞きながら、アルベルトは豪快に笑った。
ジョシュアは正面をぼうっと見ていた。
自分の向かいにある空席。
シルヴァンは、いつもどんな所に行ってるんだろう?
どうして、外に行くんだろう?
→
■新入生は自由人 続編
「本日の前菜は『キングサーモンのラタトゥイユ ~アルフォンソの香り~』でございます」
ウーティス寮ダイニングルーム。
専属シェフは、今日も機嫌良く生徒達の前で今日のメニューを説明していた。
ジョシュアはシェフの目を見ながら、話を聞いている。
「鮭と夏野菜のトマト煮でございます。ハーブには島特産のローリエを使い、香り付け致しました。
南フランスはニースの伝統料理ですので、アンリ様は召し上がったことがおありかと」
話を振られた少年はかろうじて小さく頷いたが、「うん」とも声は出さなかった。
中等部三年のアンリ=ユーグ=ド=サン・ジェルマン。
フランス出身でフランス料理を得意するシェフと同郷である為、何かと話し掛けられ易い。
しかし、無口な少年は、迷惑だと言わんばかりに、
毎回、最低限のリアクション(機嫌が悪い時は無視)しかしないのだが、
料理一筋のあまり、鈍いところのあるシェフは、無言の拒否反応に気付かないようである。
ジョシュアには今のところ、見守るしか術がない。
「ラタトゥイユには白のワインがよく合いますので、ご希望の方にはお注ぎ致します」
最初に勢い良く挙げたのは、最高学年のアルベルトだった。
白ワインを注がれると、いつものように「オブリガード!」と母国語で礼を言っていた。
出身はブラジル。大富豪の末っ子故か大らかな性格で、年中笑っているイメージのある人だ。
逆に、いつもイライラしているのが隣に座っている痩せた男。彼はふらりと手を挙げた。
「僕も貰おうかな、今夜は」
「畏まりました、ステファン様」
シェフが彼の元へ向かう。淡い琥珀色の液体が、細いワイングラスに注がれていく。
アルベルトが悪気なくからかった。
「おっ! お前が飲むなんて珍しいなー、ステフ。作曲が上手く行ってないんだろー?」
「いつもながら、気が遣えない人だね、君は」
ステファン・ベルワルド。最高学年。
生粋のスウェーデン人で、シルバーグレイの髪と目を持つ。
ストレートの髪は肩よりやや長い。
肌は白く、その細腕は、血管が青白く透けて見えるほどだ。
気に入らないことがあると、横髪をいじる癖があった。
作曲家の子息で、ステファン自身も作曲、また合唱の英才教育を受けてきた。
音域は広く、地声も人よりやや高めである。
一度、創作期間に入ると、寮内の音楽サロンに鍵まで掛けて閉じ籠るので、
寮生でも暫く顔を見れない日が続く。作曲が終わると、やつれた顔で出てくるのだ。
その暁には発表会を行い、普段の彼とは似ても似つかない癒しの曲を披露する。
ジョシュアはステファンと話す機会はあまりないが、
彼の演奏は繊細で本当に素晴らしく、発表会の日は楽しみにしていた。
アルベルトは笑顔で隣を向く。
「なあ、今はどんな曲作ってんだ? 俺、前の奴、結構好きだったぜ!」
「それより、また新入りが居ないんじゃない?」
空いている席がひとつだけあった。ステファンは横髪をいじりながら、全員に尋ねる。
「新入りがどこに行ってるか、知っている者は、挙手」
皆は顔を見合わせるだけで、誰も発言しなかった。ジョシュアはおそるおそる手を挙げる。
「あの」
皆が一斉にジョシュアを見る。たくさんの視線を居心地悪く思いながら話した。
シルヴァンと一緒に特別講義を受けたこと、その後はシエスタをすると言って森に入るのを見たことだ。
「えっと、そこまでしか知らないんです」
アルベルトは少し笑った。
「オッケ。なら、良いだろう。俺達はディナーにしようぜ。腹減ったー」
ステファンが溜め息を吐く。
「待ってよ。放っといていいの?」
「いいに決まってんだろ。ガキじゃねえんだから放っといても勝手に戻ってくるさ」
「アル!」
ジョシュアが席を立つ。
「俺、森に行って、起こしてきましょうか?」
アルベルトは笑いながら首を横に振った。
「座れよ、ジョシュア。森に行ったってムダさ。
大方、ちょっと眠った後、夜の街に遊びにでも行ったんだろう」
ジョシュアが席に座るのと同時に、ステファンがヒステリックな声を上げる。
「また!? 信じられない! どこまで自由なの、あの新入り!」
「好奇心が旺盛なのは良いじゃないか。別に、何の心配も要らないだろ?
例え、迷子でワンワン泣いてたって、制服さえ着てりゃ、
入ったばっかの新入りでも、うちの生徒だって解るんだし」
「サンバな頭だね、いつもいつも!」
ステファンの声が怒りと共に高くなってくる。
「あの新入りだって、これからここで集団生活をするのだから、
ルールや秩序というものを、きっちり教えてやるのが、上級生の務めじゃないの?」
「何、クラウスみたいなこと言ってんだ? 俺達が新入りに首輪付けてどうするよ。
聖アルフォンソ島は楽園。若鳥は本能に従って好きに羽ばたけばいいのさ」
「クラウスに同情するよ。こんないい加減なのがウーティスの最上級生で申し訳ない」
「ははは。さあ、食おうぜ。せっかくの豪華ディナーが冷めちまう」
最上級生がそう言うので、皆も食べ始めた。皆が食べ始めたので、ジョシュアもフォークを持つ。
ガタンと席を立つ音がする。
アルベルトはワイングラスから唇を離し、のんびり尋ねた。
「どこ行くんだー? ステフ」
両手でテーブルを叩く。
「森に決まっているでしょう? まだ寝てたらどうするの?
新入りに風邪なんか引かせたら、上級生の責任でしょう!」
カツカツと遠ざかって行く靴音を聞きながら、アルベルトは豪快に笑った。
ジョシュアは正面をぼうっと見ていた。
自分の向かいにある空席。
シルヴァンは、いつもどんな所に行ってるんだろう?
どうして、外に行くんだろう?
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