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Marginal Prince Short Story
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■シルヴァン アイヴィー ジョシュア クラウス
新入生は自由人4 続編
「ほれ、お前さんに代われってさ」

アイヴィーが受話器を差し出す。シルヴァンは両手を激しく振り、小声で言った。

「今、居ないって言って下さい! あ、シャワー中ということで!」

「コラ! 聞こえてるぞ! シルヴァン、早く出ろ!」

受話器の向こうからクラウスの怒声が飛んできた。
おそるおそるシルヴァンは手を伸ばし、受話器を耳に当てた。
アイヴィーはロングソファに座り、自分の胸ポケットに手を入れる。
生徒代表に叱られている新入生を眺めながら、煙草を咥えた。


同じ頃、ウーティス寮。今日のサロンは人口密度が高かった。
テレビではスポーツニュースがやっている。サッカー好きなアルベルトが毎週見ている番組だ。
今夜もアルベルトは、他の高等部の生徒達と話しながらテレビを見ていた。
アンリはテレビには見向きもせず、隅の席で読書中。
ジョシュアはアンリの向かいに座り、なんとなくテレビに目を向けていたが、頭に試合結果は入ってこなかった。

アルベルトとステファンが、生徒代表のクラウスにシルヴァンが行方不明だと伝えたのが三十分程前。
生徒代表はすぐに警備会社に連絡を取ってくれた。それから、ウーティス寮生にこう言った。
「あとは俺と警備に任せて、お前達は寮で大人しく待ってろ。
今日は侵入者の捕り物があったから、外に出るのは危険だ。いいか、お前達は絶対に探しに行くなよ」と。

生徒代表から直々に外出禁止令を申し渡され、逆らう者は居なかったが、皆、自室には戻らず、サロンに集まっていた。
ステファンは暖炉の傍。壁を背に立ち、しきりに横髪に触れている。
そんな先輩の様子を見てジョシュアも落ち着かない気分が増してくる。

シルヴァンを最後に見たのは自分なのだ。
その後、外に出て、事故や事件に巻き込まれていたらと思うと、悔やんでも悔やみきれない。
もしかしたら侵入者に襲われて監禁されているかもしれない。
時間が経つ度、考えがネガティブな方向に向うのを止められなくなる。

シルヴァンにシエスタに行くと言われた時、
「まだひとコマあるよ」とか「次の講義も一緒に受けよう?」と言っていれば、こんな事態にはならなかったかもしれない。そんな後悔が頭の中をぐるぐる回っている。
早くウーティス寮に帰ってきて欲しい。
何事もなかったような顔をして「皆さんお揃いでどうしたんですか?」と言って欲しい。
どうか無事でいて、と神に祈るような気持ちだった。

「少しは落ち着けよ、ステフ」

テレビがCMに入ったところで、アルベルトが声を掛けた。

「シルヴァンなら大丈夫だって。クラウスにも伝えたんだしさ。お前もこっち来て座れば?」

「別に新入りを心配しているんじゃない。前の編曲を考えていただけだ」

「へえ。ピアノもないのにか?」

「僕の頭の中にはある。だからいつだってピアノは弾ける。
君の頭の中にいつもサンバが流れているみたいにね」

「ボサノヴァの時だってあるぜ? おい。どこ行くんだよ」

「森」

「待てって」

アルベルトはソファから立って、ステファンに近付く。

「外に出るなって、生徒代表に言われたろ?」

「風に当たってくるだけ」

逃げようとする細い手首を捕らえた。

「お前がウソ吐いてるかどうかくらいは解んだよ」

コンコン、とノックの音。皆が視線が集まる。
ドアを開けたのは、ドイツ軍人の家系に生まれ、立派な体躯に恵まれた生徒。
今年度の生徒代表クラウス・フォン・モールだ。

「見つかったぞ」

「本当!? 無事なの?」

誰より早く反応したのはステファンだった。

「ああ。安心しろ。怪我ひとつしてない。明日の朝には戻る」

生徒達は顔を見合って笑った。数時間振りにサロンが賑やかになる。
ジョシュアも胸を撫で下ろした。

「良かったな、ステフ?」

アルベルトがステファンの肩に腕を回す。ステファンはそれを無視した。

「で、どこに居たんだー? うちのやんちゃ坊主は」

アルベルトが尋ねると、クラウスは不満げに答えた。

「アイヴィーの家だ。ガレージで寝てた」

ジョシュアは緋色の瞳をぱちくりする。

「信じられない! バカじゃないの!?」

ステファンは声が少し裏返るほど憤慨しているが、アルベルトは大きな口を開けて笑った。

「たくましいなあ、今度の新入りは」

クラウスが苦い顔をする。

「たくましいで片付けるなよ、アルベルト。皆に迷惑を掛けて」

皆がほっとして、わいわい騒いでいる中、本を閉じる音がした。
その小さな音にジョシュアだけが気付いた。アンリは本を抱え、サロンを出て行った。
アルベルトとクラウスは話を続けている。

「そう怒るなよ、クラウス。いいじゃないか、夜遊びくらい」

「外に出るのは構わん。俺が許せないのはなあ!」拳を震わせて「毎回、毎回、外出届を書かずに出て行くことだ! 何故、決められた規則が守れない!」

アルベルトは肩をすくめ、「やれやれ」のポーズを取った。それに気を悪くしたクラウスが腕を組む。

「ったく。俺はシュヌーシアに帰るぞ。お前達ももう気が済んだだろ。さっさと寝ろ。明日の講義に障る」

クラウスが出て行く。閉まったドアを見てから、生徒代表にお礼を言うのを忘れてしまったとジョシュアは思った。
夜中にも関わらず、ウーティス寮生の為に動いて、見つけ出してくれたのに。
明日会った時には必ずお礼の言葉を言おうと決めた。


クラウスがシュヌーシア寮に戻ると、サロンから明かりが漏れていた。

「おい! お前達!」

サロンには数人の生徒達が居た。中等部一年のレオンが振り向く。

「あ、クラウスー。どうだった、新入り。居たー?」

「ああ」

「そ。よかったー」

「お前達、もう寝ろと言っただろう。なんでまだサロンで遊んでるんだ。
特にラビ。お前は風邪が治ったばかりだろう」

「ご、ごめんなさい…」

最高学年の怒声に中等部一年のラビットが身を小さくする。
同級生のレオンがかばうように、大きな声で対抗した。

「だってウーティスの新入りが居なくなったんだろ?
俺達だって心配で寝れなかったんだよ、な、ラビ?」

周りの生徒達も、そうそう、と頷いた。
クラウスの拳がまた、わなわなと震え出す。

「じゃあ、お前達が手に持ってるのはなんだ?」

「ウノー!」

生徒達の手とテーブルの上には、カラフルなカード。
UNO(ウノ)という名前の世界中で有名なカードゲームだ。
最近シュヌーシア寮では一大ブームを巻き起こしていて、サロンでは連日のようにウノ大会が行われていた。

「ウノをやりながら、新入りの心配をしてたんだよ、なー?」

周りの生徒達も、うんうん、と頷く。

「クラウスも入れて欲しいー?」

「遊んでないで、さっさと部屋に戻れ!」

シュヌーシアの生徒達は楽しそうに「はーい」と返事した。


ご立腹の生徒代表は腕を組んで廊下を歩いている。

「全く、どいつもこいつも」

クラウスが自分の部屋に戻る。
ベッドの中に誰かが居た。緩い波のある金髪、ブロンズの肌。
シュヌーシアの高等部二年、テオ・メネシスである。
寝たままの姿勢でクイッと首だけ挙げる。

「あ、おかえり、クラウス」

「どいつもこいつも」

クラウスは今日の疲れを一気に感じた。

「俺のベッドに、なんでお前が居るんだ?」

テオは、にこっと微笑む。

「あたためておいたのだよ」

「生憎だが、ベッドは冷たいほうが好きだ」

「おや。それは失礼」

テオは笑っている。いつものように会話するクラウスを見て、こう言った。

「どうやら、ワイルドボーイは無事だったようだね? お疲れ様、クラウス」

生徒代表は憮然とした様子でベッドに腰掛ける。

「ちなみに、どこに居たんだい?」

「お前が言ったのが半分正解だった」

シルヴァンが居なくなったという知らせが、シュヌーシア寮サロンに来た時、
テオが「またアイヴィーと一緒なのでは?」と発言したので、
クラウスはアイヴィーが所属する警備組織に連絡を取ったのだ。
シルヴァンが発見された場所を聞いて、テオは楽しそうに笑った。

「ガレージか。さすがは入学初日から外泊したワイルドボーイだ。たくましいねえ」

「アルベルトと同じ感想を言うんじゃない」

ブラジルの大富豪と、ギリシャの海運王。
この二人の金銭感覚と大らかさは、クラウスには理解し難いものだった。

「ここ最近では居なかったタイプが入ってくれたよね。実にサバイバルな才能の持ち主だ」

「何でもかんでも褒めるなよ、テオ」

クラウスは頭の後ろで手を組み、ベッドに腰掛けたまま、背中を倒した。
テオの腹が腰枕になっている。押し潰されたテオは「うっ」と呻いた。
クラウスは天井を見上げ、独り言のように呟く。

「なんで寮を抜け出すんだ? そんなに気に入らないのか、この学院が」

「そんな心配要らないだろう? アイヴィーの家に居たのなら」

「どういうことだ」

「すぐに見つかる場所じゃないか。本気の脱走ではなく、ちょっとしたかくれんぼなのだよ。
下級生から遊ぼうと誘われたら、上級生は快く受けなくてはね?」

「夜中のかくれんぼは、常識がなさ過ぎる」

「いいなあ。貴方に探して貰えるのなら。私もたまには寮を脱走してみようかな?」

クラウスは腹筋を使って、少しだけ身体を起こしてから、背を倒した。
また押し潰されたテオは「ぐっ」と呻いた。

「痛いよ、クラウス。もっと優しくして」

クラウスは上半身を起こして、ドアを指差した。

「馬鹿言ってないで、お前は部屋に戻れ」


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