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Marginal Prince Short Story
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■シルヴァン
ラストシーン 2/4 続編
解りました、お話しします。
僕も君に見て欲しい物がありますし。

僕が最後に彼と会った時、彼はいつもよりとっても楽しそうでした。
君と映画を撮り始めたからでしょうね。

僕もごく普通に会っただけなんですよ。待ち合わせ場所も、いつものように映画館前でした。
僕、父親の仕事の都合で、転校が多かったんですが、
ブライアンと僕の親同士が同僚だったので、彼とはずっと付き合いが続いてたんです。
他の友達とは、いつか離れる時が来ても、ブライアンとだけは一緒に居られるって思ってましたから。

住む場所が変わっても、ブライアンと会う時は、その街、その街の映画館に行きました。
「ここのアイスティは前のとこより三倍美味しいね」なんてテキトーなこと言って。
彼に付き合って、僕も、たくさんの街で、たくさんの映画を見てきました。

あの日もいつも通り、開演の30分前に待ち合わせて。
彼、映画のチラシを集める趣味があるんですよね。
映画館にたくさん置いてるじゃないですか、今後公開予定の宣伝用に。

ああ、そうそう、フライヤーって言うんですよね。ブライアンは、それをごっそり集めてくるので、
最初はちょっと一緒に居るのが恥ずかしかったんですが、そのうちに僕のほうが慣れちゃいました。

「これ、オススメだよ」

僕にもチラシをくれるんですよね。これは誰が作った、どういうお話で、とか。
いつも色々教えてくれるんですけどね、マニアック過ぎて、僕にはよく解らないんですよ。
あ、アルフレッドもそうでしたか。映画の話をしてるブライアンは、本当に子供みたいで。
話の内容はよく解りませんでしたけど、僕は楽しそうな彼を見るのが楽しかったんです。

彼はパンフレットも必ず買っていましたね。
「映画を見る前に、パンフレットは絶対見ない」って自分ルールがあったりとか。
先に見たせいで、ネタバレしてしまったトラウマがあるそうです。
でも、たまに誘惑に負けてる時もありました。
僕がジュースを買いにいっている間に、パンフレットをうすーく開けて覗いていたことがあって。
「見ていたでしょう?」って聞くと、「見てない」って言い張るんですけどね。
映画のチケットさえ捨てずに、コレクションしてましたよ。

ええ、それです。アルフレッドも見ましたか、彼のムービーノート。
映画好きというより、映画狂ですよね、彼の場合。
丁寧に貼ったチケットと一緒に、映画の感想がびっしり書いてあるんですよね。
それから、いつもペンとメモ帳を持ち歩いて。彼はアイディアノートと呼んでましたけど。
良いと思った言葉や、作品に使えそうなエピソードを、記録する為のネタ帳で、
誰でしたかね、尊敬する監督を真似して、そうしているのだと言っていました。

あ、すみません、随分脱線してしまいましたね。
エンドマークまでしっかり映画を見た後は『感想の会』でした、近くのカフェで。
それもお決まりだったんですよ、他のテーブルからも感想が聞こえてくるのがいいって。
今見たばかりの映画の感想を言い合って、僕は聞いているほうが多いんですけど。

あの日はもちろん、君の話も出ましたよ?
レッドと映画を撮れることになったんだ、って、とっても嬉しそうでした、彼。
僕、あの子役スターと一緒だなんてスゴイじゃないですか、って言ったんです。

「彼はただの子役スターじゃないんだよ、アルフレッドは」

そう言った後、ずっとブライアンは君のことを褒めてました。
君がどんなに素晴らしい才能とセンスを持っているのか、僕に語ってくれたんです。
なんだか、少し妬けてしまうくらいに。

嘘なんかじゃありません。
アルフレッド・ヴィスコンティという役者に惚れ込んでる、そういうかんじでした。
君が五歳でデビューした時から目を付けていて、
いつか君と一緒に映画が撮れたら、と願っていたんです。

本当ですよ。信じられませんか?
じゃあ「ナイショだよ」と言われていたんですが、君に伝えますね。
これは本人にこそ、伝えるべきことだって思いますから。ブライアンは僕にこう言ったんです。

「君には白状するよ、リック」

えっ? ああ、すみません。『リック』って言うのは、その……アダナみたいなもので、昔の。
ゆ、由来ですか? 忘れちゃいましたっ。子供の頃に付けられたアダナでしたから。
呼び慣れてるからって、未だに昔のアダナで呼ぶんですよねー、困った人でー。あははっ。
えっとー、話を元に戻しますね?

「本格的にレッドと撮影を始める前に、聞いて貰いたいことがあったんだ。
幼なじみの君だけには隠しごとはできないから。聞いた後は、君の胸にしまっておいて欲しい」

彼は懺悔するように言いました。

「僕はね、今まで22年生きてきた中で、初めてズルイことを考えた。
僕はどうしても、アルフレッド・ヴィスコンティに会いたかった。
会って、彼に認めて貰える日が来たら、彼主演の映画を作らせて貰おうって考えてた。
だから今の大学に入ったんだよ。彼のお兄さん達が居る大学に。

レッドに会いたくて、お兄さんに近付いたんだ。
そうしたら彼に会うチャンスが巡ってくるかもしれないと思って。
ズルイだろう? まるで悪徳プロデューサーみたいだ。

こんなこと、レッドに知られたら、僕は嫌われるかもしれない。
彼は真っ直ぐだから。演じることに対して、あの若さで、彼ほどストイックな役者は居ないよ」

瞳を潤ませながら、あんなふうに語るブライアンは、僕も初めて見ましたよ。
フワフワと夢見心地で、昂る気持ちが自分でも抑えられないようでした。

「本当に素晴らしいんだよ、アルフレッド・ヴィスコンティは。彼は神様に特別に愛された役者なんだ。
彼とこれから、本当に、映画が撮れるんだと思うとね、僕は興奮して眠れないくらいなんだよ。
どうすれば、彼を最高に輝かせる映画になるか、そればっかり考えてる。

生まれてきて良かったって、初めて思ったよ。僕は今、最高に幸せなんだ、怖いくらいに。
この世に、こんなに幸せなことって他にあるのかな?
ねえ、リック。僕は夢を見ているんじゃないよね?」

頬をピンクにして、彼はそう言っていました。
君はそのくらい、あの映画狂に最高の幸せを与えられるくらいの役者なんですよ。
君は否定も謙遜もしないで下さいね、ブライアンが言ったことなんですから。

あと、僕も聞かれたんです。「映画のレゾンデートルって何だと思う?」って。


「これと同じこと、レッドにも聞いたんだ。やっぱりすぐには答えられないみたいだったから、
クランクアップまでの宿題にしてきたよ。ねえ、リックはどう思う? 君ならどう答えるかな?」

そうですねえ、やっぱり楽しむ為じゃないですか?
映画を見ている時間は、ドキドキ、ハラハラしてとっても楽しいですから。

「うん。いいね。君らしい答えで、すごくいい」

ブライアンの答えは何なんですか?

「え、僕? ここで言うのはちょっと恥ずかしいな、撮影現場でもないし」

僕には言わせたくせに何言ってるんですか。
あっ、じゃあ、書いて下さい! サイン色紙っぽいかんじでカッコ良く。

「か、書くの!?」 

紙とペンは持っていますよね?

「それは持ってるけど」

サインを書く練習ですよ。ブライアンは近い将来、ビックな監督になるんですから。
有名になったら、いつでもどこでもサインを頼まれるようになるんですよ?
『映画のレゾンデートル』と名前、あと日付も入れて下さいね、プレミア度に関わりますから。

「サインだなんて、僕、まだ決まってな」

記念すべき一枚目のサイン色紙は、もちろん僕にくれますよね?
さあ、どうぞ。ブライアン・シュミット監督!

「もう、強引だなあ、リックは」


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