×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
■アンリ
僕がサロンで寛いでいると、ユウタに付き添われてミハイルが入ってきた。
ジョシュア達が次々に声を掛ける。
「やあ、ミハイル。こんにちは」
「こ、こんにちは、ジョシュア」
「よく来たなあ、ミハイル! 俺様の映画について聞きに来たのか?」
「えっ? えっと……」
ユウタが代わりに答えた。
「ブブー。今日はレッドじゃないよ。さ、ミハイル、こっちこっちー」
ユウタはミハイルの背中を押して、僕の前にやってきた。
ほらミハイル、と囁かれて、彼はおそるおそる一歩前に出た。
「あ、あのっ、アンリ」
なんでミハイルは、僕に話し掛ける時、いつも怯えているんだろう。
「ぼ、ぼくと、一緒に遊んでくれませんかっ」
たったそれだけのことを言うのに、
持てる勇気を振り絞ったみたいな態度は止めて貰いたい。
けれど、彼が僕を誘う遊びと言えば。
「チェス?」
「あっ、ち、違うの。チェスじゃなくてごめんね、ぼくのせいで」
「いちいち謝らなくていいから、さっさと言って」
「えっとね、あのね、ぼくと、せっ」
「せ?」
「せ、戦争ごっこ、してほしいのっ」
ユウタは、よく言えたね、とでもいうようにミハイルに笑顔を見せている。
そんなに賞賛されるべき言動には思えないけれど。
「戦争ごっこ、というと、前に君がやっていたアクティヴィティのことだよね?」
「う、うん」
彼が、かわいこぶって『戦争ごっこ』と呼んでいるゲームは、
実際には、エアソフト、サバイバルゲーム、ペイントボールと言う名の競技だ。
ルールや遊び方には様々なバリエーションがあるが、
ごく単純に言えば、敵味方に分かれ、より多く生き残った方が勝ちとなる。
前回、僕は参加していない。あとから調べてみた限りでは、
アメリカ発祥のペイントボールに近いルールだったようだ。
フィールドは学院内の月桂樹の森。
個人戦のバトルロワイアルではなく、二チームに分かれる殲滅(せんめつ)戦。
司令官指揮の下、兵隊達が撃ち合い、敵全員を殲滅させれば勝ち。
兵隊の装備は、ツナギの迷彩服、プロテクターの他、
失明を防止する為に着用が義務付けられているゴーグル、
チームメンバーと連絡を取る為の無線機など、本格的な物を揃えていた。
使用する武器は、17mmペイント弾に、マーカーと呼ばれる専用の遊戯銃。
ペイント弾なので、命中しても迷彩服が派手に汚れるだけで痛みはないが、
弾に当たった兵隊は“死亡”する。“死体”が生き返る方法はなく、
そのままセイフティーゾーンという名の死体置場に直行となる。
ゲーム終了後、赤いインク塗れの死体達が次々に森から出てくる光景は、
なかなかクレイジーな見物だった。
あの時、司令官役になったのは、ミハイルと彼の兄イワン。勝者はミハイルだった。
「あの時ね、とっても面白かったから、第二回目をしたくて、それで」
「僕に、敵役の司令官をやって欲しい、というわけ?」
ミハイルは必死に頷く。
「そうなの。アンリはチェス、とっても強いから、
戦争ごっこもきっと強いと思ったの。だ、だめ、かな?」
「ねえ、ミハイル。僕を誘う前に、よく考えてみた?
君と違って僕は初めてプレイするゲームなの。
それでも、対等に戦えというの? 僕が圧倒的に不利だと思わない?」
「あっ、そ、そっか。ごめんね、やっぱり、だめだよねっ」
空色の瞳がみるみる水溜まりと化して行く。ユウタが前に出た。
「ちょ、ちょっと! アンリ! ミハイルが遊ぼうって言ってるんだから、そんな言い方!」
「君、ミハイルの何なの? 彼を甘やかすことしかできないなら黙っててくれない?」
涙目の分際で、彼はユウタを庇った。
「あ、アンリ、ユウタに冷たいこと言わないでっ。ぼくが悪いの、全部ぼくが」
今にも泣きそうだ。しょっちゅう泣いていて、よく枯れないものだ。
大体、人前でそんな顔を晒すなんて。目の前で見せられても本当に信じられない。
「君は、落ち着いて、僕の話を最後まで聞いて。誰が『遊ばない』って言った?」
「え、えっ?」
「初心者の僕と、上級者の君では、勝負にならない。そう指摘しただけでしょう?
面白いゲームにする為には、それ相応のハンディが必要。
そういう話がしたいんだけど。ここまでは理解できた?」
「う、うんっ」
「では、ハンディとして、僕に一か月、頂戴?」
「いっかげつ?」
「そう。戦争ごっこの訓練をする為に、それなりの時間が欲しい。
だから本番は来月。今から丁度一か月後のアクティヴィティの日でどう?」
溜まっていた涙が、一筋零れる。これじゃあ、まるで僕が泣かせたみたいだ。
けれど、ミハイルは泣き顔ではなくて、今まで見たことのないような笑顔だった。
「ありがと。やっぱり、アンリ、だいすきっ」
一瞬、何が起こったのか解らなかった。なんで、僕、抱き着かれてるの?
「一か月でも、二か月でも、ぼく待つよ。うれしいなっ、ぼく、とってもうれしいっ」
むかつく。
泣き虫のくせになまいきだ。
fin
僕がサロンで寛いでいると、ユウタに付き添われてミハイルが入ってきた。
ジョシュア達が次々に声を掛ける。
「やあ、ミハイル。こんにちは」
「こ、こんにちは、ジョシュア」
「よく来たなあ、ミハイル! 俺様の映画について聞きに来たのか?」
「えっ? えっと……」
ユウタが代わりに答えた。
「ブブー。今日はレッドじゃないよ。さ、ミハイル、こっちこっちー」
ユウタはミハイルの背中を押して、僕の前にやってきた。
ほらミハイル、と囁かれて、彼はおそるおそる一歩前に出た。
「あ、あのっ、アンリ」
なんでミハイルは、僕に話し掛ける時、いつも怯えているんだろう。
「ぼ、ぼくと、一緒に遊んでくれませんかっ」
たったそれだけのことを言うのに、
持てる勇気を振り絞ったみたいな態度は止めて貰いたい。
けれど、彼が僕を誘う遊びと言えば。
「チェス?」
「あっ、ち、違うの。チェスじゃなくてごめんね、ぼくのせいで」
「いちいち謝らなくていいから、さっさと言って」
「えっとね、あのね、ぼくと、せっ」
「せ?」
「せ、戦争ごっこ、してほしいのっ」
ユウタは、よく言えたね、とでもいうようにミハイルに笑顔を見せている。
そんなに賞賛されるべき言動には思えないけれど。
「戦争ごっこ、というと、前に君がやっていたアクティヴィティのことだよね?」
「う、うん」
彼が、かわいこぶって『戦争ごっこ』と呼んでいるゲームは、
実際には、エアソフト、サバイバルゲーム、ペイントボールと言う名の競技だ。
ルールや遊び方には様々なバリエーションがあるが、
ごく単純に言えば、敵味方に分かれ、より多く生き残った方が勝ちとなる。
前回、僕は参加していない。あとから調べてみた限りでは、
アメリカ発祥のペイントボールに近いルールだったようだ。
フィールドは学院内の月桂樹の森。
個人戦のバトルロワイアルではなく、二チームに分かれる殲滅(せんめつ)戦。
司令官指揮の下、兵隊達が撃ち合い、敵全員を殲滅させれば勝ち。
兵隊の装備は、ツナギの迷彩服、プロテクターの他、
失明を防止する為に着用が義務付けられているゴーグル、
チームメンバーと連絡を取る為の無線機など、本格的な物を揃えていた。
使用する武器は、17mmペイント弾に、マーカーと呼ばれる専用の遊戯銃。
ペイント弾なので、命中しても迷彩服が派手に汚れるだけで痛みはないが、
弾に当たった兵隊は“死亡”する。“死体”が生き返る方法はなく、
そのままセイフティーゾーンという名の死体置場に直行となる。
ゲーム終了後、赤いインク塗れの死体達が次々に森から出てくる光景は、
なかなかクレイジーな見物だった。
あの時、司令官役になったのは、ミハイルと彼の兄イワン。勝者はミハイルだった。
「あの時ね、とっても面白かったから、第二回目をしたくて、それで」
「僕に、敵役の司令官をやって欲しい、というわけ?」
ミハイルは必死に頷く。
「そうなの。アンリはチェス、とっても強いから、
戦争ごっこもきっと強いと思ったの。だ、だめ、かな?」
「ねえ、ミハイル。僕を誘う前に、よく考えてみた?
君と違って僕は初めてプレイするゲームなの。
それでも、対等に戦えというの? 僕が圧倒的に不利だと思わない?」
「あっ、そ、そっか。ごめんね、やっぱり、だめだよねっ」
空色の瞳がみるみる水溜まりと化して行く。ユウタが前に出た。
「ちょ、ちょっと! アンリ! ミハイルが遊ぼうって言ってるんだから、そんな言い方!」
「君、ミハイルの何なの? 彼を甘やかすことしかできないなら黙っててくれない?」
涙目の分際で、彼はユウタを庇った。
「あ、アンリ、ユウタに冷たいこと言わないでっ。ぼくが悪いの、全部ぼくが」
今にも泣きそうだ。しょっちゅう泣いていて、よく枯れないものだ。
大体、人前でそんな顔を晒すなんて。目の前で見せられても本当に信じられない。
「君は、落ち着いて、僕の話を最後まで聞いて。誰が『遊ばない』って言った?」
「え、えっ?」
「初心者の僕と、上級者の君では、勝負にならない。そう指摘しただけでしょう?
面白いゲームにする為には、それ相応のハンディが必要。
そういう話がしたいんだけど。ここまでは理解できた?」
「う、うんっ」
「では、ハンディとして、僕に一か月、頂戴?」
「いっかげつ?」
「そう。戦争ごっこの訓練をする為に、それなりの時間が欲しい。
だから本番は来月。今から丁度一か月後のアクティヴィティの日でどう?」
溜まっていた涙が、一筋零れる。これじゃあ、まるで僕が泣かせたみたいだ。
けれど、ミハイルは泣き顔ではなくて、今まで見たことのないような笑顔だった。
「ありがと。やっぱり、アンリ、だいすきっ」
一瞬、何が起こったのか解らなかった。なんで、僕、抱き着かれてるの?
「一か月でも、二か月でも、ぼく待つよ。うれしいなっ、ぼく、とってもうれしいっ」
むかつく。
泣き虫のくせになまいきだ。
fin
PR