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Marginal Prince Short Story
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■アンリ
仕事でシチリアに行くことになった。
その日、僕の運勢は最悪で、正門前に呼んだタクシーが、
単細胞達と仲の良いドライバーに当たってしまった。
だらしないネクタイが目立つ、金髪の男。
名前はアイヴィー。もしくは司令官、と呼ばれる人物だ。

「よっ、アーンリ。久し振りだな?」

その気さくさが、他の生徒からは人気があるらしいけれど、
僕にとっては、ただ煩いだけで、彼の良さが全く解らない。
学院から空港まで運んでくれるなら、誰でも良い。
車が走り出したら、運転に集中していればいいのに。
なんで、彼はいつも無駄口を叩くのだろう。

「あ、そーだ、アンリ。お前さんに、ひとつ、言っときたいことがあんだよ」

「僕はないけれど」

「俺はあんの。頼むから、これだけ聞いて欲しいんだけどさ」

めんどくさいな。

「何」

「お前さんさ、島にマフィアを密輸入すんの止めてくんない? マジで」

「それ、僕が悪いの?」

「悪いだろ!」

彼が言っているマフィアというのは、おそらく僕のボディガードのことだろう。
ディーノ・マンゾーニ。シチリアの中でも残忍だと言われるマフィアの次期ボス。
護衛や打ち合わせの為に、ディーノを島に出入りさせていたら、
ディーノとドライバーはいつのまにか知り合いになっていた。

だけど、あの暑苦しいイタリアーノを、僕のゲストとして、学院に届け出るつもりなんかない。
もし、僕がマフィアとビジネスをしていると理事会に知られたら、まず良い顔はされないだろうし、
下手すれば、知り合いだというだけでも、退学理由になるかもしれないし。
あんな男と親しいと勘違いされるだけでも、腹が立つ。

「理由があって、ディーノを島に呼びたいんならさ、ちゃんとゲスト登録してだな」

「責任転嫁は止めてくれない? 密輸入を阻止できなかった、そっちが悪いんでしょ?」

「グッ」

言葉に詰まった運転手は、次の瞬間、途端に笑い出した。
どの辺りに嵌ったのか、全く理解できない。

「……壊れた?」

「いやー、はははっ」

涙を指で拭いてる。

「理由が解らずに笑われるのって、とても不快なんだけれど」

「悪かったって。お前さん、ほんと喋るようになったなーと思ったら、可笑しくてさ」

「何が可笑しいの? 君の頭かな?」

また爆笑された。この人は本当に壊れたのかもしれない。
ヒーヒー、言いながら、やっと笑い終わった後、ドライバーは言った。

「入学した頃はマジ無口で、フランス人形みたいなのが来たなーって思ってたから」

「その人形、女性用のドレスでイメージしてない?」

「あっ、あはははっ」と今度は空笑い。

「いいこと教えてあげようか? 僕ね、女の子扱いされることが大嫌いなの」

「あ、あー、そうだったんだー。いやー、ワリィ、ワリィ」

次は思い出し笑いなのか、また笑ってる。

「ねえ。何がそんなに面白いの? そろそろ本気で怒るよ?」

「何がって? そりゃあ、決まってんだろ?
お前さんと、こんなに話せるようになったことさ」


タクシーが空港に到着する。もう何度も見た景色。
僕が予約したチャーター機は向こうに見えた。

「じゃあ」

僕が車を降りると、何故かドライバーも降りてきて、僕の前に立ち塞がった。
なんのつもりかと思っていたら、彼は身を少し屈めて、

「んじゃ、アンリ。気をつけて行ってこい」

ぽんぽんと頭を触られた。


むかつく。
ドライバーのくせになまいきだ。


fin
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