×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
■シルヴァン ハルヤ
「ハルヤー! やっぱり、ここに居たんですねー」
よく通る声は二階まで吹き抜けになっている図書館に響き渡る。
静寂を愛する司書に軽く睨まれて、すぐに頭を下げた。
長い髪を揺らして入ってきたのはシルヴァン・クラーク。この聖アルフォンソ学院の高等部二年だ。
シルヴァンは椅子に掛けていた友人の元に急ぐ。
ライブラリ付属のカフェ。大きな窓から夏の日射しが差し込んでいる。
四人掛けのテーブルが多い中、眼鏡を掛けた日本人は、三人掛けの丸テーブルに一人で座っていた。
先月、シルヴァンと同じ寮に入ったハルヤ・コバヤシ。高等部一年。
彼は、捲っていた分厚い漫画雑誌から目を離して、シルヴァンを見上げた。
「遅かったじゃん。今回の、面白いよ?」
シルヴァンは机に両手を突く。
「もー。ライブラリに行くなら、僕にも声掛けて下さいよー。なんでひとりで行っちゃうんですかー」
「え? シルヴァンなら、黙っててもここに来ると思って。ダメだった?」
菫色の瞳がぱちりと瞬いた。
「ダメじゃ、ないです」
「座ったら?」とハルヤに言われて、隣の椅子を引いた。
二人で読むのは日本で毎週発売されている漫画雑誌。
ハルヤが入学初日から取り寄せているものだ。
表示されている発売日は一週間前。これは先週号。
孤島に居る限り、その程度の遅れは気にならなかった。
最初はハルヤ一人で読んでいたのだが、
日本好きのシルヴァンに見付かって以来、毎週一緒に読んでいた。
読み終わった後は、カフェのドリンクで一息入れる。
漫画の話で盛り上がった後、シルヴァンは『竜の涙』から唇を離した。
「あっ、そうだ。僕、ハルヤに聞きたいことがあったんです!」
ハルヤはアイスグリーンティをストローで飲んでいた。
「なに?」
「夏になると、日本ではヌードルが旅に出るって聞いたんですけど、本当ですか?」
ある先輩から『東洋の黒い真珠』と謳われる瞳が困惑する。
ハルヤは一応、頭の中で友人の台詞を反復する。けれど、理解できなかった。
「いや、旅には出ないよ? てゆうか、ごめん。全然意味がわかんないんだけど」
「えっ? ハルヤ、前に言ってたじゃないですか」
「なんて? 俺、そんなこと言った?」
「僕の好きな、あのマンガ、あるじゃないですか。
主人公が、昔、ヒトキリバットウサイと呼ばれたサムライの」
「ああ。うん」
二人が愛読するこの雑誌にも、かつて連載されていた。
正統派の侍モノで、シルヴァンの好みにどストライクの漫画だ。
「で、それがどうしたの?」
「彼はあちこち旅をしてきた、『ナガシのサムライ』なんですよね?」
「そうだね」
「じゃあ、やっぱり『旅するヌードル』じゃないですかー」
「えっと、どうして、そうなっちゃうのか、やっぱりわかんないんだけど」
シルヴァンの話をよくよく聞いた後、
ハルヤは、やっと理解した。お腹を押さえて、ちょっぴり涙を流しながら。
「シルヴァンってほんと面白いよね。『流しそうめん』のこと、『旅するヌードル』だなんて」
思わず、童話かさこじぞうの如く、かさを被った麺を想像してしまい、余計に可笑しい。
シルヴァンは腕を組んで、感慨深げに言う。
「成程。『ナガシソーメン』のナガシと、『ナガシのサムライ』のナガシでは、意味が違うんですね。
日本語は、同じ言葉なのに意味が違うパターンがあるので、とっても難しいです」
「そう? 英語だって、あるじゃん。rightとlightとか。noとknowとか」
「数が違いますよー。英語と日本語とは比べ物になりません。
だって、たくさんたくさんあるじゃないですかー。例えばアメとアメとか、あとは、えーっと」
「クモとクモ。ハシとハシ。キシャのキシャはキシャでキシャした、とかね?」
「ほらー。もう、さっぱり解らないですー」
両の手の平を空に向ける。
いかにも外国人らしいジェスチャーを見て、ハルヤはちょっと笑ってしまった。
「あ! 僕、イイコト思い付きました!」
シルヴァンが両手を合わせた。パン、と良い音がした。
「今度、ナガシソーメン・パーティをしてみませんか!? 僕達がホストで!」
「あ、それ、みんなにはウケるかもね。たぶん、初めて見る物だろうし」
「やりましょう、やりましょう!」
「でも、待って。流しそうめんって、色々めんどくさくないかな?
結構大掛かりじゃん? 竹を用意して、割って、中の節を取ったりしなきゃいけないし」
「あ! パーティのBGMも決めなきゃですね!」
「あ、あの。聞いてる?」
「やっぱりニッポンの音楽にしたいですから、『ジーンセイ、ラク、アリャ』が良いですかね!?」
ハルヤは自然と日本人的微笑みをしていた。
「うーん。合うかなあ?」
シルヴァンが席を立つ。
「早速、パーティの準備に取り掛かりましょう! ハルヤ、行きますよ!」
「あ、ちょっと、これ返してこないとっ」
雑誌を抱えて、ハルヤが立ち上がる。
丸テーブルの上で、二つのグラスが夏の太陽を浴びていた。
fin
「ハルヤー! やっぱり、ここに居たんですねー」
よく通る声は二階まで吹き抜けになっている図書館に響き渡る。
静寂を愛する司書に軽く睨まれて、すぐに頭を下げた。
長い髪を揺らして入ってきたのはシルヴァン・クラーク。この聖アルフォンソ学院の高等部二年だ。
シルヴァンは椅子に掛けていた友人の元に急ぐ。
ライブラリ付属のカフェ。大きな窓から夏の日射しが差し込んでいる。
四人掛けのテーブルが多い中、眼鏡を掛けた日本人は、三人掛けの丸テーブルに一人で座っていた。
先月、シルヴァンと同じ寮に入ったハルヤ・コバヤシ。高等部一年。
彼は、捲っていた分厚い漫画雑誌から目を離して、シルヴァンを見上げた。
「遅かったじゃん。今回の、面白いよ?」
シルヴァンは机に両手を突く。
「もー。ライブラリに行くなら、僕にも声掛けて下さいよー。なんでひとりで行っちゃうんですかー」
「え? シルヴァンなら、黙っててもここに来ると思って。ダメだった?」
菫色の瞳がぱちりと瞬いた。
「ダメじゃ、ないです」
「座ったら?」とハルヤに言われて、隣の椅子を引いた。
二人で読むのは日本で毎週発売されている漫画雑誌。
ハルヤが入学初日から取り寄せているものだ。
表示されている発売日は一週間前。これは先週号。
孤島に居る限り、その程度の遅れは気にならなかった。
最初はハルヤ一人で読んでいたのだが、
日本好きのシルヴァンに見付かって以来、毎週一緒に読んでいた。
読み終わった後は、カフェのドリンクで一息入れる。
漫画の話で盛り上がった後、シルヴァンは『竜の涙』から唇を離した。
「あっ、そうだ。僕、ハルヤに聞きたいことがあったんです!」
ハルヤはアイスグリーンティをストローで飲んでいた。
「なに?」
「夏になると、日本ではヌードルが旅に出るって聞いたんですけど、本当ですか?」
ある先輩から『東洋の黒い真珠』と謳われる瞳が困惑する。
ハルヤは一応、頭の中で友人の台詞を反復する。けれど、理解できなかった。
「いや、旅には出ないよ? てゆうか、ごめん。全然意味がわかんないんだけど」
「えっ? ハルヤ、前に言ってたじゃないですか」
「なんて? 俺、そんなこと言った?」
「僕の好きな、あのマンガ、あるじゃないですか。
主人公が、昔、ヒトキリバットウサイと呼ばれたサムライの」
「ああ。うん」
二人が愛読するこの雑誌にも、かつて連載されていた。
正統派の侍モノで、シルヴァンの好みにどストライクの漫画だ。
「で、それがどうしたの?」
「彼はあちこち旅をしてきた、『ナガシのサムライ』なんですよね?」
「そうだね」
「じゃあ、やっぱり『旅するヌードル』じゃないですかー」
「えっと、どうして、そうなっちゃうのか、やっぱりわかんないんだけど」
シルヴァンの話をよくよく聞いた後、
ハルヤは、やっと理解した。お腹を押さえて、ちょっぴり涙を流しながら。
「シルヴァンってほんと面白いよね。『流しそうめん』のこと、『旅するヌードル』だなんて」
思わず、童話かさこじぞうの如く、かさを被った麺を想像してしまい、余計に可笑しい。
シルヴァンは腕を組んで、感慨深げに言う。
「成程。『ナガシソーメン』のナガシと、『ナガシのサムライ』のナガシでは、意味が違うんですね。
日本語は、同じ言葉なのに意味が違うパターンがあるので、とっても難しいです」
「そう? 英語だって、あるじゃん。rightとlightとか。noとknowとか」
「数が違いますよー。英語と日本語とは比べ物になりません。
だって、たくさんたくさんあるじゃないですかー。例えばアメとアメとか、あとは、えーっと」
「クモとクモ。ハシとハシ。キシャのキシャはキシャでキシャした、とかね?」
「ほらー。もう、さっぱり解らないですー」
両の手の平を空に向ける。
いかにも外国人らしいジェスチャーを見て、ハルヤはちょっと笑ってしまった。
「あ! 僕、イイコト思い付きました!」
シルヴァンが両手を合わせた。パン、と良い音がした。
「今度、ナガシソーメン・パーティをしてみませんか!? 僕達がホストで!」
「あ、それ、みんなにはウケるかもね。たぶん、初めて見る物だろうし」
「やりましょう、やりましょう!」
「でも、待って。流しそうめんって、色々めんどくさくないかな?
結構大掛かりじゃん? 竹を用意して、割って、中の節を取ったりしなきゃいけないし」
「あ! パーティのBGMも決めなきゃですね!」
「あ、あの。聞いてる?」
「やっぱりニッポンの音楽にしたいですから、『ジーンセイ、ラク、アリャ』が良いですかね!?」
ハルヤは自然と日本人的微笑みをしていた。
「うーん。合うかなあ?」
シルヴァンが席を立つ。
「早速、パーティの準備に取り掛かりましょう! ハルヤ、行きますよ!」
「あ、ちょっと、これ返してこないとっ」
雑誌を抱えて、ハルヤが立ち上がる。
丸テーブルの上で、二つのグラスが夏の太陽を浴びていた。
fin
PR