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Marginal Prince Short Story
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■テオ×クラウス
「今日のおやつは、真夏の海をイメージして作ってみました」

放課後のシュヌーシア寮サロン。
寮の専属シェフ、ドニ・ドームが、小さなパフェグラスを生徒達に配っている。
最後に、短髪の生徒の前に来た。

「あの、クラウス様用に、甘さをかなり控えて作ってみたんです。よろしければお試し頂けますか?」

「……ああ。すまない」

下級生の一人が、自分のパフェを指差した。、

「うわ、このパフェ、なんか青い! ドニ、これ何で出来てんの?」

小柄なシェフが振り向く。
頭のバンダナと首のコックチーフの色も、今日はマリンブルーだった。

「ブルーハワイのシロップで色を付けたゼリーです。青い海ということで。その上のバニラアイスは白い雲、と思って頂ければ」

「ねえ、ねえ。このオレンジの星はー?」

「クッキー用の型で、赤肉のメロンを星の形にしたものです。いちお、ヒトデのつもりで」

「メロンなんだー。ドニのおやつ、いつも面白いね」

ぴょこんと頭を下げて「ありがとうございます」

「じゃあ、この赤いチェリーはエビかなあ?」

「カニじゃね?」

「ばーか。サンゴだろ? なっ、ドニ?」

子供好きのシェフが幸せそうに笑う。

「どれも赤ですから、皆さん正解ですよ」

「あれ? 俺のは星、入ってないみたいなんだけど。四角いメロンばっかだぜ?」

「はい。星のメロンは入っているグラスと、入っていないグラスがあります」

「マジでっ!?」

「僕の入ってたー」

「俺もアタリー!」

「おや。私のも星だ」

「え。入ってないの俺だけか?」

「俺も入ってない」

「落ち込まないで、クラウス。私のをあげるから。はい、あーん」

「い、要らんっ! 自分のは自分で食べろ」

いつものように賑やかなおやつの時間。大きな窓からは眩しい日が差している。
もうすぐ楽しい夏休み。
シュヌーシアの生徒達は、おやつを食べながら、今年の夏休みの予定について話し合っていた。

「やっぱ旅行かなー、今年も」

「だねー。あ、おい、アイス落とすなよ」

「どこ行くか、もう決めた?」

「いんや、まだ。あちこち行き過ぎて、残ってんのは中東くらいかなー」

「夏休みの旅行先にしてはスリリング過ぎだな」

「いいなあ、旅行できて」

身体の弱い生徒がぽつりと零した。
保健室に一番近いこの寮には、毎年、心身に病やハンディのある生徒が入る。
身体に負担が掛かる長期旅行は、彼等には難しいのだ。

「帰って来たら、旅行の楽しいお話、聞かせてね」

「解ってるっつの。おみやげ、期待してろよな!」

「僕、美味しいお菓子がいい」

「おっし、任せろ!」

「うん。任せたっ」

「あっ、そうだ!」

金髪の生徒が指を鳴らす。

「夏だからクリスマスパーティをしよう!」

髪の色同様、輝いた笑顔を見せているのは、中等部三年のテオ。

「みんなが夏休みに入る前に、海辺でパーティ! ね、どうかな、クラウス!」

隣に座っていた高等部一年のクラウスは溜め息を吐いた。

「何故、夏なのにクリスマスをやる必要があるんだ」

「だって、ブラジルでは夏にクリスマスをやるのだろう? アルベルトが言っていたから間違いないよ?」

アルベルトは、ウーティス寮の高等部一年。ブラジルの大富豪の末っ子だ。
テオの家はギリシャの海運王、姉が一人居る。
似た境遇に生まれ育ったせいか、アルベルトとテオは気質が似ていて、仲が良かった。

「ブラジルはサマークリスマス! 水着を来たサンタさんがプレゼントをくれるのだよ!」

クラウスはテオの肩に手を置く。

「落ち着け、テオ。南半球は北半球と季節が逆になるから、ブラジルの12月25日頃は季節的には真夏なんだ。解るか?」

「うん」

「だからな? 例え南半球でも、『夏だから』クリスマスをやっているのではなく、『12月だから』クリスマスなのであって、
お前が先程言った『夏だからクリスマスパーティをしよう』という発言は、英語として正確ではな……」

「うん。解ってるよ? でも、一年に二回クリスマスを楽しんでもいいんじゃないかなあ。神様だってきっと喜んで下さると思うし」

「あのなあ」

長髪の上級生が、クラウスの頭にポンと手を置いた。

「クラウスは頭が堅いんだよ。パーティの口実になれば、何でもイイじゃん?」

別の上級生が加勢する。

「そう、そう。テオとチューしたくせにおカタイぞ、クラウス」

「……それは、今、関係ないでしょう」

クラウスの視線が厳しくなる。
それでも、睨むまでには至らないのは、上下関係を遵守する軍人の家に生まれた故だろう。

「何度も言うようですが、あれは、人、工、呼、吸、です」

一年前、クラウスがこの島に降り立った日の話だ。
浜辺で寮のみんなと遊んでいたテオは、あるトラブルから海で溺れ、呼吸停止状態となった。
その時、浜辺を通り掛かったクラウスが、マウス・トゥ・マウスでテオを救った。

ディナーの時間に、紹介された新入生がクラウスだった。
そうして、テオを生き返らせたヒーローと再会したのだった。

それ以来、クラウスは何かとテオとセット扱いされるようになる。
当時、現場に居た生徒達にとっては特に、一年経った今でも色褪せない思い出なのだ。

「いやー、あれはまさに、21世紀版、白雪姫だったよなー」

「でも、俺達の可愛いテオの唇が、こんな馬鹿マジメ野郎に奪われるなんてなー」

「二人とも、そのくらいにしてあげなよ?」

穏やかな性質の最高学年が、やんわりと注意する。

「ごめんね、クラウス。あの時のことは、みんな、ほんとに感謝してるんだ。
僕達が大好きなテオを助けてくれたんだから」

「はあ……」

「あ、話を元に戻すけど。サマークリスマスは、僕も面白そうだと思うよ?
この学院では、パーティは好きな時に好きなものをやっていいことになってるから。
ねえ、テオ。僕もパーティに呼んでくれるかな?」

「もちろん!」

「テオ、テオ、パーティするなら、僕も入れて」

「俺も俺も!」

「じゃあ、サマークリスマスに何をするか、みんなで決めよう」

テオの掛け声で寮生達が一気に盛り上がる。
クラウスは苦い表情をしながら、パフェを口に運んでいた。

流石は寮専属シェフである。
甘いものが苦手なクラウスの口にも合う味になっていた。

もう残り少ない。グラスの底にスプーンを入れる。
生クリームの下から、オレンジ色の星が顔を出した。


fin
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