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Marginal Prince Short Story
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■テオ×クラウス
■過去の拍手お礼
聖アルフォンソ学院に鐘の音が鳴り響く。今日の講義が全て終了した。
生徒達は教室から出て、それぞれの寮に戻って行く。

「ああ。今日のクラウスも、とても凛々しかった」

帝王学の教室では、テオが満足の笑顔を見せている。
隣の席のクラウスは、呆れの溜め息を吐く。

「お前なあ。授業中に、俺に注目するなといつも」

「発言している時くらいは良いじゃないか」

「お前の視線は、痛いほど感じるんだよ」

「だって、貴方のことが、いと」

愛おしいのだもの、と続く前に唇を右手で抑えた。全く、こいつの友情表現は大袈裟過ぎて困る。
無言のまま、テオを目で注意すると、ちっとも悪びれない笑顔を見せられた。
急激にどうでもよくなり、「帰るぞ」と手を離した。

校舎を出て、寮まで肩を並べて歩いていく。クラウスは一日が終わった疲れを感じながらも、
寮に戻ったら、あれとこれの予習復習をして、などと頭の中は忙しく動いていた。
それにつられたのか、歩調が早くなっていた。

自分の歩幅が他人と比べて大きく、足が早い自覚はあった。
テオの歩みが自分よりずっと遅いことも知っている。
誰かと一緒に歩く時は意識して速度をセーブして歩かなくてはならない。
遅く歩こうとしたら、テオが立ち止まった。

「どうした?」

「今日も綺麗な夕焼けだね。なんて美しいのだろう」

クラウスは顔を上げる。空はすっかり橙色になっていた。
太陽と海を愛していると言って憚らない友人が、赤い太陽に見惚れている。

クラウスは友人の横顔を見ながら、少し疑問を感じていた。
この時刻になれば、空の色は変わる。毎日繰り返される、当たり前の現象なのに。
それにいちいち感動できるテオのことが、クラクスには不思議で、少しだけ羨ましくも感じていた。

学問や運動神経においては自信がある。もちろんテオよりも。
けれど、性格や感性は、あちこちに欠陥があるのだと、この学院に入ってから気付かされた。

こと感受性についてはテオより明らかに劣っている。
テオに言われなければきっと、夕陽も見ずに、寮に入っただろう。
ただ前を向いて歩いている自分には、感動以前に、
足を止めて空を見上げてみることさえできないのだから。

それが生きる上で必要なことなのか、と聞かれれば答えに詰まる。
だが、自分に足りない部分があること、負けていることが、悔しいのだ。

「ねえ、クラウス」

夕陽を愛でながら、ゆったりとテオは言った。

「どうして、夕焼けは美しいか、解るかい?」

「ああ」

なんだ、そんなこと、と思った。

「レイリー散乱によるものだろう?」

イギリスの物理学者、レイリー卿が発見した現象。空が青く、夕焼けが赤い理由だ。
夕方は、昼間と比べて、太陽と地上までの距離が長い。
波長の短い青色光は途中で散乱して届かず、波長の長い赤色光だけが届くことによる。
物理学の試験でも、そう回答して正解している。
しかし、何故かテオに笑われた。 

「何が可笑しい? 間違っているとでも言うのか?」

「いや。真面目だねえ、クラウスは。
もちろん、貴方の答えも正解なのだろうけれど、私が用意していた正解とは違うな」

他の答えは存在しない筈。クラウスは不満だった。

「じゃあ、なんだ?」

「夕焼けが美しいのはね?」

テオは空を見つめる。

「地球上の全てを癒す為なのだよ? 皆の今日の疲れ、悲しみ、傷を慰める為に」

だから美しいの、とテオは笑った。

ああ、まただとクラウスは思う。こいつと話していると、時々こういう瞬間が訪れる。
何かと理詰めで物事を考えるくせがある自分と、
全く正反対の、空想的で壮大な発想を持っている友人。

テオの言葉は、1ミリも科学的でないのに。
それでもどこか、的を突いているようにも思えるのだ。

「誰が決めたんだ、そんなこと」

悔し紛れに呟くと、笑顔が返ってきた。

「私の姉上」

「あの人か」

テオの家へ招かれた時に会ったことがある。弟と良く似た、美しい女性。

「姉上が言うのだから間違いないよ。ね、クラウスもそう思うだろう?」

問われて、夕空を仰ぐ。黄、橙、赤と溶け合った青。
どんな絵の具を使っても、あの色は出せない気がする。

「メネシス家らしい正解だとは思う」

テオの言葉を否定することはできなかった。
さっきまで感じていた一日の疲れは、どこに消えたのだろう?
クラウスは顔を空に向ける。ゆっくりと橙色の雲が流れていく。
そんな可能性があっても良いのかもしれない、1ミリくらいは。

「……俺も大分、毒されているな、お前に」

「え? ごめん、聞こえなかったよ、クラウス。なんだい?」

「いいや。早く帰るぞ」

クラウスが歩き出すと、「そうだね」とテオが付いて来る。

「うちに着いたら、エスプレッソにする? それとも」

「エスプレッソ」

二人の長い影が夕陽に照らされていた。


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