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Marginal Prince Short Story
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■テオ×クラウス
共にある奇蹟(1) 続編
空港に向かって、黒のリムジンが海沿いを走っている。
今日の運転手は、学院の専属ドライバーであり警備組織司令官のアイヴィー。
クラウスとは、生徒代表と警備責任者として、一年間、苦労を共にしてきた。
生徒代表の旅立ちの日には司令官自ら運転手を務める、という規則はないのだが、組織内ではそれが自然と慣例になっていた。

今日は快晴。車の窓からも、青い空と海がはっきりと見える。
そう言えば、三年前、クラウスがこの島に降り立った日も、よく晴れた気持ちの良い日曜日だった気がする。
今日も晴れにしてくれてサンキュ、と誰かに感謝したい気分だ。

「あ、そだ。クラウスー。そこら辺にリモコンあるだろ?
この車、テレビも見れるし、脇の冷蔵庫にはシャンパンも入ってるぜ?」

「要らん。すぐ着くだろう」

運転手がルームミラーを見上げると、後部座席のクラウスは腕を組んで、眉間に皺を寄せていた。

「なんで、こんな長い車で来たんだ。俺一人を乗せるだけなのに」

「ありゃ? お気に召さなかった?」

八人乗りのシートに、乗客はクラウスだけだった。
今日、アイヴィーが乗ってきたのは、自分が所有している車ではなかった。

1959年型キャデラックリムジン・ブラック。
キャデラックと言えば、大統領専用車両にも選ばれる、アメリカの高級メーカー。
これが聖アルフォンソ学院の車庫に何気なく置かれているのを発見した時は驚いたものだ。

しかも、この車には翼がある。ボディの後部に、軍事航空機のような尾翼があるのだ。
これは1950年代から60年代に大流行した、テールフィンというデザインだ。
中でも最も美しいテールフィンだと讃えられるのがこの1959年型。

「最後くらいは、いっちゃんカッコイイのに乗せてやりたいと思って、
車庫の奥から引っ張り出して、わざわざ借りてきたんだぜ?」

「最後だから、いつもの、お前の車に乗りたいと思うだろう、俺としては」

「あー。あははっ。そこまで気が回らなかったわ。最後までぐだくだで、悪いねー」

「次の生徒代表は聞いているな?」

「……ああ。テオだってな」

クラウスとテオは同じ寮。そしておそらく自他共に認める親友同士。それはアイヴィーにも見て取れた。
二人が共に居る光景はよく見掛けていたし、二人を乗せてドライブしたことも何度だってある。
新しい代表の名前を聞かされた時、今年は辛い任命式になるだろうなとアイヴィーでさえ思ったのだ。
今、後部座席に居るクラウスは、その任命式を終えて、そこに座っているのだ。

「いいか? テオが書いた重要書類は、必ずアイヴィーもチェックしてくれよ。
特に外部に送る手紙やメールは、誤字がないか、英語として可笑しな表現がないか気をつけて見てくれ。
あいつは正確性に欠ける上に、自己点検を怠るところがある。
あと、会議中、あいつがぼーっとしている時は、
間違いなく話を聞いていないから、アイヴィーが注意しろよ。
授業中も教授の話を聞かずに、全く関係ないことを夢想しているような奴だからな。それから」

そこでアイヴィーは笑った。

「何が可笑しい?」

「大丈夫だって。テオのことは、俺が責任持ってフォローするし、守るから」

「しかし、お前もルーズなところがあるからな。大丈夫なのか、次年度は」

「ご期待に応えられるように精進しまーす」

「語尾を伸ばすな」

「ははっ。クラウスのダメ出しも今日で最後だと思うと、『もっと言ってー』ってかんじ」

「マゾヒスティックな発言は止せ」


高級リムジンが空港に着く。
クラウス一人を乗せる為だけに来た、特別チャーター機。王のみに仕える鉄の鳥だ。
運転手は車を停め、先に車から降りた。従者みたいに恭しくドアを開けてやる。

「ご乗車お疲れ様でした。空港に到着致しました、クラウス・フォン・モール様」

「止めろ、似合わん」

そう怒られて、アイヴィーは笑った。
従者っぽく振る舞った自分が可笑しかった。そんなの、この学校ではしたことないのに。
クラウスに怒られたくてわざとやったのだろうか、と思うと、また笑えた。

「ほんじゃ、元気でな、クラウス。多分、向こうでも忙しいことになるんだろうけど、
あんま肩肘張らずに……って、お前さんには難しいかもだけど。
ま、時々でいいから、テイク・イット・イージーって言葉を思い出すようにな?」

「なるべくな」

「あー、全然やる気ないだろ? 『手を抜けるところは抜く』これ、俺のモットー」

「お前の、だろ? 俺には無理だ」

クラウスはこう言葉を続けた。

「だが、まあ、お前のモットーも、年に一度くらいは思い出すようにする」

「ん。それでもクラウスにしては上出来だな」

入学当時は、天然記念物レベルのドイツ軍人タイプだった。
聖アルフォンソ島で暮らした三年間が、
ガチガチだった頭に柔軟性を与えてくれたのだろうとアイヴィーは思った。
ドイツ軍人の名家に生まれたクラウス。
祖国に帰れば、軍人のエリートコースに乗るのだろう。
アイヴィーは島に来るまでは某軍に居た。
クラウスとはこの先、どこかで会うかもしれない。敵対関係でないことを願う。

「じゃー、気を付けて」

軽い調子でアイヴィーは片手を挙げた。

「アイヴィー」

「んー?」

クラウスがアイヴィーを少し見上げる。

「世話になった」

「えっ?」

「アイヴィーのおかげで生徒代表の任務もスムーズにこなせた。
それから、警備組織による日々の働きによって、
俺達生徒は今年も一年間、安全に暮らせた。生徒を代表して、改めて礼を言わせてくれ」

足を揃え、深く頭を下げた。

「ありがとうございました」

軍人の家柄らしい、何よりクラウスらしい誠意ある礼だった。
アイヴィーは思わず笑ってしまう。

「どーいたしまして。お前さん、いい上官になるわ」


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