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■テオ×クラウス
■時間軸:共にある奇蹟 序章→或る処 -Claus-→本作
■プロット作成協力:シハル姉さん
古時計の秒針は刻々と時を刻んでいる。
生徒代表室では、生徒代表の任命式が執り行われていた。
クラウスからテオへ、生徒代表という役目が、ひとつひとつ引き継がれているのだ。
生徒代表とは何か、から始まり、任務の詳細や理事会についてなど、
学院の機密事項とも言える情報が、クラウスの口から語られていく。
説明は、クラウスが一人で作成した冊子を元に行われている。
生徒代表マニュアルとして、この部屋に寄贈できるほどの完成度。
これさえあれば、口頭説明も必要ないくらい、
丁寧かつ正確に、生徒代表の全てが記されている。
明らかに、一昼夜で作成できるような物ではなかった。
クラウスとテオは机を挟んで、向かい合って座っている。
これ以上ないほど完璧な段取りで業務説明は進む。
手製のマニュアルを片手に、クラウスは機械的に語っていた。
テオは机上のマニュアルを目で追っていた。
序盤は相槌を打ちながら聞いていたのだが、
それも徐々になくなり、後半になると一言も発さなくなっていた。
それでもクラウスの話すスピードは一定に保たれたまま、最終ページへ辿り着いた。
「説明は以上だ。質問はあるか?」
うん、と頷く。
「言ってみろ」
「明日になったら」
テオは俯いたまま、小さな声で呟いた。
「クラウスは、本当に、シュヌーシアに居ないのかい?」
生徒代表についての不明点を尋ねているのに。
関係のないことを聞くな。いつものクラウスなら、間違いなくそう言っただろう。
だが、その時は言わなかった。テオの声は微かに震えていた。
クラウスはテオの言葉に短く応じる。
「ああ。他に質問は?」
「私は生徒代表を辞退してはいけないの?」
「何?」
「私に貴方の後が継げる筈がないよ。貴方は最高の生徒代表だったもの」
「俺と比べる必要はない。任命された時点で、お前は次代の生徒代表に相応しい生徒だと認められている」
テオは首を横に振った。
クラウスは右の拳を握り締める。重い一息を吐いてから言った。
「生徒代表は指名制だ。余程の理由がない限り、断ることはできない。
お前に辞退できる理由があるのか?」
「新しい生徒代表が居なければ、貴方がこのまま」
「例え、お前が辞退できたとしても、俺は本日をもって生徒代表の任を解かれ、
任命式が終了次第、この学院を去ることは変えられない」
「でも私は」
「俺の後を継がせてやるって言ってるんだぞ! 他の奴に任せてもいいのか!?」
「……やだ」
「帝王学で学んできたことを無駄にするな。習っただろう?
王たるもの、国を守る為には時に自己犠牲も必要だ。自分を律し、皆を導く。
これからはお前が、この島の王になるんだぞ。一時の感情に流されるな」
クラウスの背景に彼の肖像画が見えた。高い位置にある。手を伸ばしても届かない。
自分がどう足掻いても、あの絵を外すことはできないのだと言われているようだった。
「クラウス……」
「いいか? 与えられた責務は最後まで果たせ。絶対に途中で投げ出すな。
お前にはできる。学院の運営組織も、お前が持つ、王の資質を認めたんだ」
「クラウスは? 貴方も私ならできると思ってくれたのかい?」
「新代表の最終決定には、現代表の承認が必要だ」
テオは何も言わなかった。クラウスは冷静な声で言った。
「質問がないなら、生徒代表の任命式はこれで終わりだ」
はっとテオは顔を上げる。クラウスが席を立つ。
「新しい生徒代表の健闘を祈っている」
テオに背を向けて歩き出す。
すると、後ろからクラウスの左手首が掴まれた。振り払おうと思えば、振り払えるほど弱い力。
「離せ、馬鹿」
「解らないよ」
クラウスを掴む力が少しだけ強くなる。
「明日から貴方が居ないなんて。私はどうすればいいのか解らない」
クラウスはそこで軽く笑った。
「それなら簡単だ」
「えっ?」
「今までお前が散々やってきたことだろう?」
クラウスはテオを見つめて、言った。
「楽しいことをしろ。お前から『楽しむこと』を取ったら、他に何が残る?」
正門前には、黒のリムジンが待っていた。クラウスを空港まで運ぶ車だ。
ドライバーは高級車に凭れて、煙草を吸っている。見送り待ちだ。異例である。
クラウスとの別れを惜しむように、シュヌーシアの生徒達が正門前まで見送りに来ていた。
「クラウス。あのね、これ、みんなで書いたの」
寄せ書きのフォトフレームが渡された。立派な額の中央にシュヌーシア寮生の集合写真。
周りの余白部分には、寮生全員からの寄せ書き。
一番上には題字として「シュヌーシアのお父さん、クラウスへ」と書かれていた。
「何かコソコソ用意していると思ったら、これだったのか。こんな大きな物を最後にくれるとはな」
「とか言ってー。ホントは嬉しくて泣きそうなくせにー?」
「誰が」
中等部一年のラビは手で涙を拭きながら、
「行っちゃやだよ、クラウス、僕達のお父さんなのに」
「泣くな。今生の別れでもあるまいし」
「ドイツに行っても、僕達のこと忘れないでね。元気でね、クラウス」
「それはお前だ、ラビ。喘息も大分良くなってきたんだから、
これからも身の回りは綺麗に。部屋の片付けを忘れるなよ」
「うん」
「あ、ラビだけズルイ。僕にも何か言って」
「お前は、試験勉強に対して、もう少し真面目に取り組め。
本気でやれば高得点が狙えるんだから、わざと手を抜くのを止めろ」
「俺にも言ってー!」
「俺も聞いてやってもいいぜ、クラウス」
突然のリクエストだったが、クラウスは全く迷う様子なく、全員にひとつずつ小言を言い残した。
そのどれもが的確な指摘だったことに、寮生達は改めて驚かされた。
「これで全員言ったか」
「最後にテオが残ってるぞ」
テオとクラウスの目が合う。クラウスは視線を逸らした。
「テオはいい。伝えるべきことは、任命式で全て伝えてある」
クラウスは腕時計を見る。
「もう時間だ」
生徒達を見守っていたドライバーが煙草を灰皿に押し付ける。
車へ向かう前に、クラウスは言い忘れていたことを思い出した。
「お前達に最後に言っておきたいことがある」
「なに?」
「消灯時間は守れ。翌日の講義に障る。解ったな?」
最後は笑って、お別れとなった。
ドライバーが後部座席のドアを開ける。
リムジンが出発した。黒い車は徐々に小さくなり、道の向こうに消えていった。
「泣かなかったね、クラウス。最後くらいは初めて泣いた顔が見れるかもって思ったけど」
下級生がそう言うと、上級生が笑った。
「泣くわけねーだろ、あいつが。ラビはもう泣くな。おい、レオン、慰めてやれ」
「なんで、俺が」
「いつまでも悲しんでたって仕方ないよ」
「俺達にはまだテオが居るしな?」
「そうだよ。新しい生徒代表だし! ね、テオ!」
寮生達がテオに注目する。湿った空気を払拭する一言を望んでいた。
テオならできる。皆を元気にしてくれる。
しかし、その期待はテオの顔を見た途端、間違いだったと気付いた。
「ごめん」
それだけ言って、テオは寮へ駆け出した。
「テオッ!」
追い駆けようとしたラビの腕をレオンが捕らえた。
「行くな、ラビ」
「でも、テオ、今泣いて」
「だからだろ。一人にしてやれ」
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■時間軸:共にある奇蹟 序章→或る処 -Claus-→本作
■プロット作成協力:シハル姉さん
古時計の秒針は刻々と時を刻んでいる。
生徒代表室では、生徒代表の任命式が執り行われていた。
クラウスからテオへ、生徒代表という役目が、ひとつひとつ引き継がれているのだ。
生徒代表とは何か、から始まり、任務の詳細や理事会についてなど、
学院の機密事項とも言える情報が、クラウスの口から語られていく。
説明は、クラウスが一人で作成した冊子を元に行われている。
生徒代表マニュアルとして、この部屋に寄贈できるほどの完成度。
これさえあれば、口頭説明も必要ないくらい、
丁寧かつ正確に、生徒代表の全てが記されている。
明らかに、一昼夜で作成できるような物ではなかった。
クラウスとテオは机を挟んで、向かい合って座っている。
これ以上ないほど完璧な段取りで業務説明は進む。
手製のマニュアルを片手に、クラウスは機械的に語っていた。
テオは机上のマニュアルを目で追っていた。
序盤は相槌を打ちながら聞いていたのだが、
それも徐々になくなり、後半になると一言も発さなくなっていた。
それでもクラウスの話すスピードは一定に保たれたまま、最終ページへ辿り着いた。
「説明は以上だ。質問はあるか?」
うん、と頷く。
「言ってみろ」
「明日になったら」
テオは俯いたまま、小さな声で呟いた。
「クラウスは、本当に、シュヌーシアに居ないのかい?」
生徒代表についての不明点を尋ねているのに。
関係のないことを聞くな。いつものクラウスなら、間違いなくそう言っただろう。
だが、その時は言わなかった。テオの声は微かに震えていた。
クラウスはテオの言葉に短く応じる。
「ああ。他に質問は?」
「私は生徒代表を辞退してはいけないの?」
「何?」
「私に貴方の後が継げる筈がないよ。貴方は最高の生徒代表だったもの」
「俺と比べる必要はない。任命された時点で、お前は次代の生徒代表に相応しい生徒だと認められている」
テオは首を横に振った。
クラウスは右の拳を握り締める。重い一息を吐いてから言った。
「生徒代表は指名制だ。余程の理由がない限り、断ることはできない。
お前に辞退できる理由があるのか?」
「新しい生徒代表が居なければ、貴方がこのまま」
「例え、お前が辞退できたとしても、俺は本日をもって生徒代表の任を解かれ、
任命式が終了次第、この学院を去ることは変えられない」
「でも私は」
「俺の後を継がせてやるって言ってるんだぞ! 他の奴に任せてもいいのか!?」
「……やだ」
「帝王学で学んできたことを無駄にするな。習っただろう?
王たるもの、国を守る為には時に自己犠牲も必要だ。自分を律し、皆を導く。
これからはお前が、この島の王になるんだぞ。一時の感情に流されるな」
クラウスの背景に彼の肖像画が見えた。高い位置にある。手を伸ばしても届かない。
自分がどう足掻いても、あの絵を外すことはできないのだと言われているようだった。
「クラウス……」
「いいか? 与えられた責務は最後まで果たせ。絶対に途中で投げ出すな。
お前にはできる。学院の運営組織も、お前が持つ、王の資質を認めたんだ」
「クラウスは? 貴方も私ならできると思ってくれたのかい?」
「新代表の最終決定には、現代表の承認が必要だ」
テオは何も言わなかった。クラウスは冷静な声で言った。
「質問がないなら、生徒代表の任命式はこれで終わりだ」
はっとテオは顔を上げる。クラウスが席を立つ。
「新しい生徒代表の健闘を祈っている」
テオに背を向けて歩き出す。
すると、後ろからクラウスの左手首が掴まれた。振り払おうと思えば、振り払えるほど弱い力。
「離せ、馬鹿」
「解らないよ」
クラウスを掴む力が少しだけ強くなる。
「明日から貴方が居ないなんて。私はどうすればいいのか解らない」
クラウスはそこで軽く笑った。
「それなら簡単だ」
「えっ?」
「今までお前が散々やってきたことだろう?」
クラウスはテオを見つめて、言った。
「楽しいことをしろ。お前から『楽しむこと』を取ったら、他に何が残る?」
正門前には、黒のリムジンが待っていた。クラウスを空港まで運ぶ車だ。
ドライバーは高級車に凭れて、煙草を吸っている。見送り待ちだ。異例である。
クラウスとの別れを惜しむように、シュヌーシアの生徒達が正門前まで見送りに来ていた。
「クラウス。あのね、これ、みんなで書いたの」
寄せ書きのフォトフレームが渡された。立派な額の中央にシュヌーシア寮生の集合写真。
周りの余白部分には、寮生全員からの寄せ書き。
一番上には題字として「シュヌーシアのお父さん、クラウスへ」と書かれていた。
「何かコソコソ用意していると思ったら、これだったのか。こんな大きな物を最後にくれるとはな」
「とか言ってー。ホントは嬉しくて泣きそうなくせにー?」
「誰が」
中等部一年のラビは手で涙を拭きながら、
「行っちゃやだよ、クラウス、僕達のお父さんなのに」
「泣くな。今生の別れでもあるまいし」
「ドイツに行っても、僕達のこと忘れないでね。元気でね、クラウス」
「それはお前だ、ラビ。喘息も大分良くなってきたんだから、
これからも身の回りは綺麗に。部屋の片付けを忘れるなよ」
「うん」
「あ、ラビだけズルイ。僕にも何か言って」
「お前は、試験勉強に対して、もう少し真面目に取り組め。
本気でやれば高得点が狙えるんだから、わざと手を抜くのを止めろ」
「俺にも言ってー!」
「俺も聞いてやってもいいぜ、クラウス」
突然のリクエストだったが、クラウスは全く迷う様子なく、全員にひとつずつ小言を言い残した。
そのどれもが的確な指摘だったことに、寮生達は改めて驚かされた。
「これで全員言ったか」
「最後にテオが残ってるぞ」
テオとクラウスの目が合う。クラウスは視線を逸らした。
「テオはいい。伝えるべきことは、任命式で全て伝えてある」
クラウスは腕時計を見る。
「もう時間だ」
生徒達を見守っていたドライバーが煙草を灰皿に押し付ける。
車へ向かう前に、クラウスは言い忘れていたことを思い出した。
「お前達に最後に言っておきたいことがある」
「なに?」
「消灯時間は守れ。翌日の講義に障る。解ったな?」
最後は笑って、お別れとなった。
ドライバーが後部座席のドアを開ける。
リムジンが出発した。黒い車は徐々に小さくなり、道の向こうに消えていった。
「泣かなかったね、クラウス。最後くらいは初めて泣いた顔が見れるかもって思ったけど」
下級生がそう言うと、上級生が笑った。
「泣くわけねーだろ、あいつが。ラビはもう泣くな。おい、レオン、慰めてやれ」
「なんで、俺が」
「いつまでも悲しんでたって仕方ないよ」
「俺達にはまだテオが居るしな?」
「そうだよ。新しい生徒代表だし! ね、テオ!」
寮生達がテオに注目する。湿った空気を払拭する一言を望んでいた。
テオならできる。皆を元気にしてくれる。
しかし、その期待はテオの顔を見た途端、間違いだったと気付いた。
「ごめん」
それだけ言って、テオは寮へ駆け出した。
「テオッ!」
追い駆けようとしたラビの腕をレオンが捕らえた。
「行くな、ラビ」
「でも、テオ、今泣いて」
「だからだろ。一人にしてやれ」
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