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Marginal Prince Short Story
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■テオ×クラウス
共にある奇蹟(6) 続編
任命式から一週間が過ぎようとしていた。
シュヌーシア寮主催、生徒代表就任パーティは、テオの全快を待って、土曜日の午後に行われた。

会場は、安全を期して月桂樹の森。
料理は寮専属シェフ指導の下、寮生達が自ら作ったクッキー。
シュヌーシア寮生らしい、あたたかく和やかな雰囲気に包まれたティパーティとなった。


その夜、レオンは一人でテオの自室を訪れた。
今日の出来事を綴っていたテオは、日記帳を閉じて、レオンに微笑みかける。

「おや、レオン。どうしたんだい? 授業で解らないことでもあったかな?」

レオンはベッドに腰かけた。

「テオさ、今日のパーティ、つまんなそうだったな?」

直球の言葉を受け、テオは少し悲しそうな顔になる。

「そう見えたかい? すまない。私は素晴らしいパーティを開いて貰って嬉しかったのだけどね」

「それに、あんた、明日のことも何も言ってこねえし」

「明日?」

「日曜日だから、アクティヴィティの日だろ?」

「ああ、そうだったね」

「やっぱ、忘れてた」

「すまない。今週は……色々とバタバタしていたからね。すっかり忘れていたよ」

「あんた、アクティヴィティの時は、あれやろうこれやろうって俺達を振り回してきたくせに。
言わないでおこうと思ったけど、俺はもう限界だ。この一週間、テオはテオじゃなかった」

レオンはテオの両肩を掴む。

「いい加減、元に戻ってくれよ、テオ! 俺達にできることなら、何でもしてやるから!
今のあんた見てると、こっちが泣きそうなんだよ」

「レオン……」

「なあ、なんか楽しいことしようぜ! 前は楽しいこといっぱい考えてくれたじゃん!」

ああ、そうだった、とテオは思い出した。
貴方から貰った言葉なのに、私が守っていなかったなんて。


「はーい。チキン&チップス、お待たせー」

顔馴染みの店員から、アイヴィーが皿を受け取る。
ソクーロフが他の皿を避け、テーブルを開ける。そこにアイヴィーが皿を置いた。
今、到着したのは、鳥の唐揚げとフライドポテトの盛り合わせだ。
アイヴィーは早速、唐揚げを口に入れる。揚げたてでウマイ。煙草をくわえているソクーロフは手を付けなかった。

ここは島の旧市街にあるアイリッシュパブ。
アイヴィーとソクーロフは遅い夕食をとりながら、くだらない話や仕事の話をしていた。

他にテーブルの上に乗っているのは、五種類の焼きソーセージ、
ギネスビールで柔らかく煮込んだ牛肉、野菜スティック、細長いガーリックトーストなどだ。
いつも、頼んだ料理の三分の二を平らげるのはアイヴィーで、ソクーロフは残りをつまむ程度だった。

ポテトも二つ食べ終わり、店員の姿が見えなくなったところで、アイヴィーは話を再開した。

「今は元気になったみたいで良かったよ。
テオが倒れたから今日のミーティングは中止、って聞いた時は驚いたけど」

ソクーロフは唇から煙草を離し、灰皿に置いた。

「驚いたか?」

「そりゃ驚くでしょ? いつも元気いっぱい、太陽スマイルのテオだぜ?
あいつはソクちゃんに世話になったこと殆どないでしょ?」

「ああ。だが、今回のことは、事前に予測できたことだ」

「え? テオが倒れるって解ってたってこと?」

「あの子の心身に何らかの影響が出るとは思っていた。しかし、正直、今回のことは私の予想以上だった。
これほど即座に、かつ顕著な症状が、表に現れるとは」

アイヴィーはカウンセラーの表情を伺う。目が合った。が、ソクーロフは視線を外した。珍しい。

「なに? どーしたのさ、ソクちゃん。ヘンな顔して」

「いや」

グラスを傾ける。思い出したように、ソクーロフは料理に手を付けた。
アイヴィーも鳥の唐揚げをフォークに刺す。オレンジ色のソースを付けて、口に入れた。衣がサクサクと音を立てた。

「酒の肴に、ひとつ、興味深い話をしてやろうか?」

そう言って、ソクーロフは語り出した。


アフリカのある村では『若者は野生の鶏肉を食べてはいけない』と決まりがあった。
その村に住む若者が、ある日、他国で知人の家に泊まった。
朝食に肉料理が出たので『これは野生の鶏肉か?」と尋ねた。
「違う肉だ」と知人が答えたので、若者は安心してたくさん食べた。

それから何年も過ぎた後、二人は再会した。
その時には既に、アフリカの男は、若者ではく、大人と呼べる年齢になっていた。
村の決まりは『若者は野生の鶏肉を食べてはいけない』だった為、知人はこう誘った。

「君はもう大人だから、大丈夫だね。食べていくかい?」

しかし、アフリカの男はこう言った。

「あれから、村に魔術師が現れて、大人も鶏肉を食べてはいけないことになった」と。

知人は途端に笑い出した。

「可笑しな村だ。肉くらい、何を食べても平気だよ。
いつか、君に食べさせた肉も、本当は野生の鶏肉だったのだから」

途端に、アフリカの男は全身が震え出した。
それから二十四時間と経たずに、彼の心臓は止まった。


話を聞かされたアイヴィーは目を覆っていた。

「お医者さん、お医者さん。酒の肴にしては話がコワ過ぎるよ。
つーか、まだ鳥の唐揚げが残ってるのに、そんなコワイ話しちゃう?」

「ちなみに、この話はフィクションではなく、1682年、アフリカのコンゴで起こった実話だ」

「出たー。ある意味、本当にあったコワイ話ー」

「この場合、死因は何になると思う?」

「し、死因?」

「原因不明の突然死だろうか、不慮の事故死だろうか。
肉を食べさせた人間に罪があると考え、殺人事件に仕立てることもできるかもしれない。
医師なら死亡診断書に、急性心不全と書くだろう。だが、それも要は『急に心臓の動きがおかしくなった』という意味で、
厳密な死因が医師にも解らない時に使われる便利な用語だ」

「え、そうなの!?」

「ああ。他にもこんな事例がある」

ソクーロフは感情を表に出さず、続ける。

「妹が車に轢かれる瞬間を見て、心臓が止まった十一歳の姉。
軍隊から離れる希望を却下され、その日のうちに死んでしまった兵隊。
手術台に乗っただけで麻酔を掛ける前に亡くなる患者。
無害なヘビであっても、ヘビに噛まれた恐怖で死んだ男。
サンタクロースを目撃したショックで死亡した四歳の女の子も居る」

「そんなことで!?」

「そうだ。そんなことで、と思われる状況で、彼等は亡くなった」

「でもさ、それって、元々、心臓が弱かった人とかなんじゃないの?」

「いいや。いずれのケースも、それまでは、死を招くような身体的問題はなかった人間だ。
精神的ショック。それが直接、人を死に至らしめたとしか考えられない」

「そんなことって」

「世界中にある事実だ。実際にあった症例をあと幾つ話せば信じる?」

「も、もういいよ。夜に一人でトイレ行けなくなっちゃうだろ!」

「興味があれば、後日にでも、良い参考文献を教えてやる。
物理学者であり心理学者でもある精神治療医が書いた、500以上の心因性死をまとめた本だ」

「ごひゃっ……いや、あんた、お医者さんだからって、そんな本まで読んでるのかよ……」

「真っ当な業務資料だろう」

「いやー、うーん」

「つまり、心が受けた傷だけで、心臓が止まる場合が実際にあるということだ」

医師は灰皿の上でトンと灰を落とす。

「悲しみは、人をも殺す」

黒い皿に横たわった灰。
アイヴィーには、それが煙草の死骸のように見えた。ソクーロフはぽつりと言う。

「だから、驚くほどではないんだ。テオが突然、高熱を出したことは」

「えっ?」

「熱だけで済んで良かった、今回はな。お前もこの一年間は、特に注意して欲しい。
あの子と接していて、異常に気が付いたら、すぐに私に報告しろ」


後日、生徒代表室。
アイヴィーはミーティングを行う為、ここに来ていた。

「テオ。理事会からのメール見たか? 入学希望者が居るってヤツ」

「ああ、見たよ見たよ! アルフレッド・ヴィスコンティがこの学院に来るなんて!」

雑談を振ると、テオは勢い良く食い付いてきた。

「あ、やっぱ知ってんだ?」

「知ってるなんてもんじゃないよ! 彼は映画『キャプテン・ライアンと最後の海賊たち』で、
イーグルアイのジェイミーを演じた、アルフレッド・ヴィスコンティだよ!?
あの作品は実に素晴らしかった。私は少なくとも五回は見ているよ」

「あー、お前さん、海とか大好きだもんなー。自分でお船も持ってるし」

「アルフレッド・ヴィスコンティの学院案内も、私が務めて良いのだよね!?」

「そりゃ、お前さんが生徒代表だからな」

「ああ、神様! 幸運を授けて下さって、ありがとうございます!」

「大袈裟だねー」

「早速、アルフレッドの為に、色々準備しなくては!
あ、そうだ! ねえ、アイヴィー、学院案内の時に、私の船を使っても良いかい?」

「ああ、まあ。ダメって話は聞いたことないからイイんじゃね?」

「良かった! では私、アルフレッドを連れて、クルーズしてくるよ!
聖アルフォンソ島の素晴らしさを語る上で、海は欠かせないものね!
ああ、あのイーグルアイ・ジェイミーと二人きりで航海ができるなんて、夢のようだ!
生徒代表の学院案内とは、なんて素晴らしい特権なのだろう!」

両手を掲げて喜んでいる。
テオの笑顔は、見ているほうも自然と同じような顔にさせた。

「楽しそうだな、テオ」

「もちろん!」

テオらしいキラキラとした顔。

「私から『楽しむこと』を取ったら、他に何が残るんだい?」

テオは少し上を向く。視線の先には肖像画があった。
この前、生徒代表室に来た時、テオは気付いたのだ。
歴代の生徒代表が描かれた肖像画は、就任順に並んでいることに。

「ねえ、アイヴィー。一年間、生徒代表を務めれば、私の絵も描いて貰えるよね?」

「ん? ああ」

「最後まで務めるよ。私も飾って貰えるように」

一年、任務を全うすれば、自分の肖像画をクラウスの隣に置いて貰える。

貴方と共に居られるんだ。
此処で、永遠に。


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