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■ソクーロフ×姉貴(新婚モード) ※ドリーム機能版はこちら
★本文イラスト:蔦様 -地図には載らない小さな島 annex-
聖アルフォンソ島の旧市街。ここ一帯は古い建築物が保存、維持されている。
かつて、この島に逃げ延びた貴族や芸術家が暮らしていたと言われる地区だ。
まるでモノクロフィルムだった頃のフランス映画のような、古き良き街並み。
現在は聖アルフォンソ島の高級住宅街となっているその一角に、三階建ての高級マンションがあった。
建築は十九世紀初頭に遡り、歴史的価値が高い。
内装は当時の面影を残しつつ、部屋は現代人が暮らし易いようリフォームされている。
その最上階、三階の一室がソクーロフと##NAME1##の新居だった。
ある朝。##NAME1##はベッドの中で眠っていた。
誰かにそっと髪を撫でられて、##NAME1##は目を覚ました。
「すまない。起こしてしまったね」
目に映ったのは先日結婚した彼。
既に身支度が済み、『ソクーロフ博士』の姿になっている。
もうそんな時間かと思い、##NAME1##はガバッと身を起こして、時計を見た。
しかし、時刻は朝五時。出勤するには早過ぎる。
ソクーロフは##NAME1##の肩に手を置いた。
「急患でね。今、シュヌーシア寮から連絡があったから診てくるよ。
今日は一緒に朝食を摂れないね。まだ早いから、君は寝ていなさい?」
ソクーロフは##NAME1##の顔に近付き、
「行ってくるよ」
彼の背がドアの向こうに消えた。
寝ていなさいと言われたが、せっかく目を覚ましたのだから起きたほうがいいだろうか。
けれど、なんだか身体が重い。ベッドに貼り付いているかのようだ。
朝早いし、身体もまだ眠いのだろう。##NAME1##は再び眠りについた。
次に目を覚ました時、昼過ぎだった。
目覚ましのアラームは鳴り終わった形跡がある。
自分に聞こえなかっただけらしい。
##NAME1##は引き摺るようにして、身体を起こす。
寝過ぎたせいか具合が少し悪い。
彼が一度家に戻ってきた様子はなかった。早朝出て行って、そのまま仕事中なのだろう。
とにかく起きなきゃ。のろのろと活動を開始する。遅い朝食を摂ることにした。
その夜、ソクーロフが帰宅した時。
「おや?」
##NAME1##の顔を見るなり、彼は眉間に皺を寄せた。
すっと手を伸ばし、##NAME1##の額や首に触れた。医師の手が体温を感じ取る。
「37度8分といったところか。すまない、朝まで傍に居たのに。
急患が出たからと言って、一番大切な人の初期症状を見逃すなんて」
##NAME1##の肩に手が置かれる。
「診察、させてくれるね?」
翌日。
放課後のウーティス寮ではこんな会話が交わされていた。
「今日、保健室行ったら、違う先生が居たんだ。博士、風邪なんだって」
「医者のくせに? 使えないね」
「アンリ。博士に噛み付くなよ」
同じ頃、ソクーロフは自宅のベッドに横たわっていた。
##NAME1##は今日一日、彼の前を行ったり来たりしながら、看病していた。
思いきり不慣れ丸出しで、段取りは非常に悪かった。
病人がお医者様なので、解らない点は彼に聞きながら世話をした。
病人用の食事は、##NAME1##にはおかゆしか思い付かなかった。
日本人でない彼の口に合うのか解らないが、それしかできないので、
とにかく愛情だけはたっぷり込めて作った。
「美味しいよ、オートミールのような料理なんだね。これなら消化も良さそうだ」
彼の口にも合ったようで、##NAME1##はほっとした。
おかゆは完食できたし、食後には彼自身が選んだ薬も飲んだ。
本人曰わく、明日には回復するだろうとのことだったし、
大事に至らず済みそうで、##NAME1##も一安心といったところだ。
今、彼はベッドの中に、##NAME1##はその傍に座って、のんびりとした夜を過ごしていた。
それまでバタバタしていたのがウソのように、ゆっくりとした時が流れている。
「ああ。本格的に風邪を引いたのは、随分と久し振りだ」
彼が呟く。今日は眼鏡をしていない。
「医者が自らの健康を管理するのは義務だからね。
常日頃から、できる限りの予防はしている。けれど、今日はこの有り様だ。
保健室には他の医師に来て貰っているし、医師失格だね。
これは病欠ではなく、ただのサボタージュだ」
そんなこと、と##NAME1##が言いかけたが、彼は首を横に振った。
「こうなることは、昨夜の段階で解っていたからね。
薬を飲んだとは言え、まだ完治していない君と、
濃密な接触をしたら、きっと風邪が移るだろうとね」
横たわる彼が手を伸ばしてくる。
「だけど、いや、だからこそ、私は君に触れたかった」
彼の手は##NAME1##の指先を捕まえた。まだ少し熱い手だ。

「昔、子供の頃に、私がインフルエンザになったことがあってね」
彼は唐突にそう呟いた。
「高熱が出る種類が流行っていたんだ。
医師だった父は忙しい時期で、家に帰ってこない夜も頻繁にあって」
寂しかったでしょうね、と##NAME1##が言うと、彼は微笑んだ。
「いいや。父が居ない夜を寂しいと思った記憶はあまりないんだ。
子供心にも、既に慣れていたんだろうね。それよりも彼女が」
そこでソクーロフは一度深呼吸した。ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「父が居なくても、普段と何も変わらず、
平然と赤いマニキュアを塗っている母を見たことのほうが鮮明に覚えてる。
彼女は彼が居ても居なくても変わらない。
ずっと自分のことだけを気にしてる。そういう人だったから」
息が熱い。自分の話は殆どしないタイプの彼が、自らの過去を話している。
まだ熱のある状態で喋るのは苦しいだろうに、今日の彼は語るのを止めなかった。
「私が熱を出した時も、父は傍に居なかったし、
風邪だからと言って、母に優しくして貰ったこともない」
ソクーロフは##NAME1##を見上げる。
「だから、今日は、嬉しいんだ。
君が当たり前のように、消化に良い料理を作ってくれたり、
付きっきりで世話をしてくれることが、本当に、嬉しいんだ」
##NAME1##は心臓がギュッとなるのを感じた。
心の奥底に沈んでいた澱だったのだろう。
過去を吐き出したせいか、彼の表情が少し楽になったように見える。
「もしかしたら」
ふと思案顔になった。
「急患が出ると、必要以上に手厚く世話してしまうのは、
私自身の欲望の現れだったのかもしれない。
高熱が出た時くらいは、両親に甘えてみたかったのかな、子供の私は」
彼は目を閉じる。
「ああ、まただね。君が傍に居てくれると、知らない自分に気付かされる。
私は、かくも脆く、幼い人間だったのかと思い知らされるよ」
少し照れたように微笑んだ。
fin
★本文イラスト:蔦様 -地図には載らない小さな島 annex-
聖アルフォンソ島の旧市街。ここ一帯は古い建築物が保存、維持されている。
かつて、この島に逃げ延びた貴族や芸術家が暮らしていたと言われる地区だ。
まるでモノクロフィルムだった頃のフランス映画のような、古き良き街並み。
現在は聖アルフォンソ島の高級住宅街となっているその一角に、三階建ての高級マンションがあった。
建築は十九世紀初頭に遡り、歴史的価値が高い。
内装は当時の面影を残しつつ、部屋は現代人が暮らし易いようリフォームされている。
その最上階、三階の一室がソクーロフと##NAME1##の新居だった。
ある朝。##NAME1##はベッドの中で眠っていた。
誰かにそっと髪を撫でられて、##NAME1##は目を覚ました。
「すまない。起こしてしまったね」
目に映ったのは先日結婚した彼。
既に身支度が済み、『ソクーロフ博士』の姿になっている。
もうそんな時間かと思い、##NAME1##はガバッと身を起こして、時計を見た。
しかし、時刻は朝五時。出勤するには早過ぎる。
ソクーロフは##NAME1##の肩に手を置いた。
「急患でね。今、シュヌーシア寮から連絡があったから診てくるよ。
今日は一緒に朝食を摂れないね。まだ早いから、君は寝ていなさい?」
ソクーロフは##NAME1##の顔に近付き、
「行ってくるよ」
彼の背がドアの向こうに消えた。
寝ていなさいと言われたが、せっかく目を覚ましたのだから起きたほうがいいだろうか。
けれど、なんだか身体が重い。ベッドに貼り付いているかのようだ。
朝早いし、身体もまだ眠いのだろう。##NAME1##は再び眠りについた。
次に目を覚ました時、昼過ぎだった。
目覚ましのアラームは鳴り終わった形跡がある。
自分に聞こえなかっただけらしい。
##NAME1##は引き摺るようにして、身体を起こす。
寝過ぎたせいか具合が少し悪い。
彼が一度家に戻ってきた様子はなかった。早朝出て行って、そのまま仕事中なのだろう。
とにかく起きなきゃ。のろのろと活動を開始する。遅い朝食を摂ることにした。
その夜、ソクーロフが帰宅した時。
「おや?」
##NAME1##の顔を見るなり、彼は眉間に皺を寄せた。
すっと手を伸ばし、##NAME1##の額や首に触れた。医師の手が体温を感じ取る。
「37度8分といったところか。すまない、朝まで傍に居たのに。
急患が出たからと言って、一番大切な人の初期症状を見逃すなんて」
##NAME1##の肩に手が置かれる。
「診察、させてくれるね?」
翌日。
放課後のウーティス寮ではこんな会話が交わされていた。
「今日、保健室行ったら、違う先生が居たんだ。博士、風邪なんだって」
「医者のくせに? 使えないね」
「アンリ。博士に噛み付くなよ」
同じ頃、ソクーロフは自宅のベッドに横たわっていた。
##NAME1##は今日一日、彼の前を行ったり来たりしながら、看病していた。
思いきり不慣れ丸出しで、段取りは非常に悪かった。
病人がお医者様なので、解らない点は彼に聞きながら世話をした。
病人用の食事は、##NAME1##にはおかゆしか思い付かなかった。
日本人でない彼の口に合うのか解らないが、それしかできないので、
とにかく愛情だけはたっぷり込めて作った。
「美味しいよ、オートミールのような料理なんだね。これなら消化も良さそうだ」
彼の口にも合ったようで、##NAME1##はほっとした。
おかゆは完食できたし、食後には彼自身が選んだ薬も飲んだ。
本人曰わく、明日には回復するだろうとのことだったし、
大事に至らず済みそうで、##NAME1##も一安心といったところだ。
今、彼はベッドの中に、##NAME1##はその傍に座って、のんびりとした夜を過ごしていた。
それまでバタバタしていたのがウソのように、ゆっくりとした時が流れている。
「ああ。本格的に風邪を引いたのは、随分と久し振りだ」
彼が呟く。今日は眼鏡をしていない。
「医者が自らの健康を管理するのは義務だからね。
常日頃から、できる限りの予防はしている。けれど、今日はこの有り様だ。
保健室には他の医師に来て貰っているし、医師失格だね。
これは病欠ではなく、ただのサボタージュだ」
そんなこと、と##NAME1##が言いかけたが、彼は首を横に振った。
「こうなることは、昨夜の段階で解っていたからね。
薬を飲んだとは言え、まだ完治していない君と、
濃密な接触をしたら、きっと風邪が移るだろうとね」
横たわる彼が手を伸ばしてくる。
「だけど、いや、だからこそ、私は君に触れたかった」
彼の手は##NAME1##の指先を捕まえた。まだ少し熱い手だ。
「昔、子供の頃に、私がインフルエンザになったことがあってね」
彼は唐突にそう呟いた。
「高熱が出る種類が流行っていたんだ。
医師だった父は忙しい時期で、家に帰ってこない夜も頻繁にあって」
寂しかったでしょうね、と##NAME1##が言うと、彼は微笑んだ。
「いいや。父が居ない夜を寂しいと思った記憶はあまりないんだ。
子供心にも、既に慣れていたんだろうね。それよりも彼女が」
そこでソクーロフは一度深呼吸した。ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「父が居なくても、普段と何も変わらず、
平然と赤いマニキュアを塗っている母を見たことのほうが鮮明に覚えてる。
彼女は彼が居ても居なくても変わらない。
ずっと自分のことだけを気にしてる。そういう人だったから」
息が熱い。自分の話は殆どしないタイプの彼が、自らの過去を話している。
まだ熱のある状態で喋るのは苦しいだろうに、今日の彼は語るのを止めなかった。
「私が熱を出した時も、父は傍に居なかったし、
風邪だからと言って、母に優しくして貰ったこともない」
ソクーロフは##NAME1##を見上げる。
「だから、今日は、嬉しいんだ。
君が当たり前のように、消化に良い料理を作ってくれたり、
付きっきりで世話をしてくれることが、本当に、嬉しいんだ」
##NAME1##は心臓がギュッとなるのを感じた。
心の奥底に沈んでいた澱だったのだろう。
過去を吐き出したせいか、彼の表情が少し楽になったように見える。
「もしかしたら」
ふと思案顔になった。
「急患が出ると、必要以上に手厚く世話してしまうのは、
私自身の欲望の現れだったのかもしれない。
高熱が出た時くらいは、両親に甘えてみたかったのかな、子供の私は」
彼は目を閉じる。
「ああ、まただね。君が傍に居てくれると、知らない自分に気付かされる。
私は、かくも脆く、幼い人間だったのかと思い知らされるよ」
少し照れたように微笑んだ。
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