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■ジョシュア×姉貴(新婚モード) ※ドリーム機能版はこちら
★本文イラスト:蔦様 -地図には載らない小さな島 annex-
「妃殿下」
振り向いて下さらない。
何か考えごとをされているのだろうか。窓の向こうを見たまま、動かない。
臣下はもう一度「妃殿下」とお呼びしたが同じだった。
「##NAME1##様」
お名前でお呼びすると、肩がビクッと跳ね、「は、はいっ」とこちらを向いた。
その初々しさは、大公家に数年仕えているホワイトには、微笑ましかった。
「妃殿下と呼ばれることに、まだ慣れて頂けていないようですね」
妃殿下は俯かれ、すみません、と仰った。
「いえ、無理もありません。妃殿下はつい先日まで、
日本の一般家庭で暮らしておいででしたから。
徐々に慣れて頂ければ良いのです。ご自分がロレートのプリンセスだということに」
ここはロレート公国。
去る建国記念式典にて、ジョシュアの王位継承権復帰と共に、
その婚約者として##NAME1##は発表された。
ジョシュアの学院卒業後、##NAME1##は彼と一緒にこの国へやってきた。
大々的な結婚式も済ませ、大公家の邸が##NAME1##の新たな住まいとなった。
今日の日中は公式行事があり、カーディス国王陛下、ジョシュア殿下と一緒に、
五時間にも及ぶ儀式に出席してきたのである。
但し##NAME1##はスピーチなどの出番はなく、
今日は、ただ大人しく座っていることが##NAME1##の仕事だったのだが、
たくさんの人とカメラの前に居たことから、どうしても気が張っていた。
せめて人前では、お姫様らしくしていなくちゃ、というプレッシャー。
自分が何かミスをすれば、そのパートナーであるジョシュアにも恥をかかせる。
もっと言えば、ジョシュアを次期国王に選んだカーディス陛下、
そして、ロレート公国全体に迷惑がかかる場合もあるだろう。
大好きな人とずっと一緒に居たくて、この国に来たけれど、
一国の姫になるということは、想像以上の責任と重圧があった。
大した出番のなかった今日だって、
国民から「プリンセスー!」と呼ばれれば、笑顔で手を振らなくていけない。
未だに信じられないことだが、「プリンセス」とは私のことなのだから。
殆ど座ってただけなのに、儀式が終わったあとは、ぐったりした。
プリンセスと決まってから、##NAME1##には何人もの臣下やメイドさんが付いた。
今、目の前に居るのは、ブラウン・ホワイトさん。
背が高く、綺麗な長い髪を持つ、超絶イケメンである。
他の臣下の人から聞いた情報によると、
ホワイトさんは、33歳。独身。性格はバカが付くほどマジメ。仕事バカでもある。
ま、臣下としてはよくできたヤツだから、仲良くしてやってよ、姫サマ。
……とのこと。臣下の方がそう言っていたのであって、##NAME1##の言葉ではない。
情報を教えてくれた、茶髪のあの人は陛下の臣下らしいが、随分軽いかんじの人だった。
ちなみに彼もイケメン。名前は何といっただろう。
聞いた筈なのに、紹介された人が多過ぎて忘れてしまった。
皇室の中にもああいう――言葉は悪いが――チャラいノリの人が居るんだなと少し驚いた。
彼が言うには、ホワイトさんは元々、カーディス陛下に仕える臣下の一人だった。
ジョシュアと##NAME1##がロレートに来たことで、
陛下直々の命により、殿下・妃殿下の専属へと異動になったらしい。
肩書きの上ではジョシュアの側近となっているが、
##NAME1##のことも同じように世話してくれる。
二人に付く従者の中で、おそらくトップの地位にあるのがホワイトさん。
きっと、カーディス陛下から厚い信頼を受けての結果だろう。
初めてホワイトさんに会った時は、なんだか冷たい第一印象で、
厳しそうな人だなと思ったものだが、
毎日顔を合わせ、少しずつ話すようになってみると、
仕事はできるし、よく気を遣ってくれるし、
実際は優しい人だったのだなと感じてきたところだ。とにかくカッコイイし。
これは、どうでもいいことだが。いや、そうでもないが。この邸に居る臣下の皆さんは、
イケメン率が高過ぎる。顔で選んだのかと思うくらい美形揃いだ。
中でも、カーディス陛下の側近であるラルヴィス・レイナさんという人は、
最初に会った時、本気で女性かなと思ったくらい綺麗な人だ。
そういった意味でもドキドキする新環境だ。
「妃殿下も今日はお疲れでしょう。今宵はごゆるりとお休み下さい」
「はい。ありがとうございます、ホワイトさん」
「恐れながら申し上げますが、私のことはホワイトと呼んで下さればよろしいのですよ?
私は貴女にお仕えする者なのですから」
「はい。すみません。でも、ホワイトさん、私より年上ですし」
「年齢など関係ございません。貴女は高貴な御方なのですから」
「そんな……私に流れてるのは庶民の血ですよ?」
そこで何故かホワイトさんに微笑まれた。
「妃殿下は殿下と同じく、控えめな方なのですね」
冗談でも謙遜でもなく、どうしようもない事実なのだが。
「では、私はこれで下がらせて頂きます。
御用の際はいつでもお呼び下さいませ。失礼致します」
ホワイトさんが居なくなり、部屋で一人きりになると、溜め息を吐いていた。
ドアがノックされる。##NAME1##が、はいと返事すると、ドアが開いた。
ジョシュアだ。
既に儀式用の礼服から普段着に着替えを終えていた。
「今日の儀式、緊張したね。厳かな雰囲気だったし」
ジョシュアと##NAME1##は並んでソファに座っている。
ローテーブルには、彼が淹れてくれたコーヒーが二人分。
「今日は君が隣に居てくれたから、心強かったよ。
白のロングドレス姿も綺麗だった。##NAME1##は何でも似合うね」
ジョシュアの優しいところは出会った頃から変わらない、王子となっても、夫となっても。
彼と今日の感想や他愛もないことを話していたら、今日の疲れがとれたようだ。
ロレートのプリンセスではなく、いつもの自分に戻れたような気がした。
「それじゃ、俺、シャワーを浴びてくるよ」
ジョシュアはソファから立ち上がった。
一人になった##NAME1##は窓辺に立つ。そこから庭が少し見えるのだ。
この邸には、月桂樹の庭があると聞いていた。
ロレート大公家は古くから聖アルフォンソ学院との繋がりがあり、学院出身者は多い。
そのうちの一人が、卒業後、学院の象徴とも言える月桂樹の森を、邸の庭に再現したのだ。
本物の広大な森と規模は違うが、月桂樹に囲まれた空間がそこにはある。
何代にも渡って、ロレート大公を影で支え、癒やしてきた森。
大公ではない自分では、おこがましいかもしれないが、
##NAME1##もその森に行ってみたくなった。
悪いことかなと思いつつも、誰にも告げずに部屋を出た。
夜の庭に来たのは初めてかもしれない。
四角いタイルの通路は、白いライトで足許が照らされている。
丸くて可愛いライトによって、月桂樹は闇夜に浮かび上がるように光っていた。
昼間の庭とは雰囲気が全然違う。なんて幻想的な空間なのだろう。
「誰かと思えば、うちの姫君じゃないか」
カーディス国王陛下が居た。幹を背凭れにして、地べたに座っている。
一国の王様にしては、驚くほど気軽な姿勢だ。まるでシルヴァンさんみたい。
「どうした、姫君。こんなところで?」
儀式の間とは、まるで別人のようだ。
国民の前で笑顔を見せないと決めている王が、今は柔らかく笑いかけている。
優しい顔に見惚れてしまったのか、返事が少し遅れた。
「あ、いえ。ちょっと、このお邸にある月桂樹の森に来てみたくなって。
でも、陛下がお寛ぎのところ邪魔をしてしまって、すみません。私、部屋に戻りますね」
「何故、戻る? ゆっくりしていけばいい。ここは、そういう場所だしな。
嫌じゃなければ、少し俺の話し相手になってくれないか、姫君?」
失礼します、と一応断って、陛下の傍に座った。
頭上で、さわさわと音がする。葉が揺れているのだ。
「風が出てきたな。寒くはないか?」
「あ、はい。大丈夫です。お気遣いありがとうございます、陛下」
そう言うと、笑われた。
「まるで臣下のような言葉遣いだな。俺相手に気を遣うな。普通に話してくれ。
それから前にも言ったと思うが、国民の目のないところで、『陛下』なんて呼ばなくていい。
姫君は、俺の甥っこの嫁なんだから、義理の姪っこだろう?
俺のことは『カーディスおじさん』で良いんだぞ?」
「無理です、そんな呼び方」
「そうか? なんなら『パパ』でも良いぞ?
俺はジョシュアのことは息子だと思っているしな」
「ええっと。もし、許して頂けるなら、カーディスさんってお呼びしても良いですか?」
「ああ。姫君の好きに呼べばいい」
「カーディスさんも、その『姫君』って呼び方、止めて貰えると嬉しいです。
私は貴方の姪っこなんだから、##NAME1##で良いです」
「それは失礼した。そうだな。確かにフェアじゃない。
しかし、あいつの嫁を、他の男が気安く呼び捨てて、あいつが気を悪くしないといいがな」
「ジョシュアのこと言ってるんですか?
彼はそんな心の狭い人じゃありませんから、大丈夫です!」
「へえ。気が強いところもあるじゃないか?」
「すみません、私、ムキになってしまって」
「さては、今まで姫らしくしてようと猫を被っていたな?」
「いや、別に、そういうわけじゃ……」
「今日の式でも、随分、無理をしていたように見受けられたが?」
「えっ……」
「自分を繕って姫らしく振る舞っても、自分が疲れるだけだぞ。
身分が変わったからと言って、自分まで変える必要などない。もっと本性を出せ」
青い香りを感じた。風が王の毛先を弄ぶ。
「常に自分らしくあれ。皇族の先輩として、俺がお前に言ってやれるのは、そのくらいだ」
少し冷たいが心地好い夜風だ。
「カーディスさんの場合は、本性出し過ぎのような気がしますけど?」
「良いぞ、その調子だ」
国王は笑っていた。
一国の王ならば、「常に姫たる自覚を忘れるな」などと言いそうなものだが。
彼が『規格外の王』と呼ばれる所以が解ったような気がする。
「##NAME1##」
ジョシュアの声だ。邸のほうから駆けて来る。
「ここに居たんだね。部屋に居なかったから、探してしまったよ。……あっ、カーディス」
「よう。すまんな。お前の姫を借りていた。心配するな。
少し話をしていただけだ。そうだろう、##NAME1##?」
「はい」
「陛下」
もう一人、誰かが邸からやってきた。暗がりから次第に姿が見える。
姿勢正しく、きびきびとした足取り、グレイを基調とした軍服に、
金色のショートヘア、中性的な甘いマスク。
美形側近のラルヴィス・レイナさんだ。
「陛下、私を呼んでおきながら、部屋にいらっしゃらないとは、どういう……」
私達の存在に気付き、態度を改める。
「これは妃殿下、殿下もご一緒でしたか」
頭を下げる。
「申し訳ございません。お二方にお見苦しいものをお見せして」
カーディスが笑う。
「お見苦しいものとは俺のことか?」
側近は答えない。
「お二方に陛下がご迷惑をおかけしていませんでしたか?」
「いいえ」
「大丈夫です」
「さようでしたか。今後、何かありましたら、すぐ私にお申し付け下さいませ。
私からよく言って聞かせますので。
さあ、陛下、夜風は身体に触ります。お部屋にお戻り下さい」
陛下はゆっくり立ち上がりながら、
「焦るな、ラルヴィス。まだ夜は始まったばかりだろう?」
側近は主を少し睨み、二人に向かって頭を下げた。
「では殿下、妃殿下。御前を失礼致します。おやすみなさいませ」
「お前達も良い夜をな、ご両人?」
側近の背に陛下が続いた。
陛下が側近の隣まで追い付くと、二人は何か話しながら歩いていた。
「俺達も戻ろう、##NAME1##」
ジョシュアは手を差し出していた。
##NAME1##がその手を握る。彼は嬉しそうに微笑んだ。
「行こう」
二人で歩き始める。あたたかい手だった。

fin
★本文イラスト:蔦様 -地図には載らない小さな島 annex-
「妃殿下」
振り向いて下さらない。
何か考えごとをされているのだろうか。窓の向こうを見たまま、動かない。
臣下はもう一度「妃殿下」とお呼びしたが同じだった。
「##NAME1##様」
お名前でお呼びすると、肩がビクッと跳ね、「は、はいっ」とこちらを向いた。
その初々しさは、大公家に数年仕えているホワイトには、微笑ましかった。
「妃殿下と呼ばれることに、まだ慣れて頂けていないようですね」
妃殿下は俯かれ、すみません、と仰った。
「いえ、無理もありません。妃殿下はつい先日まで、
日本の一般家庭で暮らしておいででしたから。
徐々に慣れて頂ければ良いのです。ご自分がロレートのプリンセスだということに」
ここはロレート公国。
去る建国記念式典にて、ジョシュアの王位継承権復帰と共に、
その婚約者として##NAME1##は発表された。
ジョシュアの学院卒業後、##NAME1##は彼と一緒にこの国へやってきた。
大々的な結婚式も済ませ、大公家の邸が##NAME1##の新たな住まいとなった。
今日の日中は公式行事があり、カーディス国王陛下、ジョシュア殿下と一緒に、
五時間にも及ぶ儀式に出席してきたのである。
但し##NAME1##はスピーチなどの出番はなく、
今日は、ただ大人しく座っていることが##NAME1##の仕事だったのだが、
たくさんの人とカメラの前に居たことから、どうしても気が張っていた。
せめて人前では、お姫様らしくしていなくちゃ、というプレッシャー。
自分が何かミスをすれば、そのパートナーであるジョシュアにも恥をかかせる。
もっと言えば、ジョシュアを次期国王に選んだカーディス陛下、
そして、ロレート公国全体に迷惑がかかる場合もあるだろう。
大好きな人とずっと一緒に居たくて、この国に来たけれど、
一国の姫になるということは、想像以上の責任と重圧があった。
大した出番のなかった今日だって、
国民から「プリンセスー!」と呼ばれれば、笑顔で手を振らなくていけない。
未だに信じられないことだが、「プリンセス」とは私のことなのだから。
殆ど座ってただけなのに、儀式が終わったあとは、ぐったりした。
プリンセスと決まってから、##NAME1##には何人もの臣下やメイドさんが付いた。
今、目の前に居るのは、ブラウン・ホワイトさん。
背が高く、綺麗な長い髪を持つ、超絶イケメンである。
他の臣下の人から聞いた情報によると、
ホワイトさんは、33歳。独身。性格はバカが付くほどマジメ。仕事バカでもある。
ま、臣下としてはよくできたヤツだから、仲良くしてやってよ、姫サマ。
……とのこと。臣下の方がそう言っていたのであって、##NAME1##の言葉ではない。
情報を教えてくれた、茶髪のあの人は陛下の臣下らしいが、随分軽いかんじの人だった。
ちなみに彼もイケメン。名前は何といっただろう。
聞いた筈なのに、紹介された人が多過ぎて忘れてしまった。
皇室の中にもああいう――言葉は悪いが――チャラいノリの人が居るんだなと少し驚いた。
彼が言うには、ホワイトさんは元々、カーディス陛下に仕える臣下の一人だった。
ジョシュアと##NAME1##がロレートに来たことで、
陛下直々の命により、殿下・妃殿下の専属へと異動になったらしい。
肩書きの上ではジョシュアの側近となっているが、
##NAME1##のことも同じように世話してくれる。
二人に付く従者の中で、おそらくトップの地位にあるのがホワイトさん。
きっと、カーディス陛下から厚い信頼を受けての結果だろう。
初めてホワイトさんに会った時は、なんだか冷たい第一印象で、
厳しそうな人だなと思ったものだが、
毎日顔を合わせ、少しずつ話すようになってみると、
仕事はできるし、よく気を遣ってくれるし、
実際は優しい人だったのだなと感じてきたところだ。とにかくカッコイイし。
これは、どうでもいいことだが。いや、そうでもないが。この邸に居る臣下の皆さんは、
イケメン率が高過ぎる。顔で選んだのかと思うくらい美形揃いだ。
中でも、カーディス陛下の側近であるラルヴィス・レイナさんという人は、
最初に会った時、本気で女性かなと思ったくらい綺麗な人だ。
そういった意味でもドキドキする新環境だ。
「妃殿下も今日はお疲れでしょう。今宵はごゆるりとお休み下さい」
「はい。ありがとうございます、ホワイトさん」
「恐れながら申し上げますが、私のことはホワイトと呼んで下さればよろしいのですよ?
私は貴女にお仕えする者なのですから」
「はい。すみません。でも、ホワイトさん、私より年上ですし」
「年齢など関係ございません。貴女は高貴な御方なのですから」
「そんな……私に流れてるのは庶民の血ですよ?」
そこで何故かホワイトさんに微笑まれた。
「妃殿下は殿下と同じく、控えめな方なのですね」
冗談でも謙遜でもなく、どうしようもない事実なのだが。
「では、私はこれで下がらせて頂きます。
御用の際はいつでもお呼び下さいませ。失礼致します」
ホワイトさんが居なくなり、部屋で一人きりになると、溜め息を吐いていた。
ドアがノックされる。##NAME1##が、はいと返事すると、ドアが開いた。
ジョシュアだ。
既に儀式用の礼服から普段着に着替えを終えていた。
「今日の儀式、緊張したね。厳かな雰囲気だったし」
ジョシュアと##NAME1##は並んでソファに座っている。
ローテーブルには、彼が淹れてくれたコーヒーが二人分。
「今日は君が隣に居てくれたから、心強かったよ。
白のロングドレス姿も綺麗だった。##NAME1##は何でも似合うね」
ジョシュアの優しいところは出会った頃から変わらない、王子となっても、夫となっても。
彼と今日の感想や他愛もないことを話していたら、今日の疲れがとれたようだ。
ロレートのプリンセスではなく、いつもの自分に戻れたような気がした。
「それじゃ、俺、シャワーを浴びてくるよ」
ジョシュアはソファから立ち上がった。
一人になった##NAME1##は窓辺に立つ。そこから庭が少し見えるのだ。
この邸には、月桂樹の庭があると聞いていた。
ロレート大公家は古くから聖アルフォンソ学院との繋がりがあり、学院出身者は多い。
そのうちの一人が、卒業後、学院の象徴とも言える月桂樹の森を、邸の庭に再現したのだ。
本物の広大な森と規模は違うが、月桂樹に囲まれた空間がそこにはある。
何代にも渡って、ロレート大公を影で支え、癒やしてきた森。
大公ではない自分では、おこがましいかもしれないが、
##NAME1##もその森に行ってみたくなった。
悪いことかなと思いつつも、誰にも告げずに部屋を出た。
夜の庭に来たのは初めてかもしれない。
四角いタイルの通路は、白いライトで足許が照らされている。
丸くて可愛いライトによって、月桂樹は闇夜に浮かび上がるように光っていた。
昼間の庭とは雰囲気が全然違う。なんて幻想的な空間なのだろう。
「誰かと思えば、うちの姫君じゃないか」
カーディス国王陛下が居た。幹を背凭れにして、地べたに座っている。
一国の王様にしては、驚くほど気軽な姿勢だ。まるでシルヴァンさんみたい。
「どうした、姫君。こんなところで?」
儀式の間とは、まるで別人のようだ。
国民の前で笑顔を見せないと決めている王が、今は柔らかく笑いかけている。
優しい顔に見惚れてしまったのか、返事が少し遅れた。
「あ、いえ。ちょっと、このお邸にある月桂樹の森に来てみたくなって。
でも、陛下がお寛ぎのところ邪魔をしてしまって、すみません。私、部屋に戻りますね」
「何故、戻る? ゆっくりしていけばいい。ここは、そういう場所だしな。
嫌じゃなければ、少し俺の話し相手になってくれないか、姫君?」
失礼します、と一応断って、陛下の傍に座った。
頭上で、さわさわと音がする。葉が揺れているのだ。
「風が出てきたな。寒くはないか?」
「あ、はい。大丈夫です。お気遣いありがとうございます、陛下」
そう言うと、笑われた。
「まるで臣下のような言葉遣いだな。俺相手に気を遣うな。普通に話してくれ。
それから前にも言ったと思うが、国民の目のないところで、『陛下』なんて呼ばなくていい。
姫君は、俺の甥っこの嫁なんだから、義理の姪っこだろう?
俺のことは『カーディスおじさん』で良いんだぞ?」
「無理です、そんな呼び方」
「そうか? なんなら『パパ』でも良いぞ?
俺はジョシュアのことは息子だと思っているしな」
「ええっと。もし、許して頂けるなら、カーディスさんってお呼びしても良いですか?」
「ああ。姫君の好きに呼べばいい」
「カーディスさんも、その『姫君』って呼び方、止めて貰えると嬉しいです。
私は貴方の姪っこなんだから、##NAME1##で良いです」
「それは失礼した。そうだな。確かにフェアじゃない。
しかし、あいつの嫁を、他の男が気安く呼び捨てて、あいつが気を悪くしないといいがな」
「ジョシュアのこと言ってるんですか?
彼はそんな心の狭い人じゃありませんから、大丈夫です!」
「へえ。気が強いところもあるじゃないか?」
「すみません、私、ムキになってしまって」
「さては、今まで姫らしくしてようと猫を被っていたな?」
「いや、別に、そういうわけじゃ……」
「今日の式でも、随分、無理をしていたように見受けられたが?」
「えっ……」
「自分を繕って姫らしく振る舞っても、自分が疲れるだけだぞ。
身分が変わったからと言って、自分まで変える必要などない。もっと本性を出せ」
青い香りを感じた。風が王の毛先を弄ぶ。
「常に自分らしくあれ。皇族の先輩として、俺がお前に言ってやれるのは、そのくらいだ」
少し冷たいが心地好い夜風だ。
「カーディスさんの場合は、本性出し過ぎのような気がしますけど?」
「良いぞ、その調子だ」
国王は笑っていた。
一国の王ならば、「常に姫たる自覚を忘れるな」などと言いそうなものだが。
彼が『規格外の王』と呼ばれる所以が解ったような気がする。
「##NAME1##」
ジョシュアの声だ。邸のほうから駆けて来る。
「ここに居たんだね。部屋に居なかったから、探してしまったよ。……あっ、カーディス」
「よう。すまんな。お前の姫を借りていた。心配するな。
少し話をしていただけだ。そうだろう、##NAME1##?」
「はい」
「陛下」
もう一人、誰かが邸からやってきた。暗がりから次第に姿が見える。
姿勢正しく、きびきびとした足取り、グレイを基調とした軍服に、
金色のショートヘア、中性的な甘いマスク。
美形側近のラルヴィス・レイナさんだ。
「陛下、私を呼んでおきながら、部屋にいらっしゃらないとは、どういう……」
私達の存在に気付き、態度を改める。
「これは妃殿下、殿下もご一緒でしたか」
頭を下げる。
「申し訳ございません。お二方にお見苦しいものをお見せして」
カーディスが笑う。
「お見苦しいものとは俺のことか?」
側近は答えない。
「お二方に陛下がご迷惑をおかけしていませんでしたか?」
「いいえ」
「大丈夫です」
「さようでしたか。今後、何かありましたら、すぐ私にお申し付け下さいませ。
私からよく言って聞かせますので。
さあ、陛下、夜風は身体に触ります。お部屋にお戻り下さい」
陛下はゆっくり立ち上がりながら、
「焦るな、ラルヴィス。まだ夜は始まったばかりだろう?」
側近は主を少し睨み、二人に向かって頭を下げた。
「では殿下、妃殿下。御前を失礼致します。おやすみなさいませ」
「お前達も良い夜をな、ご両人?」
側近の背に陛下が続いた。
陛下が側近の隣まで追い付くと、二人は何か話しながら歩いていた。
「俺達も戻ろう、##NAME1##」
ジョシュアは手を差し出していた。
##NAME1##がその手を握る。彼は嬉しそうに微笑んだ。
「行こう」
二人で歩き始める。あたたかい手だった。
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