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■テオ×クラウス
「んじゃ、今日のミーティングは終わりってことで。いいか、テオ?」
「うん」
放課後、生徒代表室にて警備ミーティングがあった。
とは言っても、緊急の知らせなどはなく、通常の情報交換のみで終わった。
ミーティングの出席者は、警備責任者のアイヴィー、自白術で警備に協力するカウンセラーのソクーロフ博士、
そして今年度、生徒代表を務めるテオ・メネシス、以上の三名だ。
生徒代表には寮に戻る様子がない。
警備司令官は頭を掻く。保健教師は机上で書類を揃えながら、
「アイヴィー、このあと保健室に寄ってくれないか?」
「あ、うん」
「では、テオ。私達はこれで失礼させて頂くよ」
「はい。お疲れ様でした、博士、アイヴィー」
保健教師がドアに向かうので、司令官もあとに続いた。
一人になった生徒代表は、ミーティング用のテーブルから、荘厳な席へ移動した。
歴史を感じさせる木製の机。代々、生徒代表に受け継がれてきた玉座。
ミーティングが終わると、テオは毎回のようにそこに座る。
まるで祈るように、両手の指を絡めた姿勢をとる。
視線は正面を向いている時もあれば、目を閉じている時もあった。
特に何をするでもなく、テオは一人きりの時間を過ごしていた。
クラシックなコール音がする。
電話だ。テオはアンティークな受話器を取った。
「はい。生徒代表室です」
きっと警備か理事会関係者からの電話だろう。
そう思っていたテオの耳に聞こえてきたのは、予想外の声だった。
「……テオか?」
「えっ……その声は、クラウス? クラウスなのかい!?」
「ああ」
肯定の返事。テオは息を呑む。
思わず正面にある肖像画を見上げていた。額の中に佇む彼。
もう二度と聞けないかもしれないと思っていた声が再び耳に届く。
「今、ミーティング中か?」
「ううん!」
テオは意気込んで答えた。
「もう終わったところだよ! ここには今私しか居ない!」
「そうか」
もしミーティング中だと答えたら、真面目な彼は電話を切るだろう。
実際に今がミーティング終了後で本当に良かったとテオは思った。
どうしよう、何を話そう、と考えると同時に、思ったことがそのまま言葉になっていく。
「クラウス……本当に本物のクラウスなのだね。
嬉しい、貴方が学院に電話をしてくれるだなんて、思ってもみなかった。
ああ、でも、卒業した貴方が電話をしてくるなんて、
しかも生徒代表室の電話ということは、何か余程の緊急事態なの!?」
「いや、緊急事態などは、なく」
クラウスがしどろもどろになる。
「その、特別な用事があるかというと、特にはなくてだな」
「特別用事はないのに、電話を掛けてくれたのかい?」
「まあ、結果的に言えば、そうなる、な」
「クラウス……ありがとう。ああ、神様」
「学内の様子はどうだ? 何か問題は」
「困ったことは起こっていないよ。アイヴィーも今年は平和だなって言っていたし」
「シュヌーシアの奴等は元気にしているか」
「うん。風邪を引いたりすることはあったけれど、みんな治ったし、大きな病気もなかったよ」
「そうか。では、お前は……生徒代表の仕事はどうだ?」
「大丈夫だよ。生徒のみんな、先生方や警備の皆さんが助けて下さるから」
「なら、いい」
「クラウス、もしかして、私のことが心配で電話を?」
「それはお前が! お前が、任命式で自信なさそうにしていたから。
あんな顔をされたら、俺が卒業した後、
お前がちゃんとやっているか、何か悩んだりしていないか、
気になるだろうが! 先代の生徒代表として!」
「卒業しても、私のことを気にかけてくれてたの」
「ま、毎日というわけではないぞ決して!
時々、というか、折りに触れてというか、海や太陽を見た時とか」
「太陽? ということは毎日私のことを?」
「く、曇りや雨の日だってあるだろう」
「ありがとう、忘れないでいてくれて。
私ばかりが貴方のことを考えているのかと思ってた。今、電話が来る前だって、私」
「そんな簡単に忘れられるか、お前のような奴を」
「えっ」
「いや、あの、すまん。くだらないことで生徒代表室に電話をして。もう切る」
「待っておくれ、もう少し」
「じゃあな」
「クラウス!」
目が覚めた。
生徒代表の机の上に伏せて眠っていたようだ。
テオは受話器を探す。しかし、傍に転がってはいなかった。
何事もなかったかのように、受話器はあるべき場所にあった。
それが何より、クラウスからの電話が夢の中の出来事であったことを告げていた。
テオがシュヌーシア寮に戻ってくると、寮生達に声をかけられた。
「あっ。テオが帰ってきたよー」
「生徒代表のお仕事、お疲れ様!」
「テオ、遅かったね。大丈夫?」
「いや、居眠りをしてしまったみたいで」
「またかよ。そんなに寝心地良いのか? 生徒代表室って」
「静かな部屋だからね」
「ベッドの中で寝なきゃ風邪引いちゃうよー」
「じゃあそれは寝痕か。ほっぺに縦線入ってるぞ」
「おや。伸ばしておけば治るかな?」
テオは自分の右頬を伸ばす。
「ふぇいとひゃいひょうひつには」
「喋るなら、ほっぺから手離せよ」
「あ、そうか。生徒代表室には電話があるのだけれどね。
クラウスが電話をかけてきてくれた夢だったよ」
「テオ、クラウスとお話しできたの!?」
「うん。夢の中でね」
「クラウスと何てお話ししたの? 覚えてる?」
「学内の様子はとか、シュヌーシアのみんなは元気かって」
「えっ、ほんと?」
「夢の中でも、クラウスはクラウスだな」
「クラウス、元気にしてたんだね。良かった」
「夢の中の話だけどな」
「でも、話聞いてると、結構リアルな夢じゃん?
ひょっとして、電話をしたあとに昼寝したんじゃないの?」
「えっ? じゃあ夢じゃないってこと? テオ、そうなの?」
「ううん。夢だったのだと思うよ。よく考えれば、
生徒代表室にクラウスが電話をかけてくる筈がないもの」
「どうして?」
「生徒代表室の電話はね、私用の電話は禁止されているのだよ。
生徒代表だったクラウスなら、そのルールを知っている。
規律に厳しいあの人が、自らルールを破る筈がないだろう?」
「そっか。じゃあ、やっぱり夢なのか、残念だね」
「私は幸せだったよ。夢だとしても元気そうなクラウスに会えて」
夢は記憶を整理する為に見る。
その説を聞いたことはあるが、テオは密かにこう感じていた。
最近の私を見かねて、彼が夢の中まで会いに来てくれてたのではないかと。
テオは心の中でそっと伝える。――ありがとう、クラウス。
fin
「んじゃ、今日のミーティングは終わりってことで。いいか、テオ?」
「うん」
放課後、生徒代表室にて警備ミーティングがあった。
とは言っても、緊急の知らせなどはなく、通常の情報交換のみで終わった。
ミーティングの出席者は、警備責任者のアイヴィー、自白術で警備に協力するカウンセラーのソクーロフ博士、
そして今年度、生徒代表を務めるテオ・メネシス、以上の三名だ。
生徒代表には寮に戻る様子がない。
警備司令官は頭を掻く。保健教師は机上で書類を揃えながら、
「アイヴィー、このあと保健室に寄ってくれないか?」
「あ、うん」
「では、テオ。私達はこれで失礼させて頂くよ」
「はい。お疲れ様でした、博士、アイヴィー」
保健教師がドアに向かうので、司令官もあとに続いた。
一人になった生徒代表は、ミーティング用のテーブルから、荘厳な席へ移動した。
歴史を感じさせる木製の机。代々、生徒代表に受け継がれてきた玉座。
ミーティングが終わると、テオは毎回のようにそこに座る。
まるで祈るように、両手の指を絡めた姿勢をとる。
視線は正面を向いている時もあれば、目を閉じている時もあった。
特に何をするでもなく、テオは一人きりの時間を過ごしていた。
クラシックなコール音がする。
電話だ。テオはアンティークな受話器を取った。
「はい。生徒代表室です」
きっと警備か理事会関係者からの電話だろう。
そう思っていたテオの耳に聞こえてきたのは、予想外の声だった。
「……テオか?」
「えっ……その声は、クラウス? クラウスなのかい!?」
「ああ」
肯定の返事。テオは息を呑む。
思わず正面にある肖像画を見上げていた。額の中に佇む彼。
もう二度と聞けないかもしれないと思っていた声が再び耳に届く。
「今、ミーティング中か?」
「ううん!」
テオは意気込んで答えた。
「もう終わったところだよ! ここには今私しか居ない!」
「そうか」
もしミーティング中だと答えたら、真面目な彼は電話を切るだろう。
実際に今がミーティング終了後で本当に良かったとテオは思った。
どうしよう、何を話そう、と考えると同時に、思ったことがそのまま言葉になっていく。
「クラウス……本当に本物のクラウスなのだね。
嬉しい、貴方が学院に電話をしてくれるだなんて、思ってもみなかった。
ああ、でも、卒業した貴方が電話をしてくるなんて、
しかも生徒代表室の電話ということは、何か余程の緊急事態なの!?」
「いや、緊急事態などは、なく」
クラウスがしどろもどろになる。
「その、特別な用事があるかというと、特にはなくてだな」
「特別用事はないのに、電話を掛けてくれたのかい?」
「まあ、結果的に言えば、そうなる、な」
「クラウス……ありがとう。ああ、神様」
「学内の様子はどうだ? 何か問題は」
「困ったことは起こっていないよ。アイヴィーも今年は平和だなって言っていたし」
「シュヌーシアの奴等は元気にしているか」
「うん。風邪を引いたりすることはあったけれど、みんな治ったし、大きな病気もなかったよ」
「そうか。では、お前は……生徒代表の仕事はどうだ?」
「大丈夫だよ。生徒のみんな、先生方や警備の皆さんが助けて下さるから」
「なら、いい」
「クラウス、もしかして、私のことが心配で電話を?」
「それはお前が! お前が、任命式で自信なさそうにしていたから。
あんな顔をされたら、俺が卒業した後、
お前がちゃんとやっているか、何か悩んだりしていないか、
気になるだろうが! 先代の生徒代表として!」
「卒業しても、私のことを気にかけてくれてたの」
「ま、毎日というわけではないぞ決して!
時々、というか、折りに触れてというか、海や太陽を見た時とか」
「太陽? ということは毎日私のことを?」
「く、曇りや雨の日だってあるだろう」
「ありがとう、忘れないでいてくれて。
私ばかりが貴方のことを考えているのかと思ってた。今、電話が来る前だって、私」
「そんな簡単に忘れられるか、お前のような奴を」
「えっ」
「いや、あの、すまん。くだらないことで生徒代表室に電話をして。もう切る」
「待っておくれ、もう少し」
「じゃあな」
「クラウス!」
目が覚めた。
生徒代表の机の上に伏せて眠っていたようだ。
テオは受話器を探す。しかし、傍に転がってはいなかった。
何事もなかったかのように、受話器はあるべき場所にあった。
それが何より、クラウスからの電話が夢の中の出来事であったことを告げていた。
テオがシュヌーシア寮に戻ってくると、寮生達に声をかけられた。
「あっ。テオが帰ってきたよー」
「生徒代表のお仕事、お疲れ様!」
「テオ、遅かったね。大丈夫?」
「いや、居眠りをしてしまったみたいで」
「またかよ。そんなに寝心地良いのか? 生徒代表室って」
「静かな部屋だからね」
「ベッドの中で寝なきゃ風邪引いちゃうよー」
「じゃあそれは寝痕か。ほっぺに縦線入ってるぞ」
「おや。伸ばしておけば治るかな?」
テオは自分の右頬を伸ばす。
「ふぇいとひゃいひょうひつには」
「喋るなら、ほっぺから手離せよ」
「あ、そうか。生徒代表室には電話があるのだけれどね。
クラウスが電話をかけてきてくれた夢だったよ」
「テオ、クラウスとお話しできたの!?」
「うん。夢の中でね」
「クラウスと何てお話ししたの? 覚えてる?」
「学内の様子はとか、シュヌーシアのみんなは元気かって」
「えっ、ほんと?」
「夢の中でも、クラウスはクラウスだな」
「クラウス、元気にしてたんだね。良かった」
「夢の中の話だけどな」
「でも、話聞いてると、結構リアルな夢じゃん?
ひょっとして、電話をしたあとに昼寝したんじゃないの?」
「えっ? じゃあ夢じゃないってこと? テオ、そうなの?」
「ううん。夢だったのだと思うよ。よく考えれば、
生徒代表室にクラウスが電話をかけてくる筈がないもの」
「どうして?」
「生徒代表室の電話はね、私用の電話は禁止されているのだよ。
生徒代表だったクラウスなら、そのルールを知っている。
規律に厳しいあの人が、自らルールを破る筈がないだろう?」
「そっか。じゃあ、やっぱり夢なのか、残念だね」
「私は幸せだったよ。夢だとしても元気そうなクラウスに会えて」
夢は記憶を整理する為に見る。
その説を聞いたことはあるが、テオは密かにこう感じていた。
最近の私を見かねて、彼が夢の中まで会いに来てくれてたのではないかと。
テオは心の中でそっと伝える。――ありがとう、クラウス。
fin
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