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Marginal Prince Short Story
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■アイヴィー×姉貴(新婚モード)+ソクーロフ博士 ※ドリーム機能版はこちら
ある日。##NAME1##は、仕事帰りの彼と旧市街で待ち合わせて、
外で夕食にしようという話になった。
彼とはもちろん、先日結婚したアイヴィーのことである。
一緒に暮らし始めてよく解ったが、警備責任者という彼の仕事は本当に大変なものだった。
勤務時間が終わっても、休日であっても、何かあれば容赦なく彼の携帯電話は鳴る。
必要な指示を出すだけで済むこともあるが、
「ちょっと顔出してくるわ」と仕事に向かうことも少なくなかった。
そんな中、昨日の夜に##NAME1##は言われたのだ。
「明日は早く上がれそうだから、夜、ちょこっとデートしよ?」と。

待ち合わせ場所は旧市街の広場。
##NAME1##は早めに来たのだが、それより早くアイヴィーは着いていた。
「随分早かったね」と言うと、アイヴィーは笑っていた。
「##NAME1##ちゃんに早く会いたいから、仕事放り出して来ちゃった。ひひひっ」

その後、アイヴィーと##NAME1##が気に入っているバーに行った。
ここは独身時代からアイヴィーが通っていたお店で、名前は『ネモフィラ』という。
今日はアイヴィーが車で来ているので、##NAME1##もお酒は飲まなかったが、
アルコールがなくても十分楽しい夜だった。
飲んでいないのに、少し気持ちがふわふわしている。
素敵なバーでアイヴィーと一緒に居られるからだろうか。
「あれ? ##NAME1##ちゃん、もしかして、ちょっと寒い?」
無意識に腕を抱いていたら、そう聞かれた。確かに肌寒い。
「そっか。ちょっと待ってて」
アイヴィーは片手を挙げて、ボーイを呼ぶ。
すると、リングのピアスをしている男の子が来た。
もう##NAME1##とも顔馴染みのボーイで、カールくんという子だ。
人懐っこく、お客(特に女の子)と話すのが大好きなタイプ。
空いたグラスを出しながら、アイヴィーはこう頼んだ。
「コレと同じのもう一杯、あとちょっと室温上げて貰ってもイイかな?」
ボーイはアイヴィーと##NAME1##を見比べて、##NAME1##のほうを見た。
「あっ、##NAME1##おねーさん、寒かった? ごめんね、すぐに温度上げてくるから」
たたたっと店の奥に走っていった。

「##NAME1##おねーさん?」
暫くすると、ボーイのカールくんが戻って来た。
「どう? 寒くなくなった?」
##NAME1##は頷き、お礼を言った。
「また寒かったり暑かったりしたら、すぐオレに言ってね?
あと、これはオレからおねーさんにプレゼント。カールくん特製スペシャルココア~!
あ、ちなみにマスターにはナイショの方向で♪」
バチンとウインクされたと思ったら、カールくんが顔が近づいてきた。
「オレのラブがいっぱい入ってるから、これで温まってね?」
「カ~~ル~~」
アイヴィーが唸る。カールくんはひょいと離れた。
「なんだよ、アイヴィー。オトナのくせにヨユーないなー。
結婚したのにそんなに嫉妬深いんじゃ、##NAME1##おねーさんに嫌われちゃうぞ~?
もっとドーンと構えてろよ、ドーンと。例えばほら『残念だったなあ、ボーズ。
この女が惚れてんのは俺だけなんだよ』くらい言えって」
「それがオトナのヨユーなのか?」
「じゃー、ごゆっくりー」
風のように去っていき、また他のテーブルへお喋りに行った。


翌朝。ベッドの中で##NAME1##は目を覚ました。
段々見慣れてきた風景。ここはアイヴィーと##NAME1##の自宅である。
博士に会う夢を見たような気がする。
どんな夢だったか思いだそうとすると、途端に光景が霧となってしまった。
しかし、アイヴィーと結婚したのに、他の男の人を夢に見るなんて。
とにかく起きあがろうとしたが、いつもより身体が重い気がした。
「あ、起きたんだね、##NAME1##ちゃん」
アイヴィーがやってきた。
「具合どう? あ、そうだ。熱は?」
ペタと額と額が触れ合う。
「うん、下がったね。さっすがソクちゃんのおクスリ」
##NAME1##が「博士?」と呟くと、アイヴィーは少し驚いた様子だった。
「##NAME1##ちゃん、覚えてないの? 昨日のこと」
あまりはっきり覚えていない。
アイヴィーの話によると、昨夜は大変だったらしい。
バーから家に帰ってきたが、夜中、##NAME1##が発熱しているのにアイヴィーが気付いた。
当時プチ・パニック状態に陥っていたアイヴィーは、真夜中にも関わらず、思わずソクーロフ博士に電話。
更には、夜の道を車で飛ばして、博士を家まで連れてきたというのだ。
結局、##NAME1##は軽い風邪だったようで、投薬して症状も落ち着いたので、
明け方、アイヴィーは博士を、教職員の宿舎『メルキュール館』まで送り届けた、らしい。
それほどのドタバタ劇があったというのに、##NAME1##の記憶には、何故か残っていない。
ただ、博士の夢を見たような見ていないような、といったおぼろげなものでしかなかった。
覚えていないのは、当時、熱があったからだろうか。
「##NAME1##ちゃん、食欲はある? なんか食べれそう?」
アイヴィーの顔を見て、##NAME1##はあれと思う。
今日だって彼は仕事の筈である。時計を見ると、とっくに出かけている筈の時間だった。
仕事はどうしたの、と聞いた。
「休んだよ。ダメモトでクロちゃんに『今日休んでもイイ?』って聞いてみたらイイって」
クロちゃんとは副司令官のラインハルト・クロイツさんのことだろう。
##NAME1##は一度だけ会ったことがある。
軍出身だけあって礼儀正しい人だったが、やや慇懃無礼なかんじでちょっと怖いくらいだった。
「休みたいって言ったら、クロちゃんにはイロイロ言われちゃったけどね」
大丈夫なの、と##NAME1##が聞く。
「ヘーキ、ヘーキ。俺一人居なくたって、クロちゃんが居れば問題ナシ」
##NAME1##が心配したのは、副司令官に言われたイロイロの部分だ。
そうじゃなくて、と言おうとしたが、咳が出て言葉にならなかった。
「ああ、##NAME1##ちゃん! まだ熱が下がっただけなんだから、今日は無理しちゃダメ!
ソクちゃんも安静にしてなさいって言ってたよ? あ、そだ。コレ」
一枚のメモを渡された。
「保健室の電話番号。ソクちゃんから預かったんだ。これからも何かあったら電話するようにって」
ボールペンで書かれた数字。おそらく博士の直筆だろう。
「あ、それからね、##NAME1##ちゃん。今日は俺が料理とか全部やるから」
いいの、と##NAME1##は聞いた。
「当たり前だよ。今日の##NAME1##ちゃんは、安静にして、早く元気になるのがお仕事なんだから」
彼は長く一人暮らしをしていたし、デッドプリンスのおかげで料理もできる。
家事全般を一人でこなせる旦那様は、こういう時とても心強い。
その朝、彼の言葉に甘えて、##NAME1##は、彼が作ってくれた朝食を食べた。
美味しい朝ご飯を食べたら元気が出てきた。安静にしている必要もなさそうなくらいだ。
「よしっ。じゃあ俺、ちょっと買い物してくるよ。##NAME1##ちゃん、なんか食べたいものある?
俺に作れるものなら何でも作るし、あ、フルーツとかのほうがいいのかな?」
普段から気を使ってくれる人だが、今日のアイヴィーは特別優しかった。
薬のおかげで、もう体調もほぼ回復しているし、そこまで大事に扱って貰わなくてもいい気がする。
けれど、アイヴィーはなんだかはりきっているようだし、
ここで「もう元気になったから」と言ってしまっては、仕事を休んでくれた意味がなくなってしまう。
今日は一日、彼に甘えさせて貰おう、と決めた。なんだか学校をズル休みしているような気分だが。
「じゃ、行ってくるね」
アイヴィーは買い物に出かけていった。

##NAME1##の手には一枚のメモ。
この番号にかければ、博士と話せる。これからいつでも。今すぐでも。
アイヴィーが帰ってくるまで、どんなに早くても30分はかかる。
博士に昨日のお礼を言わなくちゃ。そう思い、##NAME1##は携帯電話を手にした。
番号を押しながら、少し緊張しているのに気付いた。
最後の数字まで押したあと、携帯電話を耳にあてる。
コール音に耳を澄ませ、相手が出るのを待つ。
「ソクーロフです」
博士の声だ。テレビ電話で話す時と違って、彼の低音がダイレクトに耳を刺激する。
一瞬遅れて、##NAME1##は名乗った。
「君か」
博士の声が少し優しくなったように聞こえた。
「早速電話してくれたんだね、ありがとう。
声は元気そうに聞こえるが、今日の体調はどうだい? そう。良かった」
##NAME1##は昨日のお礼を言った。
「こちらこそ、ありがとう。
元気になった君の声が聞けて、医師になって良かったと思えたよ。
――いや、すまない。ところで、アイヴィーは仕事に行ったのかな?
やはり休んだか。そうなると、君は彼が居ない間に、私に電話をかけてくれたんだね?」
##NAME1##は黙ってしまう。
「##NAME1##? どうして今、罪悪感を感じたんだい?」
言い当てられた。
「昨夜の礼と体調が回復したことを報告する為に電話してくれたんだろう?
君が気に病むようなことは何も無い筈。それとも、他に話したいことがあるのかな?」
##NAME1##は言葉が出てこない。
「私には守秘義務があるのを忘れたのかい?
君から聞いた話は、例え、君の夫であっても伝えないよ」
どうして自分は博士に電話をしているのだろう。
昨夜のお礼を言いたかったのは間違いない。だけど、本当にそれだけか。
「やあ。良いよ、そこに座りたまえ」
博士の声が若干明るめに変わった。
「生徒が来たから、すまないが、今日はこれで失礼させて頂いても良いかな?」
##NAME1##は少しほっとしつつ、はいと答えた。
「私は大抵ここに居るから、また私と話したくなったら、いつでも電話をかけておいで。
風邪は治りかけが大切だ。今日は多めの水分補給を心がけ、
夜は、なるべく早く休むように。いいね?」
解りました、と言って電話を切った。
携帯電話をテーブルの上に置くと、大きな溜め息が出た。心臓の音が早い。
とりあえず、忘れないうちに、保健室の電話番号をアドレス登録しておこうと思った。
再び携帯電話を手にする。発信履歴から今かけた電話番号を選択する。
あとは『登録』のボタンを押すだけなのに、そこで、##NAME1##の手が止まった。
この番号を携帯電話に覚えさせて本当に良いのだろうか、という考えが浮かんだのだ。
頭の中で、先程聞いた博士の声が再生される。
――君が気に病むようなことは何も無い筈――
その通りだ。知り合いの医師に繋がる電話番号を登録することの何が悪いのか。
けれど、この些細な行動ひとつで、何かが狂い始める予感がするのだ。
携帯電話を握ったまま、どのくらいそうしていただろう。
タンタンタンと軽快なリズムで、螺旋階段を上がってくる音がした。
「##NAME1##ちゃん、ただいまー!」
アイヴィーの声が聞こえるのと同時に、##NAME1##は『登録』ボタンを押していた。


後日。##NAME1##が全快した頃に飲み会の開催が決まった。
メンバーは##NAME1##、アイヴィー、ソクーロフ博士の三人。
「##NAME1##、明日は来てくれるんだろう?」
はい、と答えた。
飲み会前日、##NAME1##は携帯電話で博士と話していた。
保健室の電話番号を知ってからというもの、断続的ながらも博士との電話は続いていた。
博士と電話したことは、アイヴィーには伝えなかった。いじけられるのが明白だからだ。
アイヴィーに知られたら、いい顔はされないと解っているのに。
あの低い声が聞きたいと思っている自分が居て、
何かと理由を付けては保健室に電話をしてしまう。
まるで、中毒性の高いクスリを欲するように、博士の声を求めてる。
いけないことだと知りながら、携帯電話を手にしてしまう。
「明日、久し振りに##NAME1##と会えるんだね。楽しみにしているよ」
明日、博士と会える。そう思うだけで胸が苦しかった。


「じゃ、カンパイしよ! せーの、カンパーイ!」
飲み会は旧市街のカフェバーが会場となった。
四人がけのテーブル席。##NAME1##から見て、隣がアイヴィー。向かいに博士が座っていた。
最初の10分くらいは、博士と目が合うと思わず逸らしていた##NAME1##だったが、この三人で飲むことは、とても楽しかった。
生徒達の話から始まり、新市街にできた新しい店の話、
和食や日本文化について、明日から使える心理学入門講座、
アルフォンソ島あるある、ソクーロフ博士のすべらない話など、話題は尽きなかった。
まるで学生時代からの友人同士で飲んでいるかのような飲み会だった。
「俺、ちょっとトイレ行ってくるねー」
アイヴィーが席を外し、##NAME1##は博士と二人きりになった。
博士はグラスや煙草に口付けるだけで、話しかけてこなかった。
二人の間を無言の時が流れる。##NAME1##は変に緊張してしまい、博士の顔を見上げることもできなかった。
テーブルの端にあるメニュー表を手に取ってみたりする。
##NAME1##の一挙一動を観察する視線を感じながらも、メニューを熟読するフリをしていた。
そんな演技をしていたせいか、クスリと笑われた。
「##NAME1##」
名前を呼ばれただけでビクリとした。
「アイヴィーが戻ってきたら、今宵はお開きにしよう?」
##NAME1##は少し拍子抜けだった。
「今日は##NAME1##が居るから、とても有意義な夜だったよ、ありがとう。
良ければ、また飲みに行かないかね? 今度は、私と二人で」
博士は微笑を湛え、「詳細については、また改めて誘うよ」

アイヴィーが帰ってきた。
「あれ? ##NAME1##ちゃん、どーしたの? 顔赤くして。酔っちゃった?
あっ! ソクちゃんが##NAME1##ちゃんに、なんかヘンなこと言ったんじゃないでしょーね?」
「まさか。お前の寝相について話していただけだ」
「ね、寝相って!?」
「アイヴィーは丸まって眠るクセがあるだろう? とな」
「ちょ、あんた、##NAME1##ちゃんの前で何言っちゃってんの!?
ご、誤解を招くよーなこと言うなって!」
「誤解? 保健室へ昼寝に来るのはお前だろう?」
「あ、なーんだ。そーゆーイミね」
「どういう意味だと思ったんだか。さあ、そろそろ引き上げるぞ」

##NAME1##が思っていたより、少し早めのお開きとなった。
店を出ると、二台のタクシーが待っていた。
博士が乗る車と、アイヴィーと##NAME1##を乗せる車だ。
「じゃー、ソクちゃん、またあしたー」
「ああ」
博士は背を向ける前に、##NAME1##に視線を送った。
暗に「また今度」と言うかのように。

##NAME1##はアイヴィーと同じ車に乗り込む。
旧市街を抜け、タクシーは海沿いの道を走っている。
後部座席に居るアイヴィーは。ゴキゲンで隣の##NAME1##に話しかける。
「今夜は楽しかったねー。また三人で飲みに行きたいなー」
##NAME1##は、そうだね、と相槌を打ちながら、アイヴィーが居ないほうの窓を見た。
暗い海の上には半月が浮かんでいた。
距離は遠くても、月は、ひっそりとタクシーを追い駆けてくる。
月は##NAME1##を追い越せない。けれど、##NAME1##を見逃すこともない。
##NAME1##のあとを追うように、欠けた月は付いてきた。


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