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■アイヴィー
■マジプラス@アイヴィー 結婚前
丸皿には、焼きマシュルームがお花のように並んでる。
キノコの笠に詰まってるのは、カリカリになった生ハム。
それを木製のピンで刺して口に運ぶと、ジューシーな肉汁が口の中に広がる。
これがビールに合わないわけがないでしょ。
ハフハフしながら食べるのが旨い。熱過ぎて、たまにヤケドするけど。
「こら、アイヴィー!」
仕事帰り、スペインバルでマッシュルームの生ハム詰めを食べてたら、
後ろから頭を、はたかれた。ちょっと痛い。頭を押さえて振り向く。
そこに居たのは、褐色の肌をしたおばちゃんだった。
空港近くにあるスタンドの女主人であり、
島で一番古いバンド『ロシニョール』のメインボーカルでもある、シニョーラ・マルタだ。
ズンズンと、ダイナマイトなボディが俺に迫ってくる。地声も大きい。
「聞いたよ? アイヴィー、結婚するんだって!?」
マルタの口から『結婚』という言葉が出た。
この人に言わせてはいけない言葉を、言わせてしまったような気持ちになる。
「あ、う、うん。参ったな。シニョーラも知ってるのか。誰から聞いたの?」
「みんなからさ。もう島中の噂だよ! マージナルプリンスのお姉さんを射止めたんだろう?」
「うん、実はそうなんだ」
「器用な男だねえ。でも、なんであたしに一早く教えてくれないんだい?
そんなハッピーなニュースなら、あんたの口から直接聞きたかったよ」
「ゴメン、ゴメン。でも、式もまだ先だしさ。もう少し後になってから言おうと思ってたんだよ」
後半はウソだ。必要各所には既に結婚することを報告済みだし、酔っぱらって、口を滑らせたことも何回かある。
マルタには、俺が島に来たばかりの時から、何かと世話になってきたことを考えれば、
当然、一言報告すべき相手なのは、自分でも解ってた。
だけど、マルタには「俺、結婚するんだ」の一言が今まで言い出せなかった。
マルタには、かつてマージナルプリンスと恋に落ちたという噂がある。
そのプリンスが島に帰ってくるのを信じ、今も待ち続けている。
そうでなければ、毎朝、空港傍のスタンドに立っている理由が考えられない、という話だ。
もし、噂が事実なら、俺の幸せを報告するのは、相手のことを考えてない自慢みたいで嫌だし。
マルタが相手だと、母親に結婚を伝えるような気恥ずかしさを感じるからかもしれない。
「あ、イイコト思い付いたよ!」
褐色の唇から、白い歯が見える。
「お嫁さんと一緒に、あたし達のライブに来な。祝いに、シニョーラ・マルタが一曲歌ってやるからさ?」
「そ、そんなことして貰わなくても。てゆうか、ちょっとハズカシイし」
「なーに言ってんだい! 息子のように可愛がってやったのに、祝わせてもくれないのかい?
あたしゃ、そんなに薄情な男に育てた覚えはないよ?」
育てて貰った覚えはないけど。いや、この島では、育てて貰ったようなモンかもしれない。
ポンと肩に手を置かれた。
「おめでとさん、幸せにね」
「……う、うん。アリガト」
なんだか、すごく照れた。
「ハハハッ! 赤くなっちゃってカワイイねえ。トマトみたいだよ?」
いつもと同じように、マルタは豪快に笑ってた。
「おーい、マルター!」
ステージ脇から声がかかる。
「そろそろリハ始めるぞー」
おひげのおじさんが手を振っていた。マルタのバンドメンバーだ。
「若い男がいいのは解るけどさー。俺達のこと忘れるなよー!」
マルタは男勝りに笑う。
「バカだねえ。アイヴィーとは遊びだよー!」
なんでだろう。そう言われると、なんか少しヘコむ。
「ハハハッ、落ち込むんじゃないよ、アイヴィー」
パーンと背中を叩かれた。やっぱり、ちょっと痛い。
「今度はお嫁さんに会わせとくれよー」と言いながら、マルタはステージに向かった。
頼りがいのある背中を見送りながら、俺はビアジョッキを傾けた。
俺が結婚すること、マルタには言っちゃいけない気がしてた。
マルタはいつもと変わらない笑顔で、喜んでくれたけど、ホントは心のやらかいとこを傷付けたかもしれない。
でも、マルタに「おめでとう」と言って貰えたのは、じんわり嬉しかった。
少し温くなったビールが喉を流れていく。
皿に料理が残ってた。
熱々が美味しい焼きマッシュルーム。ピンで刺して口に放る。
ありゃ、もう冷めてるや。
fin
■マジプラス@アイヴィー 結婚前
丸皿には、焼きマシュルームがお花のように並んでる。
キノコの笠に詰まってるのは、カリカリになった生ハム。
それを木製のピンで刺して口に運ぶと、ジューシーな肉汁が口の中に広がる。
これがビールに合わないわけがないでしょ。
ハフハフしながら食べるのが旨い。熱過ぎて、たまにヤケドするけど。
「こら、アイヴィー!」
仕事帰り、スペインバルでマッシュルームの生ハム詰めを食べてたら、
後ろから頭を、はたかれた。ちょっと痛い。頭を押さえて振り向く。
そこに居たのは、褐色の肌をしたおばちゃんだった。
空港近くにあるスタンドの女主人であり、
島で一番古いバンド『ロシニョール』のメインボーカルでもある、シニョーラ・マルタだ。
ズンズンと、ダイナマイトなボディが俺に迫ってくる。地声も大きい。
「聞いたよ? アイヴィー、結婚するんだって!?」
マルタの口から『結婚』という言葉が出た。
この人に言わせてはいけない言葉を、言わせてしまったような気持ちになる。
「あ、う、うん。参ったな。シニョーラも知ってるのか。誰から聞いたの?」
「みんなからさ。もう島中の噂だよ! マージナルプリンスのお姉さんを射止めたんだろう?」
「うん、実はそうなんだ」
「器用な男だねえ。でも、なんであたしに一早く教えてくれないんだい?
そんなハッピーなニュースなら、あんたの口から直接聞きたかったよ」
「ゴメン、ゴメン。でも、式もまだ先だしさ。もう少し後になってから言おうと思ってたんだよ」
後半はウソだ。必要各所には既に結婚することを報告済みだし、酔っぱらって、口を滑らせたことも何回かある。
マルタには、俺が島に来たばかりの時から、何かと世話になってきたことを考えれば、
当然、一言報告すべき相手なのは、自分でも解ってた。
だけど、マルタには「俺、結婚するんだ」の一言が今まで言い出せなかった。
マルタには、かつてマージナルプリンスと恋に落ちたという噂がある。
そのプリンスが島に帰ってくるのを信じ、今も待ち続けている。
そうでなければ、毎朝、空港傍のスタンドに立っている理由が考えられない、という話だ。
もし、噂が事実なら、俺の幸せを報告するのは、相手のことを考えてない自慢みたいで嫌だし。
マルタが相手だと、母親に結婚を伝えるような気恥ずかしさを感じるからかもしれない。
「あ、イイコト思い付いたよ!」
褐色の唇から、白い歯が見える。
「お嫁さんと一緒に、あたし達のライブに来な。祝いに、シニョーラ・マルタが一曲歌ってやるからさ?」
「そ、そんなことして貰わなくても。てゆうか、ちょっとハズカシイし」
「なーに言ってんだい! 息子のように可愛がってやったのに、祝わせてもくれないのかい?
あたしゃ、そんなに薄情な男に育てた覚えはないよ?」
育てて貰った覚えはないけど。いや、この島では、育てて貰ったようなモンかもしれない。
ポンと肩に手を置かれた。
「おめでとさん、幸せにね」
「……う、うん。アリガト」
なんだか、すごく照れた。
「ハハハッ! 赤くなっちゃってカワイイねえ。トマトみたいだよ?」
いつもと同じように、マルタは豪快に笑ってた。
「おーい、マルター!」
ステージ脇から声がかかる。
「そろそろリハ始めるぞー」
おひげのおじさんが手を振っていた。マルタのバンドメンバーだ。
「若い男がいいのは解るけどさー。俺達のこと忘れるなよー!」
マルタは男勝りに笑う。
「バカだねえ。アイヴィーとは遊びだよー!」
なんでだろう。そう言われると、なんか少しヘコむ。
「ハハハッ、落ち込むんじゃないよ、アイヴィー」
パーンと背中を叩かれた。やっぱり、ちょっと痛い。
「今度はお嫁さんに会わせとくれよー」と言いながら、マルタはステージに向かった。
頼りがいのある背中を見送りながら、俺はビアジョッキを傾けた。
俺が結婚すること、マルタには言っちゃいけない気がしてた。
マルタはいつもと変わらない笑顔で、喜んでくれたけど、ホントは心のやらかいとこを傷付けたかもしれない。
でも、マルタに「おめでとう」と言って貰えたのは、じんわり嬉しかった。
少し温くなったビールが喉を流れていく。
皿に料理が残ってた。
熱々が美味しい焼きマッシュルーム。ピンで刺して口に放る。
ありゃ、もう冷めてるや。
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