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■アイヴィー
ある日曜日。俺んちにシルヴァンとハルヤが遊びに来ていた。
今日は俺も休みで、いつもよりちょっと遅く起きたとこに電話がかかってきた。
「アイヴィー、今日はお休みでしたよね?
今からハルヤと一緒に遊びに行きますので、
美味しいランチを用意して、待ってて下さいねっ!」
起き抜けの俺は、あいつらの昼メシを作ることになり、
まもなくやってきたシルヴァンとハルヤと一緒にブランチを食べることになった。
冷蔵庫に入ってたハムとチーズをパンに挟んで焼いただけのサンドイッチを、
あいつらは「美味しい」を連呼しながら、随分ウマそうに食ってくれた。
食事が終わると、シルヴァンが持ってきたDVDの鑑賞会が始まった。
「ああっ、この子です!」
シルヴァンがテレビ画面を指差す。
「僕、最近このキャラが好きなんですよ~!」
それはポニーテールのアニメキャラだった。
主人公である少年の幼馴染みのようで、弱気な主人公を叱り飛ばすシーンが続いた。
「僕もこんなふうに叱って欲しいですー、ユウタのお姉さんに!」
ハルヤは困ったような苦笑しながら、
「ユウタのお姉さんは優しい人だから、俺達にはこんなに怒ったりしないよ」
「でもでもっ! 弟には厳しい一面もあるじゃないですかー? ユウタだけズルイですー!
僕もお姉さんに『もう、シルヴァン、ダメだぞっ。めっ!』とかって怒られてみたいですー!」
「……てゆうか、なんで俺んちでアニメ見てんだよ」
「僕のイチ押し夏アニメをアイヴィーにも教えてあげようと思いまして!
アイヴィーがジャパニメーションの流行に乗り遅れないように!」
「……そりゃあ、あんがとさん」
「こういう子のこと、日本語で『ツンデレ』って言うんですよ! ねっ、ハルヤ!」
「うん、まあ。でも俺はシルヴァンから教わった言葉だったけど」
「僕、流行の言葉にはビンカンなほうですから♪ いいですか、アイヴィー?
ツンデレとは、普段はツンツン、仲良くなってくるとデレデレになる、
魅力的なキャラクターのことをいうんですよ!」
「……ハーイ。解りましたー」
ハルヤが苦笑している。
「ごめんね、アイヴィー。最近のシルヴァン、寮でもこんな調子なんだ。
ほんとシルヴァンって、ヘンな日本語ばっかり知ってるよね」
「ヘンじゃないですよー。ツンデレは立派な日本語です!」
「立派かなあ」
「例えばー、僕達ウーティス寮生で言うと、アンリがツンデレだと思うんですよ!」
「そーなん?」と俺。
「だって、ほら、普段はツンツンでしょう?」
「まー、確かに。でも俺は、アンリのデレを見たことないからなあ」
「僕は、さわりだけ見たことあります!」
「どんなの?」とハルヤ。
「怪我をして森に落ちていた小鳥を、アンリは拾って助けていたんです!」
「……そんなのもデレに入るんか?」
「入ります! こういうのも大事なデレの一種だと僕は思います!
普段はツンツンしているのに、たまに見せるデレ。
そこに本来の優しさが垣間見える。そのチラリズム具合がイイんですよー!」
「……熱弁だねえ」
それが先週の話。
今朝の俺は徹夜明けでバリバリ残業中。島に侵入者がやってきたからだ。
珍しいことに深夜に続いて早朝にも、黒服のオジサン達がおいでになすって、
俺達警備は砂浜で大乱闘――って程でもないかも。幸い、コッチの快勝だったから。
「はーい。みんな、朝までお疲れさん。じゃー、撤収っ」
俺の号令で、警備のみんなが車に戻っていく。
俺は一人、空に向かって腕を伸ばした。
見上げると、さっきまで真っ暗だった筈の空が、ピンクになっていた。
朝焼けだ。超キレイ。腕時計を覗くと午前4時25分だった。
「まだ4時半だってのに、もう夜明けかー。夏は朝が来るのが早いねー」
「司令」
振り返ると、副司令官のクロイツが居た。
「あ、ねえねえ、クロちゃん。空見てよ。朝焼け!」
「この時間なら、大抵見られるものです」
つまらなそうな顔で言われた。
「それより、本日は午前9時から理事会とのネットミーティングですが、一度ご自宅に戻られますか?」
「いんや。うち帰ってまた来るのめんどくさいし。
お片付けが終わったら、監視チームのお手伝いでもさせて貰うよ」
「いけません。徹夜明けで監視業務がまともにできるわけないでしょう。
事後処理は我々夜勤組に任せて、貴方はさっさと仮眠室へ行って下さい」
「……イイの?」
「司令官が眠そうな顔では理事達に失礼ですから」
「ん。サンキュ。じゃあ、一眠りしてシャキッとした顔になってくるわ」
警備本部の仮眠室。ここは年中、寝るの最適な環境がある。常に静かで暗い部屋だ。
ベッドも高級なヤツらしい。学院直属の警備組織は、莫大な運営資金を誇る学院の恩恵を受け、
ちょっとした備品までイイモンが用意されてる。
ま、俺なんかはパイプ椅子に座ったままでも寝れるくらいなんだけど。
寝心地の良いベッドに入って、目覚ましをセットする。
目を閉じたら、俺はすぐに眠りに落ちた。
仮眠を終えて、俺は執務室に顔を出したのは8時20分。
窓の向こうに見える空は、すっかり青に染まっていた。
「おはようございます。やっとお目覚めですか、司令」
副司令官の席に座っていたクロイツが、すっと立った。
「あと10分遅ければ、叩き起こしに行っていましたよ」
そう言いながら、執務室の隅に向かう。
「ありゃ、ちょっと遅かった? ゴメン、ゴメン」
俺は自分の席に着き、パソコンを起動させる。
習慣的にメールチェックをしたが、全てチェック済みの跡があった。
必要な返信作業は俺の代わりにクロイツがやってくれたようだ。
「クロちゃん、ありがと。メール見てくれて」
「仕事ですから。いちいちお礼を言って頂くようなことではないかと。
それより、まだ眠そうな顔ですね?」
「そう?」
「これでも飲んで、早く目を覚まして下さい」
俺の前に置かれた白いマグカップ。クロイツがコーヒーを淹れてくれた。
「あ、ありがと」
目覚めの一杯を口にする。美味い。俺はコーヒーを飲みながらあっと思う。
「もしかして……」
「どうなさいました、司令」
「う、ううん。何でもない」
もしかして、クロイツみたいなのも『ツンデレ』って言うのかな?
fin
ある日曜日。俺んちにシルヴァンとハルヤが遊びに来ていた。
今日は俺も休みで、いつもよりちょっと遅く起きたとこに電話がかかってきた。
「アイヴィー、今日はお休みでしたよね?
今からハルヤと一緒に遊びに行きますので、
美味しいランチを用意して、待ってて下さいねっ!」
起き抜けの俺は、あいつらの昼メシを作ることになり、
まもなくやってきたシルヴァンとハルヤと一緒にブランチを食べることになった。
冷蔵庫に入ってたハムとチーズをパンに挟んで焼いただけのサンドイッチを、
あいつらは「美味しい」を連呼しながら、随分ウマそうに食ってくれた。
食事が終わると、シルヴァンが持ってきたDVDの鑑賞会が始まった。
「ああっ、この子です!」
シルヴァンがテレビ画面を指差す。
「僕、最近このキャラが好きなんですよ~!」
それはポニーテールのアニメキャラだった。
主人公である少年の幼馴染みのようで、弱気な主人公を叱り飛ばすシーンが続いた。
「僕もこんなふうに叱って欲しいですー、ユウタのお姉さんに!」
ハルヤは困ったような苦笑しながら、
「ユウタのお姉さんは優しい人だから、俺達にはこんなに怒ったりしないよ」
「でもでもっ! 弟には厳しい一面もあるじゃないですかー? ユウタだけズルイですー!
僕もお姉さんに『もう、シルヴァン、ダメだぞっ。めっ!』とかって怒られてみたいですー!」
「……てゆうか、なんで俺んちでアニメ見てんだよ」
「僕のイチ押し夏アニメをアイヴィーにも教えてあげようと思いまして!
アイヴィーがジャパニメーションの流行に乗り遅れないように!」
「……そりゃあ、あんがとさん」
「こういう子のこと、日本語で『ツンデレ』って言うんですよ! ねっ、ハルヤ!」
「うん、まあ。でも俺はシルヴァンから教わった言葉だったけど」
「僕、流行の言葉にはビンカンなほうですから♪ いいですか、アイヴィー?
ツンデレとは、普段はツンツン、仲良くなってくるとデレデレになる、
魅力的なキャラクターのことをいうんですよ!」
「……ハーイ。解りましたー」
ハルヤが苦笑している。
「ごめんね、アイヴィー。最近のシルヴァン、寮でもこんな調子なんだ。
ほんとシルヴァンって、ヘンな日本語ばっかり知ってるよね」
「ヘンじゃないですよー。ツンデレは立派な日本語です!」
「立派かなあ」
「例えばー、僕達ウーティス寮生で言うと、アンリがツンデレだと思うんですよ!」
「そーなん?」と俺。
「だって、ほら、普段はツンツンでしょう?」
「まー、確かに。でも俺は、アンリのデレを見たことないからなあ」
「僕は、さわりだけ見たことあります!」
「どんなの?」とハルヤ。
「怪我をして森に落ちていた小鳥を、アンリは拾って助けていたんです!」
「……そんなのもデレに入るんか?」
「入ります! こういうのも大事なデレの一種だと僕は思います!
普段はツンツンしているのに、たまに見せるデレ。
そこに本来の優しさが垣間見える。そのチラリズム具合がイイんですよー!」
「……熱弁だねえ」
それが先週の話。
今朝の俺は徹夜明けでバリバリ残業中。島に侵入者がやってきたからだ。
珍しいことに深夜に続いて早朝にも、黒服のオジサン達がおいでになすって、
俺達警備は砂浜で大乱闘――って程でもないかも。幸い、コッチの快勝だったから。
「はーい。みんな、朝までお疲れさん。じゃー、撤収っ」
俺の号令で、警備のみんなが車に戻っていく。
俺は一人、空に向かって腕を伸ばした。
見上げると、さっきまで真っ暗だった筈の空が、ピンクになっていた。
朝焼けだ。超キレイ。腕時計を覗くと午前4時25分だった。
「まだ4時半だってのに、もう夜明けかー。夏は朝が来るのが早いねー」
「司令」
振り返ると、副司令官のクロイツが居た。
「あ、ねえねえ、クロちゃん。空見てよ。朝焼け!」
「この時間なら、大抵見られるものです」
つまらなそうな顔で言われた。
「それより、本日は午前9時から理事会とのネットミーティングですが、一度ご自宅に戻られますか?」
「いんや。うち帰ってまた来るのめんどくさいし。
お片付けが終わったら、監視チームのお手伝いでもさせて貰うよ」
「いけません。徹夜明けで監視業務がまともにできるわけないでしょう。
事後処理は我々夜勤組に任せて、貴方はさっさと仮眠室へ行って下さい」
「……イイの?」
「司令官が眠そうな顔では理事達に失礼ですから」
「ん。サンキュ。じゃあ、一眠りしてシャキッとした顔になってくるわ」
警備本部の仮眠室。ここは年中、寝るの最適な環境がある。常に静かで暗い部屋だ。
ベッドも高級なヤツらしい。学院直属の警備組織は、莫大な運営資金を誇る学院の恩恵を受け、
ちょっとした備品までイイモンが用意されてる。
ま、俺なんかはパイプ椅子に座ったままでも寝れるくらいなんだけど。
寝心地の良いベッドに入って、目覚ましをセットする。
目を閉じたら、俺はすぐに眠りに落ちた。
仮眠を終えて、俺は執務室に顔を出したのは8時20分。
窓の向こうに見える空は、すっかり青に染まっていた。
「おはようございます。やっとお目覚めですか、司令」
副司令官の席に座っていたクロイツが、すっと立った。
「あと10分遅ければ、叩き起こしに行っていましたよ」
そう言いながら、執務室の隅に向かう。
「ありゃ、ちょっと遅かった? ゴメン、ゴメン」
俺は自分の席に着き、パソコンを起動させる。
習慣的にメールチェックをしたが、全てチェック済みの跡があった。
必要な返信作業は俺の代わりにクロイツがやってくれたようだ。
「クロちゃん、ありがと。メール見てくれて」
「仕事ですから。いちいちお礼を言って頂くようなことではないかと。
それより、まだ眠そうな顔ですね?」
「そう?」
「これでも飲んで、早く目を覚まして下さい」
俺の前に置かれた白いマグカップ。クロイツがコーヒーを淹れてくれた。
「あ、ありがと」
目覚めの一杯を口にする。美味い。俺はコーヒーを飲みながらあっと思う。
「もしかして……」
「どうなさいました、司令」
「う、ううん。何でもない」
もしかして、クロイツみたいなのも『ツンデレ』って言うのかな?
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