×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
■ミイラの神秘04 続編
●05 「先公と二人で旅行なんかするかよ、フツー」
夕食後、レストランからホテルの部屋に戻ってきた。
「美味しいディナーだったね」
ホテルの手配をオーギュストに任せたら、彼と同室にされた。
今日も明日も彼と同じ部屋に泊まる。
他人と長い時間を二人きりで過ごすことは多くないことだ。
学院の寮でも一人部屋をあてがわれているのだから。
「流石はスイートルームだね。良い眺めだ」
オーギュストは窓辺に立って、外の景色を見ている。
「アンリも見てご覧? 海が見えるよ」
「僕が海を見て喜ぶと思ってるの?」
「ご機嫌斜めだね。たくさん食べたからもう眠たいのかな?」
「……オーギュスト」
「ごめん、ごめん」
笑ってる。
「先にシャワーを浴びておいで、アンリ。ああ、それとも今日は止めておくかい?」
「どうして止めなくてはならないの?」
「個室で一人きりになったら、ミイラを思い出して怖いかなと」
オーギュストが余計なことを言うから、シャワーを浴びている時、
地下墓地で見た光景が脳裏に浮かんだ。
目が空洞になった頭蓋骨。汚れた布きれを纏った無数の白骨。
ミイラにされたことで、あの暗い地下墓地に閉じ込められた2歳の少女。
物音がした気がして、背後を振り返った。
何もなかったけど。
シャワールームの白い壁を伝う雫が、一瞬、少女の泣き顔のように見えた。
「いい度胸してるじゃねえか、センセーさんよー?」
僕がシャワーから上がると、自分の目を疑う光景があった。
オーギュストが、壁を背に追いつめられている。
彼の前で笑っているのは歪んだ長い黒髪の男。
シチリアマフィア、マンゾーニ・ファミリーのNo.2、ディーノ・マンゾーニだ。
「ディーノ。オーギュストに何してるの」
胸倉を掴まれているオーギュストは僕に微笑んでみせた。
「大丈夫だよ、アンリ。互いに自己紹介をしていただけだから」
ディーノがヒューと口笛を鳴らす。
「バスローブ姿で俺様を出迎えるたぁ、おめーにしては上出来じゃねえか。え?」
マフィアはオーギュストから手を離し、僕に近付いてきた。
「なんで、君がここに」
「あ? 夜に顔見せるって言ってあったろ? フィオ、言い忘れたのか?」
「あ、いえ。お伝えしたつもりですが」
ドアの側に控えていたフィオラノが答えた。
「なら、いいじゃねえか」
ディーノがベッドに腰掛ける。
「今日は相手してやれなくて悪かったなあ。俺様が居なくて寂しかっただろ?」
「別に。フィオラノ、君達は明日の予定について確認に来たんでしょう?」
「ええ、まあ」
「明日も予定通り商談先に向かうから12時に迎えに来て。以上」
「俺様を部屋から追い出して、センセーと何の授業するつもりだ?」
ヘッヘッヘとマフィアが薄汚く笑う。
「つーか、マジで部屋にオトコ連れ込んでるとはなあ。
しかも、どんだけ年上好きだよ。親と子くらい年離れてんじゃねえのか?」
「変な言い方しないで。彼は僕の教師で」
「先公と二人で旅行なんかするかよ、フツー。
おめー、その先公にダマされてねーだろーな?」
「騙す?」
「ガッコのセンセーだかなんだか知らねえが、
気ィ許したところで、アタマ撃ち抜かれても知らねえぞ?」
手で作った銃で「バーン」と頭を撃つ真似をしてみせた。
「馬鹿馬鹿しい」
「ひでぇなあ。心配してやってんのによお」
ディーノは笑って、ベッドから立ち上がる。
「なあ、お姫様? 今夜は俺が付いてなくてイイのか?」
ゆっくり歩いて、僕の近くまで来る。
「明日になったら俺達の可愛いお姫様が穴だらけなんてのは困るしよ?
今夜は俺様が直々にお前の傍に居てやるよ、朝までな」
ディーノが僕の肩に腕を回す。挑発するようにオーギュストを見ていた。
「先公の前でタップリ見せつけてやろうぜ?
俺達の間に割り込める隙なんかないってことをさ?」
僕は彼の腕を振り払った。
「いい加減にして。学院の教員にまで危険人物が」
「居る筈ねえと言い切れんのか? 何が世界一安全な島だ。
どんだけ脆弱なセキュリティかは、おめーだって知ってんだろ?」
確かに島の警備組織は、今までに何度もこのマフィアの上陸を許している。
「近寄ってくる大人は全員信用すんなよ、アンリ。
紳士面してる奴程、ハラん中でナニ考えてるか解んねーぜ?」
ディーノが再び僕の肩に手を回した。
「おめーの味方は俺達だけだ。そうだろう?」
彼から葉巻の匂いがする。苦くて甘い香りだった。
その時、携帯電話の着信音が鳴った。
「あっ、ママからだ」
急にディーノの口調が子供化した。携帯電話を耳にあてる。
「なあに、ママ? え? うん。あっ、ごめん、忘れてた。ごめんごめん。
うん、今すぐ帰るから。ごめんね。うん。じゃあね、愛してるよ、ママ」
電話を切った。
「フィオ、ずらかるぞ」
その時にはもう迫力のあるマフィアボイスに戻っていた。
毎度のことだが変わり身の早さにコケそうになる。
「へい、兄貴。それでは自分達はこれで。
何かありましたらいつでもお呼び下さい、他の者は近くにおりますんで」
ディーノがドアに向かう。その途中でオーギュストと目が合った。
瞬時に間合いを詰め、オーギュストの胸倉を掴んでいた。
「アンリを殺りやがったら、普通の死に方はできねえぞ」
ドスの効いた声にも、オーギュストは動じない。
まるで子供を諭すように一言だけ言った。
「解っているよ」
マフィアは舌打ちして、
「いけすかねえ奴」
ディーノが廊下に出たあとで、フィオラノがドアノブを持つ。
「おやすみなせえまし」
ドアが閉まった。
二人のマフィアが消えて、僕とオーギュストだけになった。
僕はビジネスパートナーの非礼を詫びた。
「悪かったね、躾がなってない番犬で」
「気にしていないよ、彼なりにアンリを守る為にしたことだからね。
見知らぬ物を見た時に、吠えたり噛み付いたりするのは、
それが危険なものでないか確かめる為の行為だ。
心強いパートナーだと思うよ、マンゾーニ・ファミリーは」
僕は頷いていた。
「マンゾーニは、伯爵が選んだファミリーだから」
初代サン・ジェルマン伯爵は、シチリア島のマフィアと交流があった。
何故、伯爵がマンゾーニを選んだか、どんな付き合いがあったのか、詳しい記録はない。
ボディガードを頼むなら、警備会社は他に幾らでもあるのに。
マフィアをパートナーにしなければならない具体的根拠は、自分でも未だに解らない。
伯爵が選んだ相手なら。
ただそれだけの理由で、僕は彼等と手を組むことを決めたのだから。
伯爵に選ばれたマンゾーニ。その跡取りであるディーノが、先程、僕に忠告した。
近寄ってくる大人は信用するなと。
確かにオーギュストは、つかみどころがない人だし、何を考えているのか解らない。
教師と二人で旅行するのは普通ではない、それもディーノの言う通りかもしれない。だけど。
「アンリ」
僕は振り向く。オーギュストの優しい顔が僕に向けられている。
「いつまでもその格好では身体を冷やしてしまうよ? そろそろ寝間着に着替えなさい?」
そう言えば、僕はシャワーから上がったばかりで、まだバスローブ姿だった。
水滴の残る腕。触れたら少し冷たかった。
「オーギュ」
「ん?」
「シャワー、浴びてくれば?」
彼は優しく笑った。
「そうだね」
→
●05 「先公と二人で旅行なんかするかよ、フツー」
夕食後、レストランからホテルの部屋に戻ってきた。
「美味しいディナーだったね」
ホテルの手配をオーギュストに任せたら、彼と同室にされた。
今日も明日も彼と同じ部屋に泊まる。
他人と長い時間を二人きりで過ごすことは多くないことだ。
学院の寮でも一人部屋をあてがわれているのだから。
「流石はスイートルームだね。良い眺めだ」
オーギュストは窓辺に立って、外の景色を見ている。
「アンリも見てご覧? 海が見えるよ」
「僕が海を見て喜ぶと思ってるの?」
「ご機嫌斜めだね。たくさん食べたからもう眠たいのかな?」
「……オーギュスト」
「ごめん、ごめん」
笑ってる。
「先にシャワーを浴びておいで、アンリ。ああ、それとも今日は止めておくかい?」
「どうして止めなくてはならないの?」
「個室で一人きりになったら、ミイラを思い出して怖いかなと」
オーギュストが余計なことを言うから、シャワーを浴びている時、
地下墓地で見た光景が脳裏に浮かんだ。
目が空洞になった頭蓋骨。汚れた布きれを纏った無数の白骨。
ミイラにされたことで、あの暗い地下墓地に閉じ込められた2歳の少女。
物音がした気がして、背後を振り返った。
何もなかったけど。
シャワールームの白い壁を伝う雫が、一瞬、少女の泣き顔のように見えた。
「いい度胸してるじゃねえか、センセーさんよー?」
僕がシャワーから上がると、自分の目を疑う光景があった。
オーギュストが、壁を背に追いつめられている。
彼の前で笑っているのは歪んだ長い黒髪の男。
シチリアマフィア、マンゾーニ・ファミリーのNo.2、ディーノ・マンゾーニだ。
「ディーノ。オーギュストに何してるの」
胸倉を掴まれているオーギュストは僕に微笑んでみせた。
「大丈夫だよ、アンリ。互いに自己紹介をしていただけだから」
ディーノがヒューと口笛を鳴らす。
「バスローブ姿で俺様を出迎えるたぁ、おめーにしては上出来じゃねえか。え?」
マフィアはオーギュストから手を離し、僕に近付いてきた。
「なんで、君がここに」
「あ? 夜に顔見せるって言ってあったろ? フィオ、言い忘れたのか?」
「あ、いえ。お伝えしたつもりですが」
ドアの側に控えていたフィオラノが答えた。
「なら、いいじゃねえか」
ディーノがベッドに腰掛ける。
「今日は相手してやれなくて悪かったなあ。俺様が居なくて寂しかっただろ?」
「別に。フィオラノ、君達は明日の予定について確認に来たんでしょう?」
「ええ、まあ」
「明日も予定通り商談先に向かうから12時に迎えに来て。以上」
「俺様を部屋から追い出して、センセーと何の授業するつもりだ?」
ヘッヘッヘとマフィアが薄汚く笑う。
「つーか、マジで部屋にオトコ連れ込んでるとはなあ。
しかも、どんだけ年上好きだよ。親と子くらい年離れてんじゃねえのか?」
「変な言い方しないで。彼は僕の教師で」
「先公と二人で旅行なんかするかよ、フツー。
おめー、その先公にダマされてねーだろーな?」
「騙す?」
「ガッコのセンセーだかなんだか知らねえが、
気ィ許したところで、アタマ撃ち抜かれても知らねえぞ?」
手で作った銃で「バーン」と頭を撃つ真似をしてみせた。
「馬鹿馬鹿しい」
「ひでぇなあ。心配してやってんのによお」
ディーノは笑って、ベッドから立ち上がる。
「なあ、お姫様? 今夜は俺が付いてなくてイイのか?」
ゆっくり歩いて、僕の近くまで来る。
「明日になったら俺達の可愛いお姫様が穴だらけなんてのは困るしよ?
今夜は俺様が直々にお前の傍に居てやるよ、朝までな」
ディーノが僕の肩に腕を回す。挑発するようにオーギュストを見ていた。
「先公の前でタップリ見せつけてやろうぜ?
俺達の間に割り込める隙なんかないってことをさ?」
僕は彼の腕を振り払った。
「いい加減にして。学院の教員にまで危険人物が」
「居る筈ねえと言い切れんのか? 何が世界一安全な島だ。
どんだけ脆弱なセキュリティかは、おめーだって知ってんだろ?」
確かに島の警備組織は、今までに何度もこのマフィアの上陸を許している。
「近寄ってくる大人は全員信用すんなよ、アンリ。
紳士面してる奴程、ハラん中でナニ考えてるか解んねーぜ?」
ディーノが再び僕の肩に手を回した。
「おめーの味方は俺達だけだ。そうだろう?」
彼から葉巻の匂いがする。苦くて甘い香りだった。
その時、携帯電話の着信音が鳴った。
「あっ、ママからだ」
急にディーノの口調が子供化した。携帯電話を耳にあてる。
「なあに、ママ? え? うん。あっ、ごめん、忘れてた。ごめんごめん。
うん、今すぐ帰るから。ごめんね。うん。じゃあね、愛してるよ、ママ」
電話を切った。
「フィオ、ずらかるぞ」
その時にはもう迫力のあるマフィアボイスに戻っていた。
毎度のことだが変わり身の早さにコケそうになる。
「へい、兄貴。それでは自分達はこれで。
何かありましたらいつでもお呼び下さい、他の者は近くにおりますんで」
ディーノがドアに向かう。その途中でオーギュストと目が合った。
瞬時に間合いを詰め、オーギュストの胸倉を掴んでいた。
「アンリを殺りやがったら、普通の死に方はできねえぞ」
ドスの効いた声にも、オーギュストは動じない。
まるで子供を諭すように一言だけ言った。
「解っているよ」
マフィアは舌打ちして、
「いけすかねえ奴」
ディーノが廊下に出たあとで、フィオラノがドアノブを持つ。
「おやすみなせえまし」
ドアが閉まった。
二人のマフィアが消えて、僕とオーギュストだけになった。
僕はビジネスパートナーの非礼を詫びた。
「悪かったね、躾がなってない番犬で」
「気にしていないよ、彼なりにアンリを守る為にしたことだからね。
見知らぬ物を見た時に、吠えたり噛み付いたりするのは、
それが危険なものでないか確かめる為の行為だ。
心強いパートナーだと思うよ、マンゾーニ・ファミリーは」
僕は頷いていた。
「マンゾーニは、伯爵が選んだファミリーだから」
初代サン・ジェルマン伯爵は、シチリア島のマフィアと交流があった。
何故、伯爵がマンゾーニを選んだか、どんな付き合いがあったのか、詳しい記録はない。
ボディガードを頼むなら、警備会社は他に幾らでもあるのに。
マフィアをパートナーにしなければならない具体的根拠は、自分でも未だに解らない。
伯爵が選んだ相手なら。
ただそれだけの理由で、僕は彼等と手を組むことを決めたのだから。
伯爵に選ばれたマンゾーニ。その跡取りであるディーノが、先程、僕に忠告した。
近寄ってくる大人は信用するなと。
確かにオーギュストは、つかみどころがない人だし、何を考えているのか解らない。
教師と二人で旅行するのは普通ではない、それもディーノの言う通りかもしれない。だけど。
「アンリ」
僕は振り向く。オーギュストの優しい顔が僕に向けられている。
「いつまでもその格好では身体を冷やしてしまうよ? そろそろ寝間着に着替えなさい?」
そう言えば、僕はシャワーから上がったばかりで、まだバスローブ姿だった。
水滴の残る腕。触れたら少し冷たかった。
「オーギュ」
「ん?」
「シャワー、浴びてくれば?」
彼は優しく笑った。
「そうだね」
→
PR