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Marginal Prince Short Story
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ミイラの神秘06 続編
●07 「私が居るよ、アンリ」


新たに用意された部屋は、昨日泊まったスイートより少し狭かった。
窓際のテーブルと椅子も小さく、グレードが下がってる。
ホテルスタッフには「この度の宿泊費は頂戴致しません」
と言われたから許してあげるけど。
僕は窓際の椅子に座った。やはり座り心地が違う。
窓から見える景色もスイートのほうが良かった。
「アンリ」
オーギュストに呼ばれた。彼はいつもと変わらない表情で、
「紅茶で一息入れないかね?」
「紅茶? ルームサービスに紅茶なんてあった?」
イタリアの嫌いなところのひとつは、紅茶文化があまり浸透していないことだ。
ここはコーヒー文化が発展している国だから、
メニュー表にエスプレッソがあって、紅茶がないケースが珍しくない。
「アンリは持ってきていないのかい? イタリアに旅行するなら必需品だろう?」
オーギュストは鞄の中から、長方形の箱を取り出した。ティーバッグの箱だ。
「わざわざ持ってきたの?」
「もちろん。アンリも飲むかと思ってね」
「そんなの持ってるなら、昨日の時点で言ってよ」
「すまない。昨日は忘れていたんだ。さてアンリ、リーフは何が良いかな?」
オーギュストは水色の箱に記載されたリーフ名を読み上げる。
「イングリッシュブレックファースト、イングリッシュアップル、
ピュアアッサム、ピュアダージリン、アールグレイに、オリジナル」
「アップル」
「お砂糖は二つでいいのかな?」
「うん」
オーギュストは紅茶を淹れながら、
「そう言えば、今日の商談でも家族自慢を聞かされたのかい?」
「いいや。今日会った人は、常識のある人だったよ」
「それは幸いだったね。商談は上手くいったのかな」
「まあね」
窓の外では太陽が海に沈もうとしていた。
青い空が赤に侵食されていく。今日の夕陽はやけに赤く見える。もうすぐ夜が来る。
「はい、どうぞ」
白いカップを差し出される。爽やかなリンゴの香り。
甘い紅茶を飲んだら、少し気持ちが落ち着いた。
「悪くないね、ティーバッグなのに」
「紅茶を淹れるのに、大切なことはリーフの量と抽出時間だ。
その二つさえ気を付ければ、美味しく淹れられるものだよ」


「それにしても、隣の部屋で殺人事件だなんて」
あまり面白くない展開が浮かぶ。
「僕のせいかもね?」
「どうして、アンリのせいになるんだい?」
「例えば、僕と間違えて殺されたとか、もしくは無差別殺人に見せかける為とか。
明日、右腕を無くしているのは僕かもしれないし、君かもしれない。
本格的に事件に巻き込まれないうちに、
さっさと島に帰ったほうが身の為かもよ、ボージェ教授。
学院には、教授を待っている生徒達が居るんだし」
「もし、事件が続くなら、尚更ここを離れるわけにはいかないよ。
ましてや、私の大事な生徒を置いて帰るなんて、できないな」
オーギュストが僕を見つめる。僕は彼から目を反らした。
「そう言えば、こんな時に、ディーノやフィオラノはどこで何してるの?
今日は一度も顔を見せないし。代わりの男は英語が上手く話せないし」
彼は、ホテルの近隣には居るのかもしれないけれど。
「ディーノ君達は、警察の皆さんが居るから、
姿を見せるのを遠慮しているんじゃないかな」
ボディガードのくせに、僕の周辺で事件が起きている時に居ないなんて。
何故あの二人のどちらも来ないのだろう。そう思った時、僕は嫌な仮説を思い付いた。
「まさか、彼等が」
「アンリ。そう簡単にお友達を疑うのは良くないよ?」
「友達じゃない。彼等とはビジネスだ」
アップルティーを一口飲む。
「でも、そうだね。彼等なら、こんなに目立つ事件を起こすとは考え難い」
彼等の犯罪はもっとスマートだ。
「けれど、肝心な時に役に立たないな。彼等が居ない間に、僕に何かあったらどうするの」
彼は微笑した。
「私が居るよ、アンリ。私が君を守る。例え」
オーギュストの冗談だったのかもしれない。
そのあとに続いた言葉は、考えようによっては少し怖い言葉だったから。
「この世の全てと引き換えにしても」


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