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Marginal Prince Short Story
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ミイラの神秘07 続編
●08 「何故、ミイラを作るのか、解るかい?」


夕食はまたホテル内のレストランでとることになった。
「ディナーの間は、事件のことを一度忘れよう?」
オーギュストの提案に異論はなかった。僕だって、せっかく本場まで来ているのだから、
死体の話をしながら、イタリア料理を食べるのは嫌だったし。
今日、僕が選んだディナーはズッカのニョッキ。
ズッカとはイタリア語でかぼちゃのことだ。ソースだけでなく、
ニョッキ自体にもかぼちゃが練り込まれ、鮮やかな黄色が白い皿に映えている。
やはり、イタリアで食べる野菜は甘みが強いような気がする。
皿の端に添えられたかぼちゃのソテーは、ほくほくとした食感で悪くなかった。
僕がニョッキを選んだら、オーギュストに真似された。
彼の前にあるのは、ゴルゴンゾーラのニョッキ。
クセの強いブルーチーズの香りが、僕のほうまで来ている。
「まずは地下室に運ぶんだ、特別な部屋にね」
今夜も講義のように、ボージェ教授がほぼ一方的に話していた。
「そして、土で出来た台に置いて水分を抜く。一年、じっくり時間をかけてね。
水切りが終わったら、次は乾燥。完全に乾いたらお酢で清め、ハーブで包んだそうだよ」
昨日の『パレルモの歴史』のほうがまだマシだった。
今日のテーマは『ミイラの神秘』だったから。
「そもそも、何故、ミイラを作るのか、解るかい?
ミイラにすると普通に埋葬するよりずっと手間と時間がかかるのに」
僕は答えずニョッキを口に運ぶ。
「ミイラとなり肉体が地上に残っていれば、魂は死なない。
魂が生きていれば、生きている家族の魂だけを天国に呼んで、魂同士の語らいができる。
死んだあとも、一人で寂しい想いをすることなく、楽しい生活が送れる。
かつてのシチリアでは、そう信じられていたんだ。
生きている家族がミイラの手を握ると、死者の魂と語り合える。
家族が死者を想ってお祈りをすれば、その人からアドバイスを貰うこともできるとね」
僕は授業の時のように、片手を軽く挙げた。
「ボージェ教授、質問があるんだけど、いい?」
「はい、アンリ」
「ディナーの間、殺人事件の話は避けようって配慮ができるのに、
ミイラについては、ディナーの話題に相応しいと思って話してるの?
どちらも死体の話だってところまでは、気付けなかった?」
「え? ああ、そうか。すまない。アンリの興味を惹く話となると、
やはり神秘学に関する話が良いかなと思ったんだ。
それに、カタコンベに行ってから、日を置かないうちに、
ミイラについて復習をしたほうが記憶にも残るだろうと。
けれど、そうだね。時と場所を弁えていなかったかな。気分を害してしまったかい?」
「構わないよ、別に。神秘学担当教師に常識を求めた僕のほうが、
間違っていたんだと思うから。それに君がそういう人なのは解ってる」
「ははは。手厳しいね、アンリ」


夕食後。パレルモ警察のカタラーノ警部は、予告通り僕達の部屋を訪ねてきた。
オーギュストは「お疲れさまです、警部」と迎え入れた。
「よろしければ、警部もいかがですか? 紅茶があるのですが」
「そりゃどうも。頂いてもよろしいですかな」
オーギュストが彼に紅茶の箱を差し出す。
六種類の紅茶の中から、彼はアールグレイを選んだ。
彼は僕達にもう一度事情聴取する為に来たのかと思ったら、違った。
「亡くなった女性は、フローラ・フランクリンさん。
彼女と同室で、一緒にシチリア旅行をしていたのはアシュリー・バートンさんです。
お二人はミラノの大学に通う同級生で、年齢は21。
シチリアには学校の休みを利用して来たそうです。
パレルモにあるカタコンベを見学する為に。
何でも二人ともオカルトサークルに所属しているのだそうで」
「オカルトサークル? 物好きな集まりだね」
僕がそう言うと、オーギュストが笑った。
「私達と似たもの同士だと思うけれど?」
「僕は君ほどじゃない」
「ええと、話を続けて良いですかな? フローラさんとバートンさんは、
アメリカ出身の留学生だそうです。同郷であり、同じオカルト好きという、
共通点があったことから、親しくなったそうですわ。
でも、バートンさん曰く、まだ男女交際という程の仲ではないそうです。
私としては、付き合ってもない男女が二人で旅行することに驚きを感じますが。
ええと、そして、彼女に呼び出され、ホテルまで迎えに来た結果、
第一発見者となったのは、フレデリック・ヒューズさんと言います。
彼も21歳で、同じ大学のオカルトサークルに所属しておりました」
「過去形ですね?」
「ええ。ヒューズさんは既にミラノの大学を辞めておりまして、
現在は、パレルモ郊外のモンレアーレに住んでおります。
親戚の叔父さんがやっているカフェで店の手伝いをしているそうですわ」
「大学を辞めるきっかけがあったのでしょうか?」
「はい。実は以前、フローラさんに交際を申し込んだことがあったそうで、
まあ結果的にフラれたんですが、そのショックで大学を辞めたようで。
私も先程聞いたばかりなんですがねえ。
その後も、想いが捨てきれなくて、時々メールを送ったりしてたそうなんですわ。
いわゆるストーカー行為ってやつにあたるかもしれませんな。
そういったことを一か月続けた後、自分がやってきたことを虚しく思った日が来たとかで、
彼女のことをきっぱり諦める為にも、ミラノを離れてモンレアーレまで来たらしいですわ。
それ以来は一切、彼女に連絡を取っていないそうです」
「ふうん。彼は怪しくなさそうだね、彼の言ってることが真実なら、だけど」
「両名とも明確なアリバイがなく、時間的にみて犯行は可能だったと考えられます」
「成程。そうなると、アリバイの有無を決め手に犯人を特定する手法は使えませんね」
「そうなんですわ。それで、動機や犯行準備についても考えてみたんですがね?
被害者と同室だったバートンは殺害動機が不明ですが、
一緒に行動していただけに、より殺害のチャンスはあったと思われます。
対して、第一発見者ヒューズはストーカーまがいのことをしていた過去があるだけに、
それが殺害動機となった可能性はあります。
しかし、当日突然、彼女に呼び出されたという証言が事実だとしたら、
急に凶器や毒物の準備ができるかどうか疑問です」
「そう言えば、腕を切断した凶器って何だったの?」
「サン・ジェルマンさんには、まだ言ってませんでしたな。
遺体の側に落ちていたノコギリだと思われます、折り畳み式の」
「入手経路は?」
「残念ながら、その線から洗うのは難しいかと。
珍しい一品ではなく、その類の店にはよく並んでいる物でしたし、
今の時代、凶器はワールドワイドに入手可能ですからなあ」
「警部、無くなった右腕の行方は?」
「ホテル内、及び周辺は捜索しましたが、まだ発見できません」
「そうですか」
「先生、いかがでしょう? これだけの情報でも、
先生なら、ピーンとくるんじゃないかと思って、
同僚には事情聴取に行ってくると言って、こうして洗いざらい喋りにきたのですが」
「そうでしたか。残念ながら、今すぐにお答えできることはありません」
警部はしょんぼりと肩を落とす。
「そうですか。先生でも解りませんか」
「ええ。私にできることがあれば、警部のお力になりたいと考えています。
そこで警部にお願いしたいことがあるのですが?」
「はい。何なりと」
「バートンさんとヒューズさんも、今夜はこのホテルにご滞在されているんですよね?」
「はい。バートンさんは元々その予定でしたし、
ヒューズさんには我々からそうお願いしております」
「では、お二人にお話を聞くことはできますか? 警部と私とアンリで」


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