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Marginal Prince Short Story
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ミイラの神秘10 続編
●11 「犯人が解ったの?」


ヒューズの部屋を出たあと、警部は廊下を歩きながら、
「さて。二人の話を聞き終わったわけですが、いかがでしょう、先生?
あの二人の中に犯人は居るのでしょうか、それとも」
「一晩ゆっくり考えをまとめさせて頂くことは可能でしょうか?」
警部が立ち止まる。
「一晩待てば解決するということですか!?」
「かもしれません」
「さすがは先生! やはり先生は探偵の素質がおありになる!」
「明日、私達がチェックアウトするまでには、
何らかのお答えができるかと思います。明朝までお待ち頂けますか?」


警部と別れて、僕とオーギュストは部屋に戻った。
「オーギュ、犯人が解ったの?」
僕が尋ねると、彼は、あっさりと答えた。
「いいや。まだ解らないよ?」
「でも、さっき」
「今は解らない。でも明日には全てが解決していなければ、
私達は島に帰るのを少し延期してくれないかと言われるかもしれないよ?」
「そんなの」
「困る、だろう? さあ、今、私達にできることはなんだろう?」
僕は思い付いたことを口にする。
「明日までに犯人を特定する?」
「よくできました。さあ、では早速、捜査会議を始めよう」


オーギュストがカップに口付ける。
赤い水面が見える。彼が飲んでいるのはピュアアッサム。
「アンリは、犯人は誰だと推測しているのかな?」
「候補は今のところ二人だよね。一人目は、彼女と一緒にミイラ見学をしていたバートン。
二人目は第一発見者で、一時期ストーカーの疑いがあったヒューズ」
僕が選んだリーフはピュアダージリン。
ダージリンの渋味が眠気を振り払ってくれる気がしたからだ。この香りも悪くない。
「そうだね。二人とも犯行は不可能ではない。問題は」
「動機?」と僕。
「うん」
「ヒューズには動機がありそうだけれどね。振り向いて貰えないことで復讐しにきたとか、
彼女に会って口論となり衝動的に殺した、とか。
もし彼が犯人なら、彼女からのメールは自作自演ということになるだろうね。
殺したあとでメールを送り、メールを見てから初めて来たように振る舞ったんじゃないかな。
バートンのほうは今のところ動機が不明だけれど、愛が狂気に変わったのかな?」
「人が人を殺す理由など、解らないほうが良いだろうけどね」
「そうだね。僕は人を殺したいと思ったことはないから解らないな。
殺したいと思われたことなら、あるけれどね?」
僕が冷笑すると、オーギュストはこんなことを言い出した。
「アンリ? 私は授業で、言霊について教えた筈だよ?
陰陽道を学んだ回だったかな?」
言霊。発した言葉は、霊的な力を持ち、現実を左右するとした考え方だ。
プラスの言葉は幸福を招き、マイナスの言葉は不幸を招く。
広義では呪術や魔法の際に唱えられる呪文も言霊の一種。
「炎や氷の刃を出現させるまでには行かなくとも、
言葉には、人の心を突き刺すくらいの力は充分にある。
戯れに自分を傷付ける言葉を口にするのは止めなさい?」
僕は肩を竦めた。
「君は叱り方も変わってるね」
オーギュストは微笑んだ。
「さて。ここで論点を少し変えようか」
彼は椅子から立ち上がり、窓側へ歩いていく。
「解決すべき謎は他にもある」
こちらを振り返る。
「どうして、犯人は右腕を切断したんだろう?」
僕は答えた。
「それは、腕を残しておくと、犯人にとって何か不都合があったからじゃない?」
「不都合か。例えば、被害者が自分の腕に犯人の名前を血文字で書いたとか?」
「名前そのものではなかったとしても、犯人を示す何らかのメッセージがあった、
と考えるのが妥当じゃない? その他に理由なんて」
僕は言葉を失っていた。
「ん? どうしたんだね、アンリ」
「ねえ、ボージェ教授」
「なんだい?」
「神秘学の権威から、引き出したい知識がある。
僕がこれから言うことについて、もし、思い当たる話があれば、全て言ってみて?」
「うん。それは神秘学に関する話なのかね?」
「もちろん」


僕が辿り着いた仮説。
それをオーギュストに話し終わった頃には、紅茶はすっかりぬるくなっていた。
「もう一杯、淹れようか?」
と言われたので、僕は頷いた。
「どれにする?」
ティーバックが入った水色の箱を差し出される。
六種類あるリーフの中で、僕がまだ飲んでいないのは、
イングリッシュブレックファースト、ピュアアッサム、アールグレイ、オリジナル。
「では、オリジナルを」
僕は、この中で唯一どんな味がするか解らないリーフを選んだ。
オーギュストはピュアダージリン。僕がさっき飲んでいたリーフだ。
「ではアンリ、今後どんなことが起これば、犯人が特定できると思う?」
「第二の現場を捕らえる?」
「成程。確かに確実な手だけれど、少々リスクが高いし、
第二の殺人が起きないのならば使えない手であるね」
「では、犯人しか知り得ない情報を吐かせる?」
「それは良い手だね。例えば、どんな情報があるだろう?」
決まっている。
「無くなった腕のありか、でしょう? でも」
「解らないことは、解っている人に聞くのが一番早い。
だから、教師という存在が必要とされるんだ。解らないなら聞いてみよう。犯人に」
「どこに隠したんですか、と面と向かって聞くわけじゃないよね? どうやるつもり?」
「生徒の疑問を解決する為に教師は存在している。
けれど、何でも先生に聞いてはいけないよ? 考えてご覧、アンリ。
聡明な頭脳を持っている君なら、その方法が解る筈だよ、きっとね」


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