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Marginal Prince Short Story
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■シルフェ×レオシュ オーギュスト×アンリ
授業終了の鐘が鳴った。
ここは第二化学室。神秘学の教室だ。

「今日はここまでにしようか」

ブラウンのスーツを着た先生が教科書を閉じた。
神秘学は特別授業。学院の外部から特別講師を呼んでいる。
オーギュスト・ボージェ教授。神秘学の権威らしい。

「レポートの提出期限は来週だったかな?
諸君の素晴らしいレポートを楽しみにしているよ。ではごきげんよう」

生徒達が退室していく。
教師はいつものように、生徒が板書を終えたか確認したあと、黒板掃除を始めた。
高等部二年のシルフェはある生徒の前にやってきた。

「レーオシュ」

呼ばれた生徒が嫌そうに顔を上げる。美しい長い髪が揺れた。
『アルファルドの女王』と名高い高等部三年のレオシュだ。
シルフェは笑顔で話しかける。

「なっ、一緒に帰ろ? レオシュ」

「お前と俺は別の寮だろう」

「短い間だけでも一緒に居たいんだよ」

気だるげに漏らした溜め息さえ艶めかしい。

「バカか」

「そうだね、レオシュに関しては。レオシュバカかも」

相手しきれない、といった表情でレオシュは席を立った。

「あっ、置いてくなよ、レオシュー」

レオシュを追いかけてシルフェも教室を出ようとする。
擦れ違いざま、『ウーティスのプリンセス』と名高い生徒が、
まだ教室に残っているのをシルフェは見た。
『プリンセス』は頬杖を突きながら、正面のほうをぼんやり見ていた。


シルフェはすぐレオシュに追いついた。
二人、肩を並べて廊下を歩く。

「ねえ、レオシュはレポート何書く予定?」

レオシュは答えない。シルフェは気にせず喋り続ける。

「俺はさー、資料集に載ってた魔術師にしようかと思っててさ。名前は何て言ったっけなー」

シルフェは手にしている教科書やノートを見た。

「あ、資料集がない。教室の机に忘れたかな。レポート書くのに使うのに」

「なら、取りに戻るんだな」

「レオシュ、悪いけど、ここで待っててくんない? すぐに戻るからさ?」

「何故、お前を待たなければならない」

「俺のこと待ってて欲しいから」

レオシュは憮然とする。シルフェは片手を挙げ、

「絶対待ってろよなー!」

レオシュを一階に残し、廊下を走っていった。

シルフェは階段をヒョイヒョイと駆け上がっていく。息が乱れる様子は全くなかった。
教室のあるフロアに着いた時、既に人影はなく、廊下はひっそりとしていた。
窓から差し込む夕陽が廊下をオレンジに染め、シルフェの影を長くする。

このフロアは端から第一化学室、第二化学室、化学準備室の順に並んでいる。
第一化学室は広い教室で、化学や物理など自然科学の授業で使われている。
一般的には自然科学と相反する神秘学も、この学院では何故か自然科学に分類されている為、
このフロアに教室が設けられているのだが、
第一化学室での授業が許されたことは一度もない。

それは、神秘学という特殊な学問のせいか、神秘学担当講師が、学院の専任講師ではなく、
また、教授陣の中で一、二を争う程の変わり者だと言われているからだろうか。
他の理系の教授陣からは煙たがられているらしいが、
ボージェ教授本人は全く気にしていないとの噂もあった。

第二化学室まで辿り着いたシルフェはドアの前に立った。
ドアの一部が長方形のガラス窓になっていて、ドアを開けなくとも中の様子が見えた。
ついさっきまで授業をしていた部屋には、もう誰も居なかった。

第二化学室のドアを開けようと、一歩近付いた時、斜め左のほうに誰かの後ろ姿が見えた。
第二化学室に隣接している化学室準備室。
準備室の中の様子が、第二化学室のドアと準備室のドアのガラス窓越しに見える。
後頭部しか見えなかったが、誰だか解った。
肩までに揃えた髪。あれは『ウーティスのプリンセス』だ。
プリンセスの正面に立っている人物が居る。
プリンセスより背が高く、制服を着ていない。
顔は見えなかったが、そのブラウンのスーツを見て、シルフェは誰だか思い当たった。

(姫サンと先生? 準備室で何を……)

シルフェが疑問に思った時。

(おいおい、マジかよ)

その光景に、シルフェは自分の目を疑った。
ガラス窓が小さいせいで、一部しか見えないが。

(姫サンは王子様とデキてると思ってたんだけどな)

教師は少し身を屈め、それに対して生徒は抵抗しなかった。
シルフェの位置からは、二人が口付けをしているように見えた。

教師と生徒、それに男性同士だというのに、
ガラスで切り取られた四角の中で、
夕陽を浴びている二人は、とても綺麗に見えた。


シルフェが一階に戻ると、レオシュは機嫌悪そうにしながらも、その場所に居た。

「レオシュ、ホントに待っててくれたんだ?」

「なっ、待っていろと言ったのはお前だろう」

「うん。待たせてゴメンな。俺が居なくて寂しかっただろ?」

「バカか。 ん? お前、資料集はどうした?」

「ああ、資料集は明日にでも取りに行くよ」

「お前、教室へ戻ったんじゃないのか?」

「いや、行ったよ? けど、ちょっと、
隣の化学準備室が取り込み中で、第二化学室に入れなくてさ」

「取り込み中って、何だ?」

シルフェがニヤリと笑う。

「俺が化学準備室で何を見たか、演じてみせてあげよっか?
あんなの見せられちゃ、俺もしたくなっちゃったし」

「必要ない」

「またまたぁ~。レオシュは素直じゃないな~。ま、そこがスキなんだけど?」

レオシュは無視している。

「ね? 教えてあげるからさ、今夜もレオシュの部屋、行ってイイ?」


fin
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