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■シルフェ×レオシュ オーギュスト×アンリ
■夕暮れの化学準備室で 続編
■原案:シハル姉さん&呉羽 背景:東洋の錬金術
その夜、レオシュは一人で、アルファルド寮の自室に居た。
背は壁に預け、ベッドに座った姿勢で、本を読んでいた。
ベッドの側には窓があり、濃紺のカーテンが引かれている。
レオシュはちらりと時計を見た。就寝時間は過ぎている。
そろそろ眠らなくてはならないのは解っているが、レオシュはまた一枚ページを繰った。
トントン、と音がした。窓のほうからだ。
この部屋に好んで訪れる生徒は一人しか居ない。
レオシュはベッドに座ったまま、手を伸ばして、カーテンを開けてみた。
「今夜もイイ月夜だねえ」
思わずシルフェは呟いた。
アルファルド寮に向かう途中、見えた月。今夜の月は雪のように真っ白だ。
日中より少し冷たい夜風が心地好い。
聖アルフォンソ学院の決まりとして、夜間は原則外出禁止だが、
就寝時間を回った頃、シルフェは慣れた様子でシュヌーシア寮を抜け出した。
玄関からではなく、自室の窓から外へ飛び降りて。
夜のキャンパスを警備員に見つからないように歩いて、
三つある学生寮の中で、最も静寂な寮に辿り着く。
目的の部屋に到着する。今日は奇をてらって、ドアではなく窓ガラスをノックした。
数秒後、カーテンが開き、髪の長い綺麗な人が窓辺に顔を見せた。
シルフェは笑顔で「よっ」と手を挙げた。
ガラス越しで声は聞こえなかったが、綺麗な形の唇は、夕方と同じように「バカか」と動いた。
レオシュは何も見なかったかのように、また壁に背を預けた。
相変わらずそっけない横顔を愛でながら、シルフェは鍵が掛かっていない窓を開ける。
窓枠に手を置いて、ひょいと軽々飛び越えた。
レオシュのベッドに座って、本を読んでいた。
レオシュはシルフェの存在を無視して、ページをめくる。
シルフェはベッドに近付いていく。
「レオシュ、今日は何の本、読んでたの?」
「お前には関係ないだろう。何故いちいち知りたがる」
「ん? 知りたいから。レオシュのことは全部」
シルフェは本に顔を近付けて、表紙を覗き見た。
「『インドの錬金術』か。レオシュって神秘学の本、好きだよね?」
レオシュは否定も肯定もしなかった。
「あ、そうだ。今夜は約束してたよね? あの時のこと話すって」
今日、神秘学の授業が終わったあと、
忘れ物を取りに教室へ戻ったシルフェは、そこである光景を見た。
シルフェは、あとで話すとレオシュに約束していた。
話をすると言うと、レオシュはこちらを向いた。
ご機嫌は斜めのようだが、真っ直ぐな瞳が見上げてくる。
シルフェは右膝から、ベッドに乗った。シルフェの重みでベッドが少し沈む。
シルフェはレオシュの目の前にまで来た。
「じゃあ、教えるね? 放課後の化学準備室で俺が何を見たか」
「おい。何故、そんなに近寄る必要が」
一瞬で更に間合いを詰め、レオシュの唇に口付けた。
触れるだけの口付けだったが、レオシュには全くの不意打ちだったようで、
文句を口にするまで、たっぷり二秒かかった。
「お前……教えると言っただろう」
「教えてるよ?」
シルフェはニヤリと笑った。
「だ・か・らキスしたの。解る? つまりそーいうこと」
レオシュの眉間に皺が寄る。シルフェは壁に寄りかかる。
「してたんだよ、姫サンと先生が。化学準備室で」
「姫と先生って……アンリとボージェ教授のことか?」
「うん」
「嘘を吐くな。俺をからかうのもいい加減にしろ」
「ウソなんか吐かないよ。俺、見たもん。夕陽色に染まった化学準備室で、
先生が身体屈めて、チュッてなかんじで、姫サンにキスしてた」
「信じられるか。あのボージェ教授が」
以前、ボージェ教授がレオシュに参考文献を貸してくれたことがある。
元々神秘学に興味があり、ボージェ教授の授業をいつも真剣に聞いているレオシュは、
より教授に対して、憧れや尊敬の念を抱くようになったように見受けられる。
それはシルフェにとって、あまり面白いことではなかった。
「ビックリだよねえ、姫サンのお相手が王子様じゃなくて先生だったなんて」
この学院で『王子様とお姫様』と言えば、ウーティス寮のジョシュアとアンリのことだ。
二人とも中等部からの入学であり、同じ寮に住んでいるから、付き合いは長い。
入学当時は互いに一人で居ることが多かったが、
いつのまにか二人で一緒に居る姿が、学院内でよく見かけられるようになった。
以来、似合いの王子様とお姫様として、冗談半分に囁かれることもあった。
アンリが入学初日に、ジョシュアを見て「月桂樹の王冠が見える」って言ったことも有名な話だ。
「そうではなく。ボージェ教授がそんなことをする筈がないと言っているんだ」
「でもさ? 今思えば授業中も先生って姫サンが発言してる時、楽しそうにしてたじゃん?
姫サンは、神秘学の教科書にも載ってるサン・ジェルマン伯爵家の末裔だし、
神秘学の授業は、姫サンがやりたいって言ったからできたもんだから、
先生とアンリは仲良いんだって思ってたけど、想像以上に仲良かったみたいだねー」
シルフェは、あーあ、と笑う。
「毎週、授業で二人と会ってたのに。気付かないなんて、シルフェくん一生の不覚だなー。
授業終わりはレオシュのこと追っ駆けて、すぐ教室出てたのもあるけど、
やっぱ姫サンには王子様ってお決まりの存在が居たからさー。
いやいや。思い込みってのはコワイよねー。これからは二人のこと気を付けて見てみよっと。
あ、でも、あんなの見ちゃうと、来週からの授業、ちょっと心配だなー。
先生や姫サンの顔見たら、あのキスシーンを思い出して、俺もキスしたくなっちゃうかも。
あ、もちろん、相手はレオシュだから心配しないでね?」
「バカか、お前は」
「もしかして、まだ信じられない?」
「当たり前だ。第一、教授も生徒も男じゃないか」
「レオシュがそんなこと言っちゃう? 俺達だって男だけど?」
レオシュが視線を逸らす。シルフェはベッドに手を着いて、窓のほうを見た。
カーテンが開いている。窓から入ってくる時に、閉め忘れたのだろう。
ガラス窓越しに白い月が見える。
「俺、正直言うと、あの時、姫サン見て『綺麗だ』って思ったんだ」
レオシュの表情が僅かに冷たくなる。
「あれ? 信じた? 冗談だよ。半分は」
ひと気のない、夕暮れの化学準備室で。
白い頬にはオレンジ色の光が当たっていた。
「夕日に照らされてるのが姫サンじゃなくて、
レオシュだったらすっごい綺麗だろうなって思ったの。
ま。レオシュは俺の腕の中にいる時が一番可愛くて綺麗だけどな?」
睨んでくる視線を受け止めながら、シルフェは微笑する。
「というわけだから」
レオシュの肩にシルフェが手を置いた。レオシュが、しまったと思った時には、
背はベッドに沈んでいて、楽しそうな笑顔に見下ろされていた。
「俺達はその続きも……ね?」
fin
■夕暮れの化学準備室で 続編
■原案:シハル姉さん&呉羽 背景:東洋の錬金術
その夜、レオシュは一人で、アルファルド寮の自室に居た。
背は壁に預け、ベッドに座った姿勢で、本を読んでいた。
ベッドの側には窓があり、濃紺のカーテンが引かれている。
レオシュはちらりと時計を見た。就寝時間は過ぎている。
そろそろ眠らなくてはならないのは解っているが、レオシュはまた一枚ページを繰った。
トントン、と音がした。窓のほうからだ。
この部屋に好んで訪れる生徒は一人しか居ない。
レオシュはベッドに座ったまま、手を伸ばして、カーテンを開けてみた。
「今夜もイイ月夜だねえ」
思わずシルフェは呟いた。
アルファルド寮に向かう途中、見えた月。今夜の月は雪のように真っ白だ。
日中より少し冷たい夜風が心地好い。
聖アルフォンソ学院の決まりとして、夜間は原則外出禁止だが、
就寝時間を回った頃、シルフェは慣れた様子でシュヌーシア寮を抜け出した。
玄関からではなく、自室の窓から外へ飛び降りて。
夜のキャンパスを警備員に見つからないように歩いて、
三つある学生寮の中で、最も静寂な寮に辿り着く。
目的の部屋に到着する。今日は奇をてらって、ドアではなく窓ガラスをノックした。
数秒後、カーテンが開き、髪の長い綺麗な人が窓辺に顔を見せた。
シルフェは笑顔で「よっ」と手を挙げた。
ガラス越しで声は聞こえなかったが、綺麗な形の唇は、夕方と同じように「バカか」と動いた。
レオシュは何も見なかったかのように、また壁に背を預けた。
相変わらずそっけない横顔を愛でながら、シルフェは鍵が掛かっていない窓を開ける。
窓枠に手を置いて、ひょいと軽々飛び越えた。
レオシュのベッドに座って、本を読んでいた。
レオシュはシルフェの存在を無視して、ページをめくる。
シルフェはベッドに近付いていく。
「レオシュ、今日は何の本、読んでたの?」
「お前には関係ないだろう。何故いちいち知りたがる」
「ん? 知りたいから。レオシュのことは全部」
シルフェは本に顔を近付けて、表紙を覗き見た。
「『インドの錬金術』か。レオシュって神秘学の本、好きだよね?」
レオシュは否定も肯定もしなかった。
「あ、そうだ。今夜は約束してたよね? あの時のこと話すって」
今日、神秘学の授業が終わったあと、
忘れ物を取りに教室へ戻ったシルフェは、そこである光景を見た。
シルフェは、あとで話すとレオシュに約束していた。
話をすると言うと、レオシュはこちらを向いた。
ご機嫌は斜めのようだが、真っ直ぐな瞳が見上げてくる。
シルフェは右膝から、ベッドに乗った。シルフェの重みでベッドが少し沈む。
シルフェはレオシュの目の前にまで来た。
「じゃあ、教えるね? 放課後の化学準備室で俺が何を見たか」
「おい。何故、そんなに近寄る必要が」
一瞬で更に間合いを詰め、レオシュの唇に口付けた。
触れるだけの口付けだったが、レオシュには全くの不意打ちだったようで、
文句を口にするまで、たっぷり二秒かかった。
「お前……教えると言っただろう」
「教えてるよ?」
シルフェはニヤリと笑った。
「だ・か・らキスしたの。解る? つまりそーいうこと」
レオシュの眉間に皺が寄る。シルフェは壁に寄りかかる。
「してたんだよ、姫サンと先生が。化学準備室で」
「姫と先生って……アンリとボージェ教授のことか?」
「うん」
「嘘を吐くな。俺をからかうのもいい加減にしろ」
「ウソなんか吐かないよ。俺、見たもん。夕陽色に染まった化学準備室で、
先生が身体屈めて、チュッてなかんじで、姫サンにキスしてた」
「信じられるか。あのボージェ教授が」
以前、ボージェ教授がレオシュに参考文献を貸してくれたことがある。
元々神秘学に興味があり、ボージェ教授の授業をいつも真剣に聞いているレオシュは、
より教授に対して、憧れや尊敬の念を抱くようになったように見受けられる。
それはシルフェにとって、あまり面白いことではなかった。
「ビックリだよねえ、姫サンのお相手が王子様じゃなくて先生だったなんて」
この学院で『王子様とお姫様』と言えば、ウーティス寮のジョシュアとアンリのことだ。
二人とも中等部からの入学であり、同じ寮に住んでいるから、付き合いは長い。
入学当時は互いに一人で居ることが多かったが、
いつのまにか二人で一緒に居る姿が、学院内でよく見かけられるようになった。
以来、似合いの王子様とお姫様として、冗談半分に囁かれることもあった。
アンリが入学初日に、ジョシュアを見て「月桂樹の王冠が見える」って言ったことも有名な話だ。
「そうではなく。ボージェ教授がそんなことをする筈がないと言っているんだ」
「でもさ? 今思えば授業中も先生って姫サンが発言してる時、楽しそうにしてたじゃん?
姫サンは、神秘学の教科書にも載ってるサン・ジェルマン伯爵家の末裔だし、
神秘学の授業は、姫サンがやりたいって言ったからできたもんだから、
先生とアンリは仲良いんだって思ってたけど、想像以上に仲良かったみたいだねー」
シルフェは、あーあ、と笑う。
「毎週、授業で二人と会ってたのに。気付かないなんて、シルフェくん一生の不覚だなー。
授業終わりはレオシュのこと追っ駆けて、すぐ教室出てたのもあるけど、
やっぱ姫サンには王子様ってお決まりの存在が居たからさー。
いやいや。思い込みってのはコワイよねー。これからは二人のこと気を付けて見てみよっと。
あ、でも、あんなの見ちゃうと、来週からの授業、ちょっと心配だなー。
先生や姫サンの顔見たら、あのキスシーンを思い出して、俺もキスしたくなっちゃうかも。
あ、もちろん、相手はレオシュだから心配しないでね?」
「バカか、お前は」
「もしかして、まだ信じられない?」
「当たり前だ。第一、教授も生徒も男じゃないか」
「レオシュがそんなこと言っちゃう? 俺達だって男だけど?」
レオシュが視線を逸らす。シルフェはベッドに手を着いて、窓のほうを見た。
カーテンが開いている。窓から入ってくる時に、閉め忘れたのだろう。
ガラス窓越しに白い月が見える。
「俺、正直言うと、あの時、姫サン見て『綺麗だ』って思ったんだ」
レオシュの表情が僅かに冷たくなる。
「あれ? 信じた? 冗談だよ。半分は」
ひと気のない、夕暮れの化学準備室で。
白い頬にはオレンジ色の光が当たっていた。
「夕日に照らされてるのが姫サンじゃなくて、
レオシュだったらすっごい綺麗だろうなって思ったの。
ま。レオシュは俺の腕の中にいる時が一番可愛くて綺麗だけどな?」
睨んでくる視線を受け止めながら、シルフェは微笑する。
「というわけだから」
レオシュの肩にシルフェが手を置いた。レオシュが、しまったと思った時には、
背はベッドに沈んでいて、楽しそうな笑顔に見下ろされていた。
「俺達はその続きも……ね?」
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