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■ソクーロフ×アイヴィー
目が覚めた時、アイヴィーの目に映ったのは、見慣れた真っ白い天井だった。
自分は保健室のベッドに居るのだと解り、胸を撫で下ろす思いだった。
自分はいつものように保健室へ昼寝に来たのだ。
暑い。ワイシャツの襟から手を滑らせたら、首筋にじっとりと汗をかいていた。
はあ、と重い息を吐く。久し振りに嫌な夢を見た。
島に来てから、その頻度は徐々に減っているが、
それでもこうして、忘れた頃に、昔の夢を見る。
もう遠い過去だと思いたい俺を、嘲笑うかのように。
あの時は、目が覚めたことを呪った。
俺は死んだと思ったのに。
俺だけが生き残っちまった。
俺は死んでも良かったのに。
大切なものも守れずに、生き長らえるくらいなら、
俺もあの時――
「17時10分だぞ、アイヴィー。まだ寝ているのか?」
白衣の男が立っていた。長い髪を一つに束ねた保健室の先生。
スタニスラフ・ニコライエヴィッチ・ソクーロフだ。
「なんだ、起きていたのか」
「ああ、うん」
保健教師でありカウンセラーをも務める瞳は、
タクシードライバーの様子を観察しながら、
「なら、さっさと正門前に向かえ。17時30分にアルフレッド達と約束しているんだろう?」
「そういや、そーだっけ」
よっ、とベッドから背中を引き剥がす。
「ふわーあー」
両腕を伸ばすと、肩がバキバキッと鳴った。
「ねー。ソクちゃーん」
ベッドの上で胡座を掻く。
「コーヒー飲まして? あっついの」
見上げられたソクーロフは、コーヒーメーカーを顎で指し示す。
「飲みたいのなら、自分で淹れろ」
アイヴィーは足首を持ったまま、笑った。
「けちけちソクちゃん」
ひょいとベッドから降りて、コーヒーメーカーの前に立つ。
アイヴィー専用と化している白いマグカップに黒い液体を注ぐ。
その背中をカウンセラーが見守っている。
寝乱れた金髪が下ろされているブルーのワイシャツには、くしゃくしゃの線が描かれていた。
「あー、オイシ」
アイヴィーは立ったまま、コーヒーを飲んでいた。
「やっぱソクちゃんの高いコーヒーは、インスタントより高級感ある気がするー」
「気がするだけか? 味の解らない奴だな」
「俺はインスタントでもオイシーのー」
「ところで、お前、今日も夜は独りか?」
「ハイハイ。今日も独りデスガ?」
「仕方ない。ならば、夕食に付き合ってやるか」
アイヴィーは笑う。
「飲みに行こ、ってフツーに言えばイイじゃん。
じゃー、夜に迎えに来るから、ココで待ってて?」
「ああ」
アイヴィーは最後にもう一口、マグカップに口付け、ざっと洗って片付けた。
「そんじゃ、マージナルプリンスどもをお迎えに行ってくるかなっ。
あっ、ベッド貸してくれてサンキュー。また夜にね」
ブルーのワイシャツがドアの向こうに消えた。
「――やれやれ」
一人になったカウンセラーは胸の内で呟いた。
悪夢を見たことに気付かないフリというのも疲れるな。
fin
目が覚めた時、アイヴィーの目に映ったのは、見慣れた真っ白い天井だった。
自分は保健室のベッドに居るのだと解り、胸を撫で下ろす思いだった。
自分はいつものように保健室へ昼寝に来たのだ。
暑い。ワイシャツの襟から手を滑らせたら、首筋にじっとりと汗をかいていた。
はあ、と重い息を吐く。久し振りに嫌な夢を見た。
島に来てから、その頻度は徐々に減っているが、
それでもこうして、忘れた頃に、昔の夢を見る。
もう遠い過去だと思いたい俺を、嘲笑うかのように。
あの時は、目が覚めたことを呪った。
俺は死んだと思ったのに。
俺だけが生き残っちまった。
俺は死んでも良かったのに。
大切なものも守れずに、生き長らえるくらいなら、
俺もあの時――
「17時10分だぞ、アイヴィー。まだ寝ているのか?」
白衣の男が立っていた。長い髪を一つに束ねた保健室の先生。
スタニスラフ・ニコライエヴィッチ・ソクーロフだ。
「なんだ、起きていたのか」
「ああ、うん」
保健教師でありカウンセラーをも務める瞳は、
タクシードライバーの様子を観察しながら、
「なら、さっさと正門前に向かえ。17時30分にアルフレッド達と約束しているんだろう?」
「そういや、そーだっけ」
よっ、とベッドから背中を引き剥がす。
「ふわーあー」
両腕を伸ばすと、肩がバキバキッと鳴った。
「ねー。ソクちゃーん」
ベッドの上で胡座を掻く。
「コーヒー飲まして? あっついの」
見上げられたソクーロフは、コーヒーメーカーを顎で指し示す。
「飲みたいのなら、自分で淹れろ」
アイヴィーは足首を持ったまま、笑った。
「けちけちソクちゃん」
ひょいとベッドから降りて、コーヒーメーカーの前に立つ。
アイヴィー専用と化している白いマグカップに黒い液体を注ぐ。
その背中をカウンセラーが見守っている。
寝乱れた金髪が下ろされているブルーのワイシャツには、くしゃくしゃの線が描かれていた。
「あー、オイシ」
アイヴィーは立ったまま、コーヒーを飲んでいた。
「やっぱソクちゃんの高いコーヒーは、インスタントより高級感ある気がするー」
「気がするだけか? 味の解らない奴だな」
「俺はインスタントでもオイシーのー」
「ところで、お前、今日も夜は独りか?」
「ハイハイ。今日も独りデスガ?」
「仕方ない。ならば、夕食に付き合ってやるか」
アイヴィーは笑う。
「飲みに行こ、ってフツーに言えばイイじゃん。
じゃー、夜に迎えに来るから、ココで待ってて?」
「ああ」
アイヴィーは最後にもう一口、マグカップに口付け、ざっと洗って片付けた。
「そんじゃ、マージナルプリンスどもをお迎えに行ってくるかなっ。
あっ、ベッド貸してくれてサンキュー。また夜にね」
ブルーのワイシャツがドアの向こうに消えた。
「――やれやれ」
一人になったカウンセラーは胸の内で呟いた。
悪夢を見たことに気付かないフリというのも疲れるな。
fin
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