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Marginal Prince Short Story
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■テオ ジョシュア アンリ
「やあやあ、お邪魔するよ!」

放課後のウーティス寮サロンに金髪の生徒がやってきた。
シュヌーシア寮に住んでいる高等部一年生テオ・メネシスだ。
コーヒーを飲んでいた中等部三年生は「こんにちは、テオ」と挨拶した。

「こんにちは、ジョシュア。コーヒーが似合うねえ、君は。
ところで今日アンリは……ああ、居た居た! アンリ!」

隅の席にその後ろ姿を見つけた。昨年、入学した中等部二年生。
テオが意気揚々と近付いてみると、彼は古書を読んでいるところだった。
テーブルにはティーカップとタルトが置かれている。
テオはアンリの前で恭しく跪いた。

「ごきげんよう、アンリ。今日もまばゆい美しさだね!」

チラリとテオを見たあと、アンリは再び膝の上に視線を戻す。古びたページを捲りながら、

「何か用?」

「久し振りに天使とアフタヌーンティをと思ってね。
今日のお菓子はパンプキンタルトかい? そうか。もうすぐハロウィンだものね。
あ、そう言えば、ハロウィンの衣装はもう決まったのかな?」

「さあ?」

「ふふ。当日までお楽しみということか。解ったよ、楽しみにしているね。
おや、バトラー。私にもタルトを切り分けてくれるのかい?
ああ、うん。紅茶で構わないよ。いつもありがとう、バトラー。
それでは早速、タルトを頂こうかな。うん! これは美味しい!
ウーティスのシェフもまた素晴らしい腕だ。ねえ、アンリ? おやっ?」

テオはアンリの顔を覗き込んだ。

「アンリの美しい頬に傷が!」

それまで、アンリが頬杖を突いていた為に見えなかったが、
何か細いもので切ってしまったのか、左頬に傷があった。
色白の頬に赤いラインが目立っている。

「アンリ! その痛々しい頬は一体どうしたんだい!?」

アンリは面倒そうに溜め息を吐いた。
昨日から今日にかけて、擦れ違う生徒達から、同じ質問を何度もされたのだ。
テオは傷を見ているだけでも痛いといった顔をしている。

「喧嘩でもしたのかい? ちゃんと仲直りはできた?」

「大丈夫ですよ、テオ。アンリに傷を付けたのはバイオリンですから」

ジョシュアが代わりに答えた。テオは目をパチパチと瞬く。

「バイオリン?」

アンリは吐息混じりに呟いた。

「夕べ、演奏中に切れた一番線が、当たったの」

バイオリンの弦は一番線から四番線まであり、
最も高音で最も細い弦が、一番線と呼ばれる。
昨日、アンリは久し振りにバイオリンを弾いた。
その最中、ビィンという鈍い音と共に、弦が切れてしまい、
避けきれず、頬を掠めてしまったのである。

「なんて優雅な怪我だ!」

テオは感嘆していた。

「アンリは怪我をする時も美しいのだね!
怪我をした理由がバイオリンだなんて。さすがはアンリ!」

アンリは首を傾げる。

「僕のこと、馬鹿にしている?」

「とんでもない! 私は感激しているのだよ!
それで、傷の手当てはしたのかい?」

「されたよ」

アンリはジョシュアを見上げながら、

「保健室に行きたくないのなら、って脅されて、無理矢理ね?」

ジョシュアは苦笑していた。

「そうか。ジョシュアに手当てして貰ったのならば安心だね!
どうだい、ジョシュア。この傷は時間が経てば、綺麗に消えるかな?」

「ええ。すぐに手当てしましたし、今回は幸い、
弦が掠った程度で済んだので、大丈夫だと思いますよ」

「良かった! プリンセスのプリプリお肌に傷が残っては、世界遺産の損失だものね!」

その後もテオはお喋りを楽しみ、満足げにシュヌーシア寮へ帰っていった。
アンリは、疲れた、と言わんばかりに、

「ああ、やっとハリケーンが去った」

ジョシュアが苦笑する。

「テオ、楽しそうだったね」

「何しに来たのかな、あの人」

「アンリの顔を見に来たんだと思うけど」

ジョシュアはアンリの頬を見つめる。頬の傷は、まだ鮮明に残っている。

「早く治ると良いね。傷、痛むかい?」

「痛くないって言っているでしょう、最初から」

「うん。でも、アンリ、肌が真っ白だから、痛そうに見えて」

「平気」

アンリは皿を引き寄せた。パンプキンのタルトにフォークを入れる。
小さく切り分け、口へ運んでいた。

「アンリ。また、いつか、昨日の続きをしてくれるかい?」

アンリはジョシュアを見上げる。

「君、また、やりたいの?」

うん、とジョシュアは頷いた。

「俺、昔と比べると、学院に来てからは、あまりピアノを弾かなくなっていたけれど、
昨日、アンリと一緒に弾いていた時は、久し振りにピアノが楽しいと思えたんだ」

珍しく自分の話をする人をアンリは黙って見ていた。

「あの、だから、またできたら嬉しいな。
俺、それまでに、もっと練習しておくから、バイオリンソナタ」

アンリは答えない。ジョシュアは声が小さくなる。

「あ、ごめん。迷惑だったら」

「別に」

アンリはティーカップに指を絡める。

「良いけど」


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