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Marginal Prince Short Story
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■シュヌーシア寮
「ああ、メープル。秋の君はどうしてそんなに美しいの?」

片手を掲げ、一人でカエデの木に向かって問い掛けているその様子は、
まるでミュージカルの練習でもしているかのようだ。
普段から感動屋の彼の場合、これはただの独り言である。

ここはシュヌーシア寮の庭。足下には落葉樹の絨毯ができている。
先程から秋景色に心打たれているのは、この寮に住む金髪の上級生だ。
はらはらと赤い葉が舞い散る中、彼は木に微笑みかけていた。

「そんなに私を魅了して、一体どうするつもりだい?」

数秒後、彼は「あっ」と叫んだ。

「そうだ! その手があった!」

ちょっと待ってておくれー、と木に言い残し、彼はシュヌーシア寮へ走っていった。


サラサラの栗毛をした小柄な下級生が、寮へ向かって歩いていた。
保健室での定期カウンセリングを終えて、寮へ帰る途中だ。
すると、同じ寮の上級生を見つけた。上級生は落ち葉の上に体育座りしていた。

「あれ? テオだー」

近寄ってみると、テオは膝の上に乗せたスケッチブックに、
絵の具を塗っているところだった。傍らには絵の具用バケツもある。
上級生は下級生の顔を見ると、手を止めて、にこりと微笑んだ。

「ああ、ラビ。カウンセリングが終わったのだね。お疲れさま」

「うん。テオは絵を描いてたの?」

「そうなのだよ。先程まではメープルの木を愛でていただけだったのだけど、
この美しさは今限りなのかと思うと、切なくてねえ。
だから、今描き留めておかなくてはと思ったのだよ。あの、儚くも美しい色を」

「あの木を描いてたんだ。テオの絵、見てみたいな。僕、見てもいい?」

「もちろんだとも」

下級生は上級生の背後に回り、後ろから絵を覗き込んだ。
まだ作成途中だが、赤い木が華やかに描かれていた。
下級生は、目の前にある木と見比べながら、

「わあ、テオ、上手! すごい上手!」

「おや。そうかい? ふふ。ありがとう」

「テオ、すごいなあ」

そう言ってスケッチブックを眺めながら、下級生はパレットをチラチラ見ていた。

「ラビも一緒に描いてみるかい?」

「え? 僕?」

「うん。とっても楽しいよ?」


ラビは自分の部屋に戻ってきた。机の周りを探し始める。

「えっと、絵の具、絵の具……」

「お、やっと帰ってきたな、ラビ」

ベッドには同級生が寝転がっていた。

「あ、レオン、なあに? 僕、これから、お庭に行くんだけど……あ、あった」

「また外行くのか? てゆうか、何持ってんだよ?」

「ん? えのぐ」

「それは見りゃ解るけど」

「あのね。メープルの木、描くの。テオと一緒に」

「木ぃ? なんかの宿題か?」

「ううん。えっとね、ハカナクも、美しい色を、描き留めておかなくてはならないの!」

ラビはそう言いながら笑っている。レオンは首を捻っていた。

「あ、そうだっ」

ラビがレオンの手に触れる。

「レオンも一緒に描こっ? みんなで描いたら楽しいよ、きっと!」


生徒代表はシュヌーシア寮へ向かっていた。
授業後から今まで、生徒代表室で執務をしていたのだ。
キッチンの近くを通ると、何か良い匂いがした。生徒代表は腕時計を見る。

「夕食前には戻れたな。ん?」

庭のほうに複数の人影が見えた。
生徒代表が庭へ行ってみると、そこには寮生の殆どが集まっていた。

「あ、赤、なくなっちゃった。赤い絵の具貸してー」

皆、スケッチブックを抱え、絵筆や鉛筆などを握っていた。

「何やってるんだ、お前達?」

「あっ! クラウス!」

「見りゃ解んだろ、絵、描いてんだよ」

「それは解るが……課題でも出たのか?」

「あっ。クラウス、レオンとおんなじこと言ってるー」

「そんなに笑うなよ、ラビ!」

「それで、お前達は何故急に、写生会なんかやっているんだ?」

銀髪の生徒がデッサン用コンテをクイと向ける。

「最初はテオが一人で描いてたみたいだぜ?
それから、一人増え、二人増え、ってかんじ?」

他の生徒達も頷いている。

「なんか、皆が楽しそうに、わいわいやってんだもんな」

「俺、スケッチなんて暫くやってなかったけど、
久し振りにやると案外面白かったよ」

「ああ。来年は俺も美術の授業、選択してみよっかな。
今まで眠ってた才能が開花しちゃうかも!」

クシュン、という声がした。皆がそちらを向く。視線を浴びた下級生は俯いた。
生徒代表は眉間に皺を寄せ、苦々しく言った。

「おい、ラビ。お前、身体を冷やしたんじゃないのか?」

「だ、大丈夫だよ。テオに言われて、ちゃんと、あったかくしてきたし」

「上着を着ていても、この時期に長時間外に居れば、身体が冷えるのは当たり前だ。
少し考えれば解ることだろう。今日はもう終わりにして、寮の中に入れ」

「ご、ごめんなさい」

「ラビを怒らないでおくれ、クラウス。一緒に絵を描こうと誘ったのは私なんだ。
一枚羽織っておいでとは言ったのだけど、
そのあとは、私も絵に夢中になってしまって。
皆が寒そうにしていないかとか、気を配り切れていなかったと思う。
すまない、クラウス、ラビ。明日は気を付けるよ」

「明日?」

「うん。明日、今日の続きをやろうと思って」

「お? 明日もやんのか、テオ」

「うん。まだ絵が途中の子が多いようだし。
それから、絵が完成した暁には展覧会を開催する予定だよ?
他の寮の皆や先生方にも見て貰えるところに飾るんだ!」

「マジかよ? 聞いてねえぞ!」

「すまない。私も先程、思い付いたばかりだから。
皆の絵はどれも、とても素晴らしい作品だろう?
スケッチブックの中だけで展示しておいては、作品が可哀想だと思わないかい?」

生徒達は顔を見合わせる。

「うーん。まあ、テオがやりたいって言うんなら良いぜ?
そういうのは、数あったほうが派手に見えるだろうし」

「だな。仕方ねえ。俺の才能を世に知らしめてやるかっ」

「お前、さっきから調子乗り過ぎ!」

最上級生は他の生徒にも呼び掛ける。

「さあ、お前達も今日はもう片付けろ」

「俺、まだ色、塗り終わってなかったのにー」

「明日続きをやるんだろ? 第一、そろそろ夕食の時間だぞ?」

「え、もうそんな時間!?」

「そういや、ハラ減ったー」

「今日の晩ご飯、何かなー」

「今日は、カボチャのクリームシチューだって言ってたよ?」

「わっ、それ絶対うまいヤツじゃん! なら、さっさと片付けねえと!」

「僕もっ」

テキパキと片付けが始まった。
生徒代表はそんな後輩達の様子を見ながら息を吐く。
また一枚、赤い葉がひらりと舞った。


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