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■シュヌーシア寮
■ブラッディ・クリスマス04 続編
「できたっ!」
テオは赤と白の服を掲げる。
クラウスのサイズで特注した衣装に、テオが最後の仕上げとして、胸元に飾りを加えた。
葡萄のような形をした真っ白のクリスマスリースである。
先日、新市街へ出掛けた際に、ショッピングモールで見つけ、一目惚れした物だ。
「早速、クラウスに袖を通して貰おう!」
衣装を綺麗な紙袋に詰め、いそいそとクラウスの部屋に向かった。
「クラウスー。ちょっとお邪魔しても良いかーい?」
ノックをしたが、部屋の中から返事がない。
「あれ?」
テオはドアに耳をくっつけてみる。何も聞こえない。
しかし、就寝前のこの時間、外出は原則禁止である。
寮のサロンにも居なかったのだから部屋に居る筈だと思って来たのだが。
「シャワー中かなあ? クラウス、お邪魔するよー」
ドアを開けても、整理整頓され過ぎている部屋が迎えてくれるだけで、
部屋の主の姿はどこにも見当たらなかった。
「居ないなあ。あ、まさか、こんな遅くまで、
生徒代表室でお仕事しているのではあるまいね?」
しかし、他に考えられる場所はなかった。
そう言えば、生徒代表室には入ったことがないなあ、とテオは思う。
その高貴な部屋に招かれるのは選ばれし『王』のみ。一般生徒には入る機会がない。
壁一面に、歴代の生徒代表の肖像画が飾られていることは、
以前の生徒代表であり、シュヌーシア寮の卒業生であるヤンから
聞いたことはあるが、実際に目にしたことはなかった。
生徒代表室はどんな部屋なんだい、とクラウスに聞いたことはあるが、
「だだっ広い部屋だ」と言われたくらいだ。
「行ってみようかな、生徒代表室。怒られると思うけど」
一番親しい友人が生徒代表である今が、最も生徒代表室に入れるチャンス。
普段、クラウスがどんな部屋で執務をしているのか以前から気になっていた。
「よし。行こう!」
怒られるのを覚悟で、テオはクラウスの部屋をあとにし、生徒代表室へ向かった。
夜のキャンパスは、誰も歩いていない。
近道をする為に、森の側を通ることにした。
ふと見上げるとぼんやり月が見えた。
「美しいなあ」
「あれ? そこに居るの、もしかして、テオ?」
前方から誰かが近付いてくる。夜目が効いていないテオには、まだ見えない。
次第に見えてきたのは銀色の髪だった。同じ寮に住む生徒。
テオより二つ年下ではあるが、最近は自分より大人っぽい男だ。
「シルフェ。どうしたんだい、こんなところで」
「俺? 俺は月を見に行ってきたってトコかな?」
シルフェは闇夜を見上げる。
「いけないことだって解ってても、月があんまり綺麗だからさ」
今夜の月は薄雲を纏っており、ちらちらと仄かな光を見せていた。
シルフェはズボンのポケットに手を入れる。
「ま、今夜はもう雲に隠れちまったけど。
冷たくって恥ずかしがり屋だからねえ、孤高のお月様は」
「何やら詩人だねえ、シルフェ。まるで月を想い慕う狩人みたいだよ」
狩人か、とシルフェは笑った。
「ところで、テオはこんな時間にどうしたんだ? なんか赤い服を持ってるみたいだけど?」
「ああ、そうだった。実はこれを」
パン、と乾いた音が響いた。テオが周りを見渡す。
「何だい、今の音」
「向こうからだ。おい、テオ、行くな」
シルフェはテオを止めた。
「俺が様子を見てくる。テオはシュヌーシアに帰って、
銃声を聞いたって警備に連絡するんだ」
「銃声、なのかい」
「多分な。だから早く」
「だったら、シルフェも戻ろう。危険過ぎるよ」
「少し見てくるだけさ。俺もすぐに戻るよ。じゃ、頼んだぜ」
シルフェは寮と反対の方向へ駆け出し、闇夜に紛れ、すぐに背が見えなくなった。
不安を抱えながらも、テオは寮へ向かって、走り出そうとした。その時。
乾いた音が鳴った。先程より、はっきり聞こえた。近い。
テオは音がした方へ向かって走り始めた。
冬の夜だというのに、テオは頬に当たる風の冷たささえ感じなかった。
嫌な胸騒ぎを振り切るように夢中で走った。
木の側に、倒れている人間が二人居た。
月桂樹のクリスマスツリーの下、綺麗な電飾に照らされていたのは、見知った顔。
「クラウス、シルフェ」
テオの声を聞いても、二人はぴくりとも動かなかった。
「嘘……嘘だろう」
「なんだ。まだ夜遊びしてるガキが居やがったのか」
テオが振り向くと、そこにはサングラスをかけた大男が立っていた。
「悪ガキばっかなんだなあ、このガッコは。良い子はもう眠ってる時間だろ?
おうちでおねんねしてれば、そいつらも撃たれることもなかったのになあ」
「二人を、撃った……」
「ああ。お友達だったか?」
「嘘だ、私は信じない」
「へへっ。そいつは可哀想なことをしたなあ、悪かった」
大男は銃をテオに向けた。
「お詫びに、てめえも一緒に天国へ送ってやるよ」
テオは一歩後ずさる。大男は嗤った。
「お友達によろしくな」
大男の背後で何かが動いた。
テオがそう思った時、大男は「ぐえっ」と声をあげて、地面に倒れた。
大男を見下ろして立っていたのは、クラウスだった。
クラウスは大男が気を失っていることを確認したあと、テオを見た。
「怪我は、ない、ようだな」
「クラウス!」
「ったく。全部持って行きやがって。一人でカッコ良過ぎだろ」
「シルフェ! シルフェも無事だったのだね!」
「トーゼン。場合によっては死んだフリもテクのうちさ?」
「そうだったのか。私、二人とも撃たれてしまったのかと。無事で良かった」
テオが二人に飛び着いた。クラウスの身体がびくりと跳ねる。
「痛っ、抱き着くな。俺は腹を撃たれてるんだ」
「えっ!?」
「掠った程度だがな」
「では早く保健室に行って、怪我の手当てを」
「いや、俺のことより、まず寮に戻って全員居るか確認しなくては。
もしかしたら、レオンが居ないかもしれない」
「レオンが?」
「シルフェ、お前の足を見込んで、頼みがある。
先に寮まで走って、学院内に侵入者が来たことを、警備に」
「了解。テオ、クラウスのこと頼んだぜ」
シルフェがすぐに駆け出した。
「クラウス、私達も早く寮に戻ろう。肩を貸すよ、さあ、捕まって」
「情けないな」
「何言ってるんだい。貴方が私を助けてくれたんじゃないか。
いつだって、貴方は私のヒーローだよ?」
「楽しいお喋りはそこまでだ」
二人の後ろに、別の男が立っていた。手に握られているのは銀色の銃。
カチリ、と銃口がテオに向けられる。
「死ね」
目の前で銃声を聞いた。しかし、テオは痛みを感じなかった。
次の瞬間、ドサリという音がした。
崩れ落ちるようにして、テオの前に倒れるその動きは、酷くスローモーションに見えた。
ドクドクと、赤い液体がテオの足許に流れてくる。テオは絶叫した。
「クラウスー!」
テオは飛び起きた。カーテンに朝陽が当たっている。
自分のベッド。テオはシュヌーシア寮の自室に居た。
「なんだ……夢だったのか。良かった」
息を吐く。まるで実際に走ったあとのように息苦しい。
頭を押さえると、額は、しっとりと濡れていた。
「どうして、あんな不吉な夢を見てしまったのだろう、私は」
テオは時計を見る。もう朝食が始まっている時間だった。既に皆集まっているだろう。
テオは寝間着のまま、シュヌーシア寮のダイニングルームに向かった。
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■ブラッディ・クリスマス04 続編
「できたっ!」
テオは赤と白の服を掲げる。
クラウスのサイズで特注した衣装に、テオが最後の仕上げとして、胸元に飾りを加えた。
葡萄のような形をした真っ白のクリスマスリースである。
先日、新市街へ出掛けた際に、ショッピングモールで見つけ、一目惚れした物だ。
「早速、クラウスに袖を通して貰おう!」
衣装を綺麗な紙袋に詰め、いそいそとクラウスの部屋に向かった。
「クラウスー。ちょっとお邪魔しても良いかーい?」
ノックをしたが、部屋の中から返事がない。
「あれ?」
テオはドアに耳をくっつけてみる。何も聞こえない。
しかし、就寝前のこの時間、外出は原則禁止である。
寮のサロンにも居なかったのだから部屋に居る筈だと思って来たのだが。
「シャワー中かなあ? クラウス、お邪魔するよー」
ドアを開けても、整理整頓され過ぎている部屋が迎えてくれるだけで、
部屋の主の姿はどこにも見当たらなかった。
「居ないなあ。あ、まさか、こんな遅くまで、
生徒代表室でお仕事しているのではあるまいね?」
しかし、他に考えられる場所はなかった。
そう言えば、生徒代表室には入ったことがないなあ、とテオは思う。
その高貴な部屋に招かれるのは選ばれし『王』のみ。一般生徒には入る機会がない。
壁一面に、歴代の生徒代表の肖像画が飾られていることは、
以前の生徒代表であり、シュヌーシア寮の卒業生であるヤンから
聞いたことはあるが、実際に目にしたことはなかった。
生徒代表室はどんな部屋なんだい、とクラウスに聞いたことはあるが、
「だだっ広い部屋だ」と言われたくらいだ。
「行ってみようかな、生徒代表室。怒られると思うけど」
一番親しい友人が生徒代表である今が、最も生徒代表室に入れるチャンス。
普段、クラウスがどんな部屋で執務をしているのか以前から気になっていた。
「よし。行こう!」
怒られるのを覚悟で、テオはクラウスの部屋をあとにし、生徒代表室へ向かった。
夜のキャンパスは、誰も歩いていない。
近道をする為に、森の側を通ることにした。
ふと見上げるとぼんやり月が見えた。
「美しいなあ」
「あれ? そこに居るの、もしかして、テオ?」
前方から誰かが近付いてくる。夜目が効いていないテオには、まだ見えない。
次第に見えてきたのは銀色の髪だった。同じ寮に住む生徒。
テオより二つ年下ではあるが、最近は自分より大人っぽい男だ。
「シルフェ。どうしたんだい、こんなところで」
「俺? 俺は月を見に行ってきたってトコかな?」
シルフェは闇夜を見上げる。
「いけないことだって解ってても、月があんまり綺麗だからさ」
今夜の月は薄雲を纏っており、ちらちらと仄かな光を見せていた。
シルフェはズボンのポケットに手を入れる。
「ま、今夜はもう雲に隠れちまったけど。
冷たくって恥ずかしがり屋だからねえ、孤高のお月様は」
「何やら詩人だねえ、シルフェ。まるで月を想い慕う狩人みたいだよ」
狩人か、とシルフェは笑った。
「ところで、テオはこんな時間にどうしたんだ? なんか赤い服を持ってるみたいだけど?」
「ああ、そうだった。実はこれを」
パン、と乾いた音が響いた。テオが周りを見渡す。
「何だい、今の音」
「向こうからだ。おい、テオ、行くな」
シルフェはテオを止めた。
「俺が様子を見てくる。テオはシュヌーシアに帰って、
銃声を聞いたって警備に連絡するんだ」
「銃声、なのかい」
「多分な。だから早く」
「だったら、シルフェも戻ろう。危険過ぎるよ」
「少し見てくるだけさ。俺もすぐに戻るよ。じゃ、頼んだぜ」
シルフェは寮と反対の方向へ駆け出し、闇夜に紛れ、すぐに背が見えなくなった。
不安を抱えながらも、テオは寮へ向かって、走り出そうとした。その時。
乾いた音が鳴った。先程より、はっきり聞こえた。近い。
テオは音がした方へ向かって走り始めた。
冬の夜だというのに、テオは頬に当たる風の冷たささえ感じなかった。
嫌な胸騒ぎを振り切るように夢中で走った。
木の側に、倒れている人間が二人居た。
月桂樹のクリスマスツリーの下、綺麗な電飾に照らされていたのは、見知った顔。
「クラウス、シルフェ」
テオの声を聞いても、二人はぴくりとも動かなかった。
「嘘……嘘だろう」
「なんだ。まだ夜遊びしてるガキが居やがったのか」
テオが振り向くと、そこにはサングラスをかけた大男が立っていた。
「悪ガキばっかなんだなあ、このガッコは。良い子はもう眠ってる時間だろ?
おうちでおねんねしてれば、そいつらも撃たれることもなかったのになあ」
「二人を、撃った……」
「ああ。お友達だったか?」
「嘘だ、私は信じない」
「へへっ。そいつは可哀想なことをしたなあ、悪かった」
大男は銃をテオに向けた。
「お詫びに、てめえも一緒に天国へ送ってやるよ」
テオは一歩後ずさる。大男は嗤った。
「お友達によろしくな」
大男の背後で何かが動いた。
テオがそう思った時、大男は「ぐえっ」と声をあげて、地面に倒れた。
大男を見下ろして立っていたのは、クラウスだった。
クラウスは大男が気を失っていることを確認したあと、テオを見た。
「怪我は、ない、ようだな」
「クラウス!」
「ったく。全部持って行きやがって。一人でカッコ良過ぎだろ」
「シルフェ! シルフェも無事だったのだね!」
「トーゼン。場合によっては死んだフリもテクのうちさ?」
「そうだったのか。私、二人とも撃たれてしまったのかと。無事で良かった」
テオが二人に飛び着いた。クラウスの身体がびくりと跳ねる。
「痛っ、抱き着くな。俺は腹を撃たれてるんだ」
「えっ!?」
「掠った程度だがな」
「では早く保健室に行って、怪我の手当てを」
「いや、俺のことより、まず寮に戻って全員居るか確認しなくては。
もしかしたら、レオンが居ないかもしれない」
「レオンが?」
「シルフェ、お前の足を見込んで、頼みがある。
先に寮まで走って、学院内に侵入者が来たことを、警備に」
「了解。テオ、クラウスのこと頼んだぜ」
シルフェがすぐに駆け出した。
「クラウス、私達も早く寮に戻ろう。肩を貸すよ、さあ、捕まって」
「情けないな」
「何言ってるんだい。貴方が私を助けてくれたんじゃないか。
いつだって、貴方は私のヒーローだよ?」
「楽しいお喋りはそこまでだ」
二人の後ろに、別の男が立っていた。手に握られているのは銀色の銃。
カチリ、と銃口がテオに向けられる。
「死ね」
目の前で銃声を聞いた。しかし、テオは痛みを感じなかった。
次の瞬間、ドサリという音がした。
崩れ落ちるようにして、テオの前に倒れるその動きは、酷くスローモーションに見えた。
ドクドクと、赤い液体がテオの足許に流れてくる。テオは絶叫した。
「クラウスー!」
テオは飛び起きた。カーテンに朝陽が当たっている。
自分のベッド。テオはシュヌーシア寮の自室に居た。
「なんだ……夢だったのか。良かった」
息を吐く。まるで実際に走ったあとのように息苦しい。
頭を押さえると、額は、しっとりと濡れていた。
「どうして、あんな不吉な夢を見てしまったのだろう、私は」
テオは時計を見る。もう朝食が始まっている時間だった。既に皆集まっているだろう。
テオは寝間着のまま、シュヌーシア寮のダイニングルームに向かった。
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