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Marginal Prince Short Story
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■シュヌーシア寮
ブラッディ・クリスマス08 続編
聖アルフォンソ学院、保健室。生徒達は本日最後の授業を受けている時間だ。
保健教師のソクーロフは白いカップに口付けながら、資料を眺めていた。

「クリスマスの歌姫に隠し子か」

吐息からコーヒーの香りがした。本日、コーヒーは既に3杯目だ。

「この島に居ると、スキャンダルには不自由しないな」

「ま。そーゆー島だからねー」

そう言いながら、アイヴィーは美味そうにコーヒーを飲んでいる。
いつもより語尾が長く、気だるげに聞こえた。
ソクーロフはアイヴィーの目許をちらりと見る。まぶたは重そうだった。彼も眠いのだろう。

昨日は早朝から捕り物があった。警備組織に依頼され、ソクーロフは犯人の自白を行った。
それ自体は21時頃までには終了したのだが、帰宅後も今回の事件について考えていた。
指先が冷えて、うまく動かない。そう思った時、ふと時計を見たら午前4時だった。
これでは、子供達に「この頃、夜は冷えるから、暖かくして寝るんだよ」と言う資格がない。

「それで? 今、歌姫は面会室に?」

「うん。クラウスには連絡しといたから。
授業が終わったら、レオンと引き合わせてくれる予定」

先程、歌姫を空港から学院まで送り届けに来たのがアイヴィーだった。

「クリスマスにはちょっと早いけど、レオンには、
良いクリスマスプレゼントになりそうだね」

「だと良いがな」

「何、ヤな言い方してんの?」

「子供と共に暮らすより、歌手であることを選んだ母親のせいで、
子供は見知らぬ人間に命を狙われた。そんな母親が今になって会いに来た。
その時、13歳の少年は、母親の言葉を受け入れられるだろうか」

「ソクちゃんがそんな13歳だったら、どーなのよ?」

「さあな」

「もー、ヒミツ主義なんだからー」

そう言われたソクーロフは、胸の内だけで一言ぼそりと呟いた。

「あ、それから、連日で悪いんだけどー、
ブラッディ・クリスマス君達の懺悔、今日も頼んで良い?」

「私もその予定でいたが、今日は16時から別の子のカウンセリングが入っている」

「了解。じゃあアリシアを空港に送ったあと、またお迎えに来るね?」

「ああ」

「ところでー」

「ん?」

「ソクちゃん、クリスマスの夜は――」


月桂樹の森。
そろそろ夕刻で、辺りは少し薄暗くなってきた。
面会を終えたレオンは、森に来ていた。

後ろで組んだ両手を枕に、木の傍で寝転がっている。
どのくらいそうしていただろう。
ぼんやり空を眺めながら、レオンは先程までの出来事を思い返していた。


今日、最後の授業が終わった後、中等部クラスの廊下にクラウスが立っていた。
「付いて来い」と突然呼ばれた先は、面会室だった。

そこには、殆どテレビでしか見たことがない女性と、
そのマネージャーだという男と、レオンの父親の三人が居た。
「お前に話したいことがあるそうだ。ちゃんと聞いてやれ」
クラウスはレオンにそう言い残し、面会室から出て行った。

女性はレオンと目が合うなり泣き出し、
声にならない声で「ごめんなさい」という類の言葉を繰り返していた。
泣き崩れる女性を前にして、レオンは酷く冷静でいる自分に少し驚いていた。

これが、いつもテレビの歌番組に出演している、あの人なのだろうか。
きらびやかな衣装を纏い、伸びやかな歌声を披露しているのと同じ女性だとは思えなかった。

最後まで、その女性は泣いていて、会話らしい会話はできなかった。
自分も「うん」とか「大丈夫」とかぐらいしか喋ってなかったし。
女性が言いたかったことを、父さんが代わりに言っていたと思うけれど、
その言葉は頭に入ってこなくて、正直あまり覚えていない。

ただ、自分よりずっと年上の女性が泣いていて、
自分に向かってずっと謝っていた。

そうしているうちに、「もう時間だね」と父さんが言って、
女性は、父さんとマネージャーに抱えられるようにして、退室した。

多分、30分くらいは同じ空間に居たと思うけれど。
その間、怒りとか、そういう感情を、レオンは不思議なくらい何も感じなかった。
呆然としているうちに、面会は終わっていた。


「あー、レオン、居たー。探しちゃったよ」

森の中、遅い駆け足でやってきたのは、同じ寮のラビだった。
寒いのか暑いのか、頬は少しピンク色になっていた。

「あのね、冷めないうちにどうぞ、って」

レオンは寝そべったまま聞く。

「何が?」

「今日のおやつ、フォンダンショコラって言うチョコのケーキでね、
ドニが『中にあったかいチョコクリームが、
入っていますから、冷めないうちにどうぞ』って」

ラビはレオンに近付く。

「一緒に食べよう?」

差し出された手。
自分より少し小さいその手を握り、レオンは身体を起こした。

森を抜け、二人でシュヌーシア寮まで歩いていく。
空の上でキーンという大きな音がした。
レオンが立ち止まったので、ラビも同じ方向を見上げた。

「あ、飛行機雲? きれいだね」

薄青の空に、白いラインが細長く描かれていった。


「今年は、クラウスにも手伝って貰って良いかな!?」

その夜。就寝前、クラウスの部屋にやってきたテオは、開口一番こう言った。
来週の予習をしていた時に、いきなり詰め寄られ、
クラウスは迷惑がりながら「な、何だ?」と尋ねる。
テオは笑顔を輝かせながら、

「クリスマスの夜、シュヌーシアの良い子達の枕元に、プレゼントを置く役だよ!」

「サンタクロースを、俺が?」

「うん! 衣装もバッチリ用意してあるよ!」

じゃーん、とテオが掲げてみせる。クラウスは頭を押さえていた。

「何故俺まで」

「サンタクロース役は、お父さんとお母さんの特権的楽しみだからだよ!」

「その『シュヌーシア寮のお父さんとお母さん』という謎のポジションは、
どうしても定着させていきたいんだな、お前は」

「いやあ、もうすっかりバッチリ定着していると思うけれど」

「納得いかん」

「というわけで、クラウス。明日の休日は空けておいておくれ?
私と一緒にアクティヴィティするのだからね!」

「何をするんだ?」

「それはもちろん、クリスマスプレゼントを選びに行くのだよ!
シュヌーシア寮の良い子達、全員分のね!
あ、プレゼントの費用はメネシスから出すから心配要らないよ!」

「この道楽者は……大体、それのどこがアクティヴィティなんだ」

「こんなにファンタスティックなアクティヴィティが他にあるのかい?
シュヌーシア寮のお父さんに拒否権はないよ!」

「何故ない。その前に俺は」

「明日はプレゼント選びが終わったら、
街の中央広場のクリスマスツリーも見に行こうね!
最後は、寮のみんなが大好きなシュークリームをおみやげを買って帰ろう!
どうだい? このスペシャルな計画は。素晴らしいだろう!」

「今から頭が痛いんだが」

「明日、楽しみにしているね! それじゃ、今日はおやすみ!」

テオは嵐のように去っていった。
クラウスは頭を押さえる。

「全く、あいつは」

クラウスは机の上を見る。
開かれたノート。来週分の予習。まだ途中だ。

「今日はもう寝るか」

クラウスはノートを閉じた。

「明日は思いきり、振り回されそうだしな」


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