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■ハルヤ ユウタ シルヴァン アンリ
■リクエストどうもありがとうございました!
「あ、姉貴!」
2月のある日。
ユウタの姉が、弟の携帯に電話をした時、弟はウーティス寮のサロンに居た。
「今、サロンでおやつ食べてたところなんだ。ハルヤも居るよ! ほら!」
弟がテレビ電話機能付き携帯を友人に向ける。
すると、丁度、お煎餅を口にしたところだったハルヤが映った。
白い頬がさっと赤くなる。目だけで挨拶したあと、
ちょっと待って、ともごもご言いながら、慌てて一口飲み込んだ。
「こ、こんちは」
おやつにお煎餅が出たりするんですね、と姉が言うと、
少し下がった眼鏡をかけ直しながらハルヤが答えた。
「うん。カミーユが……あ、うちの寮のシェフの名前なんだけど、
去年辺りから日本の料理に凝ってるみたいで。『私の勉強にもなりますから』って言って、
日本のお菓子をわざわざ取り寄せてくれたりするんだよ。
俺はスーパーとかで売ってる一番安いやつで良いんだけど」
「この前はね、わらび餅も出たんだよ! すごく美味しかったんだ! ね、ハルヤ!」
「うん、美味しかったけど、あれも高そうだったなあ。どこのだったんだろ」
「3月になったら、桜餅とか、よもぎ餅なんかも出てくるかもしれないね。雛祭りの季節だし!」
「雛祭りか。もう来月なんだね。その頃には梅も散っちゃうかな」
「あー! もしかして、ユウタのお姉さんとお話ししてるんですかー?」
大きな声がして、ユウタとハルヤがそちらを向く。
この寮で一番背の高い人が立っていた。
「やっぱり、お姉さんじゃないですかー! コンニチハ!
丁度、貴女に会いたいなって思ってたところだったんですよ?」
素早く席に着いたのは、日本大好きシルヴァンである。
「今、何のお話をしていたんですか? 僕も入れて下さい!」
「えっとー、なんの話、してたんだっけ?」
ユウタがハルヤに聞く。
「日本ではもうすぐ雛祭りだねってところまで、かな?」
雛祭りについて、ハルヤがシルヴァンに軽く説明する。
「キモノを着たドールを飾るんですか!? 素敵なお祭りですね!」
シルヴァンの興味を惹いたのは雛人形だった。
あまりにも予想通りで、ハルヤは日本人的微笑をする。
「でも、地域によっては色んな雛人形があって、例えば、京都のほうだと、
御殿っていう、まあ、お屋敷付きの豪華お雛様もあるんだよ」
「静岡では、つるし雛っていうのもあるんだよね。俺、テレビで見たことあるよ!」
「でも、皆、キモノを着てるドールなんですよね!?」
「まあ、大体はそうかな」
「キモノということは、カタナも持ってるんですか!? サムライなんですか?」
「いや、侍とはちょっと違うよ。お内裏様とお雛様は、王子様とお姫様みたいなもんだし」
「あ、でも、ハルヤ。右大臣と左大臣は侍って言っても良いんじゃないかなあ?
確か、刀も持ってたと思うし。姉貴、そうだったよね?」
うん、と姉が答えると、ハルヤが呟いた。
「あ、そうか。お付きは侍なのかも」
「じゃあ、ヒナニンギョウは、サムライのフィギュアなんですね! うわあ、僕も欲しいですー!」
「もう。フィギュアとは違うよ。それに、シルヴァンは雛人形を持たなくて良いんだよ?」
「えー! なんでですか? なんで僕はダメなんですかー?」
「ダメっていうか、雛人形を飾るのは、女の子が居る家で、
シルヴァンは男の子だから飾らなくても良いんだよ。雛祭りは女の子のお祭り」
「そんなー! 僕も女の子に生まれれば良かったです……」
「そんなことで落ち込まないでよ、シルヴァン。あ、そう言えば、飾らない雛人形もあるな」
「えっ? 飾らないんですか? じゃあ、どうするんですか?」
「流しちゃうんだよ、川に」
「ええっ!? キモノ着てるのに流しちゃうんですか!? そんなのダメですー!」
「着てないんだよ、それは」
「それは、つまり……裸のドールという意味ですか?」
「いや、まさか。普通のお人形でもなくて、紙なんだよ。人の形に切った紙」
「紙でできたドール、ですか?」
「うん。紙で作った雛人形を川に流すんだ。京都の神社では今でもやってる筈だよ。流し雛って言ってね」
「でもでも! どうして川に流しちゃうんですか?」
「その雛人形が、自分の代わりに厄を持っていってくれるから。
それが厄払いになるって考えられてるんだよ、確か」
ふうん、と低く甘い声がした。
「それって陰陽道に似ているね? ヒトガタみたい」
そう言ったのは、サロンの隅の席に座っていたアンリだった。
「うわ、アンリ! 居たんだ!?」
ユウタが驚くと、さっき来たでしょう、とアンリが言い放つ。
「オンミョウドーなら、僕も知ってます!」
シルヴァンが元気良く手を挙げる。
「シキガミを出して攻撃したり、人に呪いをかけたりするんですよね!
ハルヤ、ハルヤ! もしかして、流し雛とオンミョウドーって、何か関係があったりするんですか?」
「うーん。ごめん。そこまでは解んないよ。
日本人でも、日本のこと全部知ってるわけじゃないし」
「そうですかー」
「でも、確かに言われてみれば似てるし、関係があるのかもしれないね」とハルヤは言い添えた。
シルヴァンが携帯電話に向き直る。
「ところで! お姉さんのお雛様は、川に流すタイプですか? 流さないタイプですか?」
皆が話を続ける中、アンリは無言でサロンを出ていった。
そのまま寮を出て校舎のほうへ向かった。
まだ夕焼けには早い時間で、寒さはあまり感じなかった。
「おや。ごきげんよう、アンリ」
後ろから声をかけられた。アンリが振り向くと、そこに居たのは、神秘学教師だった。
今日の装いはダークネイビーのスーツ。優しい微笑を見せながら、
「教室に忘れ物でもしたのかな?」
違うよ、と神秘学の受講生は呟く。
「僕は図書館に……行く手間が省けそうだ」
「ん?」
「ボージェ教授。陰陽道について質問があるのだけど」
アンリは神秘学教師に、先程サロンで聞いたことを話し、
陰陽道と日本の流し雛に関係性はあるのか訊ねた。
しかし、いくら彼が神秘学の権威でも、日本の伝統行事についてまでは知らないかもしれない。
アンリはそう思いながら聞いたのだが、そんな心配は杞憂に終わる。
神秘学教師は、あるよ、とあっさり答えた。
「関係があるというか、雛祭り自体の起源が、陰陽道にあると言われているね」
「雛祭りの起源が陰陽道?」
「うん。人の身に降り懸かる災厄を、陰陽師に祓って貰うことが、そもそもの由来なんだ。
陰陽師が作った、紙の人形(ひとがた)に、名前や生まれ日を書くことで、
陰陽道では、その紙が人の身代わりになると考えられていた。
ここまでは、神秘学の授業でも話したことがあるかな?」
教え子は頷く。
「人の災厄を人形に移し、川に流す。そうすることで、厄祓いをしていた。
それが、流し雛と呼ばれるようになり、現在の雛祭りの起源になったと言われているね。
雛祭りは、子の厄を祓い、健やかな成長を願うお祭り。
昔は、現代のように豊かで安全な時代ではなく、
飢饉や病気で、子供が早くに亡くなってしまうことも少なくなかったから」
「そう」
「それにしても、アンリは、流し雛の話を聞いただけで、陰陽道に似ていると思ったのかい?」
「うん」
神秘学教師が微笑む。
「良いところに気が付いたね。授業を良く聞いている証拠だ。
今の質問も、とても良い質問だったよ、アンリ」
ふっと頭に触れた大人の手。
この教師には時々される行為だが、未だに慣れない。
アンリは息が詰まるような、何とも言えない居心地の悪さに襲われる。
「子供扱いしないで」
手を払われた教師に、気を悪くした様子はなく、
視線を逸らした教え子を、ただ優しく見守っていた。
「成程。お姉さんのお雛様は、流さないタイプなんですねー」
ウーティス寮サロンでは、携帯電話越しに居るユウタの姉を囲んで、雛祭りトークが続いていた。
シルヴァンがユウタの姉に質問している。
「じゃあ、貴女がお持ちなのは、御殿雛のほうですか? つるし雛のほうですか?」
「うちにあるのは普通のお雛様だよ。ね、姉貴?」
「僕、見たいです! 今、飾ってありますか?
あ、まだなんですね。じゃ、飾ったら写真送って下さいね!」
「シルヴァンは、本当に日本が大好きなんだね」とユウタが笑う。
「はい! 日本のことは前から好きでしたが、
今はもっともっと大好きになっちゃいました!」
「え、どうして?」
シルヴァンは、ある人物に向かって、笑顔を見せる。
「さあ。どうしてでしょう。ね?」
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■リクエストどうもありがとうございました!
「あ、姉貴!」
2月のある日。
ユウタの姉が、弟の携帯に電話をした時、弟はウーティス寮のサロンに居た。
「今、サロンでおやつ食べてたところなんだ。ハルヤも居るよ! ほら!」
弟がテレビ電話機能付き携帯を友人に向ける。
すると、丁度、お煎餅を口にしたところだったハルヤが映った。
白い頬がさっと赤くなる。目だけで挨拶したあと、
ちょっと待って、ともごもご言いながら、慌てて一口飲み込んだ。
「こ、こんちは」
おやつにお煎餅が出たりするんですね、と姉が言うと、
少し下がった眼鏡をかけ直しながらハルヤが答えた。
「うん。カミーユが……あ、うちの寮のシェフの名前なんだけど、
去年辺りから日本の料理に凝ってるみたいで。『私の勉強にもなりますから』って言って、
日本のお菓子をわざわざ取り寄せてくれたりするんだよ。
俺はスーパーとかで売ってる一番安いやつで良いんだけど」
「この前はね、わらび餅も出たんだよ! すごく美味しかったんだ! ね、ハルヤ!」
「うん、美味しかったけど、あれも高そうだったなあ。どこのだったんだろ」
「3月になったら、桜餅とか、よもぎ餅なんかも出てくるかもしれないね。雛祭りの季節だし!」
「雛祭りか。もう来月なんだね。その頃には梅も散っちゃうかな」
「あー! もしかして、ユウタのお姉さんとお話ししてるんですかー?」
大きな声がして、ユウタとハルヤがそちらを向く。
この寮で一番背の高い人が立っていた。
「やっぱり、お姉さんじゃないですかー! コンニチハ!
丁度、貴女に会いたいなって思ってたところだったんですよ?」
素早く席に着いたのは、日本大好きシルヴァンである。
「今、何のお話をしていたんですか? 僕も入れて下さい!」
「えっとー、なんの話、してたんだっけ?」
ユウタがハルヤに聞く。
「日本ではもうすぐ雛祭りだねってところまで、かな?」
雛祭りについて、ハルヤがシルヴァンに軽く説明する。
「キモノを着たドールを飾るんですか!? 素敵なお祭りですね!」
シルヴァンの興味を惹いたのは雛人形だった。
あまりにも予想通りで、ハルヤは日本人的微笑をする。
「でも、地域によっては色んな雛人形があって、例えば、京都のほうだと、
御殿っていう、まあ、お屋敷付きの豪華お雛様もあるんだよ」
「静岡では、つるし雛っていうのもあるんだよね。俺、テレビで見たことあるよ!」
「でも、皆、キモノを着てるドールなんですよね!?」
「まあ、大体はそうかな」
「キモノということは、カタナも持ってるんですか!? サムライなんですか?」
「いや、侍とはちょっと違うよ。お内裏様とお雛様は、王子様とお姫様みたいなもんだし」
「あ、でも、ハルヤ。右大臣と左大臣は侍って言っても良いんじゃないかなあ?
確か、刀も持ってたと思うし。姉貴、そうだったよね?」
うん、と姉が答えると、ハルヤが呟いた。
「あ、そうか。お付きは侍なのかも」
「じゃあ、ヒナニンギョウは、サムライのフィギュアなんですね! うわあ、僕も欲しいですー!」
「もう。フィギュアとは違うよ。それに、シルヴァンは雛人形を持たなくて良いんだよ?」
「えー! なんでですか? なんで僕はダメなんですかー?」
「ダメっていうか、雛人形を飾るのは、女の子が居る家で、
シルヴァンは男の子だから飾らなくても良いんだよ。雛祭りは女の子のお祭り」
「そんなー! 僕も女の子に生まれれば良かったです……」
「そんなことで落ち込まないでよ、シルヴァン。あ、そう言えば、飾らない雛人形もあるな」
「えっ? 飾らないんですか? じゃあ、どうするんですか?」
「流しちゃうんだよ、川に」
「ええっ!? キモノ着てるのに流しちゃうんですか!? そんなのダメですー!」
「着てないんだよ、それは」
「それは、つまり……裸のドールという意味ですか?」
「いや、まさか。普通のお人形でもなくて、紙なんだよ。人の形に切った紙」
「紙でできたドール、ですか?」
「うん。紙で作った雛人形を川に流すんだ。京都の神社では今でもやってる筈だよ。流し雛って言ってね」
「でもでも! どうして川に流しちゃうんですか?」
「その雛人形が、自分の代わりに厄を持っていってくれるから。
それが厄払いになるって考えられてるんだよ、確か」
ふうん、と低く甘い声がした。
「それって陰陽道に似ているね? ヒトガタみたい」
そう言ったのは、サロンの隅の席に座っていたアンリだった。
「うわ、アンリ! 居たんだ!?」
ユウタが驚くと、さっき来たでしょう、とアンリが言い放つ。
「オンミョウドーなら、僕も知ってます!」
シルヴァンが元気良く手を挙げる。
「シキガミを出して攻撃したり、人に呪いをかけたりするんですよね!
ハルヤ、ハルヤ! もしかして、流し雛とオンミョウドーって、何か関係があったりするんですか?」
「うーん。ごめん。そこまでは解んないよ。
日本人でも、日本のこと全部知ってるわけじゃないし」
「そうですかー」
「でも、確かに言われてみれば似てるし、関係があるのかもしれないね」とハルヤは言い添えた。
シルヴァンが携帯電話に向き直る。
「ところで! お姉さんのお雛様は、川に流すタイプですか? 流さないタイプですか?」
皆が話を続ける中、アンリは無言でサロンを出ていった。
そのまま寮を出て校舎のほうへ向かった。
まだ夕焼けには早い時間で、寒さはあまり感じなかった。
「おや。ごきげんよう、アンリ」
後ろから声をかけられた。アンリが振り向くと、そこに居たのは、神秘学教師だった。
今日の装いはダークネイビーのスーツ。優しい微笑を見せながら、
「教室に忘れ物でもしたのかな?」
違うよ、と神秘学の受講生は呟く。
「僕は図書館に……行く手間が省けそうだ」
「ん?」
「ボージェ教授。陰陽道について質問があるのだけど」
アンリは神秘学教師に、先程サロンで聞いたことを話し、
陰陽道と日本の流し雛に関係性はあるのか訊ねた。
しかし、いくら彼が神秘学の権威でも、日本の伝統行事についてまでは知らないかもしれない。
アンリはそう思いながら聞いたのだが、そんな心配は杞憂に終わる。
神秘学教師は、あるよ、とあっさり答えた。
「関係があるというか、雛祭り自体の起源が、陰陽道にあると言われているね」
「雛祭りの起源が陰陽道?」
「うん。人の身に降り懸かる災厄を、陰陽師に祓って貰うことが、そもそもの由来なんだ。
陰陽師が作った、紙の人形(ひとがた)に、名前や生まれ日を書くことで、
陰陽道では、その紙が人の身代わりになると考えられていた。
ここまでは、神秘学の授業でも話したことがあるかな?」
教え子は頷く。
「人の災厄を人形に移し、川に流す。そうすることで、厄祓いをしていた。
それが、流し雛と呼ばれるようになり、現在の雛祭りの起源になったと言われているね。
雛祭りは、子の厄を祓い、健やかな成長を願うお祭り。
昔は、現代のように豊かで安全な時代ではなく、
飢饉や病気で、子供が早くに亡くなってしまうことも少なくなかったから」
「そう」
「それにしても、アンリは、流し雛の話を聞いただけで、陰陽道に似ていると思ったのかい?」
「うん」
神秘学教師が微笑む。
「良いところに気が付いたね。授業を良く聞いている証拠だ。
今の質問も、とても良い質問だったよ、アンリ」
ふっと頭に触れた大人の手。
この教師には時々される行為だが、未だに慣れない。
アンリは息が詰まるような、何とも言えない居心地の悪さに襲われる。
「子供扱いしないで」
手を払われた教師に、気を悪くした様子はなく、
視線を逸らした教え子を、ただ優しく見守っていた。
「成程。お姉さんのお雛様は、流さないタイプなんですねー」
ウーティス寮サロンでは、携帯電話越しに居るユウタの姉を囲んで、雛祭りトークが続いていた。
シルヴァンがユウタの姉に質問している。
「じゃあ、貴女がお持ちなのは、御殿雛のほうですか? つるし雛のほうですか?」
「うちにあるのは普通のお雛様だよ。ね、姉貴?」
「僕、見たいです! 今、飾ってありますか?
あ、まだなんですね。じゃ、飾ったら写真送って下さいね!」
「シルヴァンは、本当に日本が大好きなんだね」とユウタが笑う。
「はい! 日本のことは前から好きでしたが、
今はもっともっと大好きになっちゃいました!」
「え、どうして?」
シルヴァンは、ある人物に向かって、笑顔を見せる。
「さあ。どうしてでしょう。ね?」
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