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Marginal Prince Short Story
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■ソクーロフ×アイヴィー
「ほい、ガッコに、とうちゃーく」

聖アルフォンソ学院、正門前に一台のタクシーが停まった。
今年入学した高校一年生が、元気な声でお礼を言う。

「ありがとう、アイヴィーさん!」

「ありが、ありがとうございましたっ」

少女のような金色の柔らかい髪が、ふわりと揺れる。
こちらの声は小さかったが、つっかえながらもお礼を言った。

「どーいたしましてー。んじゃ、またな、ユウタ、ミハイル」

「またね! 行こっ、ミハイル」

「うん」

まるで仲の良い兄弟のような二人。
その後ろ姿を見送りながら、タクシードライバーは、車内で煙草を一本咥えた。

軽い一服を済ましたあと、灰皿に吸い殻を押し付け、車外に出た。
太陽は眩しく、自分のワイシャツと同じくらい、空は真っ青だった。

タクシードライバーは、門番が居るところまで歩いていく。
正門前に置いてきたタクシーを親指で指しながら、門番に声をかける。
屈強な門番に敬礼されながら、タクシードライバーは学院の中に入った。

正門から校舎まで続く、長い一本道。
その道には、アーチのように木々が並んでいる。
全て同じ木。この島にしかないと言われる、亜種の月桂樹。

見上げれば、枝葉の隙間から、太陽がキラキラと降り注ぎ、
見下ろせば、枝葉の影絵が地面に描かれている。息を吸うと、木と土の香りがした。

月桂樹の長いアーチを抜け、更に暫く歩き、
タクシードライバーがやってきた場所は、第三学生寮の隣にある建物だった。
午後のあたたかい日差しが気持ち良くて、今にも眠ってしまいそうだ。
欠伸を噛み殺しながら、タクシードライバーは、その建物に近付いていった。


コンコンコン、と3回ノックしたあと、断りもなくドアを開けた。
この建物特有の香りが濃くなる。
タクシードライバーは、いつもの台詞を口にした。

「ソクちゃーん。ベッド貸してー?」

机で書き物をしていた、髪の長い男が、ちらりと振り向く。
白衣を身に付け、眼鏡をかけていた。
医師はタクシードライバーを一瞥したあと、
「勝手にしろ」とだけ言って、机に向き直った。
タクシードライバーは、ネクタイの結び目に人差し指をかけながら、

「ハーイ。勝手にしまーす」

元々緩いネクタイを更に緩め、診察用の固いベッドに乗る。
仰向けに寝そべったが、「あ」と言ってクルリとうつ伏せになった。
はらりと金色の長い髪が肩に落ちる。

「ソクちゃん、今日の晩メシ、一緒に食えるー?」

白衣の背中から、「ああ」と声が聞こえた。

「んじゃ、夜にお迎えに来るね。ソクちゃん、今日、何食べたい? ちゅーか?」

「任せる」

「あいよー」

タクシードライバーは携帯電話をポケットから出しながら、仰向けになる。
携帯電話のアラームをセットしつつ、

「あ、あとー、16時半にアルフレッド達をライブハウスまで乗せてくからー、
もし、俺が16時20分になっても寝てたら、起こしてあげてねー? や、さ、し、く」

「甘えるな」

タクシードライバーは声に出さずに笑う。

「んじゃ、おやすみー」

携帯電話のアラームをセットして、枕元に置く。
もうひとつ欠伸を噛み殺し、タクシードライバーは目を閉じた。


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