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Marginal Prince Short Story
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ソクーロフに看病されちゃった2 続編
翌朝。聖アルフォンソ学院、正門前。
そこに、一人の男性が到着した。
金色のショートヘアに、男とは思えない程の美しく整った顔。
グレイを基調とした軍服を生真面目に着用した人物。
名はラルヴィス・レイナ。ロレート公国国王の側近だ。

学院の生徒代表を務めるジョシュアが、ロレートの王子様になることを決めた為、
以来、側近は、国王からの使いとして、度々、島に訪れている。

当初は、彼が危険人物でないかチェックする為に司令官自ら出迎えていたのだが。
当然、危険人物などではなく、安心して来訪を歓迎できる人物だった。
挨拶を交わすうち、司令官は彼の人となりも知った。
礼儀正しく、真面目で、主である陛下に忠実。
それに、どこか、自分に近い匂いも感じる人だった。

「今日も時間ピッタリだね、ラルちゃん」

「アイヴィー様。おはようございます」

美しい礼をする人だ。

「おはよ。これから、ジョシュアに会いに行くとこかな?」

「はい。本日は殿下に陛下からのお手紙をお届けに参りました」

「遠い国から手渡しで。大変だねえ、ラルちゃんも」

「いえ。それに本日は別件もございますので」

「別件?」

「ええ。実は、陛下が『ついでに誘惑の代償を買ってこい』と」

「王様が? え、でも、誘惑の代償ってアップルパイでしょ? 王様、好きなの?」

「そこまでは伺っておりません。久し振りに食べたくなった、と仰っていましたが」

「うーん。でも、誘惑の代償は、島だけの独自メニューでもないし、
他の国で売ってるアップルパイと特に変わらなかったと思うけどなあ」

「えっ。そうなのですか? 陛下は島独自のレシピで作られた物だと、
仰っていたのですが……そうですか。また陛下は私をおからかいになったのですね」

「あ、いやいや。俺が知らないだけで、ホントは特別なレシピなのかもしれないよ!」

「お気遣い痛み入ります。ですが、あの時の陛下は妙に楽しげでいらっしゃったので、
お戯れだったと考えるほうが納得がいきますね。
どちらにせよ、陛下からのご命令ですので、購入してから帰国致しますが」

「そ、そっか。あ、売ってる場所とか解る? 俺、案内しよっか?」

「場所は陛下から伺っておりますので、問題ないかと存じますが、
そうですね。陛下のご記憶は、18年前のものですので、
アイヴィー様に一度ご確認して頂いてもよろしいでしょうか?」

「うん」

「ありがとうございます。こちらが陛下がお描きになった地図でございます」

側近が差し出した紙は、便箋の裏だった。
紋章から察するに、ロレート公国大公家の便箋であることには間違いなく。
超ロイヤルな便箋を、チラシの裏のように扱うとは。
おそらく一番手近な場所にあった紙がこれだったのだろうが、
何かと大胆な王様だなとアイヴィーは思った。

紙はさておき、おそらく羽ペンで描かれた地図に目を通すと、
大雑把ではあるが実に簡潔で解り易い地図だった。
目立つ建物はしっかり捉えているし、18年前と街並みも変わっていない。
この地図ならば街に慣れていない側近でも確実に店まで辿り着けるだろう。

この島にアップルパイが売っている店は複数あるが、
中でも一番地図に描き易く、場所が解り易い店が選ばれているような気がした。
学生時代の王様は、島の店に随分詳しかったようだ。
それに、未だに島の地図が描けるとは、大した記憶力だ。

「すごいなあ、王様。これなら大丈夫だよ、ラルちゃん」

「18年前と変わっていませんか?」

「うん。この辺はね。旧市街だから。
新しい建物は作らないで、古いまま保存しておく地区なんだ」

「左様でございましたか」

「このお店は老舗のケーキ屋さんだよ。何買ってもウマイって評判」

「安心致しました。ご確認頂き、ありがとうございます」

「あ、確か、その店、イートインもできる筈だから、なんかケーキ食べていったら?」

「そんな。せっかくのご提案ですが、仕事中ですので」

「はははっ。言うと思った。ラルちゃんってホント真面目だよねー」

「アイヴィー様も私をおからかいになるのですか」

「ゴメン、ゴメン」

なんだか王様の気持ちが解ったような気がするとは、とても言えなかった。


「司令……司令!」

大きな声で呼ばれ、司令官の肩がビクリと跳ねる。
ここは警備組織の中央司令室。
今日の司令官はどうも気が散っていた。
ぼうっと今朝の出来事を思い返していたら、副司令官の声に気付くのが遅れた。

「あ、ごめん。聞いてなかった。なあに?」

副司令官のクロイツは厳しい視線を投げた。

「ネクタイ、きちんと結んで下さい、と言ったんです」

司令官の首許にだらしなくぶら下がっているネクタイを、
副司令官は襟まで引き上げた。

「理事とのミーティング時くらいは、身なりを正して下さい。失礼です」

「わ、解った、解ったから、そんなに苦しくしないでっ」

副司令官は手を離す。

「もー。クロちゃんは厳しいなー」

そう言いながら、司令官はネクタイを少しだけ緩める。

「司令」

「んー?」

「ネクタイをきちんと結ばないのは、ただ貴方がだらしがないからでしょうか?
それとも、何か特別な理由でもあるのですか?」

「理由なんてないよ。首の周りキツイのがヤなだけ。
それじゃー、ミーティング、行ってきまーす」

「司令」

「はい?」

「ミーティング後には、司令のタクシーにご予約が入っております。お忘れなく」

「はーい」

司令官は片手を挙げて、ミーティングルームへ向かった。


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