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■ソクーロフに看病されちゃった3 続編
同日、聖アルフォンソ島の旧市街。
ロレート公国の側近は、ジョシュア殿下に手紙を渡し終えたあと、この街に来ていた。
国王陛下からのご命令「誘惑の代償を買ってこい」を果たす為だ。
思いの外、解り易かった地図のおかげで、店には無事に辿り着き、
目当ての『誘惑の代償』と呼ばれるアップルパイを買い求めることができた。
親切な店主のご婦人のご厚意で、ロレートまで配送して貰えることとなった。
あとは帰るだけである。地図に『近道』と描かれた路地裏に入る。
数歩、歩いたところで、目の前が真っ暗になった。意識を失ったのではない。
両目を手で塞がれた。その相手は、愉快そうにこう言った。
「だ~れだ?」
「誰だ!?」
「聞いてんのはコッチだろ? ラルちゃんはドMの上に天然なのか?」
耳障りな低いしゃがれ声。親しい間柄ではないのに馴れ馴れしく乱雑な口調。
そして、強いイタリア訛り。側近はこの声の主が解った。
国と島を行き来する間に、知り合ってしまった人物。
ジョシュア殿下のご友人であるサン・ジェルマン様が、
あろうことかボディーガートとして雇っているというマフィア。
「お前……まさか、マンゾーニ?」
「あた~り~」
目から手が離れた。しかし、すぐに背後から羽交い締めにされる。
「声だけで解るなんて、ディーノ、カンゲキ~なんつって」
マフィアに後ろからぎゅうっと抱き締められる。
「ん? ラルちゃんの首筋、甘い匂いすんなあ」
「貴様っ! ふざけるのも大概にしろ!」
側近は空いているほうの腕を使い、肘でマフィアの腹を強く押した。
マフィア笑いながら、腹を押さえる。
「イテテッ。キレーなツラして乱暴だなあ、ラルちゃんは」
拘束を解かれた。側近は振り向いて、すぐに距離を取った。
長身の男が立っていた。立っているだけで迫力がある。
顔のパーツはどれも自己主張が強く、緩い波のある長い髪は闇夜と同じ色。
陛下も長い髪と口髭をお持ちだが、この男には加えて顎髭まであった。
シチリアマフィアの中でも残虐だというマンゾーニ家の次期ボス、ディーノ・マンゾーニ。
マフィアは改めてフランクに挨拶した。
「よっ。ラルちゃん。久し振り~」
「貴様、また島に不法に侵入して、
アイヴィー様のお手を煩わせているのではあるまいな」
「は~ずれ~。今日はちゃ~んとアポとってから来てんだぜ? ほれ」
一枚の紙を見せられる。
「入島許可証……今回は正式な来訪なのか?」
「そ。うちのクソガキに呼ばれて、来てやったってわけ」
「サン・ジェルマン様のことか」
「ああ。ガキのおもりは大変だよなー、お互い」
「そうか。ならば」
ロレート公国の側近はマフィアに頭を下げた。
「疑って悪かった」
「おいおい」
あまりにも潔い礼で、マフィアさえ驚かせた。
「頭上げろよ、ラルちゃん。アンタ、馬鹿正直過ぎるぜ」
そう言われて、側近はゆっくり顔を上げる。
「けど、ラルちゃんのそういうトコ、俺はキライじゃないぜ?」
マフィアの浅黒い手が真っ白な顎を捕らえる。
「こんな近くで見ても金髪美人だなあ、ラルちゃんは。
味見したくなっちまうぜ、そのドM顔見てっとよお」
「何を言っ」
クイと顎を持ち上げる。
「俺達、ぜってぇ相性イイと思うんだよ。ラルちゃんもホントはそう思ってんだろ?」
「誰がマフィアなどと」
「あれえ? ラルちゃん、手、離せって言わねえの?」
「離せ」
「離さな~い。だって、ラルちゃんは無理矢理されんのがスキなんだろ?」
街で生徒を降ろしたタクシードライバーのアイヴィーは、
おかしな人影を目にした。
「ん? なんだ、あの二人。喧嘩か?」
路地裏に連れ込まれたかのように見える。
金髪の人が黒髪の男に追い詰められている。
「あの金髪美人さんと、あの真っ黒アゴヒゲは……まさか!」
司令官は二人の元に走っていった。
傍まで近付いてみると、やはり見知った二人だった。
「ディーノ! おまっ、ラルちゃんに何してんだ!?」
「ああ? ンな野暮なこと聞くなよ」
「あああ!? バカかてめえ! ラルちゃんに手ぇ出したら、
下手すっと国際問題に発展すんぞ!」
「ンな気が短ぇ王様に仕えてんのかあ? んなオトコ捨てて、
俺に仕えろよ。好きなだけ仕えさせてやるぜえ? ヘッヘッヘッ」
「てゆうか、お前はまた不法侵入してんじゃねえよ!」
「あっ、いえ、違うのです、アイヴィー様」
「えー!? ラルちゃんがディーノの味方したー!?」
「違います! そうではなく、本日は許可証を持っているのです」
「ディーノが?」
「フン。許可証が目に入らぬか~!」
司令官はその紙を凝視した。
「こんなの俺はサインしてねえぞ! 許可証を偽造してんじゃねえよ!」
「偽造ですって!?」
「チッ。もうバレんのかよー。つまんねえなあ。
ったくフィオの奴、おまもり代わりだっつって持たせたくせに、
ラルちゃんにしか効果ねーじゃねーかよ」
「当たり前だっ! それは俺がチェックして発行してんだよ!」
「へえー。あ、そうー。そんなことより、ラルちゃん。
俺、イイ店知ってんだけど、そこでアイスクリームでも、
食べさせてやっか? 白くてトロトロのヤツ」
「コラコラコラー! 今日こそ捕まえてやるっ!」
「捕まえられるモンなら、捕まえてごら~んってか」
その後、司令官はマフィアを追いかけ回した。
土地勘は絶対にこちらのほうがある筈なのに。
「クソ……また逃げられた……」
マフィアの乗った船が遠くなっていく。
捕まらないプロフェッショナルを捕らえることはできなかった。
司令官は海辺で一人立っている。
両膝に手を置き、ゼエゼエしながら、船を眺めていた。
招かれざる客ではあるが、あのマフィアは、島内で悪さをしたことはない。
むしろ、マージナルプリンスであるアンリを守る為に、この島に来ているのだ。
きちんと許可を取って、正々堂々と島に来るなら、
あまり認めたくはないが、本当はマージナルプリンスを守る者同士なのだ。
しかし、あの濃い顔は、無許可で堂々とやってくる。
本気であいつを捕まえるなら、警備組織の仲間を呼べば良いのに、
結局そうしなかったし、あいつが来たことを報告するつもりもない自分。
何にも縛られず、好き勝手にしているあいつを、何故、毎回自分は放っておくのか。
「にしても、おいかけっこって、こんな疲れるもんだったっけ」
司令官は額の汗を手の甲で拭う。この程度でバテるとは情けない。
これが年をとったってことなのだろうか。まだお兄さんのつもりなのに。
「ま、明日は仕事休みだし、家でのんびりするか……」
→
同日、聖アルフォンソ島の旧市街。
ロレート公国の側近は、ジョシュア殿下に手紙を渡し終えたあと、この街に来ていた。
国王陛下からのご命令「誘惑の代償を買ってこい」を果たす為だ。
思いの外、解り易かった地図のおかげで、店には無事に辿り着き、
目当ての『誘惑の代償』と呼ばれるアップルパイを買い求めることができた。
親切な店主のご婦人のご厚意で、ロレートまで配送して貰えることとなった。
あとは帰るだけである。地図に『近道』と描かれた路地裏に入る。
数歩、歩いたところで、目の前が真っ暗になった。意識を失ったのではない。
両目を手で塞がれた。その相手は、愉快そうにこう言った。
「だ~れだ?」
「誰だ!?」
「聞いてんのはコッチだろ? ラルちゃんはドMの上に天然なのか?」
耳障りな低いしゃがれ声。親しい間柄ではないのに馴れ馴れしく乱雑な口調。
そして、強いイタリア訛り。側近はこの声の主が解った。
国と島を行き来する間に、知り合ってしまった人物。
ジョシュア殿下のご友人であるサン・ジェルマン様が、
あろうことかボディーガートとして雇っているというマフィア。
「お前……まさか、マンゾーニ?」
「あた~り~」
目から手が離れた。しかし、すぐに背後から羽交い締めにされる。
「声だけで解るなんて、ディーノ、カンゲキ~なんつって」
マフィアに後ろからぎゅうっと抱き締められる。
「ん? ラルちゃんの首筋、甘い匂いすんなあ」
「貴様っ! ふざけるのも大概にしろ!」
側近は空いているほうの腕を使い、肘でマフィアの腹を強く押した。
マフィア笑いながら、腹を押さえる。
「イテテッ。キレーなツラして乱暴だなあ、ラルちゃんは」
拘束を解かれた。側近は振り向いて、すぐに距離を取った。
長身の男が立っていた。立っているだけで迫力がある。
顔のパーツはどれも自己主張が強く、緩い波のある長い髪は闇夜と同じ色。
陛下も長い髪と口髭をお持ちだが、この男には加えて顎髭まであった。
シチリアマフィアの中でも残虐だというマンゾーニ家の次期ボス、ディーノ・マンゾーニ。
マフィアは改めてフランクに挨拶した。
「よっ。ラルちゃん。久し振り~」
「貴様、また島に不法に侵入して、
アイヴィー様のお手を煩わせているのではあるまいな」
「は~ずれ~。今日はちゃ~んとアポとってから来てんだぜ? ほれ」
一枚の紙を見せられる。
「入島許可証……今回は正式な来訪なのか?」
「そ。うちのクソガキに呼ばれて、来てやったってわけ」
「サン・ジェルマン様のことか」
「ああ。ガキのおもりは大変だよなー、お互い」
「そうか。ならば」
ロレート公国の側近はマフィアに頭を下げた。
「疑って悪かった」
「おいおい」
あまりにも潔い礼で、マフィアさえ驚かせた。
「頭上げろよ、ラルちゃん。アンタ、馬鹿正直過ぎるぜ」
そう言われて、側近はゆっくり顔を上げる。
「けど、ラルちゃんのそういうトコ、俺はキライじゃないぜ?」
マフィアの浅黒い手が真っ白な顎を捕らえる。
「こんな近くで見ても金髪美人だなあ、ラルちゃんは。
味見したくなっちまうぜ、そのドM顔見てっとよお」
「何を言っ」
クイと顎を持ち上げる。
「俺達、ぜってぇ相性イイと思うんだよ。ラルちゃんもホントはそう思ってんだろ?」
「誰がマフィアなどと」
「あれえ? ラルちゃん、手、離せって言わねえの?」
「離せ」
「離さな~い。だって、ラルちゃんは無理矢理されんのがスキなんだろ?」
街で生徒を降ろしたタクシードライバーのアイヴィーは、
おかしな人影を目にした。
「ん? なんだ、あの二人。喧嘩か?」
路地裏に連れ込まれたかのように見える。
金髪の人が黒髪の男に追い詰められている。
「あの金髪美人さんと、あの真っ黒アゴヒゲは……まさか!」
司令官は二人の元に走っていった。
傍まで近付いてみると、やはり見知った二人だった。
「ディーノ! おまっ、ラルちゃんに何してんだ!?」
「ああ? ンな野暮なこと聞くなよ」
「あああ!? バカかてめえ! ラルちゃんに手ぇ出したら、
下手すっと国際問題に発展すんぞ!」
「ンな気が短ぇ王様に仕えてんのかあ? んなオトコ捨てて、
俺に仕えろよ。好きなだけ仕えさせてやるぜえ? ヘッヘッヘッ」
「てゆうか、お前はまた不法侵入してんじゃねえよ!」
「あっ、いえ、違うのです、アイヴィー様」
「えー!? ラルちゃんがディーノの味方したー!?」
「違います! そうではなく、本日は許可証を持っているのです」
「ディーノが?」
「フン。許可証が目に入らぬか~!」
司令官はその紙を凝視した。
「こんなの俺はサインしてねえぞ! 許可証を偽造してんじゃねえよ!」
「偽造ですって!?」
「チッ。もうバレんのかよー。つまんねえなあ。
ったくフィオの奴、おまもり代わりだっつって持たせたくせに、
ラルちゃんにしか効果ねーじゃねーかよ」
「当たり前だっ! それは俺がチェックして発行してんだよ!」
「へえー。あ、そうー。そんなことより、ラルちゃん。
俺、イイ店知ってんだけど、そこでアイスクリームでも、
食べさせてやっか? 白くてトロトロのヤツ」
「コラコラコラー! 今日こそ捕まえてやるっ!」
「捕まえられるモンなら、捕まえてごら~んってか」
その後、司令官はマフィアを追いかけ回した。
土地勘は絶対にこちらのほうがある筈なのに。
「クソ……また逃げられた……」
マフィアの乗った船が遠くなっていく。
捕まらないプロフェッショナルを捕らえることはできなかった。
司令官は海辺で一人立っている。
両膝に手を置き、ゼエゼエしながら、船を眺めていた。
招かれざる客ではあるが、あのマフィアは、島内で悪さをしたことはない。
むしろ、マージナルプリンスであるアンリを守る為に、この島に来ているのだ。
きちんと許可を取って、正々堂々と島に来るなら、
あまり認めたくはないが、本当はマージナルプリンスを守る者同士なのだ。
しかし、あの濃い顔は、無許可で堂々とやってくる。
本気であいつを捕まえるなら、警備組織の仲間を呼べば良いのに、
結局そうしなかったし、あいつが来たことを報告するつもりもない自分。
何にも縛られず、好き勝手にしているあいつを、何故、毎回自分は放っておくのか。
「にしても、おいかけっこって、こんな疲れるもんだったっけ」
司令官は額の汗を手の甲で拭う。この程度でバテるとは情けない。
これが年をとったってことなのだろうか。まだお兄さんのつもりなのに。
「ま、明日は仕事休みだし、家でのんびりするか……」
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