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■シルヴァンVSアイヴィー7 続編
「少し歩きません?」
そう言われたアイヴィーは、シルヴァンと共に車を降りることになった。
先程、「今夜、会えませんか」と電話がかかってきた。
車で迎えに行ったあと、シルヴァンのリクエストで海まで来た。
聖アルフォンソ学院のプライベートビーチだ。
シルヴァンがアイヴィーの数歩前に居る。
会話もせず、海岸沿いを歩いていく。男二人で。――絵にならない。
アイヴィーはシルヴァンから話し出すのを待っていた。
ズボンのポケットからタバコの箱を取り出す。
鳥の鳴き声がした。白い海鳥が何か叫びながら、沖へ向かって飛んでいる。
タバコを一本銜え、箱を胸ポケットに入れた。火を点け、深く吸い込む。
生温い風の中、僅かに潮の香りを感じる。
この潮の香りも、今では生活の一部のように感じられた。
「そろそろ話してくれても良いんじゃないか?」
シルヴァンの足が止まる。
「なんで俺を海デートに連れ出した?」
まだ少し残っているタバコを携帯灰皿に入れながら、
「小さい頃から、告白する時は綺麗な砂浜で、って決めてたクチか?」
「そうですね。確かに、告白と言えば告白です」
「ありゃ、マジで? 俺ってば罪なオトコ」
「もう。からかわないで下さいよ。こんな時に」
「いやあ。いつになく、お前さんが緊張した顔してるからよ。
冗談のひとつでも必要かと思ってさ?
そういや、ジョシュアがお前さんのこと心配してたぜ?」
「そうですか。彼、ここには呼んでないですよね?」
「ああ。俺達に任せろって言っておいた」
「安心しました。彼には、僕達のこんな姿、見せられないですからね」
アイヴィーは沖に視線を映す。
先程の海鳥は、もうどこに居るのか解らない。
「で? どんな告白なんだ?」
「実は、ある人物が、僕に接触してきました」
「ある人物ね」
「彼は、貴方に恨みがある人物で、かつ、僕の“名前”を知っていました」
波打ち際、さざ波が静かに浜辺を湿らせる。
「要求は?」
「僕に貴方を撃てと。さもなくば」
「家族の身の安全は保証しない、か」
「ええ」
成程ねえ、とアイヴィーが言う。
「俺に勝てる腕はない。だが、俺を無力化する方法を見つけたんだな。
それは、暗殺者にお前さんを選ぶこと。
俺はお前さんには手が出せない。そう見込んでの暗殺計画、か。巧い手だ」
「ちなみに、ここでの会話は全て、彼に聞かれていますので注意して下さい」
シルヴァンは襟元に付いているボタン型マイクを見せた。
「盗聴がシュミだったのか、今度のお客さん。道理で。
だから、俺んちにも仕掛けに来たんだな、あの夜」
「そうです。彼の指示で、他の場所にも幾つか仕掛けました。
今まであんなにお世話になったのに……ごめんなさい、アイヴィー」
薄暗い浜辺で、シルヴァンはゆっくりと腕を上げた。
「僕の為に、そのまま動かないでいてくれますか?」
静かな波の音。海は凪いでいる。
「ったく。お前さんは」
アイヴィーは笑っていた。
銃口を向けられている者の顔とは思えない程、さばさばとした表情で。
「思えば、お前さんにゃ、最初から振り回されてたなあ。
入学初日から夜遊びに外泊までしやがる生徒なんて居なかったんだぞ?」
冗談を言う時と変わらないアイヴィーとは違い、シルヴァンの表情は暗い。
「すみません」
「そう何度も謝んなよ。俺なんかの命ひとつで、お前さんの大事な親御さんが助けられんなら、
俺も生かされ続けた意味があったってもんさ。最後まで付き合うぜ、お前さんの夜遊びに」
シルヴァンが言葉に詰まる。
その一瞬の隙を突いて、シルヴァンの後方で銃を構えた人物が居た。
それに気付いたアイヴィーが相手を制する。
「なーに考えてんだよ、クロイツ」
シルヴァンが振り向く。
そこに居たのは警備組織の副司令官だった。部下も引き連れている。
「アイヴィー……貴方が彼等を呼んだんですか」
「いいや。クロちゃん、どうして来ちゃったの?
クロちゃんはここに呼んでないでしょ?」
「ええ。嫌な予感がして、貴方の後を付けて来ました。
司令。私に黙って、何、勝手なことしてるんです」
「見りゃ解るでしょ? 海デート。ダメだよ、ジャマしちゃ」
「銃を向けられるデートですか? 随分、悪趣味ですね」
「銃を向けてんのは、クロちゃんもでしょ?
マージナルプリンスを守る為に作られた警備組織が、
マージナルプリンスに何しようとしてんの?」
副司令官が上官を鋭く睨む。
「黙って撃たれるおつもりですか」
「だって、狙いは俺だけなんでしょ? だよな? シルヴァン」
「ええ。彼が望んでいるのは、貴方への復讐だけです。
貴方への復讐が遂げられれば、僕の家族の安全は保証すると」
「ほらね? 俺さえ居なくなれば、マージナルプリンスも、
その家族も守られる。だから、こうするしかないんだよ」
「納得できません。どうして貴方がこんな」
「充分過ぎるくらいだよ、俺には。
もし、心残りがあるとすれば、俺なんかのせいで、シルヴァンの手を汚すことくらいさ。
シルヴァン、頼むから、今夜のことは全部忘れて、元気に暮らしてくれよ?」
菫色の瞳が僅かに潤む。
シルヴァンはアイヴィーの言葉を受け止めたように、
目を背けず、腕も下ろさなかった。副司令官は耐え切れない様子で叫んだ。
「司令!」
「ゴメンね」
副司令官が黙る。アイヴィーは笑顔を見せながら伝えた。
「最後までダメダメな司令官で。悪いけど、あとよろしく」
副司令官は唇を噛み締める。
珍しく返事をしない部下に司令官は苦笑した。
そして、マージナルプリンスの中で、一番親しい奴に顔を向ける。
「なあ、シルヴァン。いっこだけ、最後のお願い、聞いてくれるか?」
「何です?」
アイヴィーはトントンと親指で自分の左胸を指した。
「一発で送ってくれ。お前さんが泣く顔なんか見たくねえからさ」
「解りました。絶対、外しません」
シルヴァンは海辺の道路に停まっている銀色の車を見上げた。
車に凭れながら自分達の様子を見下ろしている人物。
彼からシルヴァンの耳に最後の指示が来た。どうぞお好きなタイミングで、と。
遂行します、と襟元のマイクに呟いた。
シルヴァンは両手で構えた銃に神経を集中させる。
的になっている、年上の友人は、リラックスした笑顔で自分を見守っていた。
「さようなら、アイヴィー」
一発の銃声と共に、火薬の匂いが海岸に広がる。
じわ、とアイヴィーの左胸が赤く濡れた。みるみるうちに赤く染まっていく。
アイヴィーはそれを見届けながら、膝から崩れる。
砂浜に顔を埋める寸前、最後にウインクをしてみせたのが、シルヴァンだけに見えた。
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「少し歩きません?」
そう言われたアイヴィーは、シルヴァンと共に車を降りることになった。
先程、「今夜、会えませんか」と電話がかかってきた。
車で迎えに行ったあと、シルヴァンのリクエストで海まで来た。
聖アルフォンソ学院のプライベートビーチだ。
シルヴァンがアイヴィーの数歩前に居る。
会話もせず、海岸沿いを歩いていく。男二人で。――絵にならない。
アイヴィーはシルヴァンから話し出すのを待っていた。
ズボンのポケットからタバコの箱を取り出す。
鳥の鳴き声がした。白い海鳥が何か叫びながら、沖へ向かって飛んでいる。
タバコを一本銜え、箱を胸ポケットに入れた。火を点け、深く吸い込む。
生温い風の中、僅かに潮の香りを感じる。
この潮の香りも、今では生活の一部のように感じられた。
「そろそろ話してくれても良いんじゃないか?」
シルヴァンの足が止まる。
「なんで俺を海デートに連れ出した?」
まだ少し残っているタバコを携帯灰皿に入れながら、
「小さい頃から、告白する時は綺麗な砂浜で、って決めてたクチか?」
「そうですね。確かに、告白と言えば告白です」
「ありゃ、マジで? 俺ってば罪なオトコ」
「もう。からかわないで下さいよ。こんな時に」
「いやあ。いつになく、お前さんが緊張した顔してるからよ。
冗談のひとつでも必要かと思ってさ?
そういや、ジョシュアがお前さんのこと心配してたぜ?」
「そうですか。彼、ここには呼んでないですよね?」
「ああ。俺達に任せろって言っておいた」
「安心しました。彼には、僕達のこんな姿、見せられないですからね」
アイヴィーは沖に視線を映す。
先程の海鳥は、もうどこに居るのか解らない。
「で? どんな告白なんだ?」
「実は、ある人物が、僕に接触してきました」
「ある人物ね」
「彼は、貴方に恨みがある人物で、かつ、僕の“名前”を知っていました」
波打ち際、さざ波が静かに浜辺を湿らせる。
「要求は?」
「僕に貴方を撃てと。さもなくば」
「家族の身の安全は保証しない、か」
「ええ」
成程ねえ、とアイヴィーが言う。
「俺に勝てる腕はない。だが、俺を無力化する方法を見つけたんだな。
それは、暗殺者にお前さんを選ぶこと。
俺はお前さんには手が出せない。そう見込んでの暗殺計画、か。巧い手だ」
「ちなみに、ここでの会話は全て、彼に聞かれていますので注意して下さい」
シルヴァンは襟元に付いているボタン型マイクを見せた。
「盗聴がシュミだったのか、今度のお客さん。道理で。
だから、俺んちにも仕掛けに来たんだな、あの夜」
「そうです。彼の指示で、他の場所にも幾つか仕掛けました。
今まであんなにお世話になったのに……ごめんなさい、アイヴィー」
薄暗い浜辺で、シルヴァンはゆっくりと腕を上げた。
「僕の為に、そのまま動かないでいてくれますか?」
静かな波の音。海は凪いでいる。
「ったく。お前さんは」
アイヴィーは笑っていた。
銃口を向けられている者の顔とは思えない程、さばさばとした表情で。
「思えば、お前さんにゃ、最初から振り回されてたなあ。
入学初日から夜遊びに外泊までしやがる生徒なんて居なかったんだぞ?」
冗談を言う時と変わらないアイヴィーとは違い、シルヴァンの表情は暗い。
「すみません」
「そう何度も謝んなよ。俺なんかの命ひとつで、お前さんの大事な親御さんが助けられんなら、
俺も生かされ続けた意味があったってもんさ。最後まで付き合うぜ、お前さんの夜遊びに」
シルヴァンが言葉に詰まる。
その一瞬の隙を突いて、シルヴァンの後方で銃を構えた人物が居た。
それに気付いたアイヴィーが相手を制する。
「なーに考えてんだよ、クロイツ」
シルヴァンが振り向く。
そこに居たのは警備組織の副司令官だった。部下も引き連れている。
「アイヴィー……貴方が彼等を呼んだんですか」
「いいや。クロちゃん、どうして来ちゃったの?
クロちゃんはここに呼んでないでしょ?」
「ええ。嫌な予感がして、貴方の後を付けて来ました。
司令。私に黙って、何、勝手なことしてるんです」
「見りゃ解るでしょ? 海デート。ダメだよ、ジャマしちゃ」
「銃を向けられるデートですか? 随分、悪趣味ですね」
「銃を向けてんのは、クロちゃんもでしょ?
マージナルプリンスを守る為に作られた警備組織が、
マージナルプリンスに何しようとしてんの?」
副司令官が上官を鋭く睨む。
「黙って撃たれるおつもりですか」
「だって、狙いは俺だけなんでしょ? だよな? シルヴァン」
「ええ。彼が望んでいるのは、貴方への復讐だけです。
貴方への復讐が遂げられれば、僕の家族の安全は保証すると」
「ほらね? 俺さえ居なくなれば、マージナルプリンスも、
その家族も守られる。だから、こうするしかないんだよ」
「納得できません。どうして貴方がこんな」
「充分過ぎるくらいだよ、俺には。
もし、心残りがあるとすれば、俺なんかのせいで、シルヴァンの手を汚すことくらいさ。
シルヴァン、頼むから、今夜のことは全部忘れて、元気に暮らしてくれよ?」
菫色の瞳が僅かに潤む。
シルヴァンはアイヴィーの言葉を受け止めたように、
目を背けず、腕も下ろさなかった。副司令官は耐え切れない様子で叫んだ。
「司令!」
「ゴメンね」
副司令官が黙る。アイヴィーは笑顔を見せながら伝えた。
「最後までダメダメな司令官で。悪いけど、あとよろしく」
副司令官は唇を噛み締める。
珍しく返事をしない部下に司令官は苦笑した。
そして、マージナルプリンスの中で、一番親しい奴に顔を向ける。
「なあ、シルヴァン。いっこだけ、最後のお願い、聞いてくれるか?」
「何です?」
アイヴィーはトントンと親指で自分の左胸を指した。
「一発で送ってくれ。お前さんが泣く顔なんか見たくねえからさ」
「解りました。絶対、外しません」
シルヴァンは海辺の道路に停まっている銀色の車を見上げた。
車に凭れながら自分達の様子を見下ろしている人物。
彼からシルヴァンの耳に最後の指示が来た。どうぞお好きなタイミングで、と。
遂行します、と襟元のマイクに呟いた。
シルヴァンは両手で構えた銃に神経を集中させる。
的になっている、年上の友人は、リラックスした笑顔で自分を見守っていた。
「さようなら、アイヴィー」
一発の銃声と共に、火薬の匂いが海岸に広がる。
じわ、とアイヴィーの左胸が赤く濡れた。みるみるうちに赤く染まっていく。
アイヴィーはそれを見届けながら、膝から崩れる。
砂浜に顔を埋める寸前、最後にウインクをしてみせたのが、シルヴァンだけに見えた。
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