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Marginal Prince Short Story
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シルヴァンVSアイヴィー8 続編
シルヴァンは項垂れ、だらりと腕を下げた。

彼に近付いていく、30代半ばくらいの男が居た。
それまで、銀色の車に凭れながら、シルヴァンの発砲を見守っていた男。
右耳からイヤホンを外しながら、男は海辺に降りてきた。

「お見事でした、クラークさん」

鍔の広い、黒い帽子を被っている。
くすんだ金色の長髪。潮風に毛先が遊ばれる。

「やはり良い腕をお持ちだ。将来有望ですね?」

称賛を受けたシルヴァンは、項垂れたまま、反応がない。
黒いハットの男は、笑みを深くする。

「あっけないものですね、あの男も。
可愛がっていた弟分に心臓を撃たれて即死とは。
良いざまです。彼には幸福過ぎる最期でしたかね」

動かない身体を見て、満足そうに笑っていた。
まるで、この上ない幸福を噛み締めているかのように。

「それ以上、司令に近付くな」

副司令官が冷徹な声を発する。
彼の周りに居る警備の隊員達は、男に銃を向けている。副司令官が一歩前に出た。

「貴様か。シルヴァン様に司令を撃つよう指示したのは」

「ええ。そうですよ、クロイツ副司令官。
ああ、失礼。今はもう司令官におなりだ。
昇進、おめでとうございます、クロイツ司令官」

黒いハットを少し上げて、敬意を表した。

「私に顔を見せるとは。捕まえてくれと言っているようなものだぞ」

「そうですね。構いませんよ。あの男の死にざまが見られたのですから。
私の悲願は遂げられました。私の身柄はどうぞお好きに。
今ここで殺されても構わない。もう何も、したいことはありません」

クロイツは相手を見つめたあと、確保、と一言だけ言った。
控えていた部下達が一斉に動く。
男は抵抗せず、身柄を拘束されている。
虚ろな目をして、クロイツを見上げた。

「司令官、私を殺さないのですか?」

「我々の任務は、人を殺めることではない」

「私が、貴方の上官の暗殺を企てた男でも?」

「そうだ」

男は嗤った。

「やはり稀薄なのですね。貴方がた、司令官と副司令官の関係は」

男は愉快そうに笑う。クロイツは何も答えなかった。

「ちょっと。何でそこで黙っちゃうのさ」

死んだ筈の人間が身体を起こす。
左胸を真っ赤に染めたまま、アイヴィーは立ち上がった。

副司令官が不機嫌な吐息を漏らす。

「誰が動いて良いと言いました?」

「イイじゃん。もう身柄は拘束してんだから。それに俺、謝んないと」

アイヴィーは拘束されている男に向かって言った。

「ごめんね。死んだフリなんかして」

男は目を見開いていた。

「どういうことだ……確かに、心臓を撃たれて」

アイヴィーは真っ赤になった部分をつまむ。

「これ、撮影用の血のりなんだ」

「血のり、だと」

「そして、こちらも撮影用の銃です」

シルヴァンは手にしていた銃を見せる。

「どちらもハリウッドで使う一級品ですから、
あの位置から見ていたら、本物と区別が付かなかったでしょう?」

「シルヴァン・クラーク、貴様、私を裏切ったのか」

「裏切ったわけではありません。僕は最初からスパイのつもりで、
貴方の言うことを聞いていただけです」

「何故だ」

「僕が本気になったところで、アイヴィーには敵いませんから」

「人質が居ることを忘れたか、シルヴァン・クラーク」

「もう人質じゃないよ」

アイヴィーの声に男が振り向く。

「シルヴァンの家族を狙ってた、あんたのお仲間は確保済みだから」

「何だと」

「元々、シルヴァンの家族を保護している人達に連絡したら、
周辺に居た怪しい奴を見つけてくれたんだ」

「ちなみに、この島に居た貴方の仲間も既に捕らえています」

「ほんと、ごめんね」

「貴様っ」

男が拘束を振り切って暴れ出す寸前。
ぐおっ、という呻き声と共に大人しくなった。
男の腹に、副司令官の拳が見事に入っていた。

「ちょ、手荒だなあ、クロちゃん」

副司令官は上官を見上げる。

「必要な処置かと思いますが」

連れて行きなさい、と副司令官が部下達に命じる。
ぐったりした男の身柄が、車に乗せられる。行き先は追憶の塔だ。

「シルヴァン様、お怪我はございませんね?」

副司令官はマージナルプリンスの安全を確認した。

「はい。あの、僕のことより」

「ご無事ですよ、シルヴァン様のご家族も。
シュミット大佐の保護下で、安全な場所にいらっしゃいます」

シルヴァンが息を吐く。

「ありがとうございます。すみません、こんな大騒ぎをして」

「いえ。こちらのほうこそ、シルヴァン様にあのような真似をさせ、
必要な芝居だったとは言え、申し訳ございませんでした」

「いいえ。僕は全然」

「いやー、みんな、意外に役者なんだもん。俺、ビックリしちゃった」

血だらけのワイシャツを着ているアイヴィーが笑う。
副司令官は軽く睨むような目つきになる。

「そのお言葉は、司令にお返しします」

「そっかなー」

「しかし。あの男、やはり司令に個人的な怨みがあるようでしたね。
間近で顔をご覧になっても、見覚えはありませんか」

「うん。ごめん」

「心当たりは」

「あり過ぎて、解んないよ」

「そうですか。シルヴァン様や我々を、
このような芝居に付き合わせた上、収穫がないとは」

「ホントだね」

「では、あとはドクターにお任せするしかありませんね」

コワイな、とアイヴィーは呟いた。

「司令官が島に危険を招くなんて、司令官失格かな、やっぱ」

「そうですね。それなりの処罰が必要かと」

「待って下さい!」

シルヴァンが副司令官に詰め寄る。

「アイヴィーは僕を守ってくれました。
なのに、どうして、アイヴィーが処罰されなくちゃいけないんです」

「お言葉ですが、シルヴァン様。
警備組織の司令官が、守るべきマージナルプリンスを、
危険に巻き込んだのです。司令には厳罰が必要です」

「うん。そうだね。組織の規則から言うと、
処罰の決定権は、副司令官のクロイツにあるかな。
良いよ。遠慮なくドーンと罰しちゃって?」

「はい。それでは、命じます」

シルヴァンは固唾を呑んで副司令官の言葉を待つ。
副司令官はいつもと変わらない、冷静な声で告げた。

「司令室の整理整頓を。積んだまま放置している、3箱のダンボールも含めてです」

アイヴィーは笑った。

「えー。それ、いちばんやだー」

「貴方が最も嫌がる罰でなければ意味がありません」

「厳しいなー、クロちゃんは」

「ですが、今回だけですよ。もし、このようなことが今後も続くなら」

「うん。その時は俺からおさらばするよ、この島から」

「ええ。そうして下さい」

「ありがと、クロイツ」

シルヴァンは胸を撫で下ろした。

「良かった……アイヴィー!」

シルヴァンはアイヴィーの胸に飛び込んだ。

「お、おいっ。俺は、今、血のりでっ」

服が汚れるのも構わず、しがみつくようにアイヴィーに抱き着く。
失敗が許されない芝居が終わり、緊張が解けたのか。

「ありがとう、ございます」

胸の中で小さく呟かれた言葉。大人と変わらない高さにある肩。
それらは微かに震えているようだった。

「お疲れさん」

シルヴァンの背中をポンポンと叩いたあとで、アイヴィーはフッと笑みを零した。

「これじゃあ、ホントに海デートみたいだな」


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